第1話 嬉しくない出会い
第1話あらすじ
16歳の少年、山中健斗の元に、ある一人の女の子がやってきた
女の子の名前は大森麗奈。
とても元気の良すぎる性格に戸惑う健斗……
この日を境に、健斗のGood Loveな物語が始まる
※本編の主な登場人物
山中健斗……本編の主人公。少し無愛想なところがある、神乃崎高校に通う一年生。突然健斗の家に麗奈が居候することになり、かなり戸惑っている様子……彼には実はある過去があって……?
大森麗奈……本編のヒロイン。かなり元気がよく能天気なネコ型娘。健斗の家で居候することになり、その独特なリズムで健斗と深く絡んでいく。
真中ヒロ……健斗の幼なじみ。お調子者とはこいつのことと言わんばかりのやつ。麗奈に出会って思わず一目惚れするが……
早川結衣……健斗と同じ学校、そして同じクラスの女の子で、健斗の意中の人。とても優しく、周りの子にも気配りが出来る。
佐藤愛美……通称「マナ」。ちょっとガサツな面のある元気いっぱいの女の子。ヒロとのコント並みの絡みが好評。
五月になっても、この辺の地域は少し気温が低くかった。しかし全然半袖で過ごせる気温ではある。ブランケットを体にくるませるようにかけて、ベッドの上で健斗はぐっすり眠っていた。
静かに寝息を立てて、ブランケットにきちんとくるまってはいるが、シーツは乱れていて、机の周りには雑誌だの教科書だのが山積みになって置かれている。
しかし机の上はきちんと整理されている。というのは、昨日の晩に片付けをしていたのだが……どうやらその途中に眠気に負けてそのままベッドで眠ってしまったのだ。
机の横にはギターケースが一個ある。そして棚の上には古くて小さなテレビにラジオもあった。
もう朝と呼べる時間は過ぎているが、健斗は全く起きる様子を見せてはいなかった。
最近、何かと疲れてるためである。高校の授業は難しくてつまらないし、朝早く行かないと学校には遅刻する。毎日毎日、同じような感じだったけど、それが逆に健斗に疲れを感じさせていた。
そして今日は久しぶりの休日。だから今日はかなり眠っていたい。何なら、このまま永遠に眠っていてもいいくらいだ
部屋の外からは小鳥のさえずりが聞こえる。
昨日から開けっ放しにしてた窓から心地よい風が吹き込み、緑色のカーテンを揺らしていた。
するとだった。
「ちょっと、健斗~?」
部屋の外から大きな声がした。と、思ったら突然ドアが開き、廊下から母さんが雑な動作で、ずかずかと部屋の中に入ってきた。
健斗の癪に触る甲高い声で、健斗が嫌がるように耳煩く怒鳴ってくる。
「起きなさいよ!今日が何の日か、あんたも知ってるでしょっ?」
その煩い怒鳴り声を聞いて、さすがの健斗も目を覚まし、薄々と眼を開けた。しかし健斗はわざと聞こえない振りをして、母さんの言葉を無視するように背を向けた
「起きなさいっ!」
と言って、母さんは無理矢理ブランケットを健斗から取り上げてきた。
それをされると、心地よさが一気に消え失せた。健斗はうざそうにため息を大きく吐く。ゆっくりと起き上がって、仁王立ちする母さんを睨みつけた。
「……何で起こすんだよ」
健斗が眠そうに目をこすりながら不満そうに言うと、母さんは呆れるように大きくため息を吐いて言った。
「だから、今日が何の日かあんたも知ってるでしょ?」
今日が何の日……?
確かに……知っている。今日がどういう日なのか。そして誰がやってくるのか。知らないわけがない。
けど……
「俺には関係ない。俺は……賛成したわけじゃない……」
健斗がそう冷たく言い放つと、母さんは呆れ返るようにため息をついた
「あんたは……新しい家族が増えるのよ?嬉しいことじゃない。」
「何が家族だよ。所詮は他人だろ?嬉しくも何ともないし、むしろすげー迷惑。」
健斗はそう言うと、興味なさそうにまたゴロンとして横になった。すると母さんの怒りがついに頂点に達したらしい。母さんは健斗に向かって、大きな声で怒鳴りつけた。
仕方なく、渋々健斗は母さんに起こされた。かなり不機嫌な様子で外出用の灰色のパーカーと黒いジャージに着替え、一階に続く階段を降りていった。
――何で俺が……
心の中で愚痴を言うものの、母親にこれ以上言うことを聞かなかったら、今晩の晩飯は抜きだ。と言われては動かざるを得ない。
これから健斗は、車に乗り込み、ある人を迎えに行く。迎えに行くと言ってもそんな紳士的なものじゃない。もちろん嫌嫌で、むしろ非常にうんざりとしている。歓迎の意志などひとかけらもない。
その話を聞いたのは……一週間くらい前のことだった。
母さんと父さんに呼ばれて、突然その話を聞かされた。来週の休日に、この山中家の元へ新しい家族がやって来るということ……
「はぁっ?」
母さんの言葉に我が耳を疑った。突然過ぎて頭が大混乱をした。しかし、そんな健斗の反応をまったく気にせず母さんはゆっくりした口調で繰り返してきた
「だから、来週くらいにね、家に居候が来るの。女の子よ。」
意味が分からない。一体何故?
その2つの間に健斗は板挟み状態となっていた。話のプロセスが全く読み取れない。親戚の女の子が遊びに来るというのならまだわかるし、それなら健斗も分別がついただろう。
だが今言っている話は全く関係ない。都会からやってくる赤の他人がわざわざこんな田舎に、さらに山中家に“居候”するのだという。しかも、相手は女の子だ。
「ちょっ……ちょっと待って?何?何かの冗談……だよな?」
健斗が焦る様子を全面的に見せながらそう聞き返してみる。しかし父さんと母さんは顔を見合わせて、呆れるようにため息を吐いた。
「何で冗談でわざわざこんなこと言うのよ。」
「麗奈ちゃんだよ。来週からうちでしばらく一緒に暮らすことになった。」
母さんと父さんは全く冷静な態度でそう言ってくる。そんな態度とは反対に健斗の頭は大混乱の渦が渦巻いていた。
「名前なんかどうだっていいよっ!何で?どうしてっ!?」
健斗は少し憤りを感じたように言った。すると健斗の問いかけに、母さんは順を追って説明してきた。来週から、東京に住んでいた女の子がある事情により、この神乃崎の町に来るらしい。
そこで頼る当てはこの山中家しかないという。というのも、どうやらその女の子の両親と、山中家は密接な関係があるとか……詳しくはよく知らないが、とにかく全くの赤の他人同士ではないという。
そのためこっちの町で暮らす間、何と我が家でいっしょに暮らすらしい。つまり居候として我が家に迎えるということになる。
女の子といっしょに住むことになるなんて考えたこともなかった……そう、小学生のときにはまった「ウォーターボーイズ」のドラマのようだ
いやあれは男の子が田舎に来て、女の子の家に居候するという形だったのだが、どちらにしたって何も変わらない。
この「神乃崎」は、山の麓にある町で、自然豊かに囲まれた小さな田舎町である。
しかしこんなところに、東京者が来るんて……まぁそこまで驚くようなことじゃないけれど。でも滅多にいないだろう。隣町から越してくることはあるだろうが、数十キロも離れた町……健斗もイメージとしてしかしらない大都会である東京から、その女の子はやってくるのだ。
健斗にとっては当然最悪のことだった。男ならまだいいかもしれない。しかしよりによって居候に来る子は女の子だ。そんなことは大反対だった。
当然性別が違うのなら、その間には色々と面倒事が付きまとうに決まっている。お風呂だったりトイレだったり、着替えだったり……全て性的な問題かもしれないが、やはりそういう部分が一番重要だ。健斗は他人に対して色々と気を遣うのは苦手な性格だ。
だからそれを踏まえて、健斗は目の前の母さんと父さんに向かって、ひっくり返ってしまうほど卓袱台を叩いて大反対した。
「お、俺は絶対嫌だぞっ!絶対反対だからなっ!」
しかしこういう話は子供の力は無力に等しい。結局何も出来ないまま、その女の子が来る日を迎えてしまったというわけだ。
健斗は玄関で靴紐を結びながら大きくため息を何度も繰り返していた。
「……もう嫌だ……本当に嫌だ……」
「嫌々言ってないで早くいきなさいっ!」
母さんがどんっと仁王立ちして、健斗にそう言った。その言葉や態度を見て、健斗の不満はさらに募る一方だった。
「つーか何で俺まで迎えに行くんだよ?父さん一人行けばいいじゃん。」
靴紐を結び終わり、健斗は立ち上がりながらそう言った。すると母さんは凛とした偉そうな態度で物申してくる。
「お客さんを迎えに行くのは人として当然ですっ!」
「何がお客さんだよ。さっきは家族だどうだって言ってたくせにさ……」
「つべこべ言ってないで早く行きなさいっ!」
「チェ……」
健斗は軽く舌打ちをして、かなり不機嫌で家を出ていった。