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貧乳同盟

10日ぶりの新作です。今まで3話と4話の改訂ですみませんでした。帰国したので今日から7話の開始です。


 W.D.で2連勝したこともあって、イヅモの町の近隣でも右京の店は有名になっていた。店を出したころには1週間で1人客が来れば上等であったのに、今は1日に何人もの冒険者が店を訪れる。右京は武器の査定と武器の売却で大忙しだ。カイルも武器の修理で忙しく働いていた。


「そろそろ、従業員を雇う時期かもしれない」


 独立起業した時には経費削減のためになるべく人を雇わないということは、鉄則である。だが商売がある程度成長し、やることが増えると今度は人を雇ってサービスのクオリティを落とさないようにしないとそこでもつまずいてしまうのだ。


 今の『伊勢崎ウェポンディーラーズ』も店の経理やら、客への応対、買った武器の保管管理等、やることが多くなってきたのだ。店の掃除にしても毎日ホーリーが来てくれて手伝ってくれているので何とかなっているが、そうでなければホコリまみれの汚い店に成り果ててしまうだろう。


「しかし、この忙しいのにゲロ子の奴、一体どこへいったんだ!」


 査定を待つ客に気遣いながら右京は悪態をつく。何しろ、朝食を食べてから冒険者ギルドへ使いに出たきり、3時間も帰ってこないのだ。ゲロ子のことだ。絶対さぼっているに違いない。店が忙しくなってくるにつれて、ゲロ子の奴が仕事を明らかにさぼり始めている。


「ただいまでゲロ」


 ゲロ子が予想通り、昼飯時に帰ってきた。右京の作った宣伝ポスターを冒険者ギルドの掲示板に貼ってくるという簡単な仕事にも関わらずこの時間だ。


「ゲロ子、お前、今、何時だと思っている」

「12時でゲロ」

「お前は行ったことのある冒険者ギルドへ一瞬で移動できるのだよな」

「そうでゲロ」


 ゲロ子の特殊能力はいろいろあるが、この世界の一般常識を検索できる「一般辞書」と物のおおよその値段が分かる『価格コム』は右京がこの世界に慣れるに連れて役に立たなくなっている。唯一、役に立つのは『一発告知」で行ったことのある冒険者ギルドの掲示板へ行ける能力だが、行先で時間を潰されては意味がない。


「なんでこんな時間になるんだよ。お前なら、ほんの10分でできる用事だろが」


「ゲロ子にもゲロ子のやり方があるでゲロ」

「10分の仕事を3時間かかってやることか?」


「そうでゲロ。ゲロ子はただ単に掲示板にポスターを貼るだけの仕事はしないでゲロ。ついでに冒険者と話したり、持っている武器のデザインを観察したりするなどプラスアルファの仕事しているでゲロ」


「では、聞くがお前のプラスアルファの仕事はチョコレート菓子を食べることか?」


「ゲロゲロ?」


 慌ててゲロ子、口に付いたチョコレートを袖で拭く。絶対お菓子屋でお菓子を食べていたに違いない。


 さらに言うなら、カエルスーツのポケットに劇場の半券が顔を出している。今まで芝居を見ていたに違いない。


「主様はゲロ子を疑うでゲロか? ゲロ子は悲しいでゲロ。ゲロ子は一生懸命働いていたのに、お菓子屋でお菓子を大人買いして全部食べたとか、今、町で流行の喜劇を見に行ったとか、市場をぶらぶらして欲しいものを買っていたとか、あまりに気持ち良い天気なので公園の芝生でつい寝てしまったとかいいがかりをつけるでゲロか」


「いや、そこまで行ってないが、今までのお前の動向はよく分かった。お前、昼飯は抜きだからな」


「それはひどいでゲロ。使い魔虐待で訴えるでゲロ」


「ゲロ子、お前は俺がこの世界へ来て以来、ずいぶん助けてくれたから、今まで大目に見てきた。だが店が忙しくなってきた今、さぼることは許されないぞ」


「ほいでゲロ」


「じゃあ、お前、倉庫に行って在庫を調べて来てくれ。あと、カイルのところへ行ってこの前頼んだ剣の出来具合を確認してくること」


「はいはいでゲロ……。面倒だけど行くでゲロ」


 お尻をポリポリかきながら、いかにも体が重そうに動き出すゲロ子。これではひきこもり女子か干物女子である。


 右京はダンジョンで手に入れたという剣を持ってきた客と商談に移る。ホーリーが見かねてお茶を出してくれたり、客の話し相手になってくれたりしているので、何とかしのげたが、やっぱりゲロ子は倉庫に行ったきり帰ってこない。帰ってきたのは昼ごはんを食べに行くときだった。


「ゲロ子、いつまで在庫チェックしてるんだ」

「たくさん、あるから今まで時間がかかったでゲロ」


「確かに買取り品が多くなったから否定はしないが、それでも100点もないだろうが。チェックに30分ぐらいしかかからないはずだ」


「主様はゲロ子の体の大きさを考慮にいれていないでゲロ」


「いや、それを差し引いても30分はかからないぞ。それにお前カイルのところへいったんかい?」


「ゲロゲロ?」

「忘れたのか?」


 ゲロ子の奴、急に「ゴホゴホ」と咳き込み、腰をトントンとたたき始めた。いかにも年寄りくさい声を出して、


「年をとると物忘れが激しいでゲロ……。主様、なんか言ったでゲロか?」

「見え透いた嘘はやめろ」


「カエル妖精は年をとるのが早いでゲロ」

「嘘つけ」


 右京がゲロ子を捕まえようと手を伸ばすとスーパー瞬間移動でそれをかわす。さらにほうきを持ってゲロ子を叩こうとバンバンと地面に叩きつけるが、前転やバク転をして華麗にかわす。絶対、年寄りの動きではない。


「はあ……。主様、年寄りをあまりいじめると店の評判が落ちるでゲロ」

「じゃあ、お前は年寄りということで、昼はおかゆでいいよな」


「だめでゲロ。今日は肉たっぷりのスープヌードルにするでゲロ。しかも大盛りで食べるでゲロ」


「ゲロ子、お前、年寄りじゃないだろが!」


「あらあら、ダーリン、腹黒使い魔と喧嘩中?」


 いつの間にか店に入ってきた人物がいる。全身、黒いローブで覆い、頭にはトレードマークの黒ウサギの帽子をかぶっている。華奢な体つきに黒い長い髪で女性と分かる。しかし、顔はサングラスとマスクが付けられているから普通に見るなら変質者である。


「クロア!」

「何だでゲロ。その変質者スタイルは発情バンパイアでゲロか」


 バシッ。


 超スピードでその黒ローブの女はゲロ子を叩いた。さっきまで右京の攻撃を華麗にかわしていたゲロ子だったが、まるで仕留められた蚊のようにぺしゃんこになってしまう。


 ただ者ではないその人物は、魔法の道具屋『黒ウサギ亭』の女主人、クローディア・バーゼルである。彼女は強大な力をもつバンパイアで大金持ちの謎の人物である。右京は彼女に何度も助けられたこともあって、この世界では無下にできない恩人なのだ。無論、右京も彼女を助けたこともあったし、代償として血を吸われたから対等の関係であるが。


 ちなみにクロアは右京に好意をもっており、彼を自分の夫にすると公言している。だから、呼び名は『ダーリン』である。右京は無視しているが。


「クロア、何の用だよ」


「ダーリン、何の用って、ずいぶん、冷たいのね。妻が訪ねてきたというのに」


 カラン……と入ってきた人物。神官服に身を包んだホーリーである。ドアを開けたとたん、耳に飛び込んできた『妻』という言葉。笑顔で入ってきたホーリーだったが、目をまんまるにしてホーリーが声のトーンを落とした。明らかに落ち込んでいる。


「右京さま。奥様がいらっしゃったのですか?」

「いや、違うよ。ホーリー、こいつはただの仕事仲間で」


 慌てて言い訳をする右京。なんで言い訳したかは分からないが、きっと、いつも明るいホーリーの笑顔が消えたことに何とかせねばと思ったのだ。だが、その行動はもう一人の女子の機嫌を損ねる。


「あらあ、ダーリン。しばらく合わないうちに若い娘とお付き合いしているのかしら。しかも、神官の女とはクロアに対する挑戦と受け取っちゃってもよいのかなあ~」


 そういうとクロアはサングラスとマスクを取る。黒いローブを広げて口を開いた。いつもの人間を脅すスタイルだ。


「ちょっと待て!」

「うきゅっ」


 空手チョップでクロアをたしなめる。潰れた黒ウサギの帽子を抑えるクロア。ホーリーはというと、胸のアミュレットを握りしめて聖なる力を解放しようとしている。クロアがバンパイアだと感じて、神官らしく対抗手段をとろうとしたのだ。


「ホーリーも待て」

「右京さま、その方は危険ですよ。バンパイアは強力な魔力の持ち主なのです」


「ホーリー、こいつは良いバンパイアだから。そもそも、この世界では悪いバンパイアはいないのだろう」


「はい。神官任用試験にありました。昔は悪いバンパイアもいたそうですが、人間のために戦ってくれたパンパイアさんたちがいて、今は社会に受け入れられている種族です」


「じゃあ、そのアミュレットをしまって。クロアはそういうの苦手なんで」


 クロアがホーリーの前に立つ。顔はニコニコしているが、右京の背筋は凍り付いている。でも、ホーリーも負けてはいない。貧乏で鍛えた雑草力は強いのだ。


「状況的には妻と愛人の対決の構図でゲロ。ここへビッチ戦士が加わったら面白いでゲロ」


「おい、ゲロ子、復活して適当なことをいうなよ」


「初めまして、右京の妻のクローディアです」

「こちらこそ。右京さんの彼女のホーリーです」


(あの、ホーリーさん?)


 あの大人しいホーリーにしては大胆な発言である。だが、そのきっぱりとしたものの言いようが逆に真実味を増して、思わずクロアもたじろいだ。しかし、そこは妻と言い張って既成事実を作ろうと画策しているクロアだから、ホーリーの心情も理解できた。ホーリーも自分と同類だと感じたのだ。


「ダーリンはクロアの命の恩人なの。つまり、それだけクロアのことを愛しているの」


「それはわたしも同じです。右京さんがいなければ、今頃、わたしは身も心もボロボロにされて死んでいました。右京さんはわたしの神様です」


 やばい。これはとってもやばい状況である。自分を取り合って争う2人の美少女。男なら夢にまで見るシチュエーションだが、実際は修羅場というのはこういうことである。だが、誤解がないようにしてもらいたいのだが、右京は二人に手を出したことはない。


「ダーリン……ちょっと、来なさい」


 クロアは右京の腕をつかんで店の隅に連れて行く。バンパイアの怪力で掴まれては右京もどうすることもできない。


「ダーリン、ああいうのがタイプなの?」

「タイプって、ちょっと待てよ、クロア」


「ダーリンに忠告しておくけど、清楚で真面目で一途な女は、あとが怖いよ」


(いやいや、お前の方が怖いよ。血を吸うし、怪力だし、バンパイアだし)


「まあ、いいや。よく見ればホーリーは、クロアとよく似たタイプだし、性格は悪くなさそうだね。ここはお互い、休戦としましょう。これで巨乳のバインバインが出てきたら、共同戦線張らなきゃね」


 そんなことを言ってクロアがそっと右手を差し出した。ホーリーも平和を愛する愛の女神イルラーシャを祭る神官だ。争いごとを良しとはしない。そっと手を差し出し、クロアと握手をする。


(貧乳同盟の成立だ)


「主様、面白いので、キル子を呼んでくるでゲロ」

「やめろ、ゲロ子。それだけは絶対にやめろ。最後の審判が発動する」


キル子が来たら巨乳VS貧乳戦争でゲロ。

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