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勇者オーリスの憂鬱

あの値切り勇者、再び登場!

 勇者オーリスのパーティは苦境に立っていた。オーリスは勇者として、この世界を冒険しているが、今回は大陸から10km離れたモーリス島にある村からの依頼を受けての冒険だ。その村に凶悪な蛇のモンスターが出現したというのだ。それを退治して人々の平和を守る。それが勇者御一行様の今回の任務なのだ。


 島の周辺は複数の海流がぶつかることもあって、巨大な渦があり船でいくことはできない。唯一の方法が島と大陸をつなぐ地下道である。この地下道は自然にできた巨大な洞窟で、ところどころ狭い場所もあるが、広い場所では学校の体育館並みの広い空間であった。


 途中でお約束のように出てくる雑魚モンスターを軽く撃破しながら、勇者パーティは突き進んだ。わけあって今回は戦士と魔法使いと自分という3人だけのパーティであったが、それぞれが高レベル。チート能力の持ち主だ。強大な戦闘力と魔力で全く苦戦することもなく、地下道の終盤まで進んだのだが、ここで困った事態になった。


島まであと少しという地下道の途中に厄介なモンスターが出現したのだ。そのモンスターは『プラント119』と名付けられた植物形態のモンスターだ。巨大な食人植物で無数の巨大なツルによる直接攻撃と花から出る毒ガス攻撃で人間を襲う。ただ、珍しいモンスターというわけでもなく、初級冒険者には厳しい相手ではあるが、中級冒険者で十分倒せる相手だ。


ましてや、スーパーエリートの勇者パーティなら、3人とはいっても楽に勝てる相手である。だが、オーリスたちはここを突破できないでいた。このモンスターの能力と場所が思わぬ相乗効果を発揮し、勇者パーティへ難問を突き付けていたのだ。


「やはりダメだ、オーリス。木製の盾では熱に耐えられない」


 戦士グラムが手に持った巨大な盾をオーリスに見せた。それはところどころ、焼け焦げた跡があり、盾としての役割が発揮できないのだ。これは「プラント119」が吐き出す樹液によってもたらされた結果である。その樹液は異常な高温で硬い樫の木で作られた盾でも一瞬で焼け焦げを作るのだ。


 では、木製ではなく金属製の盾で行けばよいだろうとだれでも考える。しかし、当然ながら最初にそれは試され、結論として駄目であることが判明している。その熱い樹液は熱と共に強烈な酸性を帯びており、金属製の盾は溶かされてしまうのだ。むしろ、こちらの方が強力で鎧も剣も溶かされてしまうから、近づくこともできないのだ。オーリスたちはこの攻撃を『アシッドウォール』と名付けていた。アシッドウォールが近づくことを許さないのだ。


ちなみに近づかなくても魔法による遠距離攻撃や弓矢による攻撃で倒せばよいという考えもある。勇者オーリスや魔法使いのジャスミンは、超高レベルキャラである。そのチート魔力で植物モンスターの弱点である強力な火炎魔法を使うだけの話だ。現にオーリスもジャスミンも『プラント119』を100体まとめて焼き払うだけの高レベル呪文とそれを可能とする魔力を持っていた。


だが、オーリスは思わずコントローラーを地面に投げ付けて、『ゲームバランス崩壊しとるだろ!』と悪態をつきたくなる心境であった。何しろ、『プラント119』は魔法無効化エリアにでんと構えているのだ。この結果、魔法攻撃はできないのだ。魔法が使えないので、オーリスは火矢による弓攻撃を試みた。だが、火は樹液で消され、モンスター本体までの距離があることもあって効果がなかった。


「オーリスどうする?」

「ううむ……」


 オーリスは仲間を見る。戦士グラムのプレートアーマーは最初に受けたアシッドウォールでところどころに穴が開いているし、魔法使いのジャスミンはローブが溶かされて、目にやり場に困るくらいボロボロである。『アシッドウォール』は金属だけでなく、布も溶かすのだ。


「オーリス、わたくしはもう町へ帰りたいですわ。早く帰ってお風呂に入りたい。これ以上戦っても無駄よ」


 女魔法使いジャスミンの機嫌は悪い。『プラント119』が出す樹液のぎとぎとのぬとぬとはほとんどの女性が苦手なものである。この件に関して全くジャスミンは貢献できないので、気持ちも後ろ向きだ。後は男どもだけで解決してねという心境だ。オーリスも現時点では打つ手がないと考えていた。


「一旦、帰るしかない。だが、ここを突破しないと島には渡れないぞ」

「オーリス、ここはあきらめて海から行く方法はないだろうか」


「いや、無理だ。海峡には巨大な渦があって渡れない。この地下道を通るしかない」


「ですけど、あの植物の化け物は嫌ですわ。ここは勇者らしく、神の使いの鳥が運んでくれるとか、古代文明の遺産の飛行船を手に入れて渡るとかという方法はないの? 勇者ならもっと華麗な方法を探してよね」


 魔法使いのジャスミン、結構なむちゃぶりをする。彼女は30過ぎの妖艶な女性でこういうじめじめしたところは大嫌いなのだ。どこかの高級ホテルで優雅にブランチをしていた方が似合う風貌なのだ。


「ジャスミン、そんな方法があったら知りたいよ」

「じゃあ、○―ラとか、テ○ポとか使ってよ」


「なんだよ、それ?」

「勇者が使う移動魔法よ。任意のところへ行ける魔法。使えないの?」


「そんなの知らねえよ」

「使えない勇者ね」


 女魔法使い、さらに無茶なことを言う。理不尽なけなされ方をした勇者オーリスだが、そこは勇者と呼ばれる男。立ち直りも早い。


「とにかく、あのアシッドウォールを潜り抜けられる装備を手に入れよう」


 ここは一刻も早く、打開策を打ち出さないとまずい。島で起こるクエストには期限があるのだ。2か月後に島で娘をいけにえに差し出さないと暴れるというモンスターが現れているのだ。今回のオーリスたちへの依頼は、そのモンスターを倒して娘を助けることなのだ。島に渡らないと生贄の儀式が始まってしまう。


「しかし、町に帰ると言ってもな。この近くの町にあの攻撃に耐える装備があるとは思えない」


 グラムの鋼鉄の鎧もバトルアックスも結構なダメージを受けている。オーリスの装備する魔法のよろい一式も同様で修理する必要がある。修理は町の鍛冶屋でできるが、武器屋で売っている品ではどれも目の前のモンスターに対抗できるとは思えなかった。


だが、オーリスには一つだけ、心当たりがあった。この地下通路から2日ほど行ったところにイヅモの町がある。少し前にアイアンゴーレムを倒すミッションで『斬鉄剣』を使った。『ワンハンドレッドキル』と名付けられたその剣は、イヅモの町で手に入れたのだ。オーリスはその剣を使い、見事にアイアンゴーレムを切り刻んだ。


あまりの豪快な倒し方だったので、人々はオーリスのことを『百人斬りの勇者』と二つ名を与えてくれたのだ。それを可能としてくれた『ワンハンドレッドキル』は、伊勢崎ウェポンディーラーズという中古武器ショップで購入したのだ。


「あの男なら妙案があるかもしれない」


 勇者オーリスは一縷の望みをかけていた。イヅモの町にあるカエル妖精と異世界の青年が経営する店だ。


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