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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第4話 不幸のクリスナイフ(ボーチャークラッシュ)
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ヴァルハラルール 後編

(負けるものか……。こっちにはこのクリスナイフがあるのだ)

 

 アルトは左腰に帯びたクリスナイフを触る。運気が立ち上り、アルトに勇気が湧いてくる。この男を破産させてやるのだ。

 

 ディーラーからカードが配られる。相変わらず、アルトの勢いは続いている。最初から2枚ずつ揃うダブルキルが成立している。これで攻撃してもよいが、カードは4と6のポーンなので与えるダメージは20ほどしか奪えない。1枚を交換する。クリスナイフの効果なのか、1度の交換で3枚目の6を引く。


「ボーチャー、アタックだ!」

「おや、相変わらず早いですね」


「オープン。4と6のスマッシュバレット。ダメージ35」


「こちらはシングルキルのみ。そちらの勝ちですね」


 2回目もアルトは好調であった。連続数字のストレートが2順目で揃って15ダメージ。さらに3回目はナイトのチャージ3成立で35ダメージ。ボーチャーのポイントは残り25となった。


 幸運の連続で最初から高い役が成立した状態のアルトの速攻の前にボーチャーは対抗する手段がないように思えた。だが、ここへ来てもボーチャーは慌てた素振りも見せない。


(いつまで済ましているんだよ。そのつらに悔しさと絶望の文字を刻んでやる)


 この勝負は勝てるだろう。25ダメージを与えればボーチャーの負けである。4回目もアルトのカードは最初からダブルキル成立。好調さは続いている。


(速攻をかけるべきか? いや、ダブルキルでは10ポイントダメージ。ここは少なくともチャージ3以上狙いだ)


 カード2枚の交換を要求。だが来ない。ボーチャーも3枚引く。3回目。来ない。4回目になんと2枚引いた。10ポーンが4枚。かなり強い役であるフォースジャッジが完成する。与えるダメージは85である。ボーチャーは相変わらず3枚引いている。


(時間はかかったが、上等。ボーチャーはまだ揃ってない)


「アタックだ! ボーチャー」


「その確信に見た表情。どうやら強い役を揃えたようですな。では、私も勝負といきましょう」


 そう言うとボーチャーは5枚チェンジを要求する。その様子を見てアルトは勝ったと思った。全部変えてフォースジャッジ以上の役ができるはずがない。


「オープン。10ポーンのフォースジャッジ。ダメージは55だ」


「ふふふ……。残念でしたね」


 ボーチャー5枚のカードをテーブルに広げた。


「キングのフォースジャッジ。ダメージは75。アタックを切り替えしたので2倍返し。お前のポイントは0だ」


「ば、馬鹿な」

「流れというのは変わるのさ。先程までどん底だった私の運も回復してきたということ」


「まぐれだ。まぐれに決まっている」


「まぐれでも勝ちは勝ち。まずは10万G。そして2回戦」


 アルトは焦った。よく考えればクリスナイフの効果は単に運をよくするだけ。相手の運がこちらを上回れば負ける時もある。そろそろ、ボーチャーにも流れが来てもおかしくはない。


 だが、所詮は一過性の流れに過ぎない。こちらはアイテムの特殊効果で運が良い状態なのだ。多少ゲームを落としたとしてもトータルで上回ればよいのだ。


「あ、ありえない……」


 2回戦は引きの良さを活かして軽い役で速攻の3連擊をかましたが、すかさず2回返されて沈んだ。ボーチャーの方が強い役であったのだ。これで20万Gの負け。


 さらに3回戦はじっくり時間をかけていく作戦に転換したが、今度はボーチャーが速攻をかける。ダブルキル、シングルキルで攻撃して来られて数で押されてアルトの負け。これで40万Gの負けである。


「4回戦だ。これで負ければ80万Gだ。小僧、もう既に支払い不能だろう。鉱山での愉快なバイトが始まるなあ」


「次、勝てば挽回だ。そんなことではビビってたまるかよ」

「そうかな」


 ボーチャーは心の中で笑った。この若者も自分の策略にはまったのだ。ビビらないと口では言っても恐怖心は内面に浸透している。それが戦略を左右する。早く、早く上がろうとして軽い役になる。


 こちらはじっくり構えてそれを超える役で対抗すればよい。キングスにおいては先制攻撃が有利というのが定説だが、それを受ける方はもう一度カードが引けるという有利な点がある。ここで状況が変わることも十分ある。しかもアタックを受けて返せば2倍ダメージを与えられるのだ。


「速攻だ! 7とビショップのダブルキル」


「残念。こっちは青の順番揃い、ストレートフリーズ。倍返しの100。この勝負も私の勝ちだ」


 5回戦。既に掛金は160万Gを超えた。ボーチャーの速い攻撃を受けてアルトは前半にポイントを削られて、中盤盛り返すも競り負けてまたもや敗北してしまった。がっくり肩を落とすアルト。5連敗である。掛金は320万Gである。日本円にして16億円。


「さあ、6回戦だ。降伏するかと尋ねるのは愚問だよな。既に庶民では払いきれないレートだ。鉱山行きが決定しているからな」


「うるさい。勝てばいいのだ。1回でも勝てば逆転」


 これはアルトの言い分は正しい。確かにこのルールでは6回連続で負けても最後の1回で勝てばよいのだ。6回負けて320万G負けても最後の1戦に勝てば640万Gが手に入るのだ。


 だが、賭け金が自分の払えない数字になると戦う勇気が失われる。この高額レートのヴァルハラルールはそこに恐ろしさがあった。並みの人間では耐えられないプレッシャーである。


(この小僧もこれで終わりだ。人間にはそれぞれ器というものがある。器は金を扱える量を表す。所詮、お前は20万G程度の金で自分を見失う程度の器に過ぎん)


 ボーチャーはそう言って6回戦を進めようとした。ゲームを進める権利は勝者にある。これ以上やってもアルトは金は支払えない。全く無駄な戦いではあるが、一発逆転をかけて敗者はズルズルと深みにはまるのだ。ボーチャーはそれを何度も見てきた。


 そして奇跡は絶対に起こらない。それが確定しているだけにボーチャーは笑いが止まらないのだ。だが、不意にアルトの後ろに集団が近づき、そのうちの一人が肩を叩いた。


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