第2話 始まる学校 P.7
教室中のざわめきは収まらない。先生もかなり困っているようだったが、麗奈は平然とした態度でいた
「じゃ、じゃあ〜……はい。大森さんの席は〜……自分で決めてもらえる〜?」
先生がそう言うと、麗奈はゆっくりと頷いた
「はい♪」
するとだった
他の男子共々が一斉にアピールをしはじめた。
「カムヒア〜ッ!!ここっ!!俺の隣っ!!」
「いやっ!!俺の後ろっしょっ!!てめぇ場所どけよっ!!」
「はぁっ!?何あんたっ!?最低っ!!」
「俺と話そう〜っ!!」
よくみんなやるよなぁ〜……と考えながら、健斗はその光景をゆっくりと眺めていた
「じゃあ〜……」
麗奈はキョロキョロと教室を見渡し始めた
いいから早く席決めろよ……そんな風に心の中で茶化してみる
するとだった……健斗と麗奈が目が合った
「あっ!!」
麗奈がまるで、「見つけたっ!!」なんて言いそうに、健斗に笑いかけた。
健斗はちょっと顔をしかめる……不思議そうな顔をしながら
「先生!!」
麗奈は先生に訊いてきた
「あの、あの一番後ろの窓側の席の隣に机と椅子置いてもいいですかっ!?」
「あ〜……構わんが……」
「やったぁ♪」
ん……一番後ろの窓側の席の……隣……って……
健斗は自分の隣を見た。……ここかよっ!?
「ちょっ……あ……」
健斗が前を見ると、男子たちが凄い剣幕をして健斗をにらんできた
「何で……あいつの隣に……」
「羨ましい……麗奈ちゃんと仲良くなりたい……」
「チクショウッ!!」
健斗はみんなから鋭い視線を感じながら、苦笑いをした。ふと自分のコメカミの辺りに冷や汗を感じた
「あ〜……学級委員長。机手伝ってやりなさい」
学級委員長(女)は立ち上がり、麗奈の机運びを手伝った
麗奈はありがとう、と言いながら一生懸命健斗の隣に机と椅子を運び終わった
そして健斗の隣に席を完成させてゆっくりと座った。健斗はなるべく目を合わさないようにしたが、チラリと見た瞬間に麗奈はにっこりと笑った
「よっす♪同じクラスになれたね♪」
「…………」
健斗はまたチラリと前を向いた
男子がスゲー怖いよ……睨むなよ……そんなにさ……
不穏な空気のまま、HRは終わった……
健斗は麗奈を、トイレの前まで連れてこさせた
「どうしたの?急に」
麗奈は不思議そうな顔をした
「お前なっ!!何でわざわざ俺と同じクラスで、しかもわざわざ俺の隣を選ぶんだよっ!!」
怒鳴りつけるように、健斗はそう言った
麗奈は手を後ろに回して、口を尖らせながら言った
「え〜、だってこの学校健斗くんしか知ってる人いないし……」
「おかげでみんなから恨みを買ったんだよっ!!」
ギャア〜ッと健斗は一気に怒鳴りつけた
でもよくよく考えてから、健斗はゆっくりとため息をついた
「でも……お前を責めても仕方ねぇよな……」
勝手に騒いでるのは、男子たちだ。麗奈は何も悪くないもんな
「私、健斗くんに迷惑かけちゃったかな?」
と麗奈が苦笑いをしながらそう訊いてきた
やめろよ……そんな顔すんの……
「いや……とにかく、いいか大森」
健斗は麗奈によく言い聞かせるように言った。
「お前が、俺ん家で居候してるっつうのは……しばらく黙ってろよ」
「……なんで?」
「なんで……って、お前さっきの反応で分かるだろ?男子たちの反応で」
健斗がそういうと、麗奈はなるほどと言わんばかりに、目を丸くした
「そっか……ゴメンゴメン♪あの反応にすっかり慣れちゃってて、気付かなかった」
健斗はそれを聞いて、少しカチンときた
そりゃそうだよな……こいつは可愛いくてモテるんだろうから、ああやってもてはやされるのに慣れてるんだろう。
だからあんなに平然とした態度でいられたんだ……
やっぱりそういう女なんだ……俺の大嫌いな性格……
「……とにかく言わないように気をつけろよ」
健斗がブスッとした態度でそう言うと、麗奈は元気よく言った
「はぁ〜い♪」
いつもこいつはこうやって軽い返事をするんだけど……ちゃんと本当に分かったのかが心配だった
「……あと……学校ではあまり俺に馴れ馴れしくするなよ。変な関係だと思われるからな」
健斗がそう言うと、麗奈はゆっくりと頷いてから少し考えた
「ん〜……それは保証できないかも」
「出来ないじゃなくってするんだよ」
健斗はそう言うと、ゆっくりと教室に戻ろうとした
「ねぇ、どうしてそんなに気にするの?」
健斗はそう訊かれ、イラッときた
「何を」
「そうやってさ、周りに変な関係に思われるとか……どうしてそんなに気にするの?」
健斗はそれを聞いて少し頭に来ていた
「お前には分かんねぇよ。東京でもここでも、常にもてはやされるお前にはな……」
健斗がそう言うと、麗奈は黙り込み、健斗を見つめていた
「けどお前がよくったって、こっちは困るんだよ。変な誤解されて恨みを買われたり……早川に……誤解されたりすんのが……どうせお前にはどうでもいいことなんだろうけど……」
健斗がそういうと、麗奈はゆっくりと頷いた。
「分かったよ」
健斗はそれを見ると、ゆっくりため息をついた
何でよりによってこうなるんだろうなぁ……
「……でも、普通にしてもらえないかな?」
麗奈が静かにそう言ってきた。健斗は不思議そうな顔をして麗奈を見た
「え……?」
「今は……健斗くんだけなんだ。普通に接してくれるのって」
「何?何が?」
麗奈は静かに笑いかけた。
「ダメ?」
健斗は何も言えなかった。普通に接して欲しいって……それって俺を頼りにしてるから?
何でそんなことを言い出すんだろう
ただ健斗はこの麗奈の表情を見てしまうと、何だか周りの視線とかどうでもいいように思えた
だから――
「……あぁ……分かった」
健斗がそう言うと、麗奈は嬉しそうに笑った。
「さっすが健斗くんっ!!頼りにしてますっ!!」
と相変わらずの元気良さを取り戻し、健斗の肩をバンバン叩いてきた
「うるせぇなぁ……つーか、早く教室戻ってろよ」
「はぁ〜い♪」
麗奈は健斗に手を振りながら、廊下を走って教室に戻っていった
健斗はその場に佇んで、壁によりかかりながらゆっくりとため息をついた
マジであいつ……訳が分からねぇな……
昨日といい今日といい……
何が普通にしてもらえないかな……だよ
健斗は麗奈の顔を思い浮かべていた。そして舌打ちをすると、軽く壁を殴った