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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第6話 革新のスピア(ロケッツ オブ ジャベリン)
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ロケットの槍

「今回のウェポンデュエルのテーマは『槍』です。それぞれが価格4000G以内に抑えた品となっています。この戦い後、それぞれ購入が可能です」


 そう言ってうさぎのお姉さんが指し示す。そこには2本の槍が刺さっている。2本とも異様な輝きを放つ槍だ。その異様さに観客も思わず押し黙る。


「右側が伊勢崎ウェポンディーラーズが出品する槍。名前を……えっと」


 うさぎのお姉さんがメモを確認する。長い名前なので自信がなくなったのだ。


「ロケッツ・オブ・ジャベリン」


 ロケットのように飛ぶ投げやりという意味だが、これは観客には理解できなかったようだ。それでも不思議な言葉にどよめきが起こる。


「左はバッジョグループが出品する槍。名前は『レボリューションスピア』」


おおおおおおっ……。


 これも大層な名前である。『革命の槍』と訳すべきか。


「名前負けしそうな槍でゲロな。2つとも」


 ゲロ子のコメントが胸に刺さる。(ちょっと、格好つけすぎたか?)だが、右京は信じていた。自分が今回出した槍は、キル子の手によってロケットのような超高速攻撃でターゲットを仕留めるはずだと。


「2人の相手はレベル8に調整した鎧竜です。固いウロコをもつ強敵です。2人の可憐な女性がどう戦うでしょうか。それでは、レディ・ゴー!」

 

 うさぎのお姉さんが叫ぶと同時に、幻想士が鎧竜を召喚する。ヒットポイントは5000。キル子と瑠子はそれぞれ1500ポイント。鎧竜のヒットポイントを0にした地点で判定となる。


「いくぞーっ!」


 キル子が『ロケッツ・オブ・ジャベリン』を手に取った。その瞬間、足元からすさまじい突風が吹く感覚にとらわれる。あまりの突風に着ているものが全て剥ぎ取られるイメージ。


「あああん……。体が……体が生まれたままの姿になっちゃう~っ」


 そして生まれたままのキル子の体はその突風に舞う。全裸のまま、海老反りで天高く打ち上げられる。雲を突き抜け、はるか上空。ついには成層圏まで打ち上げられる感覚。その感覚のまま、キル子は一歩を踏み出した。いつもの一歩とは違う。超高速の突進チャージの一歩である。


「やるわね。霧子ちゃん。でも、瑠子も負けないわ」


 瑠子・クラリーネも用意された槍を握る。ずっしりとしたその感触は、まるでどっしりとした山。膨大なエネルギーを地下に宿した火山。瑠子が両手で握って構えた時に、その火山が爆発するイメージにとらわれる。爆発の衝撃で瑠子の着ている制服が吹き飛び、こちらも脳内ではけしからん格好になった自分を見る。


「あ、熱い……体が熱くて……瑠子、我慢できない。霧子ちゃん、この体の火照りを消せるのはあなたに勝利した暁の美酒のみ」


 瑠子も後に続く。一直線に召喚された鎧竜めがけて、二人の戦士が突進する。そのスピードはほぼ同じ。ということは、瑠子はキル子と同じ戦闘スタイルということだ。二人共、鎧竜の攻撃を紙一重でかわすと、強烈な一撃を与える。2本の槍とも鉄のような固いウロコをもつ、鎧竜を突き刺した。


「あああああっ。両選手の攻撃がヒットしました! 霧子選手、20ポイント、瑠子選手35ポイントゲット~っ」


 ダメージを受けて苦しむ鎧竜が激しく体を動かす。それをたくみにかわしながら、攻撃を続ける二人の女戦士。強力な手足によるなぎ払い、尻尾による強烈な攻撃を軽く、バックステップ、サイドステップでかわすキル子と瑠子。


「あの固い鎧竜のウロコをあのように簡単に突き刺すとは、両方共素晴らしい武器ですな」


 そうカルロ市長がフランソワ伯爵とギル老師に感想をもらす。言われた2人も頷かずにはいられない。召喚されたモンスターが鎧竜ということで、その固い防御力をいかに突破するかが、第1関門である。両方の武器共、それは難なくクリアであろう。


「革命の槍の方は、エルムンガルド製ですね。聞けば、ギル老師の甥っ子が製作したと聞きますが」


 フランソワ伯爵がそうギル老師に話を振ったが、ギル老師はそれには答えない。それよりも、もう片方のキル子が扱う槍に目が釘付けである。斬れ味は甥のエルムンガルド製に遜色ない。


「ダメージの大きさから言うと、革命の槍の方に分がありますね。槍の形状が複雑で、抜くときに周辺の肉を斬り刻むことで、ダメージを倍増している。瑠子君の速さの相乗効果で長期戦になれば、有利になろう」


 そうフランソワ伯爵が予測をしたが、老練な武器職人は違う見解を持っていた。それは瑠子とキル子の戦い方を分析しての判断であった。


「伯爵殿。この戦い、使い手にどれだけ合っているかで決まろう。霧子選手の槍も斬れ味は引けをとらんよ」


 ギル老師がそうつぶやいた。まさに目の前でキル子が超高速の連続攻撃を発動したのである。『ロケットの槍』の槍の方はまるでケーキにナイフを突き刺すように、ザクザクと突き刺さる。


「霧子ちゃん、腕を上げたね。だけど、瑠子も高速攻撃じゃ負けないよ」


 瑠子もすかさず、連続攻撃に移る。だが、瑠子の攻撃も速いが霧子に一歩及ばない。キル子が1秒で3回突きだとすると、瑠子は2回にとどまるのだ。手数の点で及ばないのだ。


「そ、そんな! 瑠子が負けるなんて」


 瑠子にはその事実が理解できない。自分が勝ることがあることはあっても、劣るなんて夢にも思わない。この差は武器の違いである。


(そう……。軽さで向こうに分があるだけ。ならば、こちらは与えるダメージで差を埋める。埋めるどころか、差を広げるわ!)

 


 両者の攻撃が激しさを増すが、鎧竜も一方的な展開を許さない。渾身の力を込めて、大きな尻尾でなぎ払ったので、霧子も瑠子も体ごと吹き飛ばされた。風圧だけで10mほど飛ばされてた。二人共、きちんと受身を取って地面を転がったので、ケガはしない。すぐさま、立ち上がって次の攻撃に備える。


 直接のダメージではないため、失ったポイントはわずかだが、今の攻撃でポイントは霧子が36。瑠子が32であった。攻撃が止んだのでここまでの与えたダメージの集計が行われる。


「おっと、最初の攻撃は霧子選手に軍配。1回辺りの攻撃は、瑠子選手の槍の方が上でしたが、スピードで霧子選手が勝ったようです」


 うさぎのお姉さんが解説する。観客の声援が沸き起こる。


「ヤッタでゲロ。キル子はすごいでゲロ」


「ああ。武器を自由自在に扱っている。彼女用にカスタマイズしてあるからな。キル子の能力を100%引き出している」


 右京もこれは勝てると確信した。このまま、ヒット&ウェイを続ければ、鎧竜は倒れ、ポイントを引き離す。それに審判の印象も間違いなく上だろう。


「パパ……じゃなかった、会長、このままでは……」


 アマデオは思わず腰を浮かした。『革命の槍』は攻撃力の点で「ロケットの槍」を上回るが、手数で負けている。見た限り、霧子と瑠子の腕前は互角であり、差は連続攻撃の差となる。このまま、続けばどんどん差が開くだけだ。


 だが、父親であるディエゴは余裕の表情だ。武器を制作したエドも同じである。慌てた様子がない。


「選手に優越はない。霧子選手も瑠子選手も武器の性能を充分引き出している」


 カルロ市長はそう分析している。2人の選手の能力は互角である。いや、むしろ、瑠子の方がV.D.(バーチャルデュエル)に慣れている。これは霧子が武器ギルドのデモンストレーターをやめて、ここ数カ月、V.D.に出場しなかったことと関係している。それなのに、スピードで霧子が圧倒しているのだ。


「武器の差ですな」


 フランソワ伯爵は武器の博士である。両方の槍の形状に注目していた。『革命の槍』の方は鋭角な先端から流れるようにカーブし、切っ先の根元はギザギザに刻まれている。突き刺すとギザギザが引っかかって抜けにくい構造だ。


 その分、刺したところを破壊するが、深くさせば刺すほど、ブレーキがかかる。それに比べて、『ロケットの槍』の方は穂先から緩やかに膨らんで、根元に向かってしぼんでいる。どこにも引っ掛かりがない分、刺してもするりと抜ける。


「それにあのストッパーが連続攻撃の工夫じゃ」


 ギル老師が指を差す。キル子が持つ槍には2本の突起がまるで羽のように突出している。いわゆるウィンドスピアのような形状をしているのだ。そのおかげで必要以上に槍が刺さらないのだ。刺しては抜き、すぐさま刺す。キル子の連続攻撃を容易にしていたのだ。


「だが、鎧竜の力もこの程度ではない」


 鎧竜が吠えた。すさまじい、咆哮に2人の女戦士は思わず立ちすくむ。しかし、これは鎧竜の反撃の合図である。



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