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ゲロ子神降臨

やっぱり、こういう展開になるのか……。さすが、ゲロ子。

 馬車で揺られること1日。ゲロ子は支道と本道への分かれ道で飛び降りた。馬車の後方の目立たないところに専用スペースを作り、菓子を広げて食べながら寝ていったので楽な旅であった。だが、ここからは歩いて行かないといけない。しかもゲロ子の足では直に右京たちに追い付かれてしまう。


「早く、移動手段を見つけないとでゲロ」


 とりあえず、ゲロ子はとぼとぼと歩く。すると、一人の行商人の男が盗賊に襲われているところに出くわした。本道は比較的安全だが、支道は危険なのであるモンスターや盗賊に出会う確率は高い。


「おい、おっさん。金目のもの置いてけや」

「いえ、これだけはごかんべんを……」

 

 男はウィリ。革の行商人だ。各地を周り、背中にどっさり仕入れた革を背負ってイヅモの町の『けだものや』へ売る仕事を15歳の頃からしていた。この業界、40年の大ベテランである。頭が禿げてつるつるでお腹も出ている中年のおっさんだ。普通、行商人は体力勝負なので筋肉質でやせた物が多いが、ウィリの場合は行った町で大酒を飲んでしまい、それが祟っていた。家へ帰れば怖い妻の尻に敷かれるおじさんなのだ。


 長年、行商をしているウィリにとっては、この支道はあまり通りたくはない場所である。盗賊やモンスターが横行するからだ。でも、最近、流行りつつある

『スライムの革』の評判がよく、その唯一の産地であるヴィバテル村へ仕入れに行く途中であった。ここで盗賊団に会うのは運が悪い。


「ダメだな。おっさん。全部、出せ」


 少しばかりの金で許してもらおうとしたがやはりダメであった。でも、ここで仕入れの金を失うと家に帰って妻にどれだけ叱られるか。そんな不幸なおっさんに神が現れた。


 パアッ~っと光がさすと天使が舞い降りる。もちろん、これはゲロ子。ゲロ子が幻想の鏡を見せて自分を天使と化した偽物である。


「な、なんなんだ!」

「て、天使様だ」


 盗賊の数は7人。みんなこの不思議な光景に目を見張る。行商人のウィリは手を合わせてうずくまり、感激のあまり涙を流している。大酒飲みなおっさんだが、本当はいつも礼拝を欠かさない信心深い男なのだ。


「盗賊どもに告げるでゲロ……」

「ゲロ? 変な天使だな」


「悪事はやめるでゲロ。でなければ、神の天罰が下されるであろうでゲロ」


 変だなと思った盗賊どももこの変な天使にひれ伏すしかない。何しろ、カエルの着ぐるみを来た天使だが、光の中を空中に浮いている。神の奇跡には違いない。実際は15センチのカエル妖精が偉そうに鏡を持って命令しているだけなのだが。


「ははっ……。天使様。罪深き我々をお許しください」

「それでは、お前たち、金目のものを置いていくでゲロ」


「へ? なんとおっしゃいましたか、天使様」

「武器や財布、服を脱いで置いて行くでゲロ」


「そ、そんな。それでは盗賊じゃないですか、天使様。どうか、お許しを……」


「お前たちは今まで悪いことをしてきたでゲロ。罪を償うでゲロ」


「そんな、我々は盗賊団ですから人を殺したり、捕えた女を犯したり、やりたい放題するのが仕事なんです」


「それは仕事とは言えないでゲロ。犯罪でゲロ。とにかく、すべて脱いで差し出すでゲロ」


 怪しげな天使に言われてしぶしぶと服を脱ぐ盗賊たち。7人ともパンツ一丁で服をたたみ、その上に武器と財布を置いた状態でひれ伏した。これで逃げればよいのにゲロ子はつい調子こいてしまった。


「そこの盗賊」

「俺ですかい?」

「違う。真ん中のデブなやつ」

「お頭ですか」


 どうやら真ん中の太った男がリーダーらしい。ゲロ子は太ったリーダーに踊るように命じる。リーダーは天使の命令なので手下の手拍子と歌に合わせてしぶしぶ踊る。何しろ、断れば地獄の業火で焼き尽くすというのだから仕方ないのだ。


 パンツ一丁の男が大きな腹を揺らして踊るから滑稽極まりない。手下も手を叩いて歌を歌っていたが、みんな腹を抱えて大笑いをする。その中を汗びっしょりで踊るリーダー。必死な形相。でも、なんだか変だと感じた。神々しい天使が小さなカエル娘に変わりつつあるのだ。


 そう。幻想の鏡の効果は5分少々なのだ。幻想が解ければ腹を抱えて大笑いしている小さな生物が現れる。


「ゲロゲロゲー。これは傑作でゲロ。最高でゲロ。デブ禿げおっさんの腹が揺れて面白いでゲロ。ストップしてパンツ履いてないポーズ決めるでゲロ。そして履いてますって言うでゲロ……」


「おい、カエル娘」

「ゲロゲロ……」


「てめえ、天使とか嘘つきやがって!」


「天使でゲロ。言うこと聞かないと地獄の業火で焼き尽くすでゲロ」


 ばれているのにまだ気づかないゲロ子。盗賊どもに取り囲まれる。


「もうばれているんだよ。ただの邪妖精じゃないか。俺たちをコケにしてくれた落とし前をつけてもらおうか!」


「あちゃ~でゲロ。ばれたでゲロか。でも、警告するでゲロ。それ以上近づくと地獄の業火で焼かれるでゲロ」


「うるせい! そんな脅しに乗るものか!」

「やっちまえ。ひねりつぶしてやる」

「お湯に入れて煮殺してやる」

「ケツに爆竹さして爆死させてやる」

「ぐふぐふ……捕まえて僕だけのお人形さんにする……ぐふぐふ」


「はあ~でゲロ。やはり、盗賊はクズでゲロ。特に最後の変態は汚物として消毒しないと世の中のためにならないでゲロ」


 ゲロ子はお腹についた袋からドラゴンの笛を取り出す。そして一回だけ吹いた。


 ピロピロティ~間抜けな音が響く。盗賊たちが意変に気付いて立ち止まる。ゲロ子の影から赤い髪の小さな幼女が沼の中から現れるように出てきたのだ。火竜幼女アディラードだ。


「アディ、やってしまうでゲロ」

「汚物は消毒~」


 アディが口を開くとすさまじい炎が。1500度を超えるドラゴンパピーの炎だ。盗賊どもは一瞬で蒸発する。声を上げる暇もない。


「消毒、終了~っ」

 

 一仕事終えて手を振りながらまた影に消えてくアディ。無敵である。


「ははっ~。女神様」


 ウィリはゲロ子を拝む。信じ深いこの男には一連の出来事がすべて神の奇跡のように感じた。またまた調子に乗るゲロ子。


「それではその女神様を肩に乗せてヴィパテルの村へ行くでゲロ」

「はい。女神様」


 ウィリはゲロ子を肩に乗せると意気揚々と歩き始めた。神が自分と共にあるのだ。なんだが、今までの自分とは違う気持ちになっていた。


大丈夫です。

履いてますって。(笑)

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