第2話 始まる学校 P.9
そして授業は三時間目まで終わり、昼休みの時間帯へと入っていく。
三時間目は、数学だった。健斗はほとんど授業を聞かず、外を見ながらボーッとしていた。
やがて授業終了のチャイムが鳴り、みんなが騒ぎ始めた
「じゃあ今日やったところは復習しておいてください」
先生はそう言って号令をし、教室を出ていった。
これから50分の昼休みだ。この間に、健斗たちは昼ごはんを済まさないといけない
「麗奈ちゃん」
一人の女の子が、麗奈に声をかけてきた
「もしよかったらいっしょにお弁当食べよ?」
麗奈は少し唖然としていた
「……あ……うんっ!!いいの?」
「結衣もいっしょに食べたいって」
とにっこりと笑った
麗奈は早川を見ると、早川はにっこりと微笑んだ。麗奈はその女の子を見てにっこりとまた笑った
「うんっ!!ありがとう♪」
麗奈は嬉しそうな笑顔でそう言った
健斗も嬉しかった
何だかわからなかったけど、何だか嬉しかった……だから健斗は知らずに微笑んでいた
すると、麗奈がふとこっちを向いて言った
しばらく健斗を見てから、いつもの可愛いらしい笑顔を見せてきた。
「健斗くんもいっしょに食べようよ!!」
「あっ!?」
麗奈の思いもよらない突拍子なことを言ってきた
健斗はびっくりしたが、すぐに落ち着いた声に変えた
「いや……俺はいいよ。一人で食うって」
「いっしょに食べようよ。いいじゃん別に」
「いいって。女子の中に男子が入ったら迷惑だろ?早川も……」
「私は別に構わないよ?」
ふと早川が微笑みながら近づいてきてそう言ってきた
「大勢の方が楽しいし。いっしょに食べようよ♪山中くん」
早川はにっこりと笑いながらそう言う
はっきり言って……さらに驚いた……あの、早川が弁当を誘ってくるだなんて
一時の夢のような時間を過ごせるチャンスをくれるだなんて……
健斗は少し戸惑いながらも、ゆっくりと頷いた
そのときだった
「はい!!はい!!俺も仲間に入れて〜!!」
と健斗の傍に近づいてきた一人の男子。ヒロがその仲間に入ってきた。
さっき健斗は友達がいないとは言ったが、まったくいないわけじゃなく、このヒロこそが健斗の小学校時代からの古い付き合いである。真中比呂は、愛称はヒロと呼ばれている……
髪は短く短髪だ。黒渕の眼鏡が良く似合っている。背が高く、また頭もよく、中学のときはそこそこモテていた
お調子者だが、スゲー信頼の置ける存在。
「お前もいっしょに食うのかよ」
健斗がそう言うと、ヒロはへへんと笑いながら言った
「お前だけハーレム状態にするわけにはいかないしな〜」
「何がハーレムだよ……」
「それに……麗奈ちゃんもいるし……」
「………」
健斗は呆れ返るようにため息をついた
五人は机をくっつけて、それぞれのお弁当を出した
「……えっと、麗奈ちゃん」
机をくっつけて早川は口を開いた
そして先ほど麗奈に話しかけてきた女の子を紹介した
「この子は佐藤愛美。最近お友達になったんだ♪」
「よろしくね。……麗奈ちゃん……でいいかな?」
と佐藤はにっこりと笑っていった。
佐藤愛美……ぶっちゃけると、あまり話したことはない
背が小さく、赤いリボンで髪を一つに結いでいるのが特徴的な女の子だ。
麗奈や早川のようなパッチリとしたクリクリした目も可愛い……
つーか可愛いんじゃないかな……普通に……
でも、たまに男気で負けん気なとこもある
「愛美だから……マナでいいかな?」
麗奈は訊くように言った
「うんっ!っていうか、みんなからもそう呼ばれてるから♪」
「そっかぁ♪」
「じゃあハイハイハイ!!俺の自己紹介しますっ!!」
ヒロが元気に手をあげて、自分をアピールし始めた
こうなるともうウザイんだよなぁ
「俺は……真中比呂っ!!ヒロでいいよっ!!麗奈ちゃん♪」
「うん♪よろしくね」
すると佐藤がヒロを見て、少し引いた目付きになった
「あんた、いきなり名前で呼ぶなんて……っていうかちゃんづけ!?」
ヒロはまた、ふんっと鼻で嘲笑うかのように言った
「いいんだよ。早く仲良くなれるようにってね。ねぇ麗奈ちゃん?」
「うん。私は別に構わないよ?」
「何か……真中キモい……」
「何だと〜!?」
ヒロと佐藤は言い争うのを、麗奈は可笑しそうに見ていた
健斗はそんな麗奈をじっと見ていた
「あ、麗奈ちゃん、部活とか入るの?」
佐藤がヒロを無視し、そう訊いてきた
「う〜ん……今はまだ考えてないなぁ……どんな部活があるか分からないし……」
「そうなんだ」
「マナは何部に入ってるの?」
麗奈が訊くと、佐藤は少し照れながら答えた
「一応……弓道部」
「へえ〜♪かっこいいねぇ♪結衣ちゃんは?」
今度は早川に訊く
「私はテニス部だよ。中学から続けてるんだ♪」
すると麗奈は尊敬するように言った
「テニスかぁ〜♪面白そうだよね〜」
「俺はハンド部だヨ!!」
すると佐藤が少し呆れ気味に呟いた
「誰もあんたには訊いてないでしょ……」
「アハハ♪ハンドかぁ……かっこいいね♪」
麗奈が微笑みながらそう言うと、ヒロは少し調子に乗り始めた
テンションを上げて、すごく満面な笑みを浮かべている
「本当に!?じゃ、じゃあぜひハンド部のマネージャーやろう!!」
「マネージャーかぁ……考えとくね♪」
この答えを聞いただけでヒロは満足だったのだろう。健斗の肩をつかみ、嬉し涙を流して目で訴える
(我が人生……バンザイ青春……)
「よかったな……」
健斗は少し苦笑いをした。
「ねぇ、健斗くんは?」
「え……」
ふと麗奈がそう訊いてきた。興味津々で健斗に笑いかける
「健斗くんは部活入ってるの?」
「俺は……入ってない」
健斗の答えに、麗奈は意外そうな表情をした。
「そうなのっ!?じゃあ、バイト?」
「……まぁ……うん……」
健斗は少し恥ずかしくなって下をうつ向いた。
何か、健斗以外は部活などに入って、やりたいことをちゃんと見つけているのに……自分だけ部活に入らず、ブラブラしていると思ったからである
こんなじゃ早川に眼中にないって思われるよな……
「健斗くん、サッカー部だったよね?」
早川がそう言った
サッカー……か……
「中学で、私すごい上手だって聞いたよ?高校じゃやんないの?」
健斗は少しうつ向いたまま、ゆっくりと頷いた。確かに、中学ではサッカーをやってたけど……だけど……
「うん。ちょっと膝を痛めてて……高校はやめた」
「そうなんだぁ……」
早川は少し残念そうな表情をした
健斗はチラリとヒロを見る。ヒロは健斗を見ると、ため息をついた。
「健斗くんがサッカーかぁ」
麗奈は健斗を見ると、ふぅ〜んっと言いながら、納得した
健斗は麗奈からすぐに目を剃らした
「……私、もう少し考えてから決めるよ♪」
と麗奈は健斗に笑いかけた。健斗は何も言わず、麗奈からなるべく目を剃らして、弁当のおかずをついばんだ。
「そういえば、麗奈ちゃんのお弁当って、山中くんのお母さんが?」
早川が麗奈の弁当を見てそう言った
麗奈の弁当は母さんによって丁寧に作られていた
心なしか……若干俺より少し丁寧のようだ
でも、当たり前だが健斗のと麗奈の弁当は、だいたい入っている具材はいっしょだ
健斗にとって、それは少し嫌悪感を感じるものだった
麗奈は早川の問いにゆっくり頷きながら答えた
「うんっ♪わざわざ朝早くから作ってもらったんだよ」
「いいお母さんだね」
と早川は健斗に笑いかけた
健斗は少し困り顔を作った
「そんな……大森に優しいだけだよ」
健斗はゆっくりとため息をついた
「俺には口うるさいし、あれをしろ。これをしろ……いっつも命令してくるしさ……スゲー迷惑な母親だよ」
健斗はそう言って、深くため息をついた
「確かに……分かるぞ健斗。俺の親も――」
「そんなことないよっ!!」
突然麗奈が声を張り上げて叫ぶように言った。健斗やヒロ……早川たちは少し驚いて目を丸くした
麗奈はゆっくりと健斗に笑いかけながら、小さく語りかけるような口調で話した
「お母さんって、健斗くんが思っている以上に、健斗くんのことを考えてくれてるはずだよ?本当は誰よりも愛してるはずだよ?だから……迷惑だなんて言っちゃダメだよ」
健斗は唖然とした様子で麗奈を見ていた
その麗奈の表情はまた……あの寂しげな表情を浮かべていた
するとだった。早川はクスッと小さく笑った。
「そうだね。麗奈ちゃんの言う通りだと思うよ」
と健斗ににっこり笑いかけてきた。健斗はその純粋な笑顔を見られず、目を剃らしてしまった
「そうだぞ健斗。親ってのは常に子供のことを考えてるはずなんだぞ?」
さっきまで健斗と同じことをいおうとしてたヒロも、都合良くゆっくりと頷きながらそう言った
「あんただって同じこと言ってたでしょ?」
佐藤がヒロに突っ込みを入れると、早川と麗奈はクスクスと笑っていた
四人は楽しそうに笑いながら話している中……健斗は苛々が込み上げてきた。
麗奈に言われた言葉が重くって一人では支えきれない。
早川の目の前で自分の言った言葉を正されるだなんて……スゲー恥ずかしかった……
その羞恥心が、自分を戒める劣等感へと変わり、苛々が込み上げてきたのであった
偉そうに物を言う麗奈に対し……そして情けない自分に対し……
我慢の限界だった
健斗はゆっくりとお弁当箱の蓋をしめ、片付け始めた
「あれ?もう食べ終わったの?」
早川が不思議そうに健斗に問いかける
健斗はゆっくりと立ち上がり、早川に微笑みながら言った
「うん。俺ちょっと、自販機で飲み物買ってくるから……昼飯誘ってくれてありがとうな早川。ごちそうさま」
健斗はそう言って、弁当箱を自分の鞄の中にしまうと、教室を出ていった
健斗が消えたあとに、四人は少し静まり返っていた
「どうかしたのかな山中くん……」
早川が少し心配そうにそう言った
するとヒロが食いながら、口に食べ物を入れてるように言った
「ほっとけ。別に何でもないよ」
ヒロは健斗のことをよく分かってるから……健斗が何故自販機へ行ったのかが分かっていたのだ
麗奈は健斗の去っていった後ろ姿を思いうかべながら、教室のドアを見た
そしてお弁当のおかずを口を開けて運んでいくのであった……