↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第5話 起業のロングソード(ワンハンドレッド キル 斬鉄剣)
PR
46/320

資本金を稼ぐ

「それ面白そうだね」

 

 そう右京に話しかけてくる人物がいた。その人物は全身をローブで覆い、サングラスまでかけている。何故か黒いうさぎの耳付き帽子をかぶっている。声は女性のようだが幼い感じがした。ローブは着ているがシルエットから、長身のスレンダーな体型が想像できた。顔はよくわからないのだが、透き通るような白い肌である。


「クロアが買ってもいいよ。いくらで売りたいの?」


「お嬢さんじゃ無理でしょう。おうちの人に頼んでくれるならいいけど」


 右京は彼女がまだ子供だと思ってそうあしらった。


「むむむ……。クロアを馬鹿にするのか。クロアはこれでも大人だよ」


 クロアと名乗る女性はサングラスを外した。大人と言ったがそうは見えない。


(これで大人かよ。どう見ても高校生ぐらいだろ)


 ただ、普通じゃないと右京は思った。普通じゃないとは、普通の人間じゃないということだ。肌の白さとパッチリとした赤茶色。どういうわけか、目の下にくまができていて恐ろしい程の美形が少々損なわれていた。ただ者ではない雰囲気は十分ある。


 クロアが引き下がらないので、右京は売値を提示した。高校生には絶対無理な金額だ。


「これ1200Gで売りたい」


 日本円で60万円。ふっかけたわけではない。売ればこれくらいはする。右京は買い取り屋だったから自分の査定に自信がある。


「ずいぶんとふっかけるね。いいよ。それを言い値で買っちゃうよ。でも、あなた、変な格好しているね。この世界の住人じゃないみたい」


 そう女は言って右京にテーブルに座るよう促した。ついでに店員を呼んで飲み物を持ってこさせる。その手馴れた動作はJKではない。常連の淑女を思わされるスマートぶりである。


 そして、優雅にメニュー表を指差し、右京のために食べ物を注文してくれた。運ばれてきたパンと肉料理にかぶりつく右京。昨晩、カイルからもらったパンしか食べてなかったので、とても助かった。それにこんな豪華な食事はこの世界に来て始めてだ。


「クロアの本名はクローディア・バーゼル。魔法の道具屋をやっているの。あなたは?」


「伊勢崎右京」

「ウキョウ? 変な名前ね」


 そうクロアは笑う。美人の笑顔には思わず癒される。この荒くれ冒険者がつどう場所に咲く可憐な花だ。冒険者の中にはクローディアのことを知っている者もいて、会釈してくる。この女、見かけによらずかなり地位が高そうだ。


「なるほどね。異世界からやってきたというわけね。その指輪。魔法の指輪ね」

「魔法の指輪?」


 クロアは温かいお茶が入ったカップを優雅にすすり、そう右京に話した。右京はクロアにこれまでのことを話しつつ、空腹を満たすのに夢中だったが、お腹がいっぱいになるにつれて余裕が出てきた。


 あのばあさんが持ってきたサファイヤがそんな力を秘めた指輪であったなら、こんなヘンテコな世界に飛ばされた理由としては十分だろう。


「ディメンションリング。対象を異次元へ移動させる指輪だよ。右京がそれを持っていればいいけど、ないってことはまずいわね」


 普通に年上の右京を呼び捨てにするクロア。だが、右京が21歳と話したら、自分は22歳と答えた。絶対嘘だ。


「まずいって?」

「その指輪がないと元の世界へは帰れないということだよ」


「ええええっ! そりゃ困るよ」


「たぶん、右京がこの世界に飛ばされた時に移動したのよ。この世界にあることは間違いないけど、小さな指輪を見つけるのは難しいわね」


「そ、そんな。俺はどうすればいいんだよ」


「さあね。とりあえず、この世界で生き残るしかないよね。右京、この腕輪をクロアに売って当面の生活資金はできるけど、いずれ無くなるわ。どうやって生きていくか考えないとダメだよ」


 クローディアは懐から小切手帳を取り出した。サラサラと1200Gと記入してサインする。それとは別に紙切れに自分の住所を書いた。


「これをギルド銀行の窓口に持っていくとお金に変えてくれるよ。それとこの腕輪、大切なものでしょ。しばらくクロアが預かっておくから、お金を稼いだら買いに来るといいよ」


「それはありがたい」


 やむを得ないとはいえ、右京はブランド時計を売りたくなかった。給料を貯めて買った大切な物なのだ。


「もちろん、クロアも商売だから、多少の利子は乗せて売るけど……。あと、これも縁だからね。この世界での生き方を見つけたなら相談に乗るよ。この住所に訪ねてきて。但し、太陽が沈んでからだよ」


 そう言うとクローディアは片目を閉じた。ものすごく可愛い仕草だが、右京の背筋に冷たいものが走った。ちょっとだけ口元から鋭い犬歯が見えたからである。


(太陽が沈んでからってなんだよ……)


「と、とりあえず、助かったよ。クローディア」

「クロアでいいよ。クロアはクローディアの愛称」


 クロアはそう言うと右京のオレックスの時計を手に取ると、またローブにすっぽりと体を覆って店の外に出た。


 右京がギルド銀行に小切手を持っていくと1200G。100G札で12枚を手にすることができた。これで当面の宿と食事を得られる。まずはゆっくり寝ようと右京は宿を探した。


 1200G。日本円にして60万円を手にした右京だが、節約しないとすぐになくなってしまう。とりあえず、宿は清潔第一に考えたが、その中で一番安い宿を選ぶ。1泊7G。食事も安く済ませれば一日2、3Gで何とかなる。3、4ヶ月は暮らせそうだ。

 

 この世界から元に戻る方法を見つけようにも、とりあえず自活できるだけの体制を作らなければならない。となると就職することであるが、これは難しかった。最も簡単なのは武装して冒険者になること。ギルドに登録すれば右京のように身分証明できるものがなくても冒険者として仕事は得られるらしい。


 だが、それはどうにも右京には合っていなかった。ギルドの受付嬢から聞いた話によると、簡単なお仕事は町の外の害獣退治らしいが、危険度はそれなりにあり、アウトドア派でない右京には自信がない。それに魔法が使えないから肉体労働の戦士を選ぶしかない。右京の体格で重量のある武装は無理っぽい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。