第2話 始まる学校 P.16
時間は退屈なまま、過ぎていく。つまらない授業は本当に退屈だ
健斗は授業中、ぐっすりと眠っていた。今は数学の時間……数学は健斗の中で一番嫌いな教科だ……
だから、この時間は寝るに限る。このまま眠り続ければ、次は待ちに待った弁当の時間だったからだ。
こんなに弁当の時間が待ち遠しく感じるなんてスゲー久しぶりだ
初めて感じたのは、確か小学校一年生のとき、初めての遠足で以来だ
理由はもちろん分かっている。早川と話せるからだ……
早川とコミュニケーションをとれるだけで、健斗には幸せな時間に感じれるのだった
そんな中だった……
麗奈はというと、ただ先生の話を聞いていた。板書などは書いていない。ただ先生の話をしっかりと聞いているだけだった
「……ふぅ〜ん……ああなるんだぁ……ねぇ健斗くん」
麗奈は授業を面白そうに聞いていると突然健斗に話しかけてきた
けれど健斗は夢の中へと行っているので、麗奈の言葉が聞こえていない
麗奈は静かに軽く健斗の背中を触って揺さぶった
「健斗くん。健斗くんってば」
「ん〜……ん〜……」
「ねぇ健斗くん〜」
「何だよ〜……」
麗奈に起こされて、健斗は眠そうに麗奈を見た
麗奈は健斗の寝ぼけた顔に呆れるようにため息をついた
「もう、大丈夫なの?テストとか泣いてもしらないよ」
「う〜ん……」
「頭悪いのがバレたら結衣ちゃんに嫌われるよ〜?」
「う〜ん……」
「結衣ちゃんに嫌われてもいいのかな〜?」
「う〜ん……嫌だ……」
「じゃあ起きて聞かないと」
「う〜ん……疲れてんだよ〜……寝かせろよ」
「……もうっ」
麗奈は呆れ返るようにため息をつき、健斗の頭を叩いてきた
「う〜んうん……」
健斗は相変わらず、まったく起きようとはしないけど……
それから何十分か経ち、チャイムが鳴った
チャイムが鳴ると教室中のみんなが教科書などをしまい始めた
麗奈は健斗の教科書を丸めて、健斗の頭を叩いてきた
「お〜い、ネボスケ〜。授業終わったぞ〜」
健斗はそれを聞いて、すぐに顔をあげた
「んあっ!?じゃあ弁当の時間?」
「……もうっ……」
麗奈はもう目をつぶるしかなかった
「麗奈ちゃん」
すると健斗たちの目の前に早川が微笑みながら近づいてきた。今日も可愛いらしい笑顔である。いつも何だけど、早川を見る度に胸が高鳴るのは何故だろう?
「お弁当いっしょに食べよ?山中くんも」
「うん♪今そっち行くね〜」
麗奈はにっこりと微笑むと、鞄からお弁当を取り出した
健斗もそのあとに続くかのように、鞄からお弁当を取り出して、早川や佐藤、あと一応ヒロが集まる場所に向かった
「昨日麗奈ちゃんどうしたの?急にいなくなっちゃって……」
佐藤が少し心配そうな表情を浮かべていた。しかしそれと逆に、麗奈は少し笑いながら、手を頭の後ろにやって言った
「えへへ、昨日授業サボっちゃった……」
「え〜?意外だなぁ、麗奈ちゃんもそういうことするんだね〜」
それはきっと、悪い意味ではなく、麗奈もそのような学生らしいことをするんだという、驚きの意味で言ったのだった
「山中くんは?」
佐藤はふと健斗にそう聞いてきた。健斗はお弁当を開けながら答えた
「えっと……気分が悪くなって、保険室にいた」
それを聞いてヒロは吹き出すように笑った
そんなヒロを見て、佐藤は首を傾げた
「もう平気なんだよね?」
昨日と同じように、早川が心配そうに訊いてくるのを、健斗は微笑みながら答えた
「あぁ。サンキュー早川」
「ねぇ麗奈ちゃん?今度は俺といっしょにサボっちゃおうよ?」
とヒロがまた訳の分からない誘いをした。麗奈は少し笑いながら、謝るように言った
「ゴメン。もうサボることないかも」
「ガビーン」
佐藤はそんなヒロをみて可笑しそうに笑った
「さて、いただきまぁ〜す」
佐藤のかけ声とともに、健斗たちもお弁当を食べ始めた。今日の弁当はまた母さんが作ったので、麗奈と具材はほとんどいっしょだ
「そういえば麗奈ちゃん、部活は決めた?」
早川がふとそんなことを訊いた。昨日は母さんにも聞かれた
「うん……私ね、昨日までバイトやろっかなぁって思ってたんだ」
麗奈がそう言うと、ヒロが食いつくように言った
「何ぃ?ハンド部のマネージャーは?」
「ちょっとあんた黙ってて」
佐藤が鋭くヒロに言う。早川は少し笑うと、麗奈を見てまた訊ねた
「じゃあ、バイトにするの?」
「う〜ん……昨日の夕飯にね、お母さんにも……あっ、お母さんって健斗くんのお母さんなんだけど……」
それを聞くと、佐藤とヒロは少し驚いたように言ってきた
「えっ?」
「健斗のおばさん?昨日健斗ん家で晩飯食ったのか?」
そっか……この二人は麗奈が居候してることを知らなかったんだった
麗奈はしまったというように、健斗を見た
「ゴメン……」
麗奈が苦笑いしながら謝ってきた。健斗は特に怒ることもなく、冷静であった
「いや、こいつらには大丈夫だろ」
「麗奈ちゃんね」
早川が説明をするように少し笑いながら言った
「麗奈ちゃんね、本当は山中くんのイトコじゃなくって、山中くんのお父さんの友達の娘さんなんだ。それで、今とある事情で、山中くんの家に居候してるんだって」
早川がすらすらと説明をすると、麗屋は申し訳なさそうに、肩をすくめた
「黙っててゴメンね」
「そうだったんだ〜……」
佐藤は少し驚いていたようだったけど、そこまでてはないようだ。ただ健斗と麗奈の事情を知れて納得するだけだった。
問題なのは、ショックと驚きのあまりに口をあんぐりと開けたままのこのバカの方だ
「い……居候……健斗と麗奈ちゃんが……いっしょに……」
「そっかぁ……大変だね」
麗奈は少し笑うと、佐藤とヒロに請うように言った
「このこと、他の人には言わないでくれる?」
と言って、麗奈は健斗を見た
きっと健斗のことを気遣ってるんだろう
佐藤はゆっくりと微笑むと、どんっと胸を叩いた
「任せて!!私口割らない方だし」
佐藤は大丈夫だけど問題は……
「嘘だ……健斗と麗奈ちゃんが……そんな……」
「……はぁ……」
健斗は呆れ返るようにため息をついた。
「ま、まぁこんなバカはほっておいて、で、さっきの続きは?」
佐藤が笑いながら訊いた。麗奈はゆっくりと頷くと、さっきの続きを話し始めた
「うん。でね、お母さんにも訊かれたんだ。でもさ、ほら私が居候してる間、私が使う光熱費とか、食費とか余計にかかるでしょ?だから私バイトして、迷惑かからないようにしたかったんだ」
麗奈がそんなことを言うと、健斗以外みんな感心するように麗奈を見た
「偉いね麗奈ちゃん。私も今親戚の家に住んでるんだけど、そんなこと考えたことなかったよ〜」
と佐藤が感心しながら言った
「本当。ちゃんと考えてるね」
早川も麗奈を感心していた
麗奈はゆっくりと微笑んだ。
「じゃあ麗奈ちゃんはバイトかぁ〜……」
とヒロが残念そうに言った。けど麗奈はそれを少し否定した
「う〜ん……それがね、お母さんがね、高校生は今だけなんだから、そんなこと気にしないで、やりたいことをやりなさいって言ってくれたんだぁ。すごく嬉しかった」
「そう……でも難しいね」
早川がそう言うと、麗奈はゆっくりと頷いた。
「うん。お母さんの言葉は嬉しいけど、でも……って感じ。悩むんだよね〜」
と少し笑いながら言った。
健斗はそれを黙って聞いていた。改めて麗奈の考えを聞くと、麗奈に対しすごく申し訳ない気持ちになった
麗奈はこんなにも深く考えているんだと思うと、あのとき麗奈を嘲笑ってしまった自分にすごく嫌悪感を感じてしまう。
麗奈はもしかしたら、そのことにすごく怒ってたのかもしれない……
健斗はそんなことを思いながら、麗奈を見ていた
「でも、よく考えた方がいいよ。せっかくお母さんもそう言ってくれてんだしね」
早川がそう言うと、麗奈はにっこりと笑いながら頷いた
「そうだねっ!!とりあえずもう少し考えてみるよ」
と麗奈が言うと、早川もにっこりと笑った
しかしだった……そんな麗奈を見ていたら、健斗は、ふと口から言葉が出てしまった
「……そんなに気にすることねぇよ」
健斗が話すと、みんなふと健斗の方を見てきた。健斗は弁当を食べながらゆっくりと続けた
「母さんの言うとおり、自分のやりたいことをやれよ。絶対に部活をやれってわけじゃないけど……もし、バイトをやりたかったらバイトをやればいいし……部活をやりたかったら部活をやればいい。ただ、お前次第なだけだよ」
健斗がそう言うと、みんなは呆気にとられるように静まり返った
特に麗奈がそうだった
まさか健斗がそんなことを言ってくるとは予測だにしてなかったんだろう
自分だって何でこんなことを言ったのかさえわからなかった
ただ、自分の昨日嘲笑ってしまったことに対する羞恥心からか……素直な気持ちをただ言葉にしただけだった
早川がクスッと笑った。健斗を見て、優しい目をしていた
「そうだね。山中くんの言う通りだと思うよ」
早川にそんなことを言われて、健斗はさらに気恥ずかしくなって目を下に向けた
麗奈はしばらく健斗を見つめていた
そして、頬を赤くして、口元が喜びの表情に変わっていた……