第2話 始まる学校 P.3
健斗たちは10分くらい歩くと、看板に確かに書いてある「神乃崎三丁目公園」の言葉
「ここの上が三丁目公園」
と言って、健斗は指を差した。この少し長い坂を登れば、三丁目公園だ
「本当に〜?早く行こう〜♪」
と言って、麗奈は元気いっぱいでその坂を走っていった
健斗は少し呆然として麗奈を見ていた
「……何であんなに元気なんだ?」
時々こいつがよく分からなくなる
健斗はふぅっと息を吐いた
するとゴンタが健斗に甘えた声で鳴いてくる。
「分かったよ……」
健斗はゆっくりと歩き出した。
麗奈なんか、もう上り切りそうだ
「おい……大森!!ちょっと待てよ」
健斗が声に出して呼ぶにも、麗奈はまったく止まろうとしない
それどころか、むしろスキップで坂を上っている
この早朝にどこからあの元気さが出てくるのか……
麗奈は坂を上りきり、何だか感嘆しているようだ
そして振り返り、健斗に大声で叫んだ
「健斗く〜んっ!!ゴンタ〜!!早くぅ〜!!」
「待てっつったのにぃ――うわぁっ!!」
突然ゴンタが麗奈に呼ばれたからか、この坂を一気に走り出した
健斗はゴンタに引っ張られながら、坂を全速力で上っていった。
犬に引っ張られる……人間の走力が犬に勝てるわけないのに……
そしてあっという間に、健斗は坂を上りきった。
いくら緩やかな坂でも、犬と同じくらいの速さで走ると体力が失われ、さらに足がかなり痛くなってしまった
麗奈は健斗を見て、クスクスと笑っていた
「足、速いんだね?」
「……はっ……はっ……はっ……んぐっ……ご……ゴンタのバカやろう……」
健斗は死にそうな思いになりながらも、ゆっくりと身体をあげた
「ねぇ、ここが三丁目公園?いいところだね♪」
三丁目公園は、人工的な木々に囲まれた、少し大きめな公園である。
滑り台やアスレチック、ブランコなどがそろっている
昼は子供が多いが、朝や夜は犬連れの散歩をしている人が多い
今日も犬連れの人が多いと思ったのだが……
「今日は人がいないなぁ……」
今日の三丁目公園は静かな朝だった。決して早すぎるわけじゃないと思ったのだが……
「静かなところだね♪」
「まぁな……ここはゴンタのお気に入り――うわっ!!」
また突然ゴンタが走り出した
さっきのがトラウマになったのか、それとも油断してたのか、健斗は反射的にリードを手から離してしまった
ゴンタは嬉しそうに、公園を駆け回っている。
「アハハ♪ゴンタ、嬉しそうだね」
「ったく――いつもこうなんだよな」
健斗は微笑みながら、ゴンタを見ていた
「でも大丈夫なの?リード離しちゃって」
「いや、いつものことだし……人もいないし、走らせとけばいいよ」
と言って、健斗と麗奈は公園の中を歩き始めた。
「いいところだねぇ〜♪」
麗奈は周りを見渡しながらそう言った
「東京にもあるだろ……」
「けど、こっちの方が好きだなぁ」
健斗たちは、大きな木の下に作られたベンチに座った
するとゴンタが健斗たちに駆け寄ってきて、健斗にいっぱい甘えてくる
健斗は微笑んみながら、ゴンタの頭をゆっくりと撫でてやった
「ゴンタ、健斗くんに甘えてるね♪」
「甘えん坊なんだよゴンタは」
すると今度はゴンタは麗奈に甘えてきた
本当に……珍しいことだと思う
ゴンタが初対面の人にすぐになつくだなんて……
麗奈は笑いながらゴンタの頭やあご、身体などを優しく撫でている。
「お前って……変なやつだよな」
健斗がそう言うと麗奈はにっこりと笑った
「そう?」
「ゴンタ、本当に人になつきにくいんだ。なのにすぐにお前にはなついちゃってさ……」
「だから動物には好かれやすいタイプなの♪」
「あそう……」
健斗は持ってきた袋から、緑色の野球ボールくらいのボールを取り出した
そしてゴンタの目の前までやると、ゴンタはボールを目で追った
「ゴンタ……ほりゃ」
ボールを遠くに投げると、ゴンタはボールを追いかけた
そして口で加え、とことことこっちに戻ってくる
麗奈はそれを見て、子供みたいにハシャイでいた
「すごいすごい♪私にもやらせて!!」
ゴンタから受け取ったボールを麗奈に渡す
麗奈はボールを手にとった
「えいっ!!」
麗奈は少々遠すぎるくらいのとこまで、ボールを投げた
しかしゴンタはまたそれを追いかける
麗奈はそれを見て嬉しそうに笑っていた
「ゴンタよく出来たね〜♪」
帰ってきたゴンタにいい子いい子と頭を撫でる
「それっ!!」
健斗はその麗奈の様子をみながら、あることを思い出していた
昨日から引っかかっていたこと……
昨日の時折見せた、あの寂しげな表情……
一体こいつに何があったんだろう?
こいつはいつも笑ってたり、喜んでたり……嬉しそうにしたり……毎日が楽しそうだ
けど……何でかな……
健斗には麗奈のそんな様子が変に感じていたのだ……
何かが違う……麗奈は何かを隠していて、笑っているような……不思議な違和感を感じるのだ
「……健斗くん?」
「ん……」
「どうかした?もしかして、私に見惚れてたりしてぇ……?」
「バッ……バカ……お前に見惚れるかっ!!ナルシスト」
健斗はそういうとプイッと前を向いた
でも実際、麗奈は男の誰もが一度は振り返ってしまうほどの美少女だ
顔も可愛いし、スタイルもいいし……
きっと、前の学校ではスゲーモテてたんだろう……
それを考えると、健斗は嫌悪感を抱く
東京では男を使って楽しんでたのだろうか……自分はモテると分かったやつは……調子に乗り、人を弄ぶようなやつになる
麗奈も……そんなやつなんだろうな……
だから俺は騙されない……こいつに恋愛感情なんて絶対に持ちたくない
「そうだよね〜……健斗くんは、結衣ちゃんが好きなんだもんね♪」
健斗はそれを聞いて、麗奈を見て顔を赤くした
「なっ……誰もそんなこと言ってねぇよっ!!」
「隠してたってダメだよー♪見てれば分かったもん」
「う……」
健斗はそれ以上言い返せなかった……
麗奈の言う通りだったから……
俺は……早川結衣が……好きなんだ
中学に入って、初めて見て……最初は……そりゃ麗奈と同じこと思ったよ
早川は可愛いし……勉強もスポーツも出来て、スゲーモテてた
だから最初は、人を弄ぶようなやつだと思ってた……
けど……あのときから……
「結衣ちゃん可愛いもんね〜♪そりゃ、健斗くんだって好きになるよ」
「……別に顔で選んでねぇよ」
「ねぇ、どうして結衣ちゃんを好きになったの?」
麗奈が微笑みながら、訊いてきた
健斗は答える気がなく、プイッと眼を剃らした
「別に……」
「優しいから?優しそうだもんね♪それに可愛いくて、勉強もできそうだよね……優等生って感じ♪きっとみんなからモテるんだろうなぁ……それにさ――」
「おいっ……」
健斗は麗奈を睨み付けた
低い声で、少し憤りを持った感じで言った
「人のことを簡単に言うなよ。ちゃんと人のこと分かってから物を言えよな」
健斗がそう言うと、麗奈は苦笑いをした
「別に……悪い意味で言ったわけじゃないよ。ただ、昨日の印象で言っただけ」
健斗はそれを聞くと、何も言わず、ゴンタが甘えてくるのをそっと麗奈に受け流した……
人のことを簡単に言うな……か
よく言うよな……自分だって、麗奈を見た目で決めつけてるじゃん……
健斗は自分の言ってることとしてることの矛盾さに気づき、恥ずかしくなった
麗奈はゴンタを撫でながら静かに言った
「健斗くん……結衣ちゃんのこと、本気で好きなんだね」
健斗はそれを聞いて、またイラッときた
「お前は誰かを好きになるとき、軽い気持ちで好きになるのか?」
健斗は麗奈が次にいう言葉を期待していた
けど麗奈は少し考える仕草を見せた
「どうだろう……そういうときもあったかな……」
健斗はそれを聞いて、少し安堵感を覚えた
やっぱりこいつ、印象通りの女だったんだ……
健斗は下をうつ向いてゆっくりとため息をついた
「……でも、人を本気で愛せない人は……本気で人に愛してもらえないんだよね……」
「え……?」
健斗は麗奈を見た
麗奈は静かな口調で言った
「人をちゃんと愛することって……難しいのかもね」
「……大森?」
何を……言ってるんだ?
するとだった
麗奈は突然健斗を見て、にっこりと微笑んだ
「でも、健斗くんは結衣ちゃんを本気で好きなんだもんね♪すごいよっ!!」
「はっ……?」
麗奈はさらに続けた
「健斗くんが本気で結衣ちゃんが好きなんだから、結衣ちゃんもきっと健斗くんを好きになってくれるよ♪」
と言って、にっこりと笑った
健斗は意味が全然わからなかった
何を言ってんの?
何で……こいつがそんなこと言う?
ただ健斗は恥ずかしくなって、プイッとまた眼をそらした
「うるせぇ……」
恥ずかしさを隠すため、健斗は手を開いたり閉じたりする
そしてチラリと麗奈を見ると、麗奈は微笑んみながらゴンタを撫でていた
「ゴンタいい子だねぇ♪」
訳が分からないよ
何だよ……こいつ……どうして赤の他人が……俺のことをこんな風に……
大森麗奈って……
一体……何を考えてるんだ?
健斗はふぅっとため息をついて東の空を見た
明るい太陽が、まだそこでちょっとずつ西へ傾いていた