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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第5話 起業のロングソード(ワンハンドレッド キル 斬鉄剣)
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回想

 

「ありがとうございます。また、お売りください」

「また来るでゲロ」

 

 ここ数日、武器の査定に来る客が多くなり忙しくなった。これまでは1週間で数人。買取り成立はせいぜい1人といった状況から比べると大きな違いだ。 

おそらく、『ガーディアンレディ』や『ホーリーメイス』の一件で、伊勢崎ウェポンディーラーズの名前がイヅモの町で知られるようになったからであろう。武器を買い換える時には、武器を買う店に二束三文で引き取ってもらうより、右京の店で査定してもらうという冒険者が増えた。


 ただ、買取り件数は増えていったが、なんでも買い取るわけではなく、多くの品物の中からリニューアルして売れる商品だけを右京は見極めて買い取っていた。普通のロングソードやショートソードを買っても売る時に困るからだ。


 一度、買い取った品でカイルに新品同様に修理してもらい、防具とともに『冒険者ビギナーズセット』と称して売り出してみたが、反響は今ひとつで売れるのに3週間もかかってしまった。


 この世界の冒険者には、中古品を買って装備するという意識はまだまだ根付いていないのだ。どんなに性能がよくても、安くても新品に対する羨望は絶大で、例え半額でもお金を貯めて新品を買うという冒険者がほとんどであった。


 よって右京の買取り基準は、リニューアルしがいがあり、付加価値が高く中古品でも買いたいという品に限られた。これは以前、日本で買取りショップに勤めていた右京にとっても、同様の状況であったために納得がいっていた。日本の買い取り店でも、高く買い取れるのは有名ブランド品。一般メーカーは買い取り不可であった。滅多に手に入らないものでしか、中古品は買いたがらないし、新品では相当高くて手が出ないが、新品並の状態で安い中古品なら買いたいという客は多いからである。


 この世界の武器も同様であった。よって、冒険者が持ち込む武器は程度にもよるがどうしても査定は辛くなる。


 そんな中、日も暮れてそろそろ店を閉めようかという時間に、一人の年を取った魔法使いが査定にやってきた。右京の前に出したのは指輪であった。


「指輪ですね。残念ながらこの店は武器の買取りがメインで装飾品は扱っていないのです」


 魔法使いは頭からローブを被り、表情は見えない。見た感じ、痩せた老齢の男性である。この手の冒険者が普通の指輪をもってくるはずがない。


(魔法の指輪だったら、クロアのところへ持ってくしかないな)


 右京はそう考えた。魔法の道具屋を経営するクロアの方がこういう指輪の扱いはうまいだろう。買ってくれる顧客もいるはずだ。


「これはただの指輪じゃない。炎の指輪じゃ。ファイア系の魔法が1発分チャージされている」


「なるほど。魔法攻撃を1回できる指輪ですか」


 そうなると指輪といっても武器である。魔法については、相棒のゲロ子に見させればその真贋は分かる。この手のアイテムは新品で買えば1万Gはする高価なものだ。1発分しかないなら、値段はかなり落ちるであろうが。


(そういえば、あの時もこんな感じだったなあ……) 


 右京は査定をしながら、この世界に飛ばされた時のことを思い出した。あの時もちょっと怪しい老人の持ってきた宝石を査定している時であった。鑑定で石の中を覗いた時に不思議な出来事が起こった。宝石の中にあった1点の黒いシミ。それがどんどん広がり、やがて黒い穴になった。その穴に吸い込まれるようにして右京は、このゲームの世界と思われるファンタジー世界に導かれたのだ。


 暑い夏の日の夜。今みたいに店じまいまで1時間を切った時間のことであった。


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