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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第8話 忘却の大剣(魔剣アシュケロン)
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二刀流

 WDウェポンデュエルは元々、戦士がヴァーチャルモンスターと戦うVDヴァーチャルデュエルの一種で、武器の宣伝目的で行うものだ。よって、売り物の武器を限界まで使い倒したり、傷つけたりすることまではしない。そんな傷んだ武器は誰も買わないであろう。そのため、通常はモンスターの防御力を落として、武器へのダメージをなくすのが一般的だ。

 

 ところが、今回の大会ルールはモンスターの防御力はリアルと同じであった。攻撃力だけは操作してあるので、戦闘に参加する者へのダメージは死ぬほどまではいかないが、武器へのダメージは相当なものだ。これは武器そのものを売るというより、武器を提供した武器屋のブランドを高めるというものだ。

 

 例えるなら、車のディーラーで試乗して買うのが通常のWDなら、今回の場合はF1。市販されていない車で最高速を競い、そのメーカーのポテンシャルを広く宣伝する。客はそのブランドイメージに魅せられて、そのメーカーの車を買うのだ。今回はそれに近いものがある。


「右京、1回戦は数が勝負だ。一撃で多数を倒せる威力のある武器を使おう」


 そうキル子が発言した。いよいよ、自分の出番だとウキウキしている。今日も朝からショートパンツにへそ出しルックで健康的な体を躍動させている。今は開始式のレセプションから帰ってきた翌日の作戦会議である。参加者は右京にキル子にカイル。クロアにネイ、ヒルダにゲロ子である。ホーリーは朝から神殿の研修に出向いているからこの場にはいない。


「ご主人様、威力のある武器なら、バトルアックスやポールアックス、ハルベルトなどの大型武器になります。霧子さんはパワー系の戦いも得意ですから、ゴブリンを10匹単位でなぎ払うことも可能です」


 ヒルダがそう進言する。右京とくっつくラブラブ妄想をしないで秘書業務さえやっていれば、この使い魔は優秀なのだ。(ちっ……でゲロ)という言葉は無視しておこう。


「う~ん。通常考えればそうなるだろうね」

「右京さんには何か考えがあるようじゃのう」


 ネイがつまらなさそうにテーブルの上のミルクを飲み干して右京の顔を見た。おこちゃまハーフエルフは昨晩、はしゃぎすぎて今も眠いのだ。眠い顔で観察する右京の顔はとっくに方針は決まっていて、こんな作戦会議をするまでもないというような表情だ。余計、眠くなるネイ。コクリコクリと船を漕ぎ始めたネイを無視して、右京はキル子に話を振る。


「キル子、1回戦のテーマは『耐久力』とあっただろう?」

「ああ、そうだが」


 ヒルダが小さな手帳をパラパラめくって説明する。昨晩の大会主催者が発表したルールを丁寧に書き留めていたのだ。


「ご主人様。大会主催者によりますと、最初はゴブリン100匹。次にコボルト100匹。それを倒すとオーク100匹、ホブゴブリン100匹、最後はリザードマン100匹と対戦することになっています」


「ゲロゲロ……よく考えるとこれはかなり過酷でゲロ」

「確かに……」


 キル子は小さくため息をついた。実際に戦うのはキル子だ。女戦士として冷静に考えれば、これはかなりの苦戦を強いられる戦いだ。順番に100ずつ出てくるとは言え、500匹の武装した敵と戦うのだ。出場者16人で戦うので、平均31匹を倒せばよいのだが、勝つためにはそれ以上の敵にダメージを与えられる武器が必要だ。

 

 斬るという行為で武器には血糊が付く。それで斬れ味は確実に落ちる。さらに刃先はデリケートでそのままにしておくと、サビてきてしまう。500匹を倒す間にどんどんと劣化していくのだ。さらにゴブリンたちは丸裸で現れるわけではない。それなりに武装をしている。革鎧や鎖帷子、鎧で防御していたら、さらに武器の攻撃力は失われるのである。


「右京。革鎧でも10も斬れば、武器は痛む。適度なメンテナンスをしないと500もの敵を相手にはできないぞ」


 カイルは鍛冶職人としての意見を言う。どんなに性能を上げても使えば劣化することは避けられないだろう。ルールで武器は1つだけと決められている。最初に登録した武器だけを最後まで使うのだ。じっくりと考えていたキル子がポンと手を叩いた。


「右京、それなら打撃系の武器だろう。前にホーリーが使ったメイスとか、ウォーハンマーなんかもいいな。あたしなら大丈夫。打撃系の武器も得意だ」


「さすが、色黒ホルスタイン。パワーだけはあるわね」


 ぼそっとクロアが悪口を言うが幸い、キル子の耳には届いていなかったようだ。クロアも朝が弱い。元々、バンパイアのクロアは寝ないのだが、右京の血を吸ってから安眠できるようになっていた。寝るのは日が昇る昼間だ。右京は静かにキル子の提案に首を振る。


「キル子、俺は耐久力と言ったぞ」

「だから、武器の耐久力だろ?」


「違うよ。もちろん、それもあるけど、忘れちゃならないのは使用者の耐久力」


「なるほどでゲロ。そんな重い武器を500匹倒すまで振り回すことはできないでゲロ」


「右京……あたしのこと心配してくれるのか……」


 キル子の顔が火照ってきた。右京はキル子の耐久力を心配してくれているのだ。そう考えるとハートがキュンキュンしてしまうのを抑えられない。そうなると、いつもの妄想が展開される。


 無数のピンクの花びらが舞い散る中、見つめ合うキル子と右京。


「俺の可愛いキル子にそんな過酷なことをさせられないよ」

「右京……。あたしは大丈夫だ。お前のためにがんばるよ」


 右京がそっとキル子の背後から抱きしめる。腕を上げて手を頭の後ろへ付け、肩ごしに右京を見るキル子。甘い吐息が鼻腔をくすぐるくらいお互いが接近している。


「ダメだよ。頑張るのはここじゃないよ、キル子」

「こ、ここじゃないって……右京、こ、こわい……」


「大丈夫。俺に身を任せて、頑張るのはベッドの上だよ」

「ああん……。ダメえええ、右京っううう……」



「先輩、これが前言っていた霧子様のエロ妄想ですか?」


「そうでゲロ。妄想中は顔を真っ赤にして、白い煙がおつむから上がっているから分かりやすいでゲロ。未経験ビッチだから妄想が余計過激でゲロ」


「はあ……はあ……」


 ヒルダがまた両腕で体をぎゅっと抑える。顔が真っ赤になって目がとろんとしている。ブツブツと何やら唱えている。


「スキスキ大好き、ご主人様……」

「ヒルダ、どうしたでゲロか?」


「なんだか、わたくしみたいです。わたしなんか、10秒に5回はご主人さまのことを考えて、5歩歩くとご主人様のことを思い浮かべ……」


「ヒルダ、それ以上告白すると、また箱に閉じ込めるでゲロ。それより、そろそろ、キル子を現実に戻してやるでゲロ」

 

 ゲロ子はぴょんと跳ぶと、水の入ったコップをキル子の頭の上でひっくり返した。冷たい水を浴びて現実に戻るキル子。右京は無視して結論を述べる。


「今回、俺が用意する武器はこれさ……」


 取り出したのはダガー。右京が手にしたのはポニャード・ダガーと呼ばれるものだ。ポニャードとはフランス語で匕首を意味するポワニャールから来ていると言われ、元々はレイピアとセットで持つ武器だ。長さは30センチ程度。等身は1センチもなく、斬るのではなく刺すための武器だ。実践ではレイピアで相手の武器と相対し、左手でこの武器を操って敵を刺し殺すのだ。そのため、利き腕の腰に装備されてチャンスと見ればそれを抜いて攻撃するようになっていたのだ。


 このポニャード・ダガーは都に来た初日に売りに来た冒険者から買い取ったものであった。小さいながらも作りがしっかりしており、銘はないが、名のある工房で作られたのではないかと思うものであった。ダンジョンで見つけた宝箱にあったらしく、年代物であった。なかなかよいものであったが、こんな小さな武器は冒険者としては使いにくく、高い値段で売れるなら売ってしまえということであった。右京はこれを300Gで買い取っていた。


「さすが、ダーリン。そういう方向で行くとはクロアも思わなかったよ。だから、クロアはダーリンのことが好きなの」


 右京の考えを理解したクロアは、そう言って右京の腕を取りスリスリと体を寄せた。右京の考えは一撃必殺の考えだ。つまり、接近戦で防具の隙間から短剣で急所を刺して倒すという作戦なのだ。これなら防具によって武器は痛まない。キル子の技術なら瞬時に急所を狙って敵を絶命させることは可能だ。


「なんだか、地味だな」


 キル子はちょっとつまらなそうだ。圧倒的なパワーと強力な武器でなぎ払う攻撃しか考えていなかったので、一撃で倒していく必殺仕事人みたいな方法を地味と感じたのだ。


「だけど、この勝負は後半が鍵だよ。その作戦なら後半も攻撃力が落ちずに敵を殲滅できる。それにダーリンはこれだけじゃないでしょ」


 クロアの後半勝負というのは、倒すモンスターによってポイントが違うのだ。当然、後半に出てくる敵の方がポイントが高い。ゴブリン、コボルトが1点。オークが2点。ホブゴブリンが3点で最後のリザードマンは5点だ。そうなると前半はサボって後半勝負するチームもあるから、最低5体以上は倒さないと減点されるルールになっていた。


「そうだよ。武器は一つと決められているけど、同時に使うなら1セットとして認められるって確認した。キル子には左手にこのポニャード・ダガー。右手にも短剣をもってもらう。つまり、二刀流というわけ。それなら派手だろう」


「なるほど」


 両手に一撃必殺の短剣を持つ美しき女戦士。これは絵になる。大会でも人気が出そうだ。だが、もう一本の武器はまだ手に入れていない。1回戦開始まであと1週間だ。キル子が両手に持って、敵の急所を一撃で刺す攻撃を可能とする短剣を買い取らないといけないのだ。



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