ゴブリン100、コボルト100
「舞い散れ! かまいたち」
魔法剣を手にしたパラディンのマイケル・ムーアは、ゴブリンたちを一閃する。剣先が触れていないのに凄まじい突風でゴブリン戦士が鎧ごと真っ二つになる。その数5体。バタバタと倒れるゴブリン。
「これは素晴らしいです。エンチャンターのアルフォンソ氏が出品する『風の剣 シルフソード。振るだけで風魔法『エアカッター』を発動します』
虎娘スタイルのお姉さんが解説する。デモンストレーターのマイケル・ムーアは都の王国騎士団に務めるパラディン(聖騎士)であり、32歳のイケてる男で甘いマスクと華麗なる剣技で女性ファンが多かった。5体のゴブリンを倒し、さらに襲いかかる3体をまとめて葬ると大歓声が上がる。
シルフソードは通常のロングソードに風系の魔法を付与した魔法剣であった。使い手の魔力を引き出し、『エアカッター』の魔法を発動する。エアカッターは真空波で対象物を切り刻む魔法である。ゴブリンの身につける粗末な革鎧や革の盾など問題なく破壊する。
「さすが、マイケル・ムーアのおじさま。相変わらずダンディで素敵ですこと」
観戦している王女ステファニーはそう言ってうっとりしている。どうやら、この腹黒お姫様はこの聖騎士のファンのようだ。
「ステファニー、お前、趣味が悪いぞ」
「あらあ、あんな冴えない男に入れ込む方が趣味が悪いですけど」
「ふん。ダーリンの魅力に気がつかないとは、やっぱり王女は目が悪いよ」
さらに『メタルマスター』の称号をもつミハエルが振り回すウォーハンマーに10体ものゴブリンが吹き飛ばされる。壁に激突して一挙にHPが0になり、ガラスの如く、粉々に砕け散る。ミハイルは武器職人であるとともに、自らも武器を使う戦士でもあるのだ。
「予想はしていたが、メタルマスターと同じように大型の強力な武器が多いな。バトルアクスにポールアックスまである」
ディエゴは1回戦の16人のデモンストレーターの所持する武器を分析していた。魔法剣はともかく、威力の高い武器で一気になぎ払うことに活路を見出した陣営は全部で10チームあった。どのデモンストレーターも武器の威力を生かして複数のゴブリンを倒している。
「会長、ですがやはりメタルマスターはよく考えていますよ。ウォーハンマーなら斬れ味は関係ありません。最後まで打撃で押すつもりなんでしょうね」
エドがそう腕組みをしたが、表情に焦りはない。彼が出品したレイピアは都でも人気のデモンストレーター、瑠子・クラリーネが使っている。華麗な剣さばきでゴブリンを倒していくが、基本は1対1の決闘用の武器だ。ゴブリンの鎧の隙間を狙って一撃で倒すとは言え、短時間で数をこなす武器ではない。現在のところ、やっと3体を倒したところだ。
だが、これは右京にも言えた。彼が出品した2つの短剣、『ポニャード・ダガー』と『ソードブレイカー』は一撃必殺の武器だ。まずが左手のソードブレイカーでゴブリンの剣擊を受け流す。場合によっては受け止めて、ひねることで剣身を折る。ゴブリンの持つ粗末なショートソードはキル子の技で簡単に折れた。体制を崩したゴブリンの首の急所目掛けてポニャード・ダガーを突き立てれば、それだけでHPは0になって消滅する。
「そりゃ!」
キル子の目に止まらない攻撃にゴブリンが次々と消え去る。接近戦であるから、リアルバトルなら返り血をしこたま浴びて、それこそ血まみれになっていただろう。『断罪レディ』の名にふさわしい光景となっただろうが、これはあくまでもVDそんな凄惨な光景にはならなかった。それだから、4万もの観客がスポーツ感覚で観戦できるのであるが。
キル子がやっと4体目を倒した時にゴブリン軍団が全滅した。16人のデモンストレーターで100体のゴブリンを殲滅するのにかかった時間はわずか10分。それだけ、武器の性能とデモンストレーターの力量が素晴らしいということである。
さらに今度は100体のコボルトが投入される。コボルトは犬の頭をした邪妖精である。ゴブリンと同じく人間よりも小さいので雑魚モンスターの代表格だ。だが、100もいると普通は驚異である。だが、この全国より選抜された16人の前では問題なかった。ゴブリンと同様に次々と倒れていくコボルト。殲滅にかかった時間はわずか12分であった。
「さあ、100体のゴブリン、コボルトがわずか22分で殲滅されました。これはすごいです。ここまでの成績を確認しましょう。まずはエントリーナンバー1のアルフォンソさんの出品したシルフソード。実に28体を葬りました。続くはエントリーナンバー2のミハエルさん。自ら使うウォーハンマー『ミョルニル』で倒した数は26体」
この1回戦は倒した敵のポイントで決まる。できるだけ数を倒した方が基本勝ちであるが、倒したモンスターのポイントはあとに出てくる強敵ほど高く設定されている。現在のポイントは次のとおりである。
1位 アルフォンソ シルフソード (マイケルムーア)28ポイント
2位 ミハエル ミョルニル(ミハエル)26ポイント
3位 クエス ポールアックス(アラン)20ポイント
4位 グラーツ バトルアックス(ゲイハルト)18ポイント
5位 スルート ウォーハンマー(エッツエンバッハ)15ポイント
6位 ベンジャミン バトルアックス(エバ)13ポイント
7位 ノノン ボアスピア(ドノン) 11ポイント
8位 エリーゼ 竜の爪<ダミアン> 10ポイント
9位 クルーゼ ハルベルト (クルーゼ)10ポイント
10位 越四郎 鬼切丸 (越四郎)9ポイント
11位 エド レイピア (瑠子) 8ポイント
12位 ランドルフ ロングソード(ランドルフ) 8ポイント
13位 ブルーノ モール(ブルーノ)7ポイント
14位 右京 ダガー(霧子)6ポイント
15位 ロン ククリ(ササユリ)6ポイント
16位 タラレバ ポールアックス(ソドム)5ポイント
「主様、14位でゲロ。ショボイでゲロ」
「ここからだ、ゲロ子」
次の相手はオークである。豚の頭をした亜人種で獰猛で巨漢である。戦闘力は人間以上となる。よってポイントは2倍である。それにキル子がサボっていたわけでない。22分で6体の敵を倒したのは予定通りである。上位陣の大型武器が短時間でなぎ払ったので、敵がいなくなっただけで武器が消耗したわけではない。
「中位から下位チームは元々、長期戦に備えるコンセプトで戦っているのだ。上位陣の大型武器が薙ぎ払えなくなる中盤から順位は変わってくるよ」
そうクロアはステファニー王女に言った。ステファニーは執事に注がせた紅茶を飲みながら、次の戦いに挑むデモンストレーターたちの姿を眺めている。
「あら、そうかしら。このままの順位でいきそうだけど」
「お前、主催者なのにこの1回戦の恐ろしさが分かっていないようだな」
「恐ろしさ?」
無理もない。ステファニー王女は大会主催者だが名誉職みたいなもので、大会ルールは運営委員会が決めている。ステファニー王女は報告を聞いて「そうしてください」とお決まりのセリフを言うだけなのだ。




