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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第4話 不幸のクリスナイフ(ボーチャークラッシュ)
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マイヅルの町へ

右京たちは冒険者ギルドへ向かった。ギルドの窓口は冒険者たちでごったがえしていた。少しでも儲かる依頼を求めて朝から紹介してもらいに来ているのだ。

 

 そんな状態だから、ネイたちが引き受けたという依頼を調べるなどという面倒なことは、あちらこちらの窓口にたらい回しされた挙句、ちょっとお待ちくださいと言われて2時間も席に待たされている。


「ダメでゲロ。いっそのこと、ゲロ子が忍び込んで……」

「やめろ、ゲロ子。冒険者ギルド出入り禁止になると困る」


 右京にとっては、この場所に集う冒険者は大事な客である。ギルドも武器情報を得たり販売中の武器を宣伝したりする場所だ。ゲロ子がこっそり不法行為をして見つかったら、大変なことになる。出入り禁止は死活問題である。


「あ、クローディアひ……」

 

 例の頭からすっぽり布をかぶったクロアに話しかけるおっさんがいる。でも、瞬時にクロアににらまれて言葉を飲み込んだ。


「ク、クロア様。お久しぶりで」


 ギルドの制服を着た中年おっさんである。何故か両手を握ってお伺いをしている格好だ。


「課長さん、お久しぶりです」


 どうやら、クロアの知り合いらしい。というか、このギルドの依頼事項を統括する営業課の課長である。クロアがここへ来た理由を話すと慌てて、係長を呼びつけ、スタッフ3人がかりで調査を開始した。


「課長さん、特別扱いはよしてね」


「いやいや、クローディアひ……じゃなくてクロア様にはお世話になっていますから」


 最初に会った時からクロアは不思議と顔が広いことは知っていたが、右京たちにお茶まで出してくれる待遇に変わったところをみると冒険者ギルドでもVIP待遇らしい。まあ、それを最初から使ってくれれば、苦労しなかったのにクロアは特別扱いを進んで受けようとはしないのが本分らしい。


「ああ、あの箱を回収してくるという依頼ね。報酬は540G。必要経費は冒険者持ち。依頼ランクE」


 スタッフの一人が帳面をめくって比較的早く見つけ出した。おっさん課長が命じてから、10分もしないうちである。こんなことなら、早く対処して欲しいものだが、冒険者ギルドと言っても面倒なことは後回しにする役所仕事と変わらない。


「ああ、それじゃ。うちらが引き受けた依頼じゃ」


 ネイも確認して間違いないようだ。だが、スタッフは紙を見て怪訝な顔をした。


「この依頼、取り下げられていますね、引き受けたパーティから何の連絡もないから、次のパーティに紹介しようと思っていたら、依頼人からもう解決したのでと申し出があったようです」


 見ると赤い大きな印鑑が押されている。『破棄』という文字が見える。


「依頼人は誰でゲロか?」

「アルト・グランゼルクと記入してあります」

「アルト?」


 スタッフの話にネイが反応した。『アルト』という名前は十分心当たりがあったのだ。


「魔法使いの名前じゃ」

「ネイ。魔法使いの男って、最近、仲間に加わって、この事件が起きたらさっさといなくなった奴のことか」


 右京にコクリと頷くネイ。


「そうじゃ。彼は最近、パーティに加わった男じゃ。名前はアルト・グランゼルクだった」


「アルト・グランゼルク? グランゼルクならイニシャルはGだな」


 右京とネイの話を黙って聞いていたクロアはゆっくりと口を開いた。


「ダーリン、そのハーフエルフの話でどうも引っかかっていたことがあったんだけど、話がつながったよ」


 クロアが話したことは右京もちょっと気になっていたことだ。呪いの箱を開けたとき、一緒にいた魔法使いの男はそれを見ていない。最初にネイが開けようとしたが開かず、魔法でロックがかけられているのかもと思いその魔法使いに見せたが魔法ではないと言って返した後に、仲間の戦士が意図も簡単に箱を開けたこと。そして、一連の騒ぎが起きた時にその男は姿を消している。


「その箱を関係ない人間に見せたくなかったと考えたら? 関係のないハーフエルフが開けて中を見るのは避けたかった。ターゲットは戦士2人とクルス神官だったなら」


 クロアの推理にゲロ子が続く。いつの間にかシャーロックホームズの如く、インパネスコートに鹿撃ち帽子をかぶってパイプをふかしている。


(いつのまに! って、ゲロ子、お前は探偵か!)


「ゲロゲロ。魔法でロックをかけていたから、ハーフエルフは最初開けられなかったでゲロ。魔法がかかっていないかと渡されて、かかっていないと言いつつ、アンロックの呪文で解除したでゲロ」


「うちにシーブスキットを取りに行かせているうちに、クルスたちが開けてしまったのじゃな」


 それにしても疑問も残る。ネイがターゲットじゃなかったなら、どうして後でネイが見ることになるのだろうか。右京についてもそうだ。


 ネイの部屋に保管してあった箱が開けてあったこと。これでネイが呪いを受けてしまった。意図的にネイに見せようと魔法使いが開けたということになる。それなら、わざわざ、ネイを対象から外した理由が分からない。


「ハーフエルフの娘。お前があのパーティに加入したのはいつなの?」

「さ、三ヶ月前じゃ」


 クロアに問われてネイは答えた。元々、戦士2人とクルス神官が昔からのメンバーで10年は一緒にやっていると聞いていた。


「魔法使いはその3人に恨みがあったと仮定しましょう。それで3人に呪いをかけた。けれど、その後に何か不都合なことが起きて、ハーフエルフとダーリンが巻き添えになったと考えるとつじつまが合う」


「どういうことだよ」


 クロアの説明でもまだ納得いかない右京。ターゲットの3人に呪いをかけてしまったなら、ネイを巻き込む必要はない。


「おかげで主様も巻き添えを食ったでゲロ」


「ダーリン。この短剣の呪い。どうやら運を吸い取って恨みのある相手を破滅させるという単純なものじゃないわね」


 クリスナイフにかけられた呪いは運を奪い取るステータス食い。3人の運を吸い取り、今も2人の運を吸い取りつつある。だが、運を吸い取ったあと、この短剣はどうなるのであろう。延々と吸い取るだけなのか、それとも吸い取ることで別のものに変わるとか。


「ネイ、その魔法使いどこへ行ったか心当たりはないのか?」

「それが分からんのじゃ」


「くそっ。ここへ来て手がかりがなくなったか。もう一度、クリスナイフを見てみよう。何か手がかりがあるかもしれない」


 右京はもう一度、箱の中を確かめようと蓋を開けた。そして驚いた。箱に入っていたはずのクリスナイフが消えていたのだ。右京はネイの顔を見るがネイは知らないと首を振るだけであった。クルスのところで開けた時には確かに入っていたし、その後も右京が大事に保管していたのだ。途中で盗まれることは考えにくい。


「くんくん……。魔力の残り香がするよ、ダーリン。どうやら、ロケート・オブジェクト……アイテム回収の魔法がかかっていたようね」


 クロアがそう言った。『ロケート・オブジェクト』という魔法はあらかじめかけておくことで任意の時間に持ち主の元に戻るという高等魔法である。時間が経つと持ち主のところへ返るようになっていたらしい。


 持ち主が動き出したということだ。次の段階に進んだということだろう。呪われた武器を回収して何かを始めるつもりなのだ。


「た、大変だ」


 不意に大きな声で話しかけられた。振り返るとあのフォーチュナ神殿の神官である。右京たちを探して走り回ったらしい。息を整えないと次の言葉が出ない。

「あ、あんたたちを探していたんだ。クルスが死んだ、炎に巻かれて」


「な、何だって?」 


 神官が指差す方向を見ると黒い煙が上がっているのが見える。どうやら、あの男にも不幸が訪れたようだ。しかも今度は死んでしまうとは……。これはいよいよ追い詰められてきた。部屋に閉じこもっても命を失うということなのだ。6日後には右京もネイも同じ運命なのだ。


「クルスが死ぬ前にこんなことを言っていたんだ。マイヅルの町にグランゼルク家を訪ねよ。そこが全ての始まりだと」


「グランゼルク家? マイヅルの町?」


「マイヅルはここから1日以上かかる港町でゲロ。定期馬車が出ているから、それに乗れば明日の昼には着くでゲロ」 


「アルトはあまり話をしない男じゃったが、以前マイヅルの話をうちにしてくれたことがあったのじゃ。何か手がかりはあるかもしれん」


「ダメもとで行ってみるか……というより、早くしないと蛇が心臓まできちゃうんですけど!」


 右京の右腕の蛇は肘まで移動している。これで2日が経っている。あと5日でアビリティ食いの呪いで一生不運な人が決定になってしまう。それどころか不運が重なって死んでしまうこともある。


(それだけは回避しないと……)


 死ななくても商売人として運がないのは致命的だと右京は思う。もちろん、運任せのような地に足についていない商いをするつもりはないが、ここぞという時の商売運は自らの力で引き寄せるくらいのパワーが必要だと思うからだ。


 マイヅルの町は定期便の大型馬車で移動しても1日はかかる。マイヅルの町にアルトがいる保証はない。往復で2日という時間ロスは痛いが今は手がかりを求めて行くしかない。


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