表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第8話 忘却の大剣(魔剣アシュケロン)
92/320

薬師ロン

 1回戦が行われる朝が来た。昨晩ギリギリまでカイルが調整した2本の短剣がテーブルに置かれている。それは窓から差し込む朝日を浴びて輝き、赤いテーブルクロスに映える。


 1本は『ポニャードダガー』と呼ばれる刺突専用の短剣。30センチの長さで先端は雫型をしていて、カイルによって念入りに強化されていた。これは右で持って敵にトドメを差すものだ。もう一本は『ソードブレイカー』刃の背が規則正しくくり抜かれ、ここで敵の剣を絡め取る。受け止めてひねれば、弱い作りの剣は折れてしまうだろう。これも30センチ弱の長さである。左手で持って敵の攻撃を防いだり、受け流したりするのだ。

 

 二刀流で戦うことになったキル子であったが、もう心はウキウキしていた。右京が自分のために用意してくれた武器なのだ。両方の短剣を握るとまさに自分のために作られたかのように手に馴染んだ。頭からつま先まで電気が走る。パワーが充電されるような気分になる。


「キル子さん、頑張ってくださいね」


 ホーリーがそうキル子に声をかける。キル子は無言で頷いた。聞けばホーリーのおかげで左手のソードブレイカーが手に入ったそうだ。次に右京の役に立つのは自分だとキル子は心に決めていた。上半身は革製のブレストプレート。下半身はいつものホットパンツ。今日は革製でいつもよりもタイトである。キル子の大きなお尻にピチピチと張り付いている。足には膝まである革製のブーツでかかとはピンヒールのような形状。かなりセクシーな出で立ちだが、キル子の戦闘服は大抵こんな感じだ。


「ご主人様。大会が始まるのは9時です。出場者はダンジョン格闘場の特設ステージで霧子様たちの戦いの様子を見るそうです。観客は4万人が収容できる客席で観戦できるそうですよ」


 ヒルダが手帳を開いて主催者から示された情報を知らせる。デュエリスト・エクスカリバー杯は武器を持ったデモンストレーターが設置されたダンジョンに入り、戦うという方式を取っていた。今日は地下1階と2階で行われる予定であった。戦いの様子は魔法で投影されるモニターで見ることができ、気分はサッカーの観戦と同じであった。


「よし、そろそろ行くぞ」

「行くでゲロ」


 ホテルに用意された馬車で闘技場へと向かう。伊勢崎ウェポンディーラーズはキル子、ホーリー、ネイ、クロア、カイルにピルト、それに使い魔2人だ。7人乗りの大型馬車である。


 ホテル『グレイモント』の位置は闘技場から馬車でわずか15分だ。西の郊外から通うエドたちのチームは1時間はかかるから、立地条件で恵まれていると言える。1時間前に到着した右京たちだが、もう観客が列をなして押しかけており、会場は人々でごったがえしていた。馬車を降りた右京たちだが、あまりの人ごみに体の小さなネイが突き飛ばされてしまう。


「だ、大丈夫か、ネイ」

「いたたた……急に突き飛ばされてしまったのじゃ」


 見ると膝に結構な擦り傷を作っている。運が悪いことに地面に尖った石があったようで、結構な血が流れている。


「これだから、おこちゃまは困るでゲロ」


 めんどくさそうにゲロ子が鼻をほじる。大会運営の救護所がないか右京たちがキョロキョロしていると、マントを頭からすっぽりかぶった人物が寄ってきた。


「お困りのようですね」


 ずいぶん小さい姿のその人物は顔を見せた。目がクリクリした少年である。顔つきを見ると10代だろう。不思議な藍色の髪をしている。


「僕は薬を持っています」


 少年はそう言うと肩から斜めがけにかけたカバンから、布を取り出すとまずネイの足に当てて止血をする。そしてさらに小さな丸い缶の蓋を開ける。そこには緑色した軟膏が入っている。それをたっぷりと新しい布に塗るとネイの足にそれを貼り付けた。そして包帯でぐるぐると縛る。子供にしては手慣れた感じである。


「ふう。これでいいよ」

「ありがとうじゃ」


「ありがとう。俺は伊勢崎右京。ケガをしていたのはハーフエルフのネイ」


 右京はそう自己紹介をする。順番にキル子、ホーリーと紹介していく。クロアは馬車を降りてから呼ばれているからとVIP席の方へ向かったのでここにはいない。


「僕はロンって言います。薬師をしています」

「薬師?」


 薬剤師ということかなと右京は思った。薬剤師なら薬をもっていてもおかしくはないのだが、ロンはどう見ても12、3歳の子供である。ネイよりも年下ぽい。薬師という職業は子供でもできるのだろうか。


「中古武器の買取り屋の右京さんですよね」


 そうロンと名乗る少年は言った。どうやら、右京のことを知っているらしい。肩掛けカバンに薬をしまうと右手を差し出した。


「今日の戦い、頑張りましょう」


 なんだかよくわからない右京は思わず、手を差し出して握手をしたが、ロンが去ってやっと彼がこの大会に出場するのだと気がついた。


「あのロンという少年、カバンにジギニン草を入れていました」


 ホーリーがポツンとロンが去った方向を見つめてつぶやいた。彼女は神官を務める傍ら、薬酒の製造販売をしており、多少の薬草の知識があった。


「ジギニン草ってなんだ?」

「毒草でゲロ」

「毒草だって?」


「はい、ご主人様。ジギニン草は心臓病の薬にもなるのですが、単独で使えば一瞬で心臓の動きを止める急性麻痺を引き起こす毒にもなる薬です」


 そうヒルダが補足説明する。彼女はゲロ子よりも詳しく検索する『専門辞書』にアクセスできるのだ。だが、ヒルダ、急に(はあはあ……)しだした。


「毒薬といえば、薬草を調合して惚れ薬なんてできないかしら……。そうしたら、ご主人様に飲ませて、もうわたくししか見えないようにできるのに……いえいえ、それよりも快感が10倍になる毒薬を使ってご主人様に飲ませれば、狼になったご主人様がわたくしを押し倒して……ああん……どうしましょう。そんな激しくされたら、わたくし、ご主人様の奴隷になってしまいますううう」


「おい、ゲロ子」

「わかってるでゲロ」


「はれええええっ……何をするのですうう~っ」


 イケナイ妄想中のヒルダにゲロ子はビニール袋を頭から被せる。そして袋の口をきつく縛る。それを引きずってごみ箱へ投入する。以上7秒間。やっと静かになった。


「彼は出場者で毒を使うということか」

「そうでゲロ」


 優勝候補と言われた選手たちの他にもいろんなタイプの選手がいるようだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「クローディア、ご機嫌よう」

「ふん、朝なのにご機嫌ようとはな。王女は呑気なもんだ」


 クロアは主催者専用のVIPルームの特等席に座る従姉妹の王女を不快そうに見た。そもそもクロアはバンパイア。夜行性なので朝は眠くて機嫌が悪いのだ。右京の血でも飲めばパワー全開だが、契約もないのに飲むわけにはいかないだろう。


「あらあ、クローディアも王位継承権は5位の王女じゃない。バーゼル家は王族の一員よ」


「クロアには関係ないよ」

「関係ないと言っても、周りはそうは思わないわよ。それに彼らと一緒にいなくて、ここへ来たのは特権じゃなくて」


「クロアは特権を行使したいわけじゃないよ」


「じゃあ、どうして? 私としては1回戦で負けて悔しがるクローディアの顔が直に見えるからうれしいのだけど」


 そう言ってステファニー王女は豪華な扇を開くと口元を隠してクスクスと笑う。美人なのに性格悪いのが残念だ。だが、性格悪いのはクロアも負けてはいない。


「ここへ来た訳はただ一つだよ」

「何よ?」


「あなたの悔しがる顔が直に見られるからよ」


 そう言ってクロアも扇を開いてステファニーと同じように笑った。ステファニーの顔から笑顔が消える。クロアは小さい頃から虚勢をはるような性格ではない。どちらかといえば、計算高く、緻密なのだ。中古の武器屋風情に1回戦突破は絶対無理だと思っていたが、それを覆すものが何かありそうなのだ。


(それはそれで面白いわ……。どれだけ、あなたのダーリンとやらが頑張るか見ものだわ)


 ステファニーは会場へ視線を移した。16人のデモンストレーターの準備が整い、いよいよ、1階へと降りていく。戦いの開始である。


 今回の戦いの場に設定されたダンジョン1階は狭い通路を20mばかり抜けると急に広い場所へ出る。そこはサッカーコートが2面はとれるフラットな場所であった。広い場所であるのだが、今は誰もが狭く感じていた。なぜなら、そこには完全武装したゴブリンが100体待機していたのだ。


「さあ、デュエリスト・エクスカリバー杯1回戦の開始です」


 ダンジョンの様子を映し出す大型のスクリーンの前で女性アナウンサーが解説をする。イヅモの町ではバニーガールのお姉さんであったが、この都ではなぜか、トラ柄のビキニを身につけた虎娘スタイルである。


「1回戦はゴブリンを始めとする大群と戦います。最後まで戦闘力を失わないで生き残ることはできるでしょうか。各チームの武器はどんなものでしょうか。いよいよ、戦いの火蓋が切って落とされます」


 キル子は両腕につけられた革製の鞘から短剣を抜く。他の出場者も同様にこの日のために用意した武器を取り出す。16人でまずはゴブリンどもを殲滅するのだ。


「行くぞ~っ。うおおおおおおっ……」


 16人は一斉に駆け出した。迎え撃つゴブリン軍団も抜刀する。激しい戦いの始まりである。



「もごもご……ああん……やっと出られた~」


 ゲロ子にビニール袋に入れられ、縛られてゴミ箱に捨てられたヒルダがやっと抜け出した。もう1回戦が始まり、観客は会場に入っている。ポツンと置かれたゴミ箱からゴミを集めているおばちゃんと目があった。


「あれまあ……ちっこい生き物だっぺ。お前、ゴミ箱に入って遊んじゃいけないっぺ」


「ああん……。ひ、ひどいですうううっ。ごしゅじんさまあああっ~っ。前回と同じじゃないですかああああああっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ