キル子のワンポイント?アドバイス
あ~。帰ってくるのが遅くて更新ができませんでした。
遅くなってすみません。
ディエゴが去った後、右京は考えた。今回は『槍』の対戦である。槍にはどんな種類があるか、ゲロ子の『一般辞書』を検索しておさらいをする。
『槍』は人類が武器として使用したものの中で、古い部類に入る武器だ。古くは木の枝を削っただけというものから、鉄が発明されると長い棒の先にくくりつけて使う等、文明の発達とともに進化してきた武器だ。
槍の利点は剣よりも攻撃到達距離が長いことであろう。これは人間よりも身体能力の高い猛獣と戦う際には、攻撃力と同時に身を守ることにつながり、また、戦争においては集団で隊形を組むことで、騎兵の突進力を無効化することができた。
槍に分類される武器は大きく2つに分けられる。スピア類とポールアーム類である。スピア類は刺殺に特化した武器で槍の原点であるのに対し、ボールアーム類は長いという特性を生かして、様々なデザインのものが発明されていったのだ。
「槍というカテゴリーでの勝負だが、W.D.で勝負するとなると武器の種類も限定されてくるよな」
「ゲロゲロ……。主様、買い取る武器は対戦するモンスターに有効なものを考えるでゲロ」
対戦するモンスターは鎧竜と指定されている。鎧竜はレベル8。なかなかの強敵である。硬いウロコに覆われ、それが騎士の鋼鉄の鎧のようなところから命名されている。体長は15mに達し、4つ足歩行をする。頭までの高さは2m弱というところだ。魔法使いを含む冒険者パーティが総力戦で倒すならば、少々手ごわい敵というところで落ち着くが、戦士単独となるとかなり厳しい戦いを強いられるだろう。
「キル子の意見を聞いてから、手に入れる武器を探すとしよう」
キル子の本名は『霧子・ディートリッヒ』。女戦士をやっている。右京が買い取ったバスタードソードをリニューアルした『ガーディアンレディ』の持ち主で、今は伊勢崎ウェポンディーラーズの専属デモンストレーターをやっている。まあ、専属といっても今までは出番はなかったのだが。
彼女の本業は冒険者で、このイヅモの町を拠点に依頼を受けて報酬を得て暮らしている。普段は町のホテルに滞在して、冒険者ギルドと右京の店に出入りしている。右京はゲロ子を使いに出す。
「えっ! 右京が呼んでるって?」
「1ヶ月後にW.D.があるでゲロ。キル子の力を借りるでゲロ」
ゲロ子がキル子の滞在する町の高級ホテル『リタ・ゾルテ』に足を運んだ。ちなみにゲロ子は行ったところへは瞬時に移動できるチート能力をもっている。
『リタ・ゾルテ』は1泊50Gはする高級なホテルで、一介の冒険者に過ぎないキル子にしては贅沢な滞在先だ。『断罪レディ』と称される女戦士だ。これまでの稼ぎがあるのだろう。
「仕方ないなあ……。あたしがいないと右京はダメだからなあ。とても忙しいけど、付き合ってやるか」
何だかウキウキしているキル子。ゲロ子はそんなキル子を冷ややかな目で見ている。
「忙しいのなら、主様にキル子は無理というでゲロ。無理に来てもらう必要はないでゲロ」
そう言って去ろうとするので、慌ててキル子は引き止める。もちろん、これはゲロ子の作戦。それに気づかず、ゲロ子の嫌がらせにすぐ乗ってしまうキル子。
哀れだ。
「ち、ちょっと待て。無理じゃない、付き合ってやると言ってる」
「付き合ってやるとは恩着せがましいでゲロ」
「すみません。行かせてください。キル子は右京様のデモンストレーターです。呼ばれたら、すぐ行きます」
「最初からそういえばいいでゲロ」
調子に乗ってふんぞり返ったゲロ子にバシッっとキル子の平手が打ち付けられた。ゲロ子はテーブルの上で目を回して倒れる。
「よく考えたら、使い魔のお前に謝る必要はない。右京はあたしがいないとダメなんだから」
キル子はウキウキしながら、クローゼットを開けてお気に入りの服を選ぶ。
いつも着ている露出高めのスタイル。ショートパンツに上半身は水着のような出で立ちでこぼれ落ちそうなバストを覆う。ショートパンツが白なので上は目の覚めるようなブルー。これにショートブーツという出で立ちだ。キル子の健康的な褐色の肌によく似合う。
「相変わらず、主様を悩殺しようという邪な色気でゲロ」
復活したゲロ子がキル子の着替えを眺めて嫌味を言う。一言多いカエルである。
「うるさい。あたしはいつも動きやすい格好が好きなんだ。別に右京に見てもらおうと思っているわけじゃない」
「じゃあ、もっと地味な服にするでゲロ。でかい乳をさらすなでゲロ」
「うるさい! カエルは黙っていろ」
そう口喧嘩をしながらも右肩にゲロ子を乗せたキル子が右京の店にやってくる。もしかしたら、この二人、本当は仲がよいのかもしれない。そんな感じで口喧嘩しながらやって来る。賑やかだから、店の中にいても右京はすぐ分かった。
「やあ、キル子元気だったか?」
「あ、ああ。右京。久しぶり」
キル子はそう言ったが、昨日の昼ごはんをフェアリー亭で一緒に食べている。ゲロ子と食事をしていた右京を見つけて、強引に同じテーブルに相席したのだ。だから、久しぶりというのは、ちょっと嘘である。
「ゲロゲロ……。キル子、今朝も店の前でウロウロしてたでゲロ」
「そんなことしてはいない」
「朝からショーパンにビスチェなんて、いやらしい格好はキル子しかないでゲロ」
「うるさい! それはたまたまだ。朝のランニングをしていただけだ」
さっきのゲロ子とのやり取りに戻る。ちょっとストーカーになりかけのキル子であった。そんなキル子の想いは全く感じない右京。淡々と今回の仕事の依頼をする。黙ってこれまでの経緯を聞いていたキル子であったが、そこはベテランの女戦士。専門家としてもアドバイスを口にする。
「冒険者が槍を選ぶ場合、どんな戦闘を予想して選ぶか想像したことあるか?」
「う~ん。剣じゃなくて槍だろ。槍は長いから広い場所での戦闘が向いているかな」
「そうだ。だから、ダンジョン戦では普通持っていかない。槍を使うのはフィールド戦。ターゲットは大物の場合かな。あとは人間同士の戦争の場合だ」
槍は戦争によって発達した歴史を持つ。密集体型を組んだ槍兵の軍団は、時に世界を支配した民族によって率いられた。古代ギリシアでは、長槍と丸い楯を装備した重装歩兵の戦闘隊形がある。『ファランクス』というが、ハリネズミのような戦闘隊形は正面に対して圧倒的な強さを見せた。ちなみに兵士が持っている楯は、左隣の戦友の右半身を守るためのものである。
「それに槍にはいろんなタイプがある」
「ああ。それは調べた。ゲロ子、解説しろ」
「アイアイサー」
ゲロ子の解説。槍にもいろいろな種類がある。最もオーソドックスなのは『スピア』これは長さが1.2m~2mぐらいまでのショートスピアとそれより長いロングスピアがある。これが槍の基本。ここから派生したものに『パイク』と呼ばれる突き刺す攻撃に特化したものから、騎士が馬に乗りながら扱う『ランス』、さらに『ハルベルト』と呼ばれる、斬る、突くができる進化系の武器も現れる。
「それにジャベリンと呼ばれる投げるタイプの槍もある」
「投げ槍か……。そんなもんまであるんだな」
「そうさ。そんな数ある中で右京、お前が仕入れるのはどんなタイプの槍だ?」
キル子にそう言われて、右京は少し考えた。W.D.で対戦する鎧竜というモンスターとキル子の戦闘スタイルを考えれば自ずと答えは出てくるだろう。
「鎧竜は皮膚がまるで鎧のように硬い。攻撃するならその硬い皮膚を突き刺すことが可能な武器だ。それにキル子、扱うのがお前だ。キル子の攻撃スタイルはスピード」
断罪レディと呼ばれる霧子・ディートリッヒは、そのパワーを生かした攻撃の印象が強いが、右京は彼女の本質はそうではないと考えている。軽装の革の胸当てにショートパンツにブーツという出で立ちは、相手の攻撃を受けるのではなく、かわすことに主眼を置いたスタイル。つまり、キル子の戦士としての攻撃スタイルはヒット&アウェイ。スピードで敵を翻弄し、細かいダメージを蓄積して倒すスタイルだ。
「となると、ショートスピア系の武器で決まりだな」
「うむ。方向はそれでいい。だが、ショートスピア系の武器の買取りは難しいぞ」
確かにこれまで右京が買い取って来た武器の大半は、長剣や短剣だ。これはこのイヅモの町に関係する。町の付近にはダンジョンや神殿の廃墟等、冒険者ギルドが紹介する仕事が狭い空間で戦闘が起こる場所で行われていた。この町の冒険者で槍を主武器にする者はごく少数であった。よって、この町では買い替えで槍を持ち込む者が少ない。
(そういえば、ゲームでもあったよな。剣しか扱っていない店)
「ゲロゲロ。主様、広告出して待っているだけでは素材となる槍は買い取れないでゲロ」
ゲロ子の言うとおりだろう。冒険者ギルドや酒場の掲示板に、買取り募集広告を出したところで、槍を持っている冒険者の絶対数が少ないなら客は来ない。となると、冒険者以外で所有している人から買取るということになる。




