第1話 嬉しくない出会い P.10
健斗は「神乃崎神社」にある、プラスチック製のベンチに座っていた。買い物袋を横に置いて、疲れた様子で座っていた。
敷地には小石が詰めてあって、そこを歩くとジャリジャリと音がなる。目の前には本堂があり、そこの奥に神様を奉っているらしい
でも今はそんなことどうでもよかった……
「健斗く〜ん」
大森麗奈が、健斗に走りながら近づいてきた
「はい、コレ」
と言って、健斗に渡してきたのは250ミリリットルのコーラだった。健斗は静かにそれを受け取ると、麗奈は健斗の横に座った
「ふぁ〜♪賑やかなとこだったね〜商店街って。楽しかったぁ」
と大森麗奈はルンルン気分でそういった
どこが楽しいのか……
健斗が疲れたのは何も、店の人への対応だけじゃない
麗奈に振り回される方が疲れてしまった
早く家に帰りたいよ
健斗はハァっとため息をつくと、コーラの蓋を開けて少し飲んだ
「……私さ、この街結構好きかも♪」
麗奈は笑いながらそう言った
「そりゃよかったな」
「商店街の人も面白いしさ♪のどかだし……自然もいっぱいで、みんないい人そう」
「……そうだな」
しばらく沈黙が続く。健斗はそれに妙な感じを覚え、麗奈を見た
大森麗奈は少しうつむいていた
「好きだなぁ……」
「……大森?」
「ずっといたいなぁ……この街に……ずっと……」
健斗にはよく分からなかった
どうして……こんなに寂しそうな表情を浮かべるんだろう
こいつに……何かあったのか?
「……なぁお前さ……」
健斗が静かに声をかけた。麗奈は健斗を見て、にっこりと笑う
「何?」
そういえば知らなかったことがあった
「どうして……この街に来たんだ?事情って何の事情だよ」
すると麗奈は少し考える仕草を見せた
「ん〜……そうだなぁ。この街って、お父さんの故郷でね、面白そうだったから来てみたんだ♪」
とにっこりと笑いながらそう言った
けど健斗には、それが逆に納得出来ず、違和感をもたらした
「そんな理由だけでか?変なやつだな……面白そうだから来ただなんて……」
健斗がそう言うと、麗奈はクスクスと笑いながら健斗に言った
「そうかな?」
「いや、おかしいだろ」
健斗は納得いかない表情を浮かべて続けた
「ずっと東京にいたんだろ?それなら、そこに仲のいい友達とか、馴染み深いとことかあったはずだろ?なのに、そんな理由だけでこんな田舎に――」
「いいから!」
健斗が言いかけている途中に、麗奈が遮るように言った
健斗は驚いたせいで口を閉じて、麗奈を見つめた
さっきも感じた、胸の痛みを感じた
「いいから……そういうことにしようよ。ねっ?」
麗奈の言った言葉
そしてそれと共に笑う表情……
けど、その表情は悲しそうな笑顔だった。
健斗は見間違いだと思ったんだけど、見間違いじゃない……
この綺麗な瞳の奥に、たまっている光る何かが……
健斗には悲しくみえたのだった……
だから俺は今でも覚えている。
こいつがどうして、あんなことを言ったのか
笑顔の裏には何を隠しているのか……
俺は何も言えなかった……
何も、これ以上は訊けなかった