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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第5話 起業のロングソード(ワンハンドレッド キル 斬鉄剣)
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その男、ディエゴ

今日から第5話開始です。

9月は海外へ2週間ほど行く用事があります。毎日更新が途切れるかも…です。

「アマデオ、アマデオ、イヅモ北エリア母店長」

「は、はい、パパ」


「何度も言っとるだろうが! 仕事では会長と呼べ」


 そうアマデオを叱りつける男。年は50代ではあるが、そうは見えない。短く刈り込まれた髪には白髪が混じるが、それが返って渋さを増し男の魅力を高めていた。


 普段から鍛えている筋肉質な体が力強さも感じさせる。鷹のような厳しい目つきも魅力的である。男の名はディエゴ・バッジョ。イヅモの町で武器屋ギルドの長をしている。

 

 不肖の息子であるアマデオとは違い、自分に厳しく、そして優れたリーダーシップを発揮して武器屋ギルドの発展に尽くしていた。


「会長。今月の売上げ。グループ全体で15%の減益です」


 秘書の女性がそう調査書を読み上げる。そして、最も売上が悪い店の名前も呼ぶ。これはアマデオには耳が痛い報告だ。


「特に北エリア店は30%の減益。売上が落ち込んでいます」

「アマデオ母店長。何か言うことはあるか」

 

 吠えるライオンの前に出てきた仔牛のようにアマデオは震えた。売上が落ち込んでいる理由が明白だからだ。


「あ、ありません。会長」


「この季節は毎年武器が売れない。暑い時期だ。冒険者も動きたくないだろう。だが、そういう時だからこそ、魅力的な武器を仕入れ、宣伝し、購買意欲を高めるのだ」


「わ、わかっています……パパ……」


 ギロリとディエゴは睨んだ。その睨みでアマデオは言い直す。


「会長」


「このイヅモの町には大小含めて20軒の武器屋がある。メンテナンスを請け負う店を入れれば、50件以上の集合が我らのギルドだ。その中で18軒の店を率いるバッジョグループの売上が落ち込んだままでは、他の加盟店に顔向けができぬわ!」


「は、はい」


 アマデオの他にも3人の母店長も押し黙る。アマデオほどじゃないが、それぞれの東西南北エリアの利益があまり上がっていないからだ。


 ディエゴがギルド全体の仕事をしているので、武器屋の仕事は信頼のおける各母店長と息子のアマデオに任せていた。仕入れの件でここ2ヶ月ばかり留守をしていたのだが、留守のうちにバカ息子が失敗をした。


 エルムンガルド製という有名ブランドをもって、W.D.(ウェポンデュエル)に挑んで、あろうことか中古の武器に遅れをとったのだ。それによるブランドイメージの低下が招いた結果だと判断していた。


「W.D.で伊勢崎ウェポンディーラーズという店に負けたことは仕方ないとしよう」


 ディエゴが多くの加盟店から信頼を得て、ギルドの会長を務めているのは多くの店を経営している経済力だからではない。きちんと判断できる経営力を買われてのことだ。彼はこの町に帰郷して報告をきちんと読み、そして調べた。中古武器と馬鹿にして油断した息子と違い、右京がリニューアルした『ガーディアンレディ』の商品力を評価していた。


「だが、お前は致命的な失敗をした」

「失敗?」


 凡庸な息子はこの期に至っても理解していない。父親の権力をバックにギルドを束ねるなんて威張っていたが、母店長を任される器でもなかった。それはディエゴも承知していたが、立場で人は変わることもあると息子を抜擢していたのだ。だが、それは親バカであったようだ。


「お前の失敗は霧子・ディートリッヒ君をクビにしたこと。これが致命的だ。彼女は我がバッジョグループに欠かせない宣伝塔。それをやめさせるとは愚か者め!」


「だって、あいつ、敵の武器を選んだんだよ」


「あちらの武器が優れていれば、そうなるに決まっている。霧子くんはデモンストレーターだ。自分に合う武器の魅力を見せるのが彼女の仕事だ。お前はエルムンガルド製のバスタードソード。彼女のために調整はしてやったのか?」


 アマデオは首を振った。そんな面倒なことはしていない。


「それでは負けて当然だ。新品だからといって、そのまま売るようなことをしているから、売上が落ちるのだ」


「はい。会長」


 うなだれるアマデオ。小さな武器店を継いだ父が店を大きくし、4件の統括母店、8つの小規模店、4つの修理専門店に魔法鑑定専門店等、計18軒のグループ企業に成長したのもこのきめ細かいアフターサービスが良かったからだ。それを散々、小さい頃から聞かされていたのも関わらず、アマデオは効率重視で失敗をした。そんな暇があるなら次の客に売る。そんな戦略だったが、結局、客が離れてしまっただけであった。


「アマデオ母店長。お前は一時降格だ。ギルドに出向。一職員として、私の下で修行のやり直しだ」


 そう言うとディエゴは店の幹部に宣言をする。


「落ちたブランドは勝利によって復活させるしかない。私が陣頭指揮を取る。今度こそ、中古武器屋に新品との差を見せつけてやる」


「おおお……」


 会議に出ていた各支店長や仕入れ担当、経理担当の責任者は歓声を上げた。ここ最近の閉塞感をギルド会長自らが陣頭指揮を取り、打ち破ろうというのだ。右京が経営する『伊勢崎ウェポンディーラーズ』の評判は日に日に高まっている。新品同様かそれに近い品質。中には新品さえ超えると言われる。そしてその値段以上の武器の性能。冒険者が一度は訪れたい場所と言われつつあるのだ。


 しかも最近は、買取り希望者は右京のところへまず見せに行く。これに関しては、武器屋としての直接な被害はないが、何だか面白くないと各店長は思っていたのだ。


 この信頼できるリーダーならば、一挙に形勢を逆転できると会議に出ていた者は思った。


 ディエゴ・バッジョ。


 イヅモの町で注目されている経営者である。


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