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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第1話 転職のバスタードソード(ガーディアンレディ)
6/320

ギルドからの挑戦

キル子の容姿を書籍版に合わせました。9/23

ビジュアルはキャラデザイン(2)を参照

「ゲロゲロ……主様。主様の思惑通り、すごい反響でゲロ」

 

 ゲロ子が購入申し込みの手紙を並べている。右京が買い取り、修理とリノベーションしたバスタードソードは見事に完成した。それをゲロ子が各所の冒険者ギルドの掲示板に紹介したところ、購入申し込みが殺到したのだ。女性戦士用のバスタードソードというジャンルで、見た目の華やかさ、ゴージャスさが受けたのだろう。この1週間で買いたいという女性戦士や騎士からの申し込みがあったのだ。その数、ざっと20人。

 

 いつもならこちらの値段提示で早いもの勝ち交渉するのだが、あまりの反響のよさに今回は設定価格2500Gからオークション方式にしようと思ったのだ。値段は確実に上がるし、一同を集めて公開で行えば店の宣伝にもなり、一石二鳥になるからだ。


 右京がそんなことを考えていると店のドアが開いた。カランと鐘の音色が鳴る。入ってきた人物を見て右京は単純に購入希望者だと思った。


 その人物は褐色の肌を露出させた女戦士。RPGなら定番の肉体を持つ女性であった。要するにバイン、キュ、バインの強烈なプロポーション。ほとんど着てないんじゃないかと思うセクシーな鎧で身を包んでいるものの、軽快な動きを狙ったと考えれば合理的とも言える。


 長い足には、太ももからロングブーツ。腰にはスカート状の防具を付けているけれど、その下は超がつくローライズビキニパンツが見えるし、おへそも露出している。何より、ブラジャーのような形状の胸当てから上乳がブルンブルンと跳ね回っている。かなり男好きする体である。


 地面に着きそうなくらい躍動感ある長い銀髪。アクセントで前髪をおさげにしている。パッチリした目はアメジストのような紫色で美しいが、目尻はちょっとつり上がって性格がきつそうな印象を受ける。白いまつ毛にしろ、すらっと整った鼻にしろ華やかさのある顔立ちである。


 身長は175センチほど。女子では高い方だろう。さすが、女戦士というところで。体格的には申し分がない。


「いらっしゃいませ。例のバスタードソードですか?」


 多分そうだろうと右京は予想してそう尋ねた。だが、女戦士は首を振った。そうじゃないという表示だ。


「では、なんの御用で?」


 年齢は自分と対して変わらないか、年下だろうというセクシーな女戦士に右京は尋ねた。まさか、右京に目の保養をしてもらうために来たわけではないだろうが、写真集でしか見られない生グラビアモデルが目の前にいる。


「あたしの名は霧子・ディートリッヒ。お前に勝負を挑みに来た」

 

 そう言って女戦士は勢いよく右京の鼻先に指を差し出した。本人はセリフが決まったと思っているようだが、右京にはさっぱり分からない。ゲロ子も唖然としている。


「はあん?」

「ゲロゲロ。この歩くエロ本は何を言っているでゲロか?」


 霧子きりこと名乗る女戦士は右京がやるようにテーブルのゲロ子を人指し指で弾いた。コロコロ転がるゲロ子。


「誰がエロ本だ。エロ本言うな!」

「あの~。俺には話が見えないんだけど……エロ子さん」


「お、お前もエロ言うな! 殺すぞテメエ」


 そう女戦士が凄むが、こんな美人が凄んでもちっとも怖くないと右京は思った。何だか、無理してるっぽくて逆に可愛く見えてしまう。


「で、そのエロ子じゃなかった、キロ子? キル子さんだっけ?」

「霧子だ、テメエ、斬り殺すぞ」


 美人だけど言葉が汚いのが残念だ。そう思いつつ、全く話が見えてこないのはこの唐突に現れた女戦士が、購入対象者ではないことがわかっているだけで、一体何がしたいのかわからないことに起因する。


「勝負って言うけど、俺は商売人だから剣の勝負はできないよ」

「わ、わかってるさ……」


 ちょっと照れる女戦士。インド系のようなエキゾチックな肌色だが、顔を赤らめるのは万国共通だ。でも、言葉が続かない。改めて右京をじっくり見てなぜか口ごもってしまったようだ。


「そこはボクが説明しよう」


 女戦士の後に扉から入ってきた男がそう説明した。大柄の女戦士の後ろに隠れてしまうヒョロヒョロで背の低い男だ。だが、着ているものがいかにも高そうで、手には金に輝く扇子を持ち、パタパタと自分を仰いでいる。指にはめられているたくさんの指輪が光る。どう見ても成金のバカ息子といった容貌の若い男だ。右京とさほど年は変わらないであろう。目が悪いのかこれも金に光るフレームの眼鏡をかけている。


「ボクはアマデオ・バッジョ。この町の武器屋の組合ギルドを束ねている」

「ほほう」


 右京には話が見えてきた。買い取り屋の右京は新品を売る武器屋にとっては商売敵である。新品よりも優れた武器を販売するのだから、当然である。だが、これまでは右京の店の取り扱い量が少なく、武器屋には大した障害にはならなかったからスルーしてくれたということである。今回来たのは右京が出品した品が大人気でちょっとした町の噂になったからであろうと予想できた。


「要するに君の出品した中古の不良品と我ギルドで提供する極上品とを比べるのさ」

 そうアマデオと名乗る青年はパタパタと扇子のようなものを開いて仰いでいる。その姿が妙に合っていると思うのは右京だけではないだろう。それに気に食わないと右京は思った。右京が手を尽くしてリニューアルしたバスタードソードを(中古の不良品)と決め付ける態度にだ。そこで右京はこのクソ生意気な小男に反論することにした。


「いやね。俺は思うんだけど……」

「なんだ?」

「あんたのところの新品の剣を選ばないで、俺の剣を選ぶ客がいるというだけで勝負がついてるんじゃないのか?」


 もっともな意見である。買う客がいるということは、右京の出品している品物に魅力があるということにほかならない。欲しい客がいるなら売る。ただそれだけだ。だが、アマデオは激しく首を振る。


「違うさ。客はだまされているだけさ。それをこの霧子がWDで証明するのさ」

「WD? なんじゃそれ?」

 

 ここへ来て3ヶ月しか経っていない。初めて聞く言葉である。黙って聞いていたゲロ子が珍しくシリアス顔で右京に教える。


「ゲロゲロ。WDはウェポンデュエルの略でゲロ」

「ウェポンデュエル?」

「武器の決闘。勝負でゲロ」


 ゲロ子が説明をする。この右京たちが商売をしている「イズモ」は人口2万人。この世界では比較的大きな町らしい。らしいというのは単に右京が町の外に出たことがないからだが、こういう大きな町には娯楽用に「闘技場」が設けられている。


 闘技場というと人同士が戦ったり、人と野獣、モンスターとが戦ったりなんてことを想像するが、この世界ではそんな野蛮なことはしない。闘技場では確かに戦いを見世物にするのだが、人が戦う相手は幻術士が呼び出した架空のモンスター。いわゆるバーチャルな敵を相手に戦う姿を観客に見せるのだ。これをこの町ではVDバーチャルデュエルと呼んでいた。


 幻術士が呼び出すモンスターは、ランクが分かれており、それぞれに定められた攻撃力、守備力があり、それを人間が攻撃して削って0にすればいいのだ。人間側もその人間の強さにあった数値が割り振られて、モンスターの攻撃で削られて0になればゲームオーバーだ。幻術と言っても呼び出されたモンスターには実態があり、攻撃されるとそれなりに人間も怪我をする。殺されてしまうことはほぼないが、ボクシングやプロレス並みの危険はもちろんある。


 戦う人間は専門の剣闘士が務めることが多いが、冒険者も腕試しや金儲けのために出場することがある。この女戦士は冒険者なのであるが、同時に武器屋に雇われる専属デモンストレーターでもあった。


専属デモンストレーターは宣伝したい武器を使って、この闘技場で決闘を行うことで武器の性能を見せることができるのだ。こういうことが行われる時には、特にWDウェポンデュエルと呼んでいたのである。武器屋同士が自慢の武器を競わせることもできた。


観客が戦う戦士の攻撃力を直に見て武器の性能を見極めることができるのだ。よい武器だと感じれば、買う客が殺到して武器屋が儲かるという寸法であった。


「なるほどねえ……。でも、ちょっと疑問いいか?」

「ああ、なんでも聞きたまえ」

 

 アマデオが扇をパタパタ動かして右京に応える。女戦士の方は相変わらず、黙って右京をにらみつけている。


「キル子が戦うってことは、不公平じゃない? だってキル子はそっちの専属デモだよね。こっちの武器の時に手を抜かれたらかなり不利なんですけど~」


「な、なんだと!」


 女戦士が美しい顔を怒りの表情に変えて、右京の胸ぐらを掴んだ。顔をぐっと近づけるので右京は目のやり場に困った。正面を見れば霧子の愛くるしい顔。下を見れば見事な上乳。そんなことを意に介しない霧子・ディートリッヒ。


「このあたしを侮辱するな! それにあたしは霧子きりこだ。キル子じゃない」


「え~っ。キル子でいいじゃん。斬るとか、殺すとか言ってるからちょうどいい」


 殺す=英語でKILLだが、この世界で通用するとは思えなかったが、意味の分からない霧子はスルーする。ちなみにこのファンタジーRPGのような世界。都合の良いことに言語は「日本語」文字も日本語だ。絶対、この世界、日本で作られたゲーム世界に違いない。


「どういうことか知らないけど、絶対、その名前はあたしを馬鹿にしてるだろう。てめえ、本気でブッころすぞ!」


 ドンっと右京を壁に押し付け、左足を上げて壁に付けて右手を左の腰の剣の柄に添えた。キル子だけあって、キレるのが早そうだ。


「いいじゃん。キル子の方が可愛いし……」


 右京はこう凄まれても冷静に接客ができる。日本にいた時に買取店の研修でクレーム対応の基礎を学んだ。その後の現場で買い取り価格に不満な客に脅されてことなど何回もある。


 一度は偽ブランドの時計を持ち込んだ(や)の付く自由業の男に「偽ブランドですから買い取りできません」とはっきり断ったら、今と同じ状況になって凄まれた。


 その時は胸の内ポケットに潜ませたナイフだったが、今のキル子の武器はロングソード。危険度は今の方が高いが、不思議と右京は落ち着いていた。霧子が美少女であったことも影響している。接近したので、その豊満ボディの他にも観察できたが年はかなり若そうだ。もしかしたら、まだ10代なのかもしれない。


 一方、霧子の方はビビらせてやろうと虚勢を張って、凄んでみたものの、相手はのれんに腕押しみたいで一向に手応えがなく、さらに自分のことを(可愛い)とかいうので調子が狂った。


 というより、(可愛い)なんて大人になってから言われたことがないので、これはカウンターパンチになった。自然と顔が火照ってくる。


「と、とにかく、アマデオの旦那が言うとおり、てめえの剣をあたしが確かめてやるよ。せいぜい、がんばりなよ。中古品と新品じゃ性能の差は歴然だろうけど……」


「そうかな? 俺の整備した剣は、そんじょそこらの剣じゃ適わないよ」

「ククックク……」

「フフフ……知らないとは幸せだな」


 アマデオと霧子が笑っている。右京が何も知らないことを嘲笑しているようだ。霧子が腰に差している剣を抜いた。それは銀色に輝く新品の剣。右京が今回出品するバスタードソードと同じであった。


「これは幻の工房、エルムンガルド製のバスタードソードだ。ゾリゲン工房製? ハハハ。笑わせるなよ。そんな2流品の中古が勝てるわけがない」


 そうアマデオが扇を閉じて右京に突きつける。確かに右京が見ただけでも、その剣はかなりいい品に見えた。頑丈な刀身を際立たせる輝き。


「ゲロゲロ……。主様。エルムンガルドはドワーフの町でゲロ。ドワーフは鍛冶が得意で、エルムンガルド製の剣は信頼が高いでゲロ。入荷も少ないでゲロ」

「ということは、値段は相当高いんだろうなあ」


「ゲロゲロ……。ゲロ子の調べによると6500G~7000Gはするでゲロ」

「高っ!」

「高いだけでないぞ。この切れ味、パワー。剣の中でも最高峰の業物だ。そして使い手がこのあたしなのだからな」


 自慢げに自分を親指で指差す霧子・ディートリッヒ。彼女にはこの大剣は少々、手に負えないのではとも思ったが、そこはテクニックでカバーするのであろう。自慢するだけの力量はもっていそうである。


「キル子ちゃん」

「ちゃんはやめろ!」

「じゃあ、キル子」

「呼び捨てもムカつく。って、キル子じゃねえって言ってんだろ!」


 最初から凄んでいるが、右京が全くビビらないので霧子はちょっと調子が出ない。右京は見た目ひ弱そうなのにどんなに大きな声で怒鳴っても涼しい顔でスルーするのだ。


「キル子、武器は値段じゃないぞ」

「はあ?」


「武器は魂さ。使い手の心を捉えたものが、その冒険者のベストウェポンさ。いいだろう。この勝負受けて立つ。高い武器=いい武器じゃないことを教えてやるよ」


 霧子は抜いた剣をそそくさと収めた。


「わけわかんね。アマデオの旦那、行きましょう。どうせWDで勝敗は明らかになるんだ」


「ボクは伊勢崎さんに恥をかかせないように忠告に来たのですが、勝負を取り下げないということならいいでしょう。本日の闘技場でのVDバーチャルデュエルで赤っ恥をかくといいでしょう」

 

 そう捨て台詞を残すとアマデオと霧子は店を後にした。ゲロ子が小さな壺を抱えて塩をまいている。ここでも嫌な客には塩をまくらしい。実に日本的な風習だ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ~ ちょっと顔を赤らめる女戦士。インド系のようなエキゾチックな肌色だが、ちょっと照れるのは万国共通だ。 ここの部分は誤字脱字ではなく、語順がおかしいことの報告になります。 [一言] 改…
[気になる点] 霧子とか言うやつ凄むくらいならさっさと主人公殴れば良いのにどうしてそうしないのか純粋に気になる ここは中世風じゃなくて現代風なのだろうか だから殴ったら捕まると思ったのだろうか
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