第2話
田原が驚いたのには理由がある。
未だに高野連に加盟した女子高の情報がないのだ。
共学の女子部員という例なら昨年度からあったが女子高となると全くない。
女子硬式野球部がある部活は女子硬式野球に専念する方向を見せ、ソフトボール部の強豪もまだ硬式野球に転向するという話は耳に挟んだことがなかった。
更に誠陵女子は文化部が盛んで運動部は数えるほどしかなくことごとく弱小と名高い。
「えぇ・・・。こちらとしてはチームが組めるので有難いのですが、硬式の高野連に加盟をしていらっしゃるのでしょうか?」
高野連に加盟するには例外を除き9名の部員が揃った状態で県高野連に申請を出して承認を受けることが必要だ。
例外は、分校が本校と離れており分校の野球部が部員が足りない近隣の他校の野球部と連合チームを組む時のみだったが、女子の出場が認められたのと同時に例外が追加され、過去に軟式野球・女子軟式野球・女子硬式野球の高野連に加盟していた高校で該当する高野連の大会に出場歴があり、尚且つ硬式野球部に創部から1年経った高校も9人未満で加盟できるようになった。
この例外と照らし合わせると誠陵女子が以前に女子硬軟のどちらかで大会に出場していて、昨年4月に硬式野球部を創部しており、秋に事前加盟をしていれば春季大会に出ることが出来るが、どちらか該当していないものがあれば6月1日に加盟することになる。
誠陵女子にとっては一大会だけ出れないという認識だが田原はそうはいかない。
あっという間に最後の夏になり、試合経験が浅いメンバーが多い状態で最後の大会に出て惨めな姿を晒すのであれば強豪他校から部員を借りて出場する方が賢明だと田原は考えた。
「大丈夫です!去年4月に創部して秋に加盟申請は行っています。また直近では4年前に女子軟式にて誠陵女子の大会参加が認められています。」
今中が一字一句間違えずにスラスラと伝えた。
「そうですか・・・。ちなみに連合チームを組むとして参加するのは春季大会からでしょうか、それとも夏季大会からでしょうか?」
田原が少し考えつつも質問した。
「私たちは実戦経験がないので出来るだけ早い段階から大会に出場したいと思っています!」
今中が再び即答した。
「それじゃあ、連合チームを・・・と言いたいところですがうちのチームはマネージャー希望含め4人しかいません。誠陵女子さんを合わせても8人。また昨秋から連合を組んでいる東浜の部員の確認を取ってからのご連絡でもよろしいでしょうか?」
田原は渋々了承した形になった。東浜の部員に確認をとるとは言ったものの東浜の部員は新入生合わせて3人で唯一の3年生が試合に出たくてうずうずしているような人なのでまず拒否されることはない。
「校長、申し訳ありませんが東浜高校の山江先生にお電話お願い出来ますか。」
「おっ、まさか君が連合をまた組む気になるとは。すぐ連絡するよ。待ちなさい。」
「あっ校長先生まだいたんですね。気付きませんでした~。」
佐藤の発言で校長室が少し凍ったのは気のせい。
PRRRR・・・
「はい、東浜高校田中です。」
「田中先生お久しぶりです。氷ノ山西野球部の田原です。山江先生お願いできますか。」
「田原くんか~!元気にしてた~?じゃなくて、山江先生ね、ちょっとまってt「田原くんですか!!こんにちは!!」
田中先生は一応東浜高校野球部副顧問ということもあり田原と面識がある。
秋季で合同チーム内でいざこざがあった時に一番活躍した。
「こんにちは山江先生。お久しぶりです。」
元気に電話に乱入してきたこの人こそ東浜高校野球部顧問の山江。去年着任して2年目の元気一杯な先生。
「ご用件は?」
「実は・・・」
田原は連合チームに誠陵女子を入れて春季大会に出場したい旨を伝えた。
「大歓迎だよ!ちょうど川瀬が来たから代わるね!ほら川瀬、田原くん!」
「もしもし田原?誠陵女子と連合組むって魔剤!?ありえんよさみが深い。てか次練習いつにする?春季まであと少ししかないゾ!あっ知ってるとは思うが1年2人入って3人になったゾ!!」
川瀬は東浜高校野球部3年生。オタク口調だが見た目はイケメンと言って差し支えない。
「とりあえず落ち着け。練習は出来るだけ長く取りたいが、春季大会までに集まれるかどうかは微妙だ。部員については知ってる。こちらも1年3人入って4人になった。誠陵女子も今のところ4人だ。結構きついぞ?大丈夫か?」
「おう!任せとけ!あとでSENでグループ作っておくからSENやってる部員は入れとけゾ~」
「はいはい了解。ありがと。」
ツーツーツー
「了承を頂いたのでよろしくお願いします。改めて野球部の紹介をしたいのでグラウンドまでお越しいただいてもよろしいでしょうか。あと、校長先生ありがとうございました。」
田原が終始仕切り校長室から去り再びグラウンドへ向かう途中・・・
「おい田原!そいつら誠陵じゃねーかどうした?」
グラウンドへ向かう道中急に絡んできたのはサッカー部キャプテンの石原。田原はサッカー部をはじめいくつかの運動部の助っ人も受け持っている。
「あー、この人たち野球部なんだって。連合組むことになったから今からグラウンド行くところ。」
「いいなー、野球部は。女子部員がいて更に女子高と連合?前から言ってるけど夏は助っ人で出るからドーンと任せとけ!あっはじめまして俺は石原!サッカー部だけど夏の大会には田原監督のコネでベンチ入りするかもしれないからよろしくね!」
「あー、それもごめん、無理かな。お前の担任から話は聞いたぞ。実力テストやばいんだってな?中間考査で3位以内じゃないと出すなって言われてるからごめんな。」
「そんな・・・。」
そんな話をしているうちにグラウンドへ着いた。
「監督!おかえりなさい!」
「田原さん長かったですね!そちらの方は?」
「あ"!!ゆきちゃん!!誠陵だったんだ!!」
「おっ!みゆ久しぶり!そちらこそここだったんだ!次の春の大会から連合で出場することになったからよろしくね!」
「ゆきちゃん、まだ野球やってて嬉しいよ~。また一緒に出来るんだね!よろしくね!!」
北山と今中が感動の再会を果たしたようだがなかなか本題に入らないのを察した田原が咳払いをして話した。
「それでは。氷ノ山西高校野球部選手兼任監督の田原です。右から矢野、北山、片山です。僕以外は1年生です。」
「紹介ありがとうございます。私は誠陵女子野球部主将の今中です。向かって右から紺野、原見で私の後ろに隠れてるのが佐藤です。ほら挨拶!」
「「よろしくおねがいします!」」 「ますー」
佐藤が気の抜けた挨拶で場は一気に和んだ。
「さっき東浜さんとのお電話の中でSENで連絡取ろうって話ありましたよね?ちょうど今携帯あるのでSEN交換しません?」
「いいですよ。はいどうぞ。」
田原と今中がSENのアカウントを共有して田原が招待されていたSENのグループに今中と氷ノ山西部員のSENのアカウントを招待した。今中はすぐに入って誠陵女子の部員のSENのアカウントを招待して解散することになった。
その後、SENでのやり取りにて今週の日曜日に一日練習をして、来週の水曜日に組み合わせ抽選会を三校の代表者行ってもらうことになりひとまず来週の土曜日から始まる春季大会へ向けての準備は整った。
もうなんか・・・うん・・・。
無茶苦茶な設定になってますね!