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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第5話 起業のロングソード(ワンハンドレッド キル 斬鉄剣)
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ドラゴンの皮

「主様、ああは言ったでゲロが、まず無理でゲロ。鉄を溶かす方法なんて、大規模な施設か高レベルの熱攻撃魔法がいるでゲロ。いずれも試すには高額なお金がいるでゲロ」


「鉄が溶けるくらいの熱を加え続けるって……カイルの鍛冶屋じゃせいぜい、900度くらいが限界だろう。できたとしても温度を一定に保つのは難しい」


 腕組みをして右京は思案しながら町を歩く。右肩には同じように腕組みをしているカエル娘。妙な組み合わせである。


「ねえ、そこのお兄さん、革はいらないっす?」


 不意に話しかけられて右京は思考を止めた。気がつくと通路にワゴンが置かれた店の前にいた。数台のワゴンには、革生地が山と積まれている。見上げると看板にこう書かれている。


『革問屋 けだものや 創業130年』


「革屋さん?」

「そうだよ。この町じゃ有名な老舗だけど、知らないとはもぐりっす」


 変な喋り方をする店員は女の子だ。長い赤い髪をポニーテールにしてリボンで縛っている。アホ毛が一本飛び出ているが、それはトレードマークみたいなものだろう。大きな愛くるしい目をした女の子だ。何かわからない革で作られたエプロンをしている。見るからにチャキチャキした性格だろうと思わせる風貌だ。バイトの女の子にしてはかなり仕事に慣れた感じだ。


「いろんな革があるんだな」


 右京はそう言ってワゴンの中の品物を手に取った。黒いゴワゴワした手触りだ。


「それは一般的な黒水牛の革っす。お兄さん、何かお探しで?」


 女の子の割には変な言葉遣いである。学校で部活の後輩が先輩に話しかけてくるような感じだ。妙に馴れ馴れしいが、それも彼女が醸し出す愛嬌で不愉快な感じはしない。


 右京はロングソードのことを思い出した。柄の部分に革を巻き直したら価値は上がる。仕上げの段階で必要となる材料であろう。そこで店員のこの女の子に商品について相談することにした。


「剣の柄に巻くとしたら、どんな革があるんだい?」

「おっ! お兄さん、やっぱり乗ってきたね。私はけだものやの実質的店主フランっす」


「店主? 君が?」

「そうっす。お兄さん、名前は?」


「右京だ。伊勢崎右京」

「ゲロ子でゲロ……」


「うわ~っ。使い魔妖精だ。珍しいねこのタイプ」


 この少女。バイトどころか、この店のオーナーだった。ちょっと話すと大体の事情が分かった。フランは老舗の革問屋の跡取り娘でオーナーの親父は珍しい革を探しに旅に出ているから、店の一切を取り仕切っている。この世界で革は住居の調度品や衣服、馬車の座席に使われる他、武器にも使われている重要な原材料なのだ。


「で、右京さん。剣の持ち手だとオーソドックスなのはこの辺のものだけど、右京さんは普通のものは求めていないでしょう」


 このフランという娘。右京の様子から鋭い質問をする。確かに右京は一点ものを考えているので、柄に巻く革一つにしてもこだわりをもちたい。


「普通じゃない革ってどんなものがあるんだ?」


「そりゃ、家畜じゃない革っす。牛や馬、羊にウサギ。産地や種類によってもいろいろだけど、人間が育てているから一定の量が手に入るからね。普通じゃないのは野生動物の革からかな」


 そう言うとフランは店の奥に右京を招いた。普通じゃない種類の品物は店の中に置いてあるようだ。


「狼に狐、熊、トカゲに蛇……。で、こっちがペガサスにユニコーン」


「おいおい、さりげなくファンタジーっぽい生物を言ったな」


「そうっすよ。ファイアリザードにトリケラトプスにサンドウォーム」


「なんか、恐竜の名前が混じってなかったか?」


「で、これがサウス大蛙の革」


「ゲロ子の革は無理でゲロ」


 フランがゲロ子を見て片目を閉じた。ゲロ子は右京の背中へこそこそと隠れる。彼女の手にかかればゲロ子も皮を剥がれて革製品にしてしまうだろう。


「珍しい革はどうやって手に入れるんだ」


「冒険者から買ったり、行商人から手に入れたりするっす。これなんかは珍しいっすよ」


 フランは透明の革を取り出した。透明のビニールのような感触だ。


「これはなんだ?」

「最近、手に入れたんですよ。ドラゴンの皮」


「ドラゴンの皮?」


「まだ加工してないから革生地じゃないけど、ドラゴンの脱皮した時に出る皮っす。これはファイアドラゴンの幼生が1段階脱皮した時のものっすよ。とても珍しいっす」


「へえ……」


 右京は感心した。この世界、やっぱりドラゴンがいるらしい。町の外に出ないからモンスターに出会わないけれど、外の世界はゲームのごとく危険がいっぱいだ。


「ドラゴンなんて、近くにいるのか?」

「それがねえ……。ここだけの話っす」


 フランが急に声を潜めた。右京とゲロ子だけに耳打ちをする。


「このイヅモの町のすぐ近くのコポラ山に最近、レッドドラゴンが住み着いたって話です。これを持ってきた冒険者は、その住処からこの皮を採取したって言ってましたからね」


「それって、結構、危険?」


「まあ、そのドラゴンは悪い奴じゃないらしいし、この町の冒険者じゃ、幼生のドラゴンでも無理だから、ギルドも討伐なんてしないと思うけどね。ドラゴンは気まぐれだから、そのうちどこかへ行ってしまうだろうし。できれば、次の脱皮までいてくれるとうちとしては助かるっす」


 気楽なことを言っているフラン。ファンタジー世界ではドラゴンは倒されるべき、中ボスかラストボスという役割だが、フランの言動を見ているとそう悪い生物ではなさそうだ。ちょっと危険な野生生物といった認識だろうか。もちろん、中には人間に害をなすドラゴンもいるだろうが。


(ドラゴンねえ……)


 右京はとりあえず、フランの勧めで火に強い火鼠という動物の革を手に入れた。あのロングソードに使おうとチョイスしたのだ。赤い色の革で剣がスタイリッシュに見えるはずだ。ちなみにドラゴンの脱皮したものは、加工すると10センチ四方で1000Gはする高級品になるという。


 火鼠の革の代金20Gを支払うと右京はそのドラゴンがいたという場所を詳しく聞いた。フランが言うには危険はなくても相手はドラゴン。人間の方から近づくのは素人はやめた方がよいと忠告した。ベテランの冒険者が偵察するくらいならよいが、ドラゴンが怒ったらそれこそ、命はないのだ。


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