第3話 想い P.3
そしてそれから時間が経つとようやく、市内についた。高層ビルなどもたくさん並び、いかにも都会らしい町だった。麗奈は窓から顔を出して、町を眺めていた
「へえ〜……ビルがいっぱぁ〜い」
「でも東京ほどじゃないだろ」
健斗がそう訊くと、麗奈は健斗を見ながら言った
「うん。神奈川県の、本牧ってところに似てる」
「本牧……?」
あまり聞いたことのなさそうな町だった……
「何か、お前神奈川のことも詳しいんだな」
健斗がそう言うと麗奈頷きながら笑った
「うん。だって前は神奈川に住んでたから」
「え?東京じゃねぇの?」
「東京は前に。神奈川は前の前」
健斗ははぁっと納得するように感心した
「お前大変だったんだな〜」
「まぁね♪」
さすがは社長の娘というとこだと思う
車はとあるデパートの駐車場に入っていった。
車は適当な場所に車を止めた。周りにも車はいっぱい。どうやら今日も込んでいるようだ。
車はバックして、停車した。さて、降りるとするか……
健斗はゴンタを先に下ろし、そのあとに続いて降りた。駐車場は地下なのでひんやりとした空気が身体を包んだ。
リードを父さんに渡した
「じゃあどうすりゃあいい?」
健斗が訊くと、母さんは腕時計を目にやりながら答えた
「そうね……11時半にここのフードコーナーで」
健斗はケータイを取り出して、時間を確認した。現在9時半ちょい過ぎ……二時間くらいはある。
「はい麗奈ちゃん」
父さんは封筒から3万円を取り出した。きっとこれが麗奈のお父さんから預かったお金だろう。麗奈は「ありがとうございます」と言いながら、そのお金を受け取った
「じゃあ11時半にね」
健斗は了解して、麗奈と共にデパート内へと向かい、父さんたちはここから少し歩いたところにあるホームセンターと、その知人のとこへと向かった
駐車場にあるエレベーターで、健斗たちは4階へと上がっていった。4階に洋服のお店が並んでいるのだ
エレベーターに乗っているのは健斗と麗奈の二人だけだった
「何かデートみたいだね♪」
麗奈が可笑しそうに笑った
「バカッ!!つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ……」
健斗はそう恥ずかしそうに言い放つと前を見た
高い鐘のような音が鳴り、エレベーターの扉が開いた
それと共に、何だか最近流行っている音楽のBGMが聞こえた
そして色んな店が並んでいるこのショッピングモール。健斗たちだけじゃなく、色んな人がいる。家族連れや、友達同士。それと……恋人……
健斗はふと麗奈を見た。可愛いらしい私服姿の麗奈は少し女の子らしさが上がっている
「ねぇ、行こうよ〜」
麗奈が健斗にそう促すように言った。
「ん……あぁ」
健斗と麗奈はエレベーターから降りて、とりあえず店を見回ることにした
半ば心なしか……少しみんなの視線を感じた……
「なぁ、どこで買うんだよ」
健斗は麗奈にそう訊くと、麗奈は少し洒落た洋服店に入った。店の名前は……多分英語なんだろうけど読めない……
麗奈はWOMENのところに向かい、服を眺めていた
どの服も可愛いらしい服に思えた
「……つーか、服ならいっぱいあるんじゃねぇの?」
健斗が麗奈についていきながらそう呟くように言った。でも麗奈は奥の服を見ながら楽しそうに選んでるだけで、何も答えなかった
どうやら夢中になっているらしい。健斗はため息をつきながら、苛々するように頭を掻いた
「ったく……」
健斗はこのままどこかへ行きたかった……
つーか、女の子と服を買いに行くだなんて生まれて始めてのことだから……自分は何をすればいいのか分からない……
ただ待ってればいいのだろうか?
「あっ!!ねぇねぇ健斗くん。これ可愛いよね」
と言って、健斗にシャツなどを見せてくる
「ん〜……可愛いんじゃね?」
「ねっ?でも……ちょっとデザインがあれかな〜……」
「派手?」
「うん」
それは確かに健斗も感じた。それからも麗奈は色んな服を探索しはじめたが、どうやら気に入ったものは見つからない様子だった
健斗はとりあえず、見せられた服を見て素直な気持ちを伝えた
でもぶっちゃけるとだ……麗奈が例え、どんな服を着たとしても、どうせ可愛く見えるんだろうと思う
「ちょっと試着してもいい?」
と言って、麗奈はとりあえず候補のものを全部手にとって組み合わせてみる気らしい
健斗にそう訊くと、健斗は何も言わずゆっくりと頷いた
女性の店員に試着室まで促され、健斗は試着室の前で立ち止まった。麗奈は試着室に入り、カーテンを閉めた
と思ったら、突然顔を出して、怪しい目をしてにやついて言ってきた
「覗きたい?」
「なっ……!!」
健斗は顔を赤くして怒鳴るように言った
「変なこと言ってんじゃねぇよ、バカッ!!さっさと着ろよなっ!!」
健斗の反応を見て、麗奈はクスクスと笑って顔をしまった
カーテン越しで笑いながら
「冗談なのにぃ〜♪やっぱり健斗くんってピュアだね」
と言って、多分着替えながら言ってきた
健斗はそれを聞いて、舌打ちをした
お前の感覚がおかしいんだよ……そう心の呟きをするだけで、ただ試着室の前で待っていた
「健斗くんってさぁ〜」
麗奈は着替えながら、また話しかけてきた
「あ?」
「健斗くんってさぁ〜、こんな風に、誰かと服買いに来たりしたことってある?」
突然何を聞き出してくるんだこいつ……
「そりゃ……誰だってあるだろ……」
健斗がそう言うと、麗奈は驚いたような声を出し、また顔を出してきた。
「嘘っ!!誰誰?」
「えっと……ヒロと。たまに来る」
健斗がそう言うと、麗奈は可笑しそうに吹き出した
「違うよ〜。女の子と来たことはある?」
健斗はそれを聞いて、麗奈の顔を見ず呟くように答えた
「ねぇよ……」
麗奈はそれを聞いて、声に出して笑ってまた顔を引っ込めた
「やっぱりね〜?誰かと付き合ったこととかは?」
「何でそんなこと聞くんだよ……」
「いいじゃん。教えてよ〜」
「……別にいいだろ……想像にお任せします」
健斗がそう言うと、麗奈はため息をつきながら言った
「そっかぁ……まぁ、結衣ちゃんをゲット出来るように頑張って」
健斗はそれを聞いて、少しカチンときた
「別にお前みたいな何人の女と付き合うようなやつじゃないんだよ俺は」
健斗がそう言うと、麗奈は少し口を尖らせるように言い返してきた。
「何それ〜?私がまるで軽い女の子みたいじゃぁん」
「ほ〜、じゃあお前こそ何人の男と遊んできたんだ?言ってみろよ」
健斗はそう言いながら、少し憤りを感じるように鼻で息を強く吐いた。大方、5人とから6人とか……10人とかだろ?
麗奈はしばらく黙っていた。着替える手を止めて、寂しそうな表情を浮かべながら呟くように言った
「……1人だよ」
「あ?」
健斗は聞き取れずに聞き返した
「1人だよ。今まで付き合ったことがある人……」
「え?お前が……?」
1人って……スゲー意外だった。麗奈みたいな人、きっと東京ではすごくモテてただろうに……それなのに、1人か……
びっくりして、それ以上言葉が出てこなかった
「ね?私は、1人の人をちゃんと好きになるような純情な女の子ってわけですよ♪」
と麗奈はクスクスと笑っていた
「自分で言うなよ……バァカ」
健斗がそう呆れた感じで言うと、カーテンが不意に開いた
そこには少しボーイシュカッシュ気味な服をきた麗奈がいた
「どう?」
「……いや……いいんだけど……悪くはないんだけど……多分却下」
健斗がそういうと麗奈は口を尖らせた
「やっぱり〜?ちょっとボーイシュカッシュ過ぎかな〜?」
「それもあるけど……少し派手。他の着てみれば?」
いや、派手というより少しエロイ……
太ももを露出させるジーパンが、何だか色っぽかった……
こんなんで歩かれたら、多分行き交う人が振り向くだろうけど……
それからしばらく経って、またカーテンは開いた
「……ふざけてんの?」
「えへへ?ちょっと面白そうだったからつい……」
めちゃくちゃ派手な服装である……真っ赤なドレスに身を包んでいた
「お前はパーティーにでも行く気か?つーかそんなもんがここに置いてあるかっ!?」
そして次は……
「……俺帰るね」
「嘘嘘っ!!ちゃんと選ぶからぁ〜!!」
今度はこいつ……ピカチュウのぬいぐるみを着やがった……
はっきり言って……めちゃくちゃ可愛い……けど、何でこんなものがあるんだろう?
それから麗奈は色んな服を健斗に見せてきた。完全にふざけていた。
「いい加減にしないと帰るからな……」
健斗は半キレ状態で麗奈を待っていた
するとまたカーテンが開いた
「じゃあこれは?」
「…………」
麗奈は繊細な黒の総レースが光沢地に美しいワンピとネックレスをつけた姿で登場した
下の部分をちょっとヒラヒラさせながら笑いながら言った
「ちょっと派手かなぁ?」
「……いやぁ……」
健斗は目を見開いてそれを見た
正直な感想……
「可愛い……」
「本当にっ!?じゃあこれにしよっかな」
健斗はそう呟いてから口を塞いでしまった。でも、めちゃくちゃ可愛いかった……
今日麗奈が着てきたのは、最愛ピンクの裾ひらカシュクールとレースが可憐なキャミに、ティアード裾からふんわりチュールが覗く黒の花柄スカートを着てて、さらに黒レース×つぶつぶパールが華やか可愛いツイードパンプスを履いて、めちゃくちゃ女の子らしくて可愛いかった
でもワンピの方は、サテン素材が裏地だから繊細なレースがとびきり映えるワンピで、透ける袖と胸下切り替えの絶妙バランスが品よく美しかった
まるでお嬢様のようだ
「でもちょっと派手じゃないかなぁ?」
「いや、いいんじゃねぇの?多分……スゲー似合ってると思う」
多分大人が着るような服だったけど……麗奈には充分似合っていた
「そっかぁ♪じゃあこれは健斗くんとデート用にしよっと」
「はぁっ!?な、何訳の分からないこと言ってんだよ」
クスクス笑いながら麗奈はまたカーテンを閉めた……
健斗は自分の鼓動を確かめるように押さえてみた。さっきから鼓動が早い……
麗奈のいきなりの女の子らしさアップに戸惑ってしまったからだった。
健斗は頭を掻きながら、深くため息をついた。