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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第6話 革新のスピア(ロケッツ オブ ジャベリン)
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2つのラストアタック

 ゴオオオオオオオッツ……。

 

 鎧竜は大きく息を吸い込んだ。そして、それを一気に吹き出す。突風とともに大小の石つぶてが飛び出す。それはまるで弾丸のように勢いよく、ターゲットめがけて飛んでいく。


 バーチャルでなく、本物の鎧竜が使う攻撃技『石つぶて』だと当たれば、致命傷になる強攻撃である。だが、今は攻撃力がかなり低下したバーチャルモンスター。死ぬことはないが、代わりにポイントが削られることと、パンチを食らった程度の衝撃を体に感じる。


「ちなみに鎧竜の石つぶては胃に溜まった石を吐き出しているでゲロ。キモイでゲロ」


 ゲロ子の解説によると、鎧竜は岩を食べる習性があるそうで、それにより攻撃に使う石を腹に貯めておくのだという。変わった習性のあるモンスターである。


 キル子と瑠子は距離を置いて、石つぶての攻撃を避けるが、このままでは鎧竜への攻撃ができない。


「これは想定のうち。今こそ僕が設計した武器の真価が発揮される。瑠子さん、スクリュードライバー発動」


 エドがそう瑠子に叫んだ。瑠子はそれを聞いて頷く。すぐさま、槍の柄に仕込まれた突起を押す。すると槍の柄と穂先の境目に取り付けられた金具がストンと柄じりに落ちた。そこで固定される。槍の柄が両先端でオモリをつけたような状態になる。


「風圧の盾、スクリュードライバー発動!」


 瑠子がバトンを回すようにクルクルと槍を回し始めた。それは高速で回り、飛んでくる石つぶてを弾き飛ばす、鉄壁なシールドとなる。それで鎧竜の『石つぶて』攻撃をはね返し、至近距離まで近づくと瑠子は攻撃に移る。


「瑠子が『爆撃女学生』って言われている理由を教えてあげるわ!」


 瑠子が槍を回転させると穂先が付いていない方を鎧竜に突き立てた。ボコっと硬い皮膚がへこむ。さらに4連発が続く。そしてひっくり返して今度は穂先を突き立てる。その衝撃で鎧竜が爆発の余波で吹き飛んだように転がったではないか。そう、瑠子の特殊攻撃は、衝撃波の爆風で目標を吹き飛ばすことができるのだ。


 巨大な鎧竜は瑠子の攻撃に飛ばされて転がる。その攻撃はまさに「爆撃」の言葉がふさわしいものであった。このクリティカルヒットで瑠子に500ポイントが加算される。これでキル子をポイントで一気に引き離す。だが、鎧竜の戦意はまだ失われていない。体を起こすと力を振り絞って石つぶてで反撃する。


 有効打を与え続ける瑠子に対して、キル子の方は石つぶての攻撃で、近づくことができない。それでも死角をついて近づき、鎧竜が息継ぎをした瞬間を見逃さず、攻撃を加える。だが、散発的な攻撃しかできない。


「勝負あったですな。ロケットの槍は手数で勝負するタイプの武器。霧子君は連続攻撃ができないとポイントは稼げない。それに比べて、瑠子君の革命の槍は一撃のダメージが大きいからポイントが稼げる」


 審判の一人、カルロ市長はそう言って都で人気の女騎士の動きを見る。攻撃を弾き飛ばして、強烈な一撃を加えるその華やかな姿に思わず見とれてしまった。

さすがに都で人気急上昇中の女騎士である。


「それに瑠子選手の完璧な守りから、一転して繰り出される攻撃方法はポイントが高いですな。まさに攻防一体の極致」


 そう武器研究家のフランソア伯爵が解説を行う。これは瑠子の技量もさることながら、両端にオモリを置くことで、回転運動を増している武器への工夫に対する称賛である。


「それにしても、あれだけの攻撃を加えているのに、革命の槍の切れ味は全く変わらないのはなぜだ?」


「確かに、いくらエルムンガルド製とはいっても、あれだけ固いウロコに突き刺せば、武器でダメージが蓄積する。斬れ味が鈍るのが道理」


 市長と伯爵。二人の審判の疑問にエドが答える。


「それはですね。あのスピアヘッドにはコーティングがしてあるのです。1分もあれば自動修復で元に戻るコーティングです」 


 エドの手には液体の入ったガラス瓶がある。それは不思議な光沢を出していた。この液体を塗って焼付けすると少々の欠けた刃も元に戻るという優れものだ。


「なんと、素晴らしい。そんな性能があるとは……」

「修復完了まで1分あれば十分です。常に新品同様の性能に戻りますよ」


 驚きの声を上げたカルロ市長にエドが解説を続ける。槍を回して盾のように扱って攻撃をかわしているうちに、自動修復が完了して斬れ味抜群の状態に戻るのだ。戦術的にもかなっている。


「そういうことなら、もっと不思議なことに気がつかないか?」


 先程から黙ってキル子の戦いぶりを眺めていたエルムンガルドの長老ギルがそう言って2人の審判に指を指し示して説明しだした。


「もう片方の槍は未だに斬れ味を保っている」

「確かに……」


 鉄よりはマシといっても鎧竜のウロコは固い。普通の刀では10度も斬りつければ、いっきになまくらになってしまうだろう。それなのに最初と変わらない斬れ味を保っているのだ。



「一挙に形成逆転ですね、会長」


 アマデオは一挙に形勢が逆転してほっとした。審判の心象もよさそうだ。今回は圧勝の予感がしている。だが、父であるディエゴは険しい顔を崩さない。武器を作ったエドもだ。


「エド君、気がついたか?」

「はい、会長」


「霧子君の槍もコーティングがしてあるのだろうか?」


「いえ。コーティングの技術は僕のオリジナルです。それにあちらさんは、片時も休んではいません。石つぶての攻撃で近づくのが容易ではなくなりましたが、それでも1分以内には攻撃を続けています」


「では、なぜ、あれだけの攻撃が続けられるのだろうか」

「わかりません」

 

 確かにキル子は連続攻撃の手段は失ったが、瑠子の攻撃の隙をついて、瞬時に近づき、攻撃を加え続けていた、それによって鎧竜の耐久力が徐々に削られていることは誰の目にも明らかであった。有利なことには違いないが、ディエゴもエドも、右京が工夫して仕上げた『ロケットの槍』がまだ、とんでもない隠し球をもっている予感がしていたのだ。


「瑠子くん、一気にフィニッシュだ!」


 ディエゴは不安を払拭するために、今ここで決めるべきだと思った。良い印象で終えればこちらの勝ちは動かないだろう。これ以上、時間を伸ばすと相手側の出方が読めないだけにまずいと判断したのだ。


 この判断は当の瑠子も同様であった。ここで鎧竜にトドメをさせば、印象からして圧勝できるはずだと思ったのだ。


「霧子ちゃん、残念だけど今回は私の勝ちよ。今までの恨みはらすからね!」


 そう言うと30m後方で攻撃の機会を伺っている霧子をちらっと見た。自分はスクリューシールドで石つぶて攻撃をかわせるので、近い位置で攻撃態勢がとれるのだ。瑠子は槍を両手でギュッと握り、肘を絞った。


 瑠子は本業は騎士なのでレイピアを主武器としている。槍は馬上で使うときに使用するから、両手で使うことはない。ショートスピアかランスを馬の突進力を使って使用していた。今は馬がない。女性の力だけでは強力な突進力には限界がある。


「だが、このレボリューションスピアは、それをすべて解決する」


 エドはいよいよ、最後だと感じて立ち上がる。この10秒、今からの10秒で勝敗は決まる。攻撃が終われば、間違いなく勝利の瞬間が自分に訪れるはずだ。


「覚悟しな! とりゃあああああッ!」


 瑠子の突進がスピードに乗る。そして、突き出した槍が鎧竜の心臓部分に当たる。硬いウロコに穂先が突き刺さる。


「ここ!」


 瑠子は手元のボタンを押す。槍の柄が突然伸びた。エドが考案した槍の柄は中は空洞になっていて、そこに第2の柄が仕込まれていたのだ。ジャンプ傘の要領でそれが飛び出し、さらに穂先が内部に食い込むのだ。それはバネによる瞬発力で打ち出される力。瑠子の突進力と相乗効果を発揮する。さらに瑠子はボタンを押す。伸びるのは2段階あるのだ。


「この一撃で心臓を串刺しにする!」 


 ギエエエエエエエッツ……。


 すさまじい咆哮と断末魔の叫びが会場を覆う。瑠子の攻撃が心臓まで達したと誰もが思った。だが、鎧竜は最後の力を振り絞って体を左右に激しく降る。それに瑠子は振り回される。体に槍が突き刺さったままだ。



(そんな、心臓まで数センチ、わずか数センチ届かなかったというの?)


 瑠子がそう思ったとき、背後にプレッシャーを感じた。霧子のオーラだ。攻撃的なオーラが押し包み、自分の呼吸を乱す。


「キル子、投げるでゲロ」

「いっけ~っ! キル子」


 キル子は『ロケッツ・オブ・ジャベリン』を右手でもち、仁王立ちに立っている。槍から込上がってくるエネルギーが、自分の体を火照らせ、プルプルと体が快感に打ち震える。


(ああ……。なんだ、この感覚は……右京の武器を使うと、どんどん体が開発されてしまうよ……。一体、あたしはどうなってしまうの)  


 キル子はトロンとした目でターゲットを見る。目の前にはとどめを刺しきれず、最後の抵抗を試みている哀れなモンスターがいる。ひと思いにとどめをさしてやる。それが慈悲である。


 キル子は、槍を片手で持つと引っ掛ける金具に指を入れた。パチンパチンと音がして、槍のウィング部分が外れる。それがカランと音を立てて、地面に落ちた。同時にキル子は、美しい体をしならせる。キル子の健康美にあふれる褐色の肌が躍動した。


「あううううううっ……」


 ロケッツ・オブ・ジャベリンは投擲された。指先から槍の感触がなくなった瞬間。キル子の中で何かがはじけた。頭が真っ白になり、フィニッシュ。槍は美しく放物線を描き、スローモーションのように鎧竜の肩口から刺さり、貫通して地面にまで達した。鎧竜は地面に縫い付けられ格好で動きを完全に止めた。


「あああああああっ……。だめええっ。キル子、き・も・ち・い……い」 


 投擲を終えたキル子は体が軽く痙攣し、思わず甘い吐息を上げた。汗で濡れた髪がべっちょりとピンクに染まった頬にくっついた。そして、そのまま、腰が抜けてへたりこんだ。


 それと同時に鎧竜の体がガラスのように粉々に砕けて消えた。5000のヒットポイントが0になり、幻想が解けたのだ。




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