ゲロ子の家出
本日2回目の投稿でゲロ。
ストック大丈夫でゲロか?
店に帰るとゲロ子がいない。右京たちが帰って来るとホーリーが慌てて駆け寄ってきた。その手にはゲロ子が書いたらしい手紙らしきものがある。
「右京さま、ゲロ子ちゃんが……」
「ゲロ子が?」
「先輩がですか? やはりわたくしが差し出がましいことをしたせいでしょうか」
そうヒルダが落ち込んだが、ヒルダのせいではないだろう。ゲロ子の奴、意外と心が傷つきやすい性格だったのかと右京は驚いた。慌てて、ゲロ子が書いたという手紙を見るとこんなことが書いてある。
『主様へ。ゲロ子は旅に出ます。探さないでゲロ』
(短かっ!)
「ゲロ子ちゃん、家出したのでは……」
ホーリーが夕暮れどきの外をそっと見る。真っ赤な夕日が落ちて暗くなりつつある。
「おいおい、使い魔の家出なんて聞いたことないぞ」
「でも、ヒルダちゃんばかり可愛がったので、拗ねてしまったんじゃないかしら」
「めんどくさ~」
女心に鈍感な右京にカエル心が分かるわけがない。でも、ゲロ子がいないということは右京の心にぽっかりと穴が開いたような気持になった。最近、役に立ってない怠け者でもいないと困る存在なのだ。だからといって、甘やかすと調子に乗るので扱いが難しいのであるが。
「それに右京さま。倉庫にこれが置いてありました」
そう言ってホーリーが右京に差し出したのは、『めざせ!1級使い魔への道』『一般辞書グレードアップ入門』『価格決定のすべて』と題した参考書。
「ゲロ子の奴……」
「ピルトが鍛冶屋さんのお使いで町へ出たとき、ゲロ子ちゃんを見たって言っていました。ゲロ子ちゃん、広場でこの参考書広げて勉強していたようですよ。仕事の合間に能力を高めようと勉強していたのではないかしら?」
「ヒルダ、そんなことできるのか?」
「わたくしは最初から特級ですから必要ないですが、2級使い魔が知識を蓄積して1級、特級と上がることはできます。滅多にないことですが」
ゲロ子は最近、自分の能力が右京の仕事レベルに追い付いていないと感じて、ひそかに勉強していたのだ。倉庫整理に行っては参考書を広げ、冒険者ギルドへ使いに行っては参考書を広げ。それで仕事が遅かったのだ。仕事中に勉強するのはどうかと思うが、ゲロ子なりに右京のことを思ってのことだろう。勉強途中に休憩と称して劇をみたり、チョコレート菓子を買ったりしているのはゲロ子らしいのだが。
「ご主人様。先輩については心配ないと思います。使い魔は破門されない限りご主人様と離れられないようになっていますから。町のどこかをブラブラしているのではないでしょうか」
さすがバルキリーのヒルダ。ゲロ子の性格を考えた適切な予想である。それに使い魔妖精は仕える主人が生きている限り、一生付き従うのだ。勝手に出ていくことはできないはずだ。
「まあ、腹が減ったら帰って来るだろう」
「そうでしょうか……」
心配そうに外を見るホーリー。外は真っ暗だ。人通りも減ってきている。
「ご主人様、わたくしが探してきましょうか?」
ヒルダがそう言ったが右京は首を少し振った。優秀なヒルダが町中を探せば、今晩中にゲロ子を見つけることが出来るとは思うが、後輩に迎えに来てもらっても素直になれないだろう。
「いや、ヒルダとホーリーは冒険に出る準備をしてくれ」
右京はゲロ子がすぐ帰って来ると思った。これまで一緒にいた経験からそう思ったのであったが、ゲロ子の思考はその斜め上を行っていた。
「主様はこの偉大な使い魔ゲロ子様を軽く扱いすぎるでゲロ。ここは一発、ゲロ子一人でこの問題を解決してみるでゲロ」
市場の中で腕を組んで歩いているゲロ子。そんなゲロ子を『けだものや』のフランが見つけた。夜になって店をたたんでいる最中だ。
「おや、ゲロ子」
「フランでゲロか」
「お主、右京さんと一緒に冒険の旅に出るんじゃないっすか?」
「ゲロゲロ……。フラン、主様はどこへ行くと言っていたでゲロか?」
「ヴィバテル村っすよ」
「ヴィバテル村でゲロか?」
フランは右京に教えた情報をそのままゲロ子に伝えた。話を聞いてにんまりするゲロ子。とりあえず家出をしてみたものの、このままじゃ、お腹が減って帰るのは目に見えている。さすがのゲロ子もすぐに帰るのはカッコ悪いと思っていた。それでよい悪知恵が浮かんだのだ。
「主様よりも先にその場所へ行くでゲロ」
ゲロ子は右京がその村へ行く前に先回りし、見事に盾に張る革を手に入れることを考えた。そうすれば、自分の優秀さをアピールできるし、ヒルダにも一泡吹かせることができるだろう。
「これは面白いことになるでゲロ」
ただ、問題は山積だ。まず、ゲロ子は小さい。戦闘力も皆無だ。街道沿いは定期馬車に便乗すればよいが、村への支道では歩いて行く手段がいる。誰か人間を雇ってその肩に乗っていくのがよいだろう。
「戦闘力と移動手段でゲロ……」
そういう時にはゲロ子の風が吹く。都合の良い風だ。見るとドンピシャでお菓子屋の前に赤い鱗柄のブーツを履き、赤い髪を2つお団子状にしている幼女がいるではないか。ただ今日は金髪の母親と一緒だ。
「しめしめ、まずは戦闘力確保でゲロ」
火竜の幼女であるアディラードの戦闘力は、軍隊1個大隊以上である。大抵の敵はドラゴンブレスで一撃である。ゲロ子はドラゴン母娘に近づいた。いつもの如く、人間に化けて町のスイーツ探しであろう。呑気なドラゴンたちである。
「ゲロゲロ……。アディ、今日もお菓子を探しているでゲロか?」
「あ、カエルのお菓子」
アディが手を伸ばしたのでゲロ子はすばやく回避する。捕まると食われる。
「お菓子でないでゲロ。ゲロ子でゲロ」
「ああ、ゲロちゃん」
「アディ、ゲロ子がおいしいお菓子を教えてあげるから協力するでゲロ」
ゲロ子はイヅモの町で静かなブームとなりつつあるドックンドーナッツを勧める。母娘そろってスイーツ好きのアディたちはドックンドーナツを知っていたが、ゲロ子が勧める新発売の焼チョコナッツ味は知らなかった。これは限定20個の発売ですぐ売れ切れてしまうのだ。ゲロ子は常連で店の主人に気に入られているから、特別に手に入れられるのだ。
閉店間際の店に連れて行って、ゲロ子は店主にお願いすると家族用に取っておいた焼きチョコナッツ味のドーナッツを2個分けてくれた。
「う~ん。美味しそう」
「これは食べたことがないですわ」
「そうでゲロ。幻の逸品でゲロ」
さっそくそれを食べる母娘。アディも母親も大喜びをする。喜んだところでゲロ子が交渉に移る。耐熱と耐酸性を備えたスライムの革の情報である。これは人間よりも長生きで古代の情報から知っているドラゴンには容易いことであった。アディの母親は『ミルドレッド』というが、ゲロ子に教えてくれた。
「スライムには様々な種類がいますが、レインボースライムという極レアなものがいます。その革なら要求に耐えられるでしょう。但し、それはヴィバテルの村から少し離れたスライムの森の中心。ヌトヌト沼の真ん中に突き出た石の祭壇に満月の夜、真夜中から2時間だけしか現れません。また、そこにはガーディアンの強力なモンスターがいると聞きます」
「ゲロゲロ。そのモンスターを倒して、そのスライムを捕まえればよいのでゲロな?」
「捕まえるには手順があります。レインボースライムは非常に高速で動きます。まずはスロウ系の呪文で動きを鈍らせます」
「ゲロゲロ……」
「次に塩を一掴みふりかけます。これでスライムは完全に動けなくなります」
「なるほどでゲロ」
「でも、レインボースライムはテンプテーションの魔法を使ってくるので注意してください。特に女性は(危険な状態)になっちゃうので注意が必要です」
「危険でゲロか?」
「そう危険ですね」
ここまで有用な情報を教えてくれたが母親のミルドレッドはアディの同行は許してくれなかった。これは危ないからではなくて、今から遠くの山でボスキャラやっているという父親に久しぶりに会いに行くそうだ。
「ゲロゲロ……。それじゃ、困るでゲロ。戦闘力0でゲロ」
「ご心配なく。ドラゴン族は代償に対しての対価は忘れませんわ」
そう言うとミルドレッドは小さな半円状の布を取り出した。(どこから出した?)それをゲロ子の着ぐるみのお腹にポンと貼り付けた。まるでド○エ○ンのポケットである。
「魔法のポケットです。必要な道具をいくつか入れておきました。この冒険限定でお貸ししますわ」
「ゲロゲロ……。これはすごいでゲロ。いわゆるチートセットでゲロ」
魔法のポケットに入っているのは次の5つ。
(1)ドラゴンの笛 アディラードの家族を呼び出す笛。使えるのは2回のみ。
(2)幻想の鏡 対象に幻覚を見せる。
(3)パラライズニードル 刺すと麻痺する針。ゲロ子専用の武器
(4)スロウの杖 対象物のスピードを100分の1にしてしまう杖
(5)スリープ爆弾 投げると半径15m以内のものを眠らせる
これだけあれば、アディがいなくても冒険はできそうである。それよりも、ゲロ子にこれだけ危険なものをもたせてよいのか、やばいことになりそうな予感がするのはなぜだろうか。
「それじゃ、カエルのお菓子。また、おいしいお菓子をちょうだい」
「アディもゲロ子が召喚した敵をなぎ倒すでゲロ」
「分かった」
アディたちと別れたゲロ子。とりあえず、戦闘力になるものは手に入れた。後は移動手段であるが、これは途中でもなんとかなるだろうとヴィバテルの村付近を通る定期馬車に潜り込んだ。右京たちより早く行かないといけないのだ。
ゲロ子のチートな冒険開始w




