断罪レディVS爆撃女学生
いよいよ、W.D.開始!
ついにW.D.(ウェポンデュエル)の日がやって来た。ウェポンデュエルは週に2回開かれるバーチャル・モンスターと人間の対決ショー、いわゆるV.Dの一種で、武器の性能を比べる競技である。
幻術士によって召喚されるモンスターは本物と同じ攻撃をしてくるが、ダメージは軽減され、戦う戦士のあらかじめ決められたヒットポイントを削る。戦士は武器で攻撃して、モンスターのヒットポイントを削るのだ。
どちらかのポイントが0になった時点で勝負が決まる。W.D.の場合は、武器の優越を決めるのでどちらの武器が効果的であったかという観点で勝負を決める。これは多くの観客が見ているので、見た印象と実際に削ったポイントで勝敗が決定されるのであるが、今回はタッグ戦ということでポイントと合わせて3人の審判のポイントによって決まることになっていた。
「タッグ戦では、奪ったダメージの大小による優越で1ポイント。そして3人の審判の判定ポイントの合計で決まるでゲロ」
「ということは、ゲロ子。ポイントで勝っても3人が支持したら負けということか?」
「そうでゲロ。つまり、審判のおっさんたちに認められないといけないでゲロ」
観戦のために特別席に座る右京と肩に座るゲロ子。間もなく、対戦相手であるディエゴ会長とアマデオ、そして背の低いヒゲを生やした青年がやって来た。
「右京君。私は今日を楽しみにしていたよ。君がどんな素晴らしい武器を持ってきたかね」
「余裕があるでゲロな、おっさん」
「ゲロ子、ギルドの会長さんだ。言葉を慎めよ」
右京はゲロ子に注意をする。本日対戦するとはいえ、ディエゴが紳士的でフェアな戦いをする人だという認識があった。
「君が中古武器屋の伊勢崎右京さんか」
背の低い青年が右手を差し出した。ニコニコしている。がっしりした体格は別種族であることを感じさせた。
「僕はドワーフ族のエドモンド・バナージ。エドと呼んでください」
「エド……」
ドワーフ族と聞いて右京はある武器の有名生産地を思い出した。そうあのブランドだ。
「ふふん。きっと、右京さんはエルムンガルドという名前を頭に思い浮かべているよね」
右京は頷かざるを得ない。それを満足そうに見るエド。
「そう。僕はエルムンガルドから来たのです。今回の武器は僕が作ったのです」
「エ、エルムンガルドの武器職人?」
「職人じゃないよ。武器デザイナーと呼んで欲しいですね。右京さん、残念ながら、あなたの武器では勝ち目は万に一つはないですよ」
そう言ってエドは右京に片目をつむった。その表情には自分が負けるなんていう不安は一片もなかった。
「というわけさ。右京、どうやら、今回はパパの前に負けるしかないようだな」
アマデオが父親に聞こえないように右京にボソボソと嫌味を言う。この男、あまり成長していないようだ。
「ゲロゲロ……。あの~。この坊ちゃん、まだ反省していないみたいですけど~ゲロ」
大きな声でゲロ子が言うので、ディエゴがアマデオを睨んだ。小さくなるしかないアマデオ。右京たちが座ると会場に向かってアナウンスが始まる。今日も大入り満員である。特に出場する選手が、『断罪レディ』こと霧子・ディートリッヒと都で人気上昇中の『爆撃女学生』瑠子・クラリーネだったから、会場は大興奮である。
「それでは会場の皆様、本日のメインイベントを開催します。今夜のメインイベントはW.D.(ウェポンデュエル)です。武器の提供は、バッジョグループ及び伊勢崎ウェポンディーラーズです」
いつもの如く、夜のうさぎの格好をしたお姉さんが司会を務める。このお姉さんも観客には大人気のお姉さんだ。
ワアアアッ……。大きな声援が送られる。武器提供者である右京とディエゴへの歓声だ。二人共、歓声に応えて立ち上がる。右京が手を上げるとそれだけで歓声が一段と高くなった。これだけで、右京は成果があったと思った。伊勢崎ウェポンディーラーズの名は広まるだろう。
「それではバーチャルモンスターと戦う戦士をご紹介いたします」
ワアアアアアアアッ……。歓声がさらに高まる。闘技場が壊れてしまうのではないかというビリビリした感触だ。
「まずは赤コーナ。伊勢崎ウェポンディーラーズ所属、デモンストレーター。霧子・ディートリッヒ!」
紙吹雪が舞う。キル子の奴、やっぱり人気者である。一部の熱いファンは一斉に霧子を称える踊りをしている。これによって相手は呪われて自由に動けなくなるというのだ。
歓声に手を挙げて応えるキル子。
「青コーナ。バッジョグループ所属、デモンストレーター。瑠子・クラリーネ!」
「る・こ・る・こ・る・こ・る・こ~」
これまた瑠子コールが巻き起こる。遠くは都から駆けつけたファンが会場の一エリアを占拠し、これまた瑠子を称える踊りを負けじと披露する。
「あらあ……。ひ・さ・し・ぶ・り」
「る、るこ! やっぱり、お前だったのか」
「霧子ちゃん。瑠子・クラリーネと言ったら私しかいないじゃない」
瑠子はそう言ってパチっと目を閉じた。いつもの女学生用の制服に簡単な胸当てをしている軽装。これから戦うという扮装ではない。キル子の方もいつもの格好。革の胸当てに超ホットパンツにブーツ。今回はショートブーツなので長いむっちりした生足がよく見える。へそが出ているのもいつもどおりだ。こちらも戦う格好かと言われるとちょっと困る。
「相変わらず、男を誘惑するビッチね」
「そういう瑠子。お前もいい加減に制服は辞めたらどうだ。もう20代なんだし」
そうキル子が言うと瑠子はキリッと睨みつけた。
「霧子ちゃん。瑠子はあの時の恨み忘れていませんからね」
「う、恨みって……」
キル子は瑠子にこう言われていつも思う。なんて執念深い女だと。だが、この女の実力はバカにできないとキル子は思っていた。見た目と違い、すさまじい攻撃力を発する技術と身体能力は侮れないのである。
「それではルールを説明します。今回はタッグ戦。モンスターに対して2人で挑みます。モンスターに与えたトータルダメージが表示されます。勝負はこのモンスターに与えたポイント。そして、効果を判断する3人の審判の判定で決めます。審判は武器の性能、効果、そしてトドメを刺した武器を判断して決めます」
「つまり、審判の判定で決まるでゲロ」
右京の肩に乗るゲロ子がそうつぶやいた。確かにポイントでは対した差はつかないと右京も思う。審判に支持されれば逆転できる。これだけで勝負は決まるといえよう。となると、審判がどういう人か気になる。うさぎのお姉さんは、その審判の名前を紹介する。
「審判をご紹介します。まずは、イヅモの町の市長でいらっしゃいます。カルロ・リベラ氏」
カルロ市長は都からやって来た男で元冒険者。長年の経験で武器の扱いについてはプロである。さらに2人目の審判が紹介される。白ひげのダンディな紳士だ。胸に白いバラの花を付けている。
「2人目は武器コレクターで有名なフランソワ伯爵様。都の大学で武器学の教授もされております。武器の歴史、性能に詳しい専門家です。そして3人目」
3人目の名前を聞いて、エドが思わず立ち上がった。予想外のよく知っている人物の名前が上がったからだ。
「ギル・バナージ氏。あのエルムンガルドの武器組合を束ねる長老さまです」
ヒゲを蓄えた威厳のあるドワーフが立ち上がった。
「ディエゴ会長。これはどういうことですか? 伯父貴がどうして審判なんて」
「審判については、運営側に委ねてある。私が恣意的に選ばないようにね。そして、この人選は両方にとっては平等だと思うがね」
そうディエゴは右京を見て言った。審判に細工をしたらこの勝負は成り立たないのである。だが、エドにはちょっとこだわりがあった。伯父のギルとは剣の作り方で対立する間柄だったのだ。まあ、伯父は対立するからと言って目が曇るような男ではないにしても、エルムンガルドに革新を起こしたいエドに対して、保守的な考えの叔父とは相容れないのだ。そんなエドの哲学に沿った今回の武器を叔父が気に入るだろうか。
(いや、これは逆にチャンスかもしれない。僕の新しい考えが将来のエルムンガルドを作ってくのだと、あの頭の固い叔父に思い知らせてやることができる)
エドはそう思うことにした。今日、多くの観客がエドが作った武器に驚くはずだ。叔父もそれを見て古い考えを捨てるだろう。




