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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第5話 起業のロングソード(ワンハンドレッド キル 斬鉄剣)
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初めてのおつかい?

「ゲロゲロ……。主様、まさか、ドラゴンに会いにいくつもりじゃないでゲロな」


「ゲロ子、ドラゴンは火を吐くよな? レッドドラゴンの炎はどのくらいの力なんだ」


「ゲロゲロ……。冒険者ギルドのモンスター辞典につなげるでゲロ。成体の熱量は一瞬で鉄を蒸発させるでゲロ。幼生でも鉄はドロドロに溶けると記述にあるでゲロ」


 鉄が溶ける温度は1538度である。これはふいごを使って温度を上げていくことで、この世界でも何とか作れる温度ではあった。現に新品の武器屋に買い取られた武器は、高温に熱せられた炉によって溶かされる。だが、通常の鍛冶屋ではここまで温度を上げることは難しい。それなりの施設が要求されるのだ。鉄の加工はそこまで温度を上げなくても叩いて整形していくことができるから、必要ないということもあった。


「それにしてもドラゴンの力は凄まじいな」


 一瞬で鉄すらも蒸発させるとはとんでもない。温度にして2750度である。右京が何やら考えてるのでゲロ子はちょっと心配になった。まだ、この世界に来て日の浅い主人が、常識外れな行動に出るのではと思ったのだ。


「ゲロ? まさか、主様。あの斬鉄技術、ドラゴンを使ってやろうなんて突飛なこと考えていないでゲロな」


「ああ……。ちょっとは思ったけど、やっぱり荒唐無稽だよな」


「よかったでゲロ。山に出かけるなんていったら、命はいくつあっても足りないでゲロ。町を出るなら冒険者を雇わないとモンスターに出会った時に死ぬでゲロ」


 さすがのゲロ子も胸をなでおろした。何しろ、ゲロ子の戦闘力は0である。魔法も使えないのだ。低級モンスターに出くわしても生命の危機につながる。これは右京も一応考えていた。町の中が安全なだけに、失念していたがここはゲームのようなファンタジー世界だ。町を出れば恐ろしい動物やモンスターが徘徊しているのだ。


 クイッ。


 市場を歩いていると、急にシャツが引っ張られたので右京は歩みを止めた。自分の腰くらいに誰かがいる。


気になって振り返るとさらさらした赤い髪を2つのお団子にしてまとめている小さな女の子がいた。年回りは幼稚園児かせいぜい、小学校1年生くらいであろう。右京のシャツを持つ右手がちっちゃい。そして左手は親指を口でチュウチュウ吸っている。まだ、おっぱいから卒業できていないのか。


「お菓子ちょうだい」


 その女の子はそう言った。もこもこの不思議な上着に同じ生地のショートパンツ。赤いウロコでつくられたブーツを履いて、黒いポシェットを斜めがけにしている。迷子かなと右京は思った。


「お嬢ちゃん、迷子かい? お母さんは?」


 右京は優しく聞いた。この市場の混雑だ。親からはぐれたに違いない。


「わたしねえ……。わたしねえ……。お菓子が食べたいの」


「お嬢ちゃん、お名前は? お家は?」

「あでぃらーど」


「アディラードちゃんか。お家は分かる?」

「あっち」


 幼女は町の外を指差した。これは家がどこか分からないのであろう。しょうがないので右京は大きな声で親を探した。


「アディラードちゃんのお父さんか、お母さんいらっしゃいませんか~」


 道行く人々は珍しそうに右京たちを見るが、みんな忙しいのか足早に去っていく。これは困った。アディラードは右京のシャツの裾を握ってボーっとしている。相変わらず、左手の親指を吸っている。


「変なチビに捕まったでゲロな」


 親が見つからないのでゲロ子も飽きてきたようだ。肩から降りてきて地面でストレッチを始めた。アディラードと名乗る幼女は、ストレッチするゲロ子を見て目を輝かした。幼児とは思えない素早さでゲロ子を捕まえる。


「ゲロ!?」

「お菓子だ、お菓子だ」


 あんぐりと口を開ける。


「ゲロゲロ~、主様、ヤバイでゲロ、食われるでゲロ」


 慌てて右京はアディラードからゲロ子を取り上げる。危なく大惨劇になるところであった。食べてしまったアデレードも病気になること間違いない。


「危なかったでゲロ~。とんでもないガキでゲロ」

「小さい子だからゲロ子が、お菓子に見えたんだろ」


「見えるわけないでゲロ。コイツはおかしいでゲロ」


 確かに不思議な子供だ。ゲロ子を取り上げられて涙目になっているので、仕方なく右京はお菓子屋へ連れて行く。そこはキャンディやチョコレート菓子、クッキーなど様々なお菓子が並べてある。子供なら目を輝かせる場所だ。だが、アディラードの反応は今ひとつ。


「ここのはいらない。全部食べた」

「全部食べた?」


「アディは食べたことないお菓子が欲しいの。お菓子ちょうだい」


 変なことを言う子供だ。普通の子供ならお菓子はお菓子。喜ぶというものだ。


(食べたことないねえ……)


「あれはどうでゲロ? 珍しいといえば珍しいでゲロ」


 ゲロ子が指差した。頑丈な箱に『アイスキャンディ』と書いてある。店員に頼むと箱が開けられる。中には塩と氷が敷き詰められ、赤や黄、青に紫と色とりどりのアイスキャンディが入っている。それを右京は1つ買う。ゲロ子も欲しそうだったので、ついでに自分の分と一緒に買ってやった。


1G札を出すと銀貨で7枚返された。1G札か1G金貨で銅貨100枚。銀貨は銅貨10枚だ。およそ1Gは日本円で500円だから、アイスキャンディは50円くらいとなる。まあ、適正かちょっと安い感じだろう。

 

ちなみにこの世界の機械的な冷凍技術はまだ発明されていない。そういう場合は、氷は冬の間に切り出した大量の氷を地下の貯蔵庫に保管することになり、希少価値が高くなってお金持ちや身分が高い人しか食べられないことになる。


ところが、この世界は都合がよいことに魔法がある。コールドの呪文を使えばあっという間に氷ができる。よって、機械も発明されないし氷も安い。


 アディラードはアイスキャンディを受け取ると珍しそうに見ている。外に出て噴水広場のベンチで座って食べることにする。食べ歩きさせることは小さい子にはお行儀が悪いであろう。


「あうっ。ちゅべた~っ」


 アディラードは舐めないでほおばってしまった。冷たさに慌ててキャンディを外に出す。どうやら冷たいお菓子は初めてだったようだ。右京は舌でペロペロして舐める様子を見せた。それを見てアディラードもにっこり笑って舐め始めた。


どうやら満足したようだ。もう少し家のことを聞き出してから、親探しを続けようと思った。だが、アイスキャンディを食べ終わったアディラードが、体が冷えたのかくしゃみをした瞬間、状況が変わった。


「くちゅん」


 姿に合わせて可愛いくしゃみ。だが、同時に炎が出た。くしゃみの先にいたゲロ子が黒焦げになって倒れる。


「おい、ゲロ子、大丈夫か」

「大丈夫でゲロが、熱かったでゲロ」


(おいおい、普通なら死んでるぞ)


 アディラードが出した炎は短時間だったが、色は黄色でかなりの高温と思われた。道路の石まで焦げている。


 ゲロ子の不死身ぶりは置いておいて、右京はアディラードを見た。また「くしゅん」とくしゃみをすると炎がボッっと出てた。さらに赤い頭の毛をまとめたお団子が解けてしまった。見ると小さな角が生えているではないか。


「やばっ!」


 右京は慌ててさっきフランのところで買った火鼠の革で頭を覆う。町の人に見つかったらやばいと感じたのだ。いくら人間以外の種族もウロウロしているファンタジーの町とはいえ、この幼稚園児は異質すぎると思ったのだ。


「カイルのところへ行こう」


 右京はアディラードを片手で抱えると走り出した。カイルの鍛冶屋はここから近い。それにしても、右京のこの行動。現代日本なら間違いなく警察に通報される行為だ。幼女誘拐で厳罰確定だろう。



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