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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第8話 忘却の大剣(魔剣アシュケロン)
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救世主ケロティ?

「さあ、2回戦が始まりました。今日もこのアマガハラスタジアムで行われる戦いをこの私が実況中継いたします」

 

 1回戦の時の虎娘スタイルのお姉さんがマイクで観客に向かって叫ぶ。2回戦もスタジアムは大入り満員だ。みんな中央に置かれたスクリーンとそれぞれの出場選手を追う8つのサブスクリーンに注目している。


「まずは優勝候補、エンチャンターのアルフォンソ氏が2回戦に出品した武器は、『雷神の剣』です。扱うのはもはやお馴染みの聖騎士マイケルムーア選手です。アルフォンソさんにインタビューしてみましょう」


 虎娘のお姉さんがチーム控え席に座っているエルフ族のアルフォンソにマイクを向ける。アルフォンソは見た目まだ若いエルフである。透き通るような金髪に青い眼で涼しげに語り始める。


「雷神の剣はその名のとおり、雷撃の魔法を封じ込めた剣です。水中モンスターには電撃が効果が高いことは古来よりの常識ですから」


「しかし、不用意に電撃を放つと他の選手にもダメージが行ってしまう恐れはありませんか。もし、そうなると妨害行為で大幅な減点、悪くすると失格になることもあります」


 お姉さんの質問にアルフォンソは軽く首を横に振って心配ないという表情をした。


「それは心配ありません。雷撃の剣は敵に深く突き刺さった時に発動するようになっています。ダメージは大タコの体内のみに発生し、雷神の怒りで内部を焼き尽くすでしょう」


「すごい武器ですね。そして、それを扱うのがNo.1デモンストレーターの呼び声高いマイケルムーア選手ですから、やはり2回戦の有力であることは間違いないようです」


 虎娘のお姉さんは次の選手を紹介する。順番で行けば1回戦2位のメタルマスター、ミハエルであるが彼は自分自身が武器とともにダンジョンへ向かっているのでインタビューできない。


 それで第3位の素材マスターと呼ばれるエリーゼのところへ行く。エリーゼは都でも指折りの大商人の娘にして、大学で素材学をマスターした博士であった。この世界のあらゆる素材について精通し、特に武器素材の専門家として有名であった。年は31歳。博学とタカビーな性格が災いしてか、未だに結婚相手が見つからない。


「やっと、わたしの順番が来たわね。待ちくたびれてしまいましたの」

「は、はい。お待たせしました、エリーゼ博士」


 エリーゼは茶色の長い髪を巻いたゴージャスな風貌で、かなり高価なスーツに白衣をはおっている。ピンクのハイヒールがちょっと痛い。


「今回のわたしの出品した武器は、シーサーペントの牙よ」

「シーサーペントの牙?」


「知らないの? いいですわ。このわたしが解説しましょう。シーサーペントは海に生息すると言われる未確認生物。でも、その正体は大海蛇。今回戦うデビルオクトパスの天敵よ。その牙はタコの体を引き裂いてわたしに勝利をもたらすでしょう」


「そんな生物の牙をどこで手に入れたのですか?」

「そ・れ・は……秘密よ」


「秘密ですか?」


 エリーゼは確かにこの世界の珍しい生き物についてよく知っており。その生物の骨や牙、角を使った武器作りで有名であった。だが、全ての素材は本物というわけでもなく、中には他の学者によって疑いをかけられるものもあった。何だか怪しいなと虎のお姉さんは思ったが、1回戦で使った竜の爪は文句なく素晴らしい武器であった。今回も素材が本物で、見事に大タコを殲滅することができるかである。

 

 そんなエリーゼにお茶のセットをワゴン乗せた執事が近づいてくる。見事な手つきで香り高い紅茶を入れる。


「お嬢様、お茶でございます」

「ご苦労さま。ダミアン」


「あの、エリーゼさん?」

「なんですの?」

「執事のダミアンさんは、デモンストレーターなんですよね。もうすぐ2回戦が始まってしまいますよ」


「大丈夫です。ダミアンは完璧な執事ですから……」

「はい、お嬢様」


 そういうとダミアンは執事服を華麗に脱ぎ去る。脂肪率3%未満の引き締まった体が現れる、しかも下はふんどし一丁。黒髪のイケメン執事の裸体姿である。女子なら思わず釘づけになる光景だが、男はそんなの見たくはない。虎のお姉さんは両手で目を覆うが時折、指を開いてイケメン執事をそっと見てしまう。執事は颯爽とダンジョンへと向かう。会場にいる多数の婦人の視線を独占しながら。これから行う任務は大切なお嬢様のために、2回戦を勝ち抜くことなのだ。


「瑠子さん、この武器の説明をします」


 エドは瑠子・クラリーネに装備した武器の説明をする。それは果たして武器なのかと見たものが疑問に思ってしまう代物であったからだ。それは円筒形をしており、長さは1m20cmほど。ずっしりと重いのはそれ一つに鉄製の矢が25本も入っているからだ。瑠子はその筒を左右の腰、背中に二つくくりつけていた。両手にはそれぞれの筒につながれたコードの先端を持っている。それにはボタンが付けられ、発射装置になっているのだ。


「これは武器なの? 何だか重たいし、ちょっとダサくない?」


「この武器は『サイドワインダー』と言います。ボタンを押すと高速で鉄の銛が発射されます。1つから25発。4つ装備しているから全部で100回打つことができます」


 瑠子はその場でくるりんと回ってみた。サイドワインダーをくくりつけられてはいるが、基本はピンクの水着を装着しており、これは会場に来ている瑠子ファンの熱視線を浴びている。水着にロケットランチャーを4つ装備したミリタリー女子的な感じである。


「ボタンを押せば連続発射も可能です。ガス圧で発射されますから水の抵抗もかなり無視できますが、有効射程距離は20mほどです。敵の懐に飛び込んで連発すれば勝利は間違いないでしょう」


 エドの説明に瑠子もちょっと機嫌を直した。何だか、ものすごい武器に出会った気分だ。おそらく、観客も注目するであろう。1回戦では地味に勝ったので瑠子としては、ここはド派手に戦って話題になりたいのだ。


 そんなド派手なデビューを飾って、大大大好きなご主人様とラブラブ生活を夢見るバルキリー、ブルンヒュルデことヒルダは着替えをしていた。


「ふふふ……。今日、わたくしが頑張って勝利を手にすることができたら、きっとご主人様もわたくしのことが愛おしくなるに違いないわ。ヒルダ、やっぱり、俺にはお前しかいないよ。ヒルダ、こっちへ来いよ、今晩は寝かさないからな。あ~ん。どうしましょう。わたくし、今晩、きっとご主人様に堕ちてしまうわ。でも、わたくしは後悔しないわ。ご主人様となら例えいばらの道でも歩いてみせる……」


 バルキリーのヒルダは等身大になっている。彼女はいつも来ている白銀の鎧を脱ぐと15センチのフィギュアからリアル女子へ変身できるのだ。リアルのヒルダは絶世の美女だ。何しろ、神の使いの戦乙女だ。汚れを知らない神々しさも手伝って、目もくらむ美しさである。


 そんなヒルダが真っ白なハイレグワンピース水着姿なのだ。これにトライデントを持たせたら、まさに海の女神、旅人を惑わすセイレーンのようである。

 

 ゴトッ……。物音がした。今は更衣室でヒルダの他には誰もいない。時間も迫っているので、早く表に出てトライデントを受け取り、ダンジョン4階の水辺エリアまで移動しないといけない。また、ガサガサ……という音がする。


「ご主人様ですか?」


 ヒルダは小さな声でそう尋ねた。ガランとした更衣室にヒルダの声が響く。音が鳴りやんだ。警戒している感じである。


「ご主人様、いくらわたくしが魅力的だからって、今はダメですよ~っ。戦いが始まってしまいますううう。でも、安心してください。さっさと勝って今日はご主人様と……ぐふぐふ……」


 ガサッっとカーテンが開けられた。プシューと白いガス状のものが噴射される。


「ご主人?さ……ま……」


 ヒルダは目を回してしまった。白いガスを吸ってしまったのだ。みるみるうちにヒルダの体は元の15センチに戻ってしまった。


「ど、どうしたんだ!」

「何かあったでゲロか」


 物音に右京たちが駆けつけるとそこには目を回して気を失っているヒルダが倒れているだけであった。ヒルダの着替えが遅くてイライラしていたところで不審な物音がしたのだ。


 そして中に入るとヒルダが倒れている。しかも元のフィギュア姿のままである。どうやら気を失っているだけらしいが、揺り動かしても目を覚まさない。


「ヒルダ、起きろ。もうすぐ始まるぞ。2回戦に遅れてしまうぞ」

「ダメだよ、ダーリン。これはヒュプノスの眠り粉を使われたね」


 クロアがうっすらと床に落ちている白い粉状なものを見てそう言った。指で地面をなぞり、付いた白い粉を観察している。


「ヒュプノスの眠りって何だよ」


「妖精を眠らせるアイテムだよ。これを吸うと3日間は目が覚めないね。誰かが邪魔をするためにヒルダを襲ったようだね」


「ええっ!それじゃあ……」


 右京は思ってもいない状況になって戸惑った。この2回戦、ヒルダ抜きでは絶対に戦えない。右京の陣営に10mの深さに潜れるデモンストレーターなどもういないのである。


「不戦敗なんて許されない~っ」

「そんなことしたら、読者様に石を投げられるでゲロ」


「読者ってなんだよ」


「気にしないでゲロ……。それより、この状況を何とかするしかないでゲロ」


「今更、10m潜れて戦える人物など探せないぞ。こうなったら、キル子にオモリをたくさん付けて投げ込むしかないぞ」


「そ、それだけは勘弁してくれよ」


 キル子も自分の実力を知っているだけに強気になれない。まあ、お胸がでかくて潜れないなんて聞いたら会場のキル子ファンは悶絶死してしまうであろう。


「しょうがないでゲロ。このピンチにゲロ子が一肌脱ぐでゲロ」

「いや、お前、人肌脱ぐ前にそのカエルスーツ脱ごうぜ」


 もうヤケクソの右京だったが、ゲロ子が知り合いに頼んでみると姿を消して、代わりに現れた人物を見て驚いた。ちょっと前に見たことのある女の子だったからだ。


 緑のロング髪でこれまたエメラルドのように緑にか輝く目がクリッと大きい美少女だ。以前、ヌトヌト沼のある森で見かけたことのある少女だ。


「き、君は……あの時の……」


「ゲロ子の友達のケロティでゲ……」


「ゲ……?」

「ケロティといいます」


「ケロティさん?」


「賢くて優しく、全てにおいて素晴らしいゲロ子さんに頼まれたのでわたしがデモンストレーターを務めるでゲ……です」

 

 何だかおかしな女の子だ。聞くと泳ぎは得意で潜ることもできるらしい。何より、3分以上息をしなくても動けるというのだ。少々、怪しいがゲロ子の友達というならどこかおかしくても仕方がないだろう。今は選択肢がないのだ。急遽、完璧なバルキリー、ヒルダの代わりに謎の緑髪美少女ケロティに2回戦突破をかけるしかない。


ケロティって、適当だなゲロ子よ!

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