勇者と商談ガチ勝負!
うっかり寝て昨晩、投稿しなかった!
おかげでPV激減w
今回のお話は何故か人気がある「値切りの勇者」オーリスとのガチ勝負。
「右京君、盾が完成したそうだな」
「はい。オーリスさん。素晴らしい出来です。これならアシッドウォールを突破できるでしょう。全部で4枚用意しました。オーリスさんとグラムさんで左右、前、上を覆って前進すれば攻撃を全て防ぐことができます。また、表皮の下には衝撃緩和剤としてスライムの革が3ミリ貼ってあります。多少の打撃も吸収できるでしょう」
「素晴らしいな……で、値段はいくらだ?」
(主様、来たでゲロな)
(ああ。ここから勝負だ)
勇者オーリスは勇者として能力も強力だが、『値切り』能力もなかなかのものだ。勇者だからと言って大人買いをしてくれる男ではない。右京にとってはこの盾を完成させるまでも大変であったが、ここからの商談も気が抜けないのである。それがこの勇者との商談、1Gでも安く買おうとする勇者を商人として討ち果たせるかのガチ勝負である。
今回の値段も右京の言い値だ。勇者に対して圧倒的に有利である。何しろ、クエストの進展を左右するアイテムなのだ。勇者は買うしかないという状況だ。でも、気は抜けない。それほど、オーリスは手強いのだ。
今回の楯にかかった経費は安い。スクトゥムは軍の廃棄品をギルド経由で回してもらったから、ほぼ手数料のみ。1つ3Gである。だが、革の加工の手間賃は結構する。隙間がないようにきれいに加工するのは難しいのだ。カイルに施工してもらったが、1つにつき300G支払った。4つで1200Gである。さらにレインボースライムの革にかかった経費とキル子やホーリー、ネイへの謝礼はいくら友達でも多少はいる。
合計すると1つ1500Gももらえば、十分採算は取れるが、これは唯一無二の防具である。できるだけ高い値段で売りたいところだ。
「どうでしょう。これは現在のところ、プラント119のエリアを突破できる唯一のアイテム。全冒険者の憧れのアイテムです」
「うむ。それは分かっている。いくらだ?」
「1つ8000G」
(さすが主様。今回はがめったでゲロ)
右京も商人としてのレベルは上がっている。以前、この勇者に『斬鉄剣』を売った時には弱気であったがクロアやゲロ子のアドバイスで高額で売り抜けることができた。その経験を活かしたのだ。
それにしても8000Gはふっかけた。スタートしての数字だが、ありえないと思わせる一歩手前のギリギリの数字である。この世界の8000Gは、現代日本の価値で400万円に相当する。
これはかなり勇者の心をえぐる。戦いで言えば、いきなりのクリティカルヒットだ。この先制攻撃に、さすがに勇者の顔が曇る。この戦い、かなりの苦戦が予想されると感じたのだ。1つ8000Gということは、4つで3万2千Gとなる。日本円で1600万円だ。相当高い輸入車が買える。
だが、女魔法使いは早く買えといった表情だし、戦士グラムも時間がないから、さっさとゲットして地下道へ向かうぞといった顔つきだ。決して商談が成立しない値段ではない。勇者は金持ちなのだ。
だが、勇者オーリスは『値切りの勇者』である。いくらお金があってもサクッとは決めない勇者なのだ。ここから勇者の反撃が始まる。
「それはちょっと高すぎる。我々は生贄にされる哀れな娘の救出に向かう任務のためにこれを使うのだ。村は貧しく、十分なお礼はできまい。報酬は少ないのだ。そこを考慮に入れて、1つ1000Gでどうだ」
「さすがに値切りの勇者でゲロ。いきなり、8分の1の値段を差してくるでゲロ。しかも、生贄の娘を引きあいに出して、同情心を煽るとは」
勇者は強い。斬られたダメージをものともせず、強烈な返し技で右京に斬りつけてくる。『値切り』の返し技はズバッと右京にヒットする。だが、ここは右京も商人だ。戦闘では役に立たなくてもここは勇者に真っ向から立ち向かう。ガチ勝負のタイマンである。
「ご冗談を勇者様。これは作るのに相当かかりましてね。そんな値段では売れませんよ」
「では1500Gでどうだ」
「いやいや、どうでしょう。俺も村の娘さんのことが心配です。勇者様のボランティア精神に賛同して7000Gでどうでしょうか?」
「ううむ……。高い。高すぎる。では、4つではなくて1つだけ買おう。1つだけでもなんとかなるから」
これは勇者、痛いところを付いてくる。確かに危険は伴うが1つでも任務を達成できなくはない。だが、右京としてはどうしても4つセットで売りたいのだ。
ここは多少の譲歩が必要だ。最初の条件を下げて、セットで買うことを前提条件に持ってくる。ここが勝負である。
「ではどうでしょう。1つ7千G。4つ買えば2万8千のところを2万5千では」
ゲロ子も絶妙なサポートをする。なんでもなさそうにつぶやく。
「3千G(日本円で150万円)もお得でゲロ」
(ナイスだ。ゲロ子!)
「ううむ……。やはり、1つで勝負をかける方が……」
「1つではパーティ全員を守れませんよ。せっかく直した勇者様の魔法の鎧に1滴でも樹液が落ちれば穴が開きますよ。グラムさんの鎧も然り。ジャスミンさんのローブも然り」
そう言って右京は値切りの勇者の仲間に話を振る。こういう粘り強い客には同行客を引き込むパターンもまた有効なのだ。よく余分なものを買わないよう友人と一緒に買い物をするケースがあるが、友人がブレーキ役ではなく推進役に変わってしまい、逆効果になってしまうことがある。友人がその商品に魅了されてしまうか、時間がかかってメンドくさいと思うと売り側に同調してしまうのだ。今回の場合、女魔法使いのジャスミンが引っかかった。
「オーリス、4つないとみんなで攻撃できないよ。4つで囲っていけば、グラムもわたくしも進めるわよ。もう迷わないで4つ買いましょうよ」
(かかった!)
(かかったでゲロ)
内心で勝ったと思ったが、そんなことは一切表情に出さない右京とゲロ子。さりげなく、ジャスミンの発言に乗っかっていく。
「そうですよ。4つあれば万が一でも樹液はかかりません。ジャスミンさんの美しいローブが台無しになっては、村での本当に戦いに支障をきたすというものです」
畳み掛ける右京。ジャスミンは勇者パーティの唯一の女性だ。買い物では女性が主導権をもつことが多い。彼女を味方につければ、勇者オーリスも崩れ去るであろう。
「なあ、オーリス。店主の言うことも最もだ。俺たちの最終目標は村に出た大蛇だ。プラント119は雑魚に過ぎない。ジャスミンの服に1滴でも樹液が垂れてみろ。あの女、機嫌を損ねて俺たちだけに戦わせかねないぞ」
戦士グラムも結果的に右京に加担する意見を述べる。逆風にさらされる勇者オーリス。だが、オーリスも勇者だ。仲間の説得にも粘り腰で耐える。
「ではこうしよう。4つで2万G。この盾、結局は使い捨てとなる。プラント119の極悪エリアを突破するだけのアイテムだ。もうちょっと安くてもいいではないか」
「さすが値切りの勇者。粘るでゲロ」
だが、この発言で右京は勝利を確信した。彼は4つセットで買うことを宣言した。そして、当初の1500Gと言っていた基準が一気に1個辺り5000Gまで引き上がった。商談が戦いとするなら、オーリスはトドメをさされる瞬間の最後の悪あがき攻撃をしたことになる。右京は容赦なく、これを刈り取る。ほんのちょっと下げて彼のプライドを守るとともに、勝利を掴み取るのだ。
「では、こうしましょう。2万2千5百G。これで決定!」
右京が右手を出した。オーリスもここが潮時と見たのであろう手を出した。商談成立である。右京の完全勝利だ。オーリスも勇者。負けた時は潔い。
「ところで右京君。この盾の名前は何だ」
勇者オーリスがそう尋ねた。今回の冒険も勇者として人々に語り継がれることになるかもしれない。その時に役に立ったアイテムも長く語り継がれる。名前があった方がよりよいというものだ。
「そうですね……」
右京は考えた。この盾はいろいろとあったが、結局はゲロ子のおかげで手に入れた代物だ。思えば、ヒルダがやって来てゲロ子が家出をしてしまった。よくサボるし、口も悪いし、しょうもない使い魔であるが、右京がこの世界に飛ばされたときから、行動を共にしてきた相棒だ。今回の商談でもさりげないサポートで援護してくれたことは大きい。(ただ単にゲロ子が金に汚いだけでもあるが)
『糟糠の妻』は大切にしろという諺がある。若い時に苦楽を共にしてきた妻を成功したからといって捨てて、若い妻に乗り換えるとロクなことにならないのだ。そう考えるとゲロ子はやはり大切な相棒だ。
「この盾は『ゲロ子シールド』という名前です。苦労して手に入れた盾です。勇者様、この盾でまた伝説を作ってください」
右京は今回の商談でゲロ子が一番の活躍したことを認めて、楯にそんな名前をつけた。
「うむ。変な名前だが、これで1つ、また伝説を作ろう」
そう言って勇者オーリスは2万2千5百Gと記入された小切手にサインして、盾を受け取った。すぐさま、あの地下道へ行き、プラント119を撃破するのだ。
ゲロ子シールド。
ゲロのようなプラント119の樹液攻撃を防ぐことができる唯一の盾。




