危険な状態×2
今回は色々とアレです。
ヤバイです。
「あちゃ~でゲロ。もう主様たちが到着してしまったでゲロ」
「それはゲロ子様が眠いでゲロといって昼寝をたっぷりと召されたからです。さらにお腹が減ったと申されたので、私が村でお菓子を調達に行かされたからです」
淡々と神に話す、ウィリ。別に呆れたり、怒ったりはしていない。神であるゲロ子様がなさることは全て意味があることだとこのおっさんは信じている。だが、いつもの如く、サボりぐせが出ただけなのである。
「そうだったでゲロか?」
「そうです」
「ゲロ子は反省するでゲロ」
戦いは明らかに右京たちが劣勢であった。ヒルダの強力な魔法が何発かヒットし、キル子の直接攻撃があったが、ヒドラを倒すほどではない。逆にヒドラの反撃でみんな吹き飛ばされてしまった。激しい戦闘から静寂が戻りつつある。
ここはゲロ子の出番であろう。
「どうしましょうかゲロ子様」
「神の力に不可能はないでゲロ」
ヒドラにはパラライズは効かない。使うならドラゴンの笛しかないだろう。というか、おそらく、それで決まるだろう。ゲロ子の持つマジックアイテムの中で最強を誇るものだ。よく考えたら、この笛を勇者に貸せば楽々プラント119は倒せるのだが、ここへ至ってもゲロ子はそんなことは砂の一粒ほども思わなかった。全く、幸せなカエル娘である。
そんなゲロ子は、ウィリの肩から飛び降りるとくるりと回転し、ポケットから笛を取り出すと思い切り息を吸い込んで吹いた。
『ピッピロピー』
『ピッピロピー』
『ピッピロピー』
間抜けな音が3度響いた。
ニョルニョルニョル……。黒いシュルエットが地面から現れる。ウィリの影から現れたのは1組のカップル。それはシルエットからやがて実物へと変化した。全身黒ずくめの男と白いナイトガウンを身にまとった金髪の女性。熱い口づけの最中である。それを見たゲロ子。思わず両手で顔を覆った。
「やばいでゲロ。子作りの最中でゲロ」
金髪の女性はアディの母親。ミルドレッド。黒い服の男は旦那のブラックドラゴン。名前は『ケイオスブレイカー』。アディの父親である。いつも離れて暮らしている夫婦なので久々に会ってつい興奮してしまったのであろう。
「おおおおっ……なんだ、これは!」
ケイオスブレイカーは周りを見て驚きの声を上げた。そりゃそうだ。久しぶりに妻が訪ねてきたので、イチャコラしていたらこんな森に召喚されたのだ。
「あなた、召喚されたのですわ」
おっとりした口調で応える妻のミルドレッド。この人、意外とのんびり屋だ。
「ちくしょう、いいところだったのに!」
「あなた、まだ夜は長いわ。ここはさっさと目の前の敵をやっつけて楽しみましょう」
「そうだね。マイハニー」
そう言うとケイオスブレイカーは真っ黒なドラゴンに変身した。それはヒドラをはるか凌駕する巨体だ。ヒドラもその圧力に縮こまるしかない。
「右京さん、巨大なドラゴンが!」
飛ばされてお尻をしこたま打ったネイがさすりながら立ち上がり、同じく体を起こした右京に指し示す。巨大なドラゴンがヒドラと対峙している光景だ。まさに怪獣どうしの激しいバトルの開始だ。だが、バトルにはならなかった。
巨大な黒いドラゴンは口を開く。超高温のプラズマブレスである。それが吐き出されたとき、ヒドラは一瞬で消えた。まさに一撃である。
「面倒な敵はいなくなったよ、マイハニー」
「ああん……たくましいわ、あ・な・た」
変身を解いたケイオスブレイカー。愛しの妻の元へ駆け寄る。そして抱き合うドラゴン夫婦。そのまま、地面に消えていく。あれだと1年後にはアディの弟か妹が生まれそうである。
「な、何だったんだ?」
ヒドラとの戦いに苦戦し、絶体絶命のピンチというところへドラゴンが現れてそれを一蹴。そのドラゴンも消え去るというありえない展開に右京は混乱した。
だが、ヌトヌト沼の中央の石の祭壇が光り始めたのを見た。ガーディアンモンスターのヒドラを排除したことでレインボースライムが出現したのだ。
「よし、捕まえろ!」
右京の命令でパーティ全員がヌトヌト沼に突進する。だが、沼底は粘着質の白い泥で足がなかなか抜けない。水はまるでローションのようにヌトヌトなのだ。そこへキル子にホーリー、ネイが入っていたから大騒ぎになる。
「何だ、この感触、気持ち悪いぞ」
足首まで埋まった泥の感触と太ももまで達した気持ち悪い水に背中がぞぞっとしてしまうキル子。ホーリーはバランスを崩して尻餅を付いてしまい、飛び散った白いヌトヌトの泥を頭からかぶってしまう。
「き、気持ち悪いですうう~。ネバネバしますうう……」
「こんなの反則じゃ! 鳥肌が立つのじゃ」
ネイは足を抜き損なって前のめりで転んで全身白い泥まみれである。口に入った白い泥をペッペと吐き出している。
右京はその点、向かったルートがよかった。比較的浅瀬であったので苦労したものの石の祭壇にたどり着いた。そこには虹色に輝くスライムが。
「ヒルダ、捕まえるぞ」
「はい、ご主人様」
用意した網を広げてスライムを捕獲しようとする右京とヒルダ。だが、ゆっくり動くスライムのはずだが、このレインボースライムは違った。網が広がる瞬間に姿を消した。そして、別の場所に現れる。
「こ、これはどういうことだ?」
「ご主人様、このスライムはとてつもないスピードで移動できるようです」
「くそ! これじゃ、捕まえられないじゃないか!」
右京が再び、網を広げてもスライムはそれをあざ笑うかのように瞬間移動でかわす。このままでは絶対に捕まえられない。
「ご主人様、わたくしがスロウの魔法を使います。スライムの移動力を100分の1にします」
肩に乗るヒルダがそう宣言し、呪文の詠唱に入った。バルキリーのヒルダは高位のウィザード並の魔法が使えるのだ。だが、レインボースライムもそれを待っているほど甘くはなかった。七色の体色が黄金色に光ったかと思うとピンク色の光線が自分を中心に半径30mに広がった。テンプテーションの魔法である。
「な、なんだ?」
ピンク色の光が収まったが、思わず目をつむった右京だったが別に変化はない。一体、レインボースライムは何をしたのであろうか。
「ご……ご主人さま~っ」
肩に乗っていたヒルダの様子がおかしい。右京のほおにへばりついてスリスリしている。顔が真っ赤で目がとろんとしている。右京は心配になってヒルダを手のひらに乗せる。ヒルダは力が入らないのか腰砕けの状態で座り込み、両手で体を抱きしめている。何かを抑えて込んでいる感じだ。
「て、テンプテーションの魔法です……」
「テンプテーション?」
「はい……。女性だけに効果。その、あの……ご主人様~」
「ど、どんな効果なんだ?」
「い、異性に対して……とても危険になっちゃうのですう……」
「き、危険だって!?」
「もうダメです……。ご主人様~スキスキスキ大好き、ヒルダと遊んでくださ~い」
ヒルダが白銀の鎧を脱ぎ捨てる。神々しい裸体のフュギュアがそこに立っている。
「おいおい、ヒルダ、気を確かに持てよ!」
後ろからぴとっと抱きつかれた。背中に感じる圧倒的なボリューム。体を完全密着してぐりぐりとこすりつけてくる。
「右京~っ。そんなチビより、あ・た・しの方が楽しいぞ~」
首を傾けるとこれまた顔がピンク色に染まったキル子。ドロドロの胸当ては脱ぎ捨てて上半身はスッポンポン。沼の白いドロで染められた褐色の体が超ヤバイ。思わず、バランスを崩して座り込む右京。ピンチはこれだけではない。沼を這いずって渡ってきたホーリーが前からのしかかる。
「あ~ん。ずるいです。右京様はわたしのものなんですから~」
そういって右京のズボンに手をかけるホーリー。ネイも右京の右足に取り付いて頬ずりしている。
「ホーリー、気を確かに持てよ。キル子はともかく、お前はそういうキャラじゃないだろ。ネイに至っては犯罪だ。すぐやめろ」
「そんなこと言って、右京さん、美少女4人に迫られて嬉しいのじゃろ」
ダメだ。4人とも魔法で操られて正気じゃない。このままではヤバイ事になる。いくら右京が男でも女3人に押さえ込まれたらどうにもならない。次々と装備が脱がされてしまう。たちまち、パンツ一丁だ。
(ヤバイ、超ヤバイ!)
ゲロ子~っ、主のピンチ、救ってくれ~っ。




