第1話 嬉しくない出会い P.3
家を出発して、20分くらい経つと、ようやく神乃崎駅についた。車は駅近くの路上に停車した。すると父さんが腕にしてある時計に目を落とした。
「ちょっと早かったな」
「何時に約束してんの?」
健斗が訊くと、父さんは背中を伸ばしながら答えた。
「11時半。来てるかなぁ?」
車についている時計は、11時20分だった。確かに少し早かった。
「健斗、ちょっと見てきてくれんか?」
「はぁ?何で俺が?」
「そのために連れてきたんだがな」
「嫌だ。面倒くさいっ!」
健斗がふてくされるようにそう言って断固拒否をする。父さんはそれを受けて呆れるようにため息を吐いた
「ったく……じゃあ、父さんが行ってくるから、ちょっとここで待ってろ。」
父さんはそう言うと車から降りて、駅の方へと歩いていった健斗はさらに不機嫌にするように、そして苛々を溜めながら大きくため息を吐いた。
――やってられない……
何だか少し自分の行いが子供じみているようにも思えたが、それでも女の子が家に入り込んでくるという現実を、どうしても受け入れることが出来なかった。
眠るつもりはなかったけど、ただこうしていたかった
こうして眼をつぶって心を落ち着かす。
今日の一日の流れでも考えよう。
まず帰ったら昼飯を済まし、部屋の整理整頓を済ませる。
そしてその後、CDレンタル店に借りたCDを返しに行こう。そしてしばらくの間、辺りをぶらつこうか……
そうだ、そうしよう。しばらく家から離れていよう。その間父さんと母さんが、勝手にその女の子の面倒でも見てるはずだ。
健斗がそんなことを考えていたところだった。
ふと窓の景色に父さんの姿が見えた。駅のホーム辺りから誰かといっしょに車に近づいてきた。少しだが、声が聞こえた。
「健斗も車に乗ってるんだけど……悪いが仲良くしてくれ」
「はい♪というより、わざわざすみません。迎えに来てもらっちゃって」
耳に残る暖かい甘い声、そしてその姿……それを見た瞬間、健斗はさらに不機嫌になった。すると父さんが車の後部座席のドアを開けた。
「失礼しまーす♪」
軽快で明るい声といっしょに、ふと甘い香水の香りがした。そしてサラッとした長い少し茶色のかかった栗色の髪……
可愛らしい小顔に、はっきりした瞳……長い足……服の上からも分かる豊かな胸……
その女の子は、ゆっくりと後部座席に座った。するとその女の子は健斗を見てきた。健斗は少し戸惑う様子でその女の子を見返す。
整った顔立ちが可愛いらしい……確かに……父さんの言う通り……一般的にはめちゃくちゃ可愛いいんだと思う……認めたくないけど。
「……こんにちわっ!」
その女の子は元気な声で、健斗に笑いかけてきた。健斗は突然の声量に胸を驚かし、何も言い返すことが出来ず軽く会釈をしかえした。
その女の子はにっこりと可愛らしい笑顔を見せながら言ってきた。
「初めましてっ!私、大森麗奈といいます。あ、名前で呼んでくれて構わないよ?」
何だいきなり……
いや、自己紹介なんだろうけど……それでも遠慮というか奥ゆかしさというか……そういう品性らしいものが微塵も感じられなかった。見た目はこう、お嬢様っ!て感じなのに、どうも勝手が違うらしい。
「君は?」
名前を聞かれたので健斗は、戸惑い気味で答えた。
「え……あ……や、山中……健斗だけど」
「健斗くんねっ、よろしくっ♪」
と言いながら、にっこりと笑ってきた。しかし健斗の方はまったく笑いもせず、プイッと顔を剃らす。するとそんな健斗を見ながら、クスクスと笑ってきた。
「……何だか、スッゴク普通なんだね」
普通と言われてカチンと頭にきたが、健斗は何も言わず、ただ窓の外を眺めていた。
普通で悪かったな……普通で……
すると父さんが運転席に乗り込んできて、すぐに後ろを振り向いて麗奈に笑いかけた
「こいつ、母さんに無理矢理起こされて機嫌が悪いみたいなんだ」
確かにそれもあるが、もちろんそんなの二パーセントくらいの割合しか占めていない。
「フフッ、何か子供みたい♪」
またそう笑われて、健斗さらにカチンときた。さっきから小馬鹿にするような言い方をしてくる。でも、怒鳴る気にはならなかった。あまり関わるのはゴメンだ。最初から言ってるが、馴れ馴れしくするつもりは全くない。
しかもこの性格……普通なら少し緊張でもして欲しいものだ。元気過ぎてむかつく……健斗にとって、大森麗奈は苦手なタイプだとそう判断した。こういうキャピキャピした性格は……無理。おしとやかで緊張していれば、まだ可愛いらしいと思い、気が変わっていたかもしれない。
しかし初対面のやつにいきなり頭に来るようなことを言ってくる……むかつく……
「これからいっしょに住むことになるけど……よろしくね?健斗くんっ♪」
「……よろしくお願いしまーす……」
突然過ぎて、あまりにも自然に溶け込んできた……これが健斗と麗奈の最初の出会いだった。
ここから、健斗の日常が少しずつ変わっていくのだった