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ゲロ子神教誕生

ゲロ子の正体が明かされるううううっ!

「あちゃ~でゲロ。主様の貞操がピンチでゲロ」

 

 ことの成り行きを見ていたゲロ子はすぐさま行動する。手にしたのは、お腹のポケットから取り出した魔法のアイテムである。


「スリープボムでゲロ」


 ゲロ子はそれをブンブン振り回すと石の祭壇めがけて投げつけた。それはスポーンと弧を描いて地面に落ちると同じにボンと軽く爆発して煙が祭壇を覆った。スリープボムは、煙を吸ったら確実に眠る魔法のアイテムだ。女子4人に迫られていた右京は目を回し、危険な状態だった4人の美少女もその場で気を失った。それぞれ露わな格好で重なって横たわる。


「やれやれでゲロ……。主様は女難の想が出ているから気をつけろとあれだけ言ったのでゲロが……」


 ウィリに命じて祭壇まで移動するゲロ子。倒れている右京たちが完全に眠っているのを確認するとレインボースライムに目を向けた。ゲロ子の目標は右京たちよりも早く、このレインボースライムを捕まえることなのだ。


「覚悟するでゲロ」


 またもや、ポケットから取り出す魔法アイテム。『スロウの杖』。ひと振りするだけでスピードを100分の1にする魔法の杖だ。ゲロ子はそれを振った。さすがのレインボースライムもゆっくりとしか動けなくなる。ゲロ子はウィリに命じて塩をひとつまみかけさせる。するとレインボースライムはプルプルと痙攣を起こし、完全に動けなくなった。動けないスライムを捕獲用の網に入れることなど容易いことであった。


「これで主様より先にスライムをゲットしたでゲロ」


 ゲロ子は結果に満足した。全て、アディの母親からもらったアイテムのおかげであるのだが、ゲロ子の作戦勝ちであるとも言えた。先に右京たちにレインボースライムの捕獲をさせ、隙を見てかっさらう作戦がよかった。


「問題は主様たちをどうするかでゲロ」


 さすがにこの危険な森に放置しておくわけにはいかないだろう。それにテンプテーションから逃れたとは言え、主人のピンチ状況を使い魔としてほっておく訳にはいかない。


「ウィリ、荷車を調達するでゲロ。この者たちを安全な場所へ運ぶでゲロ」


「ははっ。ゲロ子様。村へ行って調達してくるであります」


「すぐ行くでゲロ。この沼の泥は気持ち悪いでゲロ。早く川で水浴びしたいでゲロ」


 ゲロ子は泥の飛び跳ねで汚れた髪の毛を気にした。ネバネバして気持ち悪いのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うっ……」

 

 右京は目をうっすらと開けた。記憶が定かでない。ここはどこだろうと思考をゆっくりし始める。夜が明けて、太陽が少し顔をだしたくらいの薄明かり。森の中であることが分かった。


(確か……あの祭壇でレインボースライムの魔法を受けて……キル子たちがおかしくなって……はっ!)


 首を横にすると折り重なるようにキル子やホーリー、ネイにヒルダが眠っている。一応、服や装備は付けているようで記憶にあった、あのいけない格好ではない。ちょっと残念ではあったがそれでもほっと安堵した右京。それにしてもここはどこで、なんでこんなところで眠っているのであろうか。虫の声が辺りにかすかに響く。耳を済ますとかすかに音がする。


ピチョ……ピチョ……。


 水がはねる音がしている。右京はキル子たちを起こさないように重い体をそっと起こした。音は右から聞こえてくる。近づくとサラサラと水が流れる音が聞こえ、10mほど草をかき分けると小さな川に出た。上から小規模ながら滝のように綺麗な水が落ちてきて、直径5mほどの小さな滝壺がある。目を凝らすと人らしき影がある。


(何だ? こんな時間に。モンスターじゃなさそうだが)


 よく目を凝らすと緑の長い髪をした少女である。シルエットだけでもかなりナイスバディ。その滝壺に座って水浴をしているようだ。髪に付着した白い泥を落としている。


「はあ~。冷たくて気持ちがいいでゲロ。主様たちを運ぶのに疲れたでゲロ」


(ゲロ?)


 右京の脳裏にはあるキャラの姿が浮かんだ。だが、それは今見ている姿とはあまりに違う。 そのシルエットの人物。明らかに等身大の美少女だ。右京は目をこすり、じっくりと見る。だんだんと色彩が戻り、その人物像がはっきりとしてくる。ふと横に目をやるとカエルの着ぐるみがきれいに洗って干されてある。


(ゲ、ゲロ子? 嘘だろ!?)


 右京は思わず立ち上がった。ガサガサっと草が擦れる音がする。右京は驚きの声を上げて、沐浴をする少女に指を差す。


「お前、ゲロ子か?」

「ぬ、主様!」


 少女も驚いて立ち上がった。胸を両手で隠して驚きの目で見る。太陽が登って次第に明るくなる。逆光で少女の顔も体も黒いシルエットになる。


「ゲロ子の脱いだ姿を見たでゲロか~」


「いや、お前、体長15センチじゃないのか!」

 

 ガサガサっと何かが近づく音がした。あまりの驚きの光景に右京は近くまで何かが近づいてくることに気がつかなかったのだ。 


 ガツンと右京は衝撃を受けて気を失った。殴ったのはウィリ。崇拝する女神の危機にとっさに動いたのだ。


「ゲロ子様。不埒な男は排除しました」


 そう言ってゲロ子を見ないように地面に這いつくばった。あらかじめ、沐浴シーンを見たら地獄に落ちるでゲロと言われていたので当然だ。


「危なかったでゲロ。5秒以上見られたら大変なことになったでゲロ」

 

 ゲロ子は慌ててカエルスーツを着用する。15センチのスーツも伸ばして着るとあら不思議。等身大で着れてしまう。ゲロ子は着ると元の15センチに戻った。ウィリは相変わらず頭を下げて拝んでいるので、その様子はまったく見ていない。


「それではウィリ。荷車にこの冒険者らを乗せて村へ帰るでゲロ」

「ははっ……。ゲロ子様」


 ウィリは倒れている右京を荷車に載せ、さらにキル子、ホーリー、ネイにヒルダを並べて寝かせる。みんな魔法の効果でまだぐっすりと眠っている。ゲロ子たちは、ゴロゴロと荷車を転がし、ヴィバテルの村へと帰還した。


                   *

「うっ……」

 再び、右京は目を覚ました。気がつくと村の病院のベッドである。目を開けるとゲロ子がそこにいた。


「ゲ、ゲロ子~っ」

「なんでゲロ」

「お前、等身大の美少女……」

「主様は夢でも見たでゲロか?」


 目の前にいるのはどう見ても15センチのカエルの着ぐるみを来た使い魔である。あれは夢だったのだろうか。


「それにしても、ゲロ子、お前、家出したんじゃないのか?」

「家出したのはゲロ子の偉大さを主様に確認させるためでゲロ」


「うっ……」


 キル子が目を覚ました。頭を抑えて上半身を起こす。ホーリーもネイもだ。ヒルダは特別にあしらえた小さなベッドで目覚める。右京も含めて白い入院着を着ている。


「みんな目覚めたでゲロ。揃ったところでゲロ子様の手柄を確認するでゲロ」


 ゲロ子が指を指すと網にレインボースライムが入っている。あの素早い動きをするスライムを見事に捕獲したのだ。


「スゴイぞ、ゲロ子」


「そうでゲロ。ゲロ子はヒルダよりも使えるでゲロ。そもそも、主様をはじめ、

キル子にホーリーにネイまで揃えてもこのゲロ子にかなわないでゲロ」


 偉そうに腕を組んでふんぞり返るゲロ子。結果で言えば確かにそうだ。ただ、どうやってゲロ子が捕まえたのか分からない。それに目覚めて徐々に記憶が戻るに連れて、あの醜態を思い出して女性陣はみんな顔を真っ赤にして顔を隠した。思い出すだけで恥ずかしい。


「全く、主様の周りに集まるのはみんなビッチでゲロ。キル子は元々ビッチの素質はあったでゲロが、清純ぶってるホーリーもビッチでゲロ。おこちゃまのネイも十分ビッチでゲロ」


 かあ~っと顔を赤らめるホーリーにネイ。キル子に至っては頭から煙が出ている。


「それにヒルダでゲロ。バルキリーなのに魔法にかかるとは迂闊な奴でゲロ」


「先輩、それは違いますわ」


 ヒルダが白い羽を動かしてパタパタと右京の肩に着地した。そして、右京のほおにスリスリと体を密着させる。


「ヒルダ、どうしたんだよ。まだ、魔法が解けてないのか?」


「ご主人様、テンプテーションはご主人様に好意をもっている女性だけがかかる魔法です。その思いが強いほど淫らに迫ってしまう魔法なのです」


「そ、そうなのか?」


 ということは、キル子もホーリーもネイも右京にただならぬ思いがあるということだ。いやいや、それよりもヒルダの方が過激だ。今もベッタリと右京のほおに擦り寄っている。


「わたくしも魔法耐性があるので、あの程度の魔法は無効化できたはずなのですが、ご主人様のことが好き過ぎて魔法抵抗ができませんでした」


「ヒ、ヒルダ、お前もキャラが変わってるぞ」


「女は男で変わってしまうものです。ご主人様、ヒルダをお嫁さんにしてくださいまし。大丈夫です。あの行為の際には人間大になることは可能ですから」


 そう言ってスリスリするヒルダ。体長15センチのお嫁さんはないだろう。


「いやいや、可能って……」

「それはダメだ。右京は、その、あたしと……」


 毛布をはねのけてキル子が叫ぶ。恥ずかしがっていては出遅れてしまう。


「わ、わたしもです……」


 ホーリーも負けてはいない。あっという間に修羅場と化す病室。


「静まるでゲロ。メス豚どもよ」


 ゲロ子がそう命令口調で宣言する。直立不動で右の手のひらを差し出し、威厳のある声色で一同を制した。


「ビッチどもは主様にはふさわしくないでゲロ。ちゃんと花嫁修業して出直すでゲロ。ゲロ子の目の黒いうちはビッチは近づけさせないでゲロ」


 キッと今度はヒルダをにらみつけるゲロ子。


「使い魔の分際で主様に魂を奪われるとは、使い魔失格でゲロ」

「先輩……」


「使い魔たるもの。主人のために影で尽くすのが役目でゲロ。お前のように能力を引けらかせて、主様に取り入ろうなどというビッチ根性ではダメでゲロ」


「何だか、偉そうだなゲロ子。さっきから聞いておけば、人をメス豚呼ばわりしやがって」


 ここまで大人しく聞いていたキル子だが、そもそもゲロ子がこの場所にいて、しかも、自分たちが手こずったレインボースライムを捕まえたことが怪しいと思った。何かずるいことをしたに違いない。よく見ればゲロ子のコスチューム。これまでにないポケットがお腹に付いている。これは怪しい。


「それはなんだ?」


 右京も怪しいと思った。そもそも、ヒドラをやっつけたドラゴン。召喚の仕方があのアディが持っていた笛を同じである。ゲロ子も魔法のアイテムを使ったに違いない。するとタイミングよく、ゲロ子の影からにゅうううっっとアディの母親、ミルドレッドが現れた。


「おわわわっ……」

「きゃあああっ」

 

 キル子が意外と可愛い声を上げて右京に抱きついた。これは演技というより、マジでビビったのであろう。ホーリーもネイも驚いて固まっている。


「任務が終わったようですので、アイテムは回収させてもらいますわね」


 相変わらずのんびりとした口調でミルドレッドはにっこりと微笑んだ。昨日は旦那と過ごしたせいか、何だかお肌のツヤがピカピカしている。


「ゲロゲロ、もうちょっと待つでゲロ」

「バイバイ」


 ミルドレッドが微笑んで影の中に消えていくと、同時にゲロ子の腹からポケットが消える。どうやら、ゲロ子の奴、ミルドレッドから魔法アイテムを貸してもらったようだ。これでゲロ子がここまで来て、しかもヒドラを退治し、レインボースライムを捕獲できた理由がわかった。要するにドラゴンから貸してもらったスーパーアイテムのおかげだったのだ。


「ゲロ子、てめえ、チートなことしやがって」

「主様、チートも実力のうちでゲロ」


 ゲロ子の奴、開き直りやがった。そんなやりとりをしていると、トントンとドアを叩く者がいる。開けると中年の太ったおじさんが立っていた。行商人のウィリであるが、格好が尋常じゃない。上半身ははだかで下半身は緑にタイツ。緑のローブで隠しているとはいえ、一歩間違えれば変質者の格好だ。首から間抜けなカエルの顔を型どったペンダントを下げている。


「ゲロ子神様。ご命令のとおり、今から町へ旅立ち、ゲロ教の教えを広める活動を始めます」


「うむでゲロ。どんな困難があっても、お主は教えを広めるでゲロ」

「はっ。ゲロ子神様」

 

 ウィリは深々と礼をすると部屋を出て行った。もう革の行商人をやめて、ゲロ教の教祖として布教活動をするのだ。


「ゲロ子、あのおっさん、フランのところに出入りしている行商のおっさんだよな」


「そうでゲロ」

「お前、何をやったんだ?」


「あのおっさんは、行商の仕事に不満を感じていたのでゲロ。それでゲロ子を女神さまだと勘違いして神の奇跡を起こす預言者になりきってしまったでゲロ」


「お前なあ……」


 まあ、おっさんは自分で選んだ道だ。ゲロ子に騙されたとは言え、人生の目標を見つけて幸せに生きればそれはそれでよいのかもしれない。


 いろんなことがあったが、手に入れたレインボースライムはヴィバテル村の優れた技術で加工されて革になった。その革は優れた耐熱性と耐酸性をもっていた。何しろ、1000度の熱に耐え、どんな酸も弾き返す。ちょうど盾4枚分にもなった。


 右京はイヅモの町に帰るとカイルの力を借りて、武器ギルドから格安で調達した中古のスクトゥムにその革を丹念に張った。改造としては表面に革加工するだけだから難しくはなかった。材料としての革を手に入れるのが苦労したが。


5秒見たらどうなっちゃうでゲロ!?

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