ライバルたち
夜中の2時に更新したので間違いだらけ……。急いで9時に直す。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。また、登録までいかなくてもさくっと読んで評価してくださる方が多くいらっしゃって感謝しています。
今日一日、皆様にラッキーがありますよう祈ります。zzz…。
「おおお……」
観客のどよめきが起こった。16位の東方都市ムサシから来た武器職人タラレバが出品したポールアックスがオークの装甲に耐えられなくて折れてしまったのだ。バランスが悪かったのだろう。大型武器の割に序盤で稼げなかったのは、不具合で十分に性能を発揮できなかったせいだ。
武器が折れたデモンストレーターのソドムはベテラン戦士であったが、どうすることもできない。オークの攻撃を次々と受けてヒットポイントが0になってしまった。一人脱落である。
さらに暫定順位12位の南方都市スンプから来た戦士ランドルフのロングソードも折れてしまった。たちまち除外となる。
「この勝負は耐久力が問われるんだ。過酷な使用に耐えられない武器は退場させられる」
「そうでゲロ、キル子、ここから加速するでゲロ」
右京とゲロ子の期待に応えるキル子。既に5体のオークを倒したキル子だが、6体目に取り掛かる。ショートソードをソードブレイカーで受け止めるとそれを右へ受け流す。バランスを崩して前のめりになったオークの首裏の隙間をポニャード・ダガーで突き刺す。急所への一撃はクリティカルヒット。オークは粉々になる。さらに左から斬りかかってきたオークを体の右回転でかわすと背後を取って同じ箇所にダガーの一撃を叩き込む。
「やるわね。霧子ちゃん……でも、今回は私も負けないわよ」
瑠子は高速の突きでオークに攻撃を繰り返す。鎖帷子や革鎧で武装したオークもレイピアの突きに耐えられず、次々と倒れていく。瑠子は鎧の継ぎ目や隙間を狙って攻撃をするが、それでもレイピアへのダメージは蓄積される。そうなるとステップを使って時間を稼ぐ。レイピアにはエド特性の自動修復コーティングが塗布されているのだ。
「これで最後だ!」
ボアスピアを操るドノンは最後のオークへのとどめを差して息を整えた。ドノンは都の隣に位置する港町カガから来た。新進の武器デザイナーである妹ノノンのデモンストレーターとして出場した27歳の青年である。今回、妹が作ったボアスピアは突き刺すだけでなく、穂先の重みで打撃を与えることもできる槍である。
ここまで順調にポイントを稼いできたが、もう刃先はボロボロで柄のダメージも相当なものであった。突き刺すとオークも苦し紛れに柄に向かって剣を当ててくるものだから、強化した柄でも限界が近づいていたのだ。
オークが全滅したので、さらのホブゴブリン100体が投入される。ドノンはこれまでだと思った。ボアスピアを握って仁王立ちする。ホブゴブリンはゴブリンの上位種で大型である。体が大きいから装備も重装備だ。それらがどっとデモンストレーターたちに襲いかかる。
「お兄ちゃん!」
ノノンは思わず目をつむった。自信をもって出品したボアスピアであったが、予想を上回る消耗をしてしまい、ついに兄のヒットポイントは0になってしまい脱落が決定した。
「ああっと……。ここで暫定7位のドノン選手も脱落。この戦いのルール。勝負はモンスターを倒したポイント数で決まりますが、それも自分が生き残った場合です。ヒットポイントが0になれば、そこで失格となります。既に3人が脱落です」
虎のお姉さんが解説する。戦いは後半戦だ。徐々に大型武器を使うデモンストレーターも疲れがみえてきた。無理もない。重い武器を長時間振り回すことは、体力を大きく消耗させるのだ。腕が上がらなくなってくると敵の攻撃を受けて、ヒットポイントが徐々に削られていくのだ。
そんな中でも最初から攻撃力が変わらない者もいる。まずは東方の島から来たという越四郎という男。彼はカタナという独特な武器を作る職人で自らもデモンストレーターとして出場している。彼の持つカナタ『鬼切丸』はホブゴブリンを盾や鎧ごと一閃する。1体ずつ確実に葬っていた。
さらに素材の魔術師と呼ばれるエリーゼは、若き考古学者で大商人のお嬢様。彼女専用の執事ダミアンに持たせた武器は『竜の爪』。ドラゴンの爪を加工した格闘専用のガントレットで、爪の威力でホブゴブリンを次々と倒していく。ドラゴンの爪は修復力が備わっていて、蓄積するダメージを回復していくのである。
クルーゼは都に住む青年貴族。武器のコレクターで有名な男であった。古今東西、いろんな武器を集めている青年で今回はそのコレクションを披露するために出場した。出品した武器は『ハルベルト』。ハルベルトは長さ2m、重さ3キログラムにもなる重武器である。槍のような形状をしているが、刃先に特徴のある武器で先端は鋭くなっていて、突くことができ、そのした部分は斧のような形状をもっていた。
さらにその反対側は尖った刃を備えていて、3箇所に攻撃できる部分をもっているのだ。クルーゼは前半のゴブリン、コボルトは斧でなぎ払い、オークに対してはその反対側をつかって殴りつけ、今は先端部分を槍として使っていたのだ。これによって武器の消耗に対応していた。
「ふう……。これだけ数が多いといくらハルベルトでも消耗してしまうよ。もってくるコレクション間違えたかなあ」
クルーゼはホブゴブリンを何とか退けて、最後のリザードマン戦は生き残ることに専念しないといけないと感じていた。武器が持たないし、自分も腕が疲れてもうハルベルトを振り回せないのだ。
「どうやら、僕たちを含めて8人は決まりそうですね」
そう右京に話しかけてくる子供がいる。あのネイに薬を塗ってくれた薬師のロンだ。彼はククリと呼ばれるネパールのグルカ族固有の武器である。形状は45センチほどの長さで重さは600グラム程度。刃は湾曲していてジャングルで草木をなぎ払って進む時に重宝する短刀である。
短刀ではあるが、重みが刃の先端に来るように設計されており、筋力がなくても重さで破壊力がでるようになっていた。現にロンのデモンストレーターは女性のようだが、この後半戦でも疲れた様子がない。
「ああ、君かロン。君も大健闘だな」
右京はロンの武器を持つササユリという名の女戦士を見る。黒装束で身軽な出で立ち。女戦士というより、女忍者である。
「姉さんは強いですよ」
「君の姉さんなのか?」
「ええ。血は繋がってないですけどね」
ササユリが攻撃するとかすった感じでもホブゴブリンがバタバタと倒れていく。これは武器や使用者の攻撃力以上のものがありそうだ。
「毒でゲロな」
ゲロに指摘されてロンは頷いた。剣先にジキニン草から抽出した心臓麻痺の毒薬を塗ってあるのだ。それは鞘に仕込まれていて、ククリを鞘に収納する度に毒が仕込まれるのだ。
「さあ、最終段階ですよ」
ロンがそう言うと同時に最後のホブゴブリンがキル子に倒された。最後の敵、リザードマン100体が現れる。高い戦闘力に固い皮膚を持つ強敵である。生き残ったデモンストレーターたちは最後の力を振り絞る。
「マイケルよ。顔が白いぞ。魔力の枯渇で終わりのようだな」
メタルマスターのミハエルは息を整えながら、隣にいる風の剣をもつマイケルムーアにそう話した。魔法剣でここまで戦ってきたマイケルムーアも、さすがに触媒たる自分の魔力が枯渇していて、『かまいたち』の発動がホブゴブリン戦の半ばあたりで難しくなっていた。シルフソードは魔法が使えねばただのロングソードとなる。
「ふふ……。ミハエル殿の武器はまだ耐えられそうですね。ですが、1位の座は渡しませんよ」
「わしの武器は特性の合金でできている。最後まで性能は落ないさ」
「いやいや、ミハエル殿。年には勝てないですよ。腕が下がっています。そのウォーハンマー、重量が重いですからね。気をつけてくださいよ。除外されたらこの先の戦いが面白くなくなる」
「余裕だな。だが、我々のどちらが倒れても戦いは楽しめそうだぞ」
そうミカエルは生き残ったデモンストレーターたちを見る。工夫を凝らした武器でここまで生き残っているだけでなく、自分たちを猛追しているのだ。
「そうですね。ですが、ここは前回1、2位の我々の意地の見せ所ですよ」
ウガアアアアア……。
襲いかかってくるリザードマンたちを迎え撃つ。
「あああっと! 最後のリザードマンが倒されました。これで1回戦終了です」
虎娘が終了を告げた。観客も大興奮のデュエリスト・エクスカリバー杯1回戦の終わりである。
「どうやら、あなたのダーリン、生き残ったみたいだけど、これはお楽しみはとっておけということなのかしら」
ステファニー王女はそうVIP席から立ち上がった。クロアがにやりを笑って、その後ろ姿を見送る。
「2回戦も王女のお楽しみになるようにダーリンに言っておくわ」
「ちっ……」
バタンと扉が強く閉められた。
デュエリスト・エクスカリバー杯1回戦の結果
1位 アルフォンソ シルフソード (マイケルムーア)100ポイント
2位 ミハエル ミョルニル(ミハエル)98ポイント
3位 エリーゼ 竜の爪<ダミアン> 94ポイント
4位 エド レイピア (瑠子) 88ポイント
5位 越四郎 鬼切丸 (越四郎)84ポイント
6位 クルーゼ ハルベルト (クルーゼ)82ポイント
7位 ロン ククリ(ササユリ)80ポイント
8位 右京 ダガー(霧子)78ポイント
ここまでが2回戦進出
9位 クエス ポールアックス(アラン)60ポイント
10位 グラーツ バトルアックス(ゲイハルト)58ポイント
11位 スルート ウォーハンマー(エッツエンバッハ)46ポイント
12位 ベンジャミン バトルアックス(エバ)32ポイント
失格 タラレバ ポールアックス(ソドム)
失格 ランドルフ ロングソード(ランドルフ)
失格 ノノン ボアスピア(ドノン)
失格 ブルーノ モール(ブルーノ)
「ギリギリで通過したでゲロ」
「作戦はよかったが、短剣では効率が悪かったかな。これは反省点だ。キル子をちゃんと労ってやらないとな」
8位抜けとはいえ、初出場で1回戦突破することができた。これは大半の予想を覆す結果であった。翌日の新聞に伊勢崎ウェポンディーラーズの名前がデカデカと載るに違いない。




