やって来た暗殺者
すみません。
何故かこのお話が抜けていました。話が急に飛んですみませんでした。
「来たでゲロ」
ゲロ子が言ったとたんに、不気味な鎧に身を包んだ5人の集団が店に入ってきた。無言で何も話さない。手には輝くナイフや白木の杭をもっている。ナイフはおそらく銀製だろう。古来より銀製の武器は魔の力に効果があるとされる。
右京はクロアを守らなければと思った。よく考えればクロアはバンパイア。モンスターだ。ゲームなら人間の敵、倒すべきボスキャラである。でも、可憐なクロアと目の前の不気味な鎧を着た暗殺者。この絵を見たらどっちに味方するかは一目瞭然。しかも、クロアには時計を買ってもらった恩がある。右京は持ってきた『斬鉄剣』を抜いた。剣術の心得はないが、相手を威嚇できるほど剣は輝いてその力を示していた。
「お前ら誰だ。人の店にいきなり入ってきて」
「右京……クロアを守ってくれるの? 何だかうれしい」
クロアの胸がキュンとなった。無敵のバンパイアを守ろうなんて変な話だが、右京は自分をか弱い女性だと思ってくれているみたいである。これは長い年月を生きていて久しぶりの感覚だとクロアは感じた。
「どけ、小僧。その娘の抹殺は上からの命令だ」
「上から?」
「話すことはない。かばうなら貴様も明日の朝日は拝めない」
「あんたたち、誰だよ。そりゃ、クロアはバンパイアかもしれないけど、真面目に商売やっている女の子じゃないか」
男たちはもう無言で右京たちを取り囲む。問答無用で抹殺する気だ。ゲロ子は右京の右肩で頭を抱えている。これじゃあ、頭隠してお尻隠さずである。
「ふん。都の一部過激派の雇われ暗殺者ね。いつもはクロアの魔力が弱い、昼間に襲ってくるけど、今回は意表をついて夜に襲うとはね。クロアも思わず油断しちゃったけど、残念でした。さっきの攻撃は無効になっちゃった。今からはクロアのターンでいい?」
右京の背中からクロアが顔を出す。そして右京を制して前に出た。その様子を見て5人の暗殺者はたじろいだ。先ほどの不意をついてのクリィティカルヒットが無効なのだ。
「おい、お前行けよ」
「やだよ。完全にヒットポイントフルじゃないか」
「ここでやらないと依頼主に顔向けが……」
「じゃあ、お前が行けよ。俺は逃げたい……」
「……」
不気味な鎧の暗殺者たち。完全にビビっている。目の前の黒うさぎの帽子をかぶった女にビビっている。表情はフルフェイスの兜で分からないが、沈黙している男なんか足が震えて両足の膝があたって鉄が当たる音をカチカチさせている。
「何だか情けない暗殺者でゲロな」
ゲロ子の奴、先程まで一番ビビっていたのにもう立ち直っている。このカエル娘に情けないと言われたら立つ瀬がない。
「ダーリン、ちょっと後ろで伏せていてね」
「ダーリン?」
「うん、決めた。右京はクロアの嫁にする。だから、ダーリン」
勝手にそう宣言するとクロアは5人の暗殺者に片手を広げた。ブツブツと難しい言葉を唱える。それだけで暗殺者は逃げ始めた。我先にである。だが、入口が狭くて出られない。デカイ身体の上にいかつい鎧まで着ているのだから、順番じゃないと無理だ。
「アディエウ・メガルニ・エジェンダ……空間の神よ、いまここで我に力を与えよ」
右手に黒い煙のうずがハンドボールくらいの大きさになっていく。
「わああああっ……逃げろ!」
「嫌だ、だからパンパイア退治なんて嫌だったんだよ~」
「ディメンション・トリップ」
クロアがそう言って黒い球をぶつける。それは拡大して5人の暗殺者を飲みこんだ。
「うあああああっ……」
叫ぶ声がしたが、黒い球が収束するとすぐに静かになった。右京は剣を抜いたままで出番が全くなく、ちょっと間が悪い感じになってしまった。そっと剣を鞘に収める。
「ク、クロア……。あいつらどうしたんだ?」
「消えたでゲロ」
あっけにとられる右京とゲロ子。まるで映画でも見ているみたいな特殊効果。
「ああ。ちょっと飛ばしただけだよ。異次元に。てへ!」
「『てへ』じゃないだろう。」
「運がいい奴はこの世界のどこかへ飛ばされるかもしれないけど、まあ、普通は帰って来れないわね」
怖いことをさらっという。でも、クロアにあんなことをした奴らだ。当然の報いであろう。
「それでクロアはダーリンのおかげで命拾いしたわけだけど、これは借りになるのかしら」
「いや。俺は杭を抜いただけだし。血を吸われただけで結局助けたわけじゃない」
「謙虚でよろしい。さて、これから掃除よ。カエルも手伝いなさいね」
クロアは微笑んだ。部屋の明かりを付けてバケツに水を汲み、床に飛び散った血を洗い流した。右京も手伝う。何だか殺人現場の証拠隠滅作業みたいで変な感じだ。作業をしながら、クロアはバンパイアについて少しだけ右京に話した。
「バンパイアはモンスターじゃないわ。この世界では一つの種族として扱われている。種族といっても普通の人間がなることもあるからね。ちょっと変わった能力がある人間」
(ちょっと? 杭で胸刺されても大丈夫な点で既にすごく普通じゃないような)
クロアが言うにはバンパイアはごく少数ながら、市民権を得ていて、貴族や王族の中にもいるらしい。強大な力をもつものの、人に害をなすことはなく、社会に溶け込んでいるというのだ。バンパイアと言っても人の血をむやみに吸血することは禁止されているが。パートナー契約を結んだ人間となら許可されている。パートナーがいないときは赤いクコの実ジュースを飲むということだ。
「クロアはいつも命を狙われているのか?」
先ほどのクロアの言葉から、今回のような事件は初めてではないことを右京は悟った。クロアはちょっと沈黙した。あまり話したくないのだろう。右京は立ち入ったことを聞いてしまったと後悔した。
「ダーリンにはいつか話すよ。今は、ひ・み・つ。それより、ダーリン」
「何だ」
「ダーリンがここへ来た理由が知りたいな」
そうだった。右京は中古武器店を開業するために、クロアに支援してもらうために来たのだ。事業プランを話して推薦と出資してもらうためだ。だが、右京が話そうとするとクロアは急にあくびをし始めた。
「ダーリンの血を飲んだから眠くなっちゃった。クロアは基本眠らないけど、パートナーがそばにいると眠れるのよね。久々に寝たいわ。お話はクロアが起きてからね」
そう言うとクロアは店のソファに体を横たえて寝てしまった。いつも目にくまを作っているのは寝てないからか……と感心したが、ゲロ子の一般辞書検索によると、この世界のバンパイアは眠らないらしい。パートナーが傍にいて安全が保証された時に初めて、眠れるのだという。
(仕方ないなあ……)
もう夜も更けている。カイルのところへ戻ってもやれることはない。ゲロ子を使いに出して右京もソファで眠ることにする。交渉は明日だ。




