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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第8話 忘却の大剣(魔剣アシュケロン)
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デビルオクトパスとの戦い

「姉さん。今回の武器はこれです」

 

 ロンは平べったい箱の留め金を開ける。そこにはベルベットの布地に包まれた3本の注射器のようなものがある。注射器と言っても長さは15センチで直径が8センチもある大きなものだ。ピストルのような構造をしており、引き金を引くと板バネで引っ張られて中の液体が注入される仕組みになっている。


 金属製のボディにはデビルオクトパスの分厚い肉に対抗できるよう太い針が備わっている。


「中にはムラサキウミドクノリから抽出した神経系統を麻痺させる毒が入っています。足に注入すれば、足は麻痺して動かなくなるでしょう。できれば、タコの本体に刺せば確実に倒すことができます」


「……」


 ロンの姉のササユリはゆっくりと頷いた。注射器の先端にゴムチューブを取り付けて、3本とも腰に装着した。デビルオクトパスの攻撃をかわして本体に取り付いて1本でも注入すれば、一撃で仕留められるはずだ。


「材料からは3本分しか抽出できませんでした。姉さんには苦労をかけますが」


 ササユリはロンを抱きしめる。言葉が出せないササユリはそうすることでしか、感情を伝えることができないのだ。


「姉さん、この2回戦に勝てば、絶対に奴が動き始めます。そうすれば父さんの敵を討つことができます。それに姉さんの障がいを取り除く手がかりも手に入るかもしれません」


 ロンには行方を追っている人物がいる。その人物は有名な薬師であった父の一番の弟子であり、姉のササユリの婚約者でもあった。彼は10年もの間、父親の弟子として信頼を得て、父より秘薬中の秘薬であった「ブラッディポイズン」というオリジナルの毒薬のレシピを伝授された。


 彼は某国より送り込まれたスパイだったのだ。そのブラッディポイズンの秘密を知った彼は、父親を毒殺したのであった。姉のササユリも一緒に毒薬を飲まされて死ぬ運命であったが、ロンが発見して彼女の命を救った。


 『ブラッディポイズン』には解毒薬はないとされたが、父が密かに開発していたのだ。それはまだ不完全ではあったが、死ぬ間際に渡された解毒薬で姉のササユリは命を取り留めたのだ。だが、解毒薬は完全でなかったために副作用で姉は表情を失い、言葉を発することができなくなってしまったのだ。


(自分たちがこの大会で活躍すれば、あの男の耳に必ず届くだろう。解毒薬がない『ブラッディポイズン』に解毒薬があることをササユリの存在で知るはずだ。そうすれば必ず、奴は自分たちの前に現れるはずである。


 ササユリは紺色の水着に足ひれをつけている。これで10mの深さまで潜り、デビルオクトパスを狩るのだ。彼女は投薬によって身体能力を過剰に上げていた。それは反対するロンを無理に説得して行っていることだが、この復讐も彼女自身の強い思いからであった。


筋力をアップする薬や運動神経を3倍にする薬などを使って超人的な動きができるようになっていた。これは1回戦での彼女の戦いぶりをみれば分かる。ただ、身体能力は上がったとはいえ、武器を扱う技術は上がらないので単純な攻撃方法を取らざるを得ない。今回の注射器で毒薬注入も近づきさえすれば、大した技術はいらないようにロンが配慮していた。


(とにかく、ベスト4に入る。何が何でも入るんだ)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さあ、2回戦の開始です。2回戦はボス戦です。10m底にいるデビルオクトパスに制限時間内に与えたダメージで決めます。上位4チームが勝ち抜けです。なお、途中でオクトパスが倒されれば、その時点での獲得ポイントで競われます。もちろん、1回戦同様、敵の攻撃でヒットポイントが0になれば失格とします」


 1回戦と同様に虎コスチュームのお姉さんが解説をする。ちなみにデビルオクトパスのヒットポイントは12000ポイント。8人のデモンストレーターが攻撃すれば、一人1500ポイントで0にすることができる。普通のノーマルソードで斬りつけた場合のダメージが20~30というところなので、全員で100回ほど攻撃すれば倒せる相手ではある。また、単純なポイントの蓄積だけではゲーム的に面白くないので、ルール上、ボーナスポイントというものがある。


(1)一撃で一番大きなダメージを与えた者に1000ポイント追加

(2)とどめを差した者に1000ポイント追加

(3)終了時に一番ダメージを受けなかった者に1000ポイント追加


「何だか面白いルールですわね」

「あんたが決めたんじゃないのか、ステファニー?」


 いつものVIPルームで観戦中のステファニー王女とクローディア。ステファニーはこの大会の主催者で彼女は大会長なのだから知っているはずだが、やっぱり、この王女はお飾りである。


「私は知らないわ。でも、一番強い人が有利よね、このルール」


 ステファニーが言うとおり、(1)と(2)はトップ賞のボーナスみたいなものだ。一番強い攻撃力がある武器に与えられやすい条件だからだ。(3)だけが条件が違い、チマチマと安全圏から攻撃を加えておけばもらえるポイントである。トップを狙いに行ってなれなかった場合に下位の者にこの(3)ボーナスで逆転される可能性もあるのだ。


(にしても……ダーリンに妨害工作なんて……狙いは絶対にクロアよね。おかげであのカエル娘がデモンストレーターだなんて悪夢だわ。仕方ないとはいってもねえ)


 ゲロ子の変装、ケロティはとっくの昔にクロアに見破られていた。いや、おそらく右京も知っている。知っていて、あえて騙されたフリをしているのは空気を読んでのことだが、それに気づかないのはゲロ子がゲロ子である所以であろう。


 以前、ゲロ子はドラゴンから貸与えられたスーパーアイテムで凶悪なモンスターを退けたが、今回は右京が用意した『トライデント』のみで戦うのだ。武器の性能を引き出すのはデモンストレーター次第で、ゲロ子の真の力が試されるのだがいくら人間サイズになったところで、チートな力があるわけがないゲロ子がどこまでやるかは未知数であった。



「静かなる稲妻発動!」


 水中に潜ったマイケルムーアは『雷神剣』で迫り来る足を切りつける。斬った瞬間に切り口に電撃が走り、内部を焼き尽くす。切ったところが切断されて落ちる。すさまじい攻撃である。これで80ポイントを稼ぐ。一撃がクリティカルヒット並であり、この戦いにおいても魔法付与の剣が有効であることを観客にアピールする。マイケルムーアは水中でも華麗な体さばきで8本の足による攻撃をかわして、さらに攻撃を加えてポイントを稼いでいた。

 

 1回戦2位だったメタルマスター、ミハエルは槍を持参していた。それは『オウルパイク』と呼ばれる特殊な槍であった。全長の半分が金属製の穂先で長い錐のような形状をしているのだ。その長さは100センチにも及び、重さは2kgにも達した。


 この武器の特徴は突き刺すこと。ミハイルはデビルオクトパスの頭にそれを突き刺し、脳を破壊することを目指していた。この長い穂先に突き立てられれば、急所を刺されて死ぬに違いない。そうなれば、(1)(2)のボーナスポイントも加えてこの2回戦の突破は可能となる。


 よって、ミハイルの戦い方は隙を見て攻撃するという受身的なものになる。他のデモンストレーターの攻撃でデビルオクトパスの防御にほころびが生じたところを狙うのだ。


 この戦いでマイケルムーアの『雷神剣』に匹敵する攻撃力を誇ったのがエドが出品し、瑠子が装備した『サイドワインダー』であった。瑠子はデビルオクトパスの攻撃を巧みにかわしつつ、鉄の銛を連続発射する。次々と撃たれる銛はデビルオクトパスに突き刺さり、ダメージポイントを稼いでいた。


 バスバスバス……。


 鈍い発射音と共にハリネズミのようになった足がだらりと垂れ下がる。マーメイドのようにデビルオクトパスの周りを泳ぎ回って、次々と銛の雨を降らしていた。観客は歓声を上げて瑠子を応援する。


「瑠子ちゃんの武器、欲しいぜえ……」


 武器コレクターのクルーゼは水に潜りながら、瑠子の戦いぶりを見て感心していた。彼は武器コレクターとして武器を出品すると共に自分がデモンストレーターとして出場している。それは他の出場者の武器を間近で見て、戦い終了後に買うためだ。気に入った武器をコレクションするのが彼の趣味なのだ。さらに大会に出ているのは自分の武器を自慢するため。


 今回は『ハンジャル』と呼ばれる肉切りナイフを選んだ。これは全長30センチほどでS字状に曲がった短剣である。特徴は『肉切りナイフ』という別名のようにデビルオクトパスの分厚い肉をこそぎ落としていた。地味にダメージを与えていく。

 

 同じ短剣でも東の果てから来た越四郎という男が持っている短刀は、切って捨てると言ったほうがふさわしい攻撃であった。『姫斬』と名付けられた短刀は20センチほどのであったが、水中での越四郎の剣技によって足が切り刻まれていく。

 

 デモンストレーターたちの攻撃で前半はデビルオクトパスは、抵抗も虚しく一方的に倒されてしまうかという感じであったが、デュエリスト・エクスカリバー杯の2回戦に出てくるモンスターがそんな弱いモンスターであるはずがなかった。



 ニョキニョキ……っと切り落とされたはずの足がまた生えてきたのだ。デビルオクトパス本体に攻撃しなければ、倒すことはできないのだ。さらにオクトパスはブレスを吐いた。それは黒いスミ。ただのスミではない。触れると体が麻痺するものだ。接近して避けきれなかった越四郎とクルーゼがまともに浴びてしまう。


「うおおおおっ……」


 さらに足で体が巻かれて締め付けられる。ダメージポイントが加算されるのと、息ができないことでさらにダメージが加わる。バーチャルデュエルなので息が続かなくなったところで拘束は解かれて救助されるが、越四郎とクルーゼはこれで失格となってしまう。


「おおっと、現在580ポイントを稼いでいた越四郎選手と520ポイントのクルーゼ選手が脱落しました。現在のところ、1位は2380ポイントを稼いでいるマイケルムーア選手と2100ポイントを稼いでいる瑠子選手が2位。3位にメタルマスター、ミハエル選手。ポイントは1420ポイント。4位にダミアン選手の1200ポイント。5位に1030ポイントのササユリ選手です。えっと、もう一人、ケロティ選手がいますが……。彼女は0点。というか、戦いに参加していません。どうしたのでしょうか」


 解説のお姉さんも驚いた。前半戦を終わってもうデビルオクトパスのヒットポイントが残り少ないにもかかわらず、ケロティは岸で正座をして黙想しているのだ。その面前には『トライデント』が鎮座している。


(ケロケロ……。風を感じる)

 

 緑髪の美少女は感じるはずのない風を感じる。それは戦っている他のデモンストレーターたちの闘気であったかもしれない。


「伝説を創る緑の風でゲロ……」


そうケロティはつぶやいた。


風ってダンジョンだぜ……。

このまま負けたらひん剥かれるぞ~ゲロ子。

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