ホーリーEND
ホーリー派の読者様のショートストーリです。
ホーリー派以外は読まない方が・・・。
カラン、カラン……。
教会の鐘が鳴る。ホーリーの教会である。ホーリーは1年前、昇格試験を受けて2等神官になったから、教会は小規模な神殿という扱いになっているが、建てた時から変わらない優しい雰囲気を醸し出している。
今日はこの神殿の主、ホーリー・イルラーシャが結婚する日だ。ホーリーは孤児だったので、信仰する神様の名前をもらっている。これは愛の女神であるイルラーシャの教義の一つであり、大いなる神の慈悲でもあった。でも、今日からその神の慈悲から離れ、伊勢崎姓を名乗る。神様の代わりのなる男性を見つけたからだ。この異世界は結婚したら夫の姓を名乗るのが一般的だからだ。
(今日から、私はホーリー・伊勢崎)
椅子に座ったホーリーの姿は、これは女神様かと目をこすってしまうかのような神々しさに包まれている。真っ白なウェディングドレスは純真無垢なホーリーにふさわしいものである。
「ホーリー……」
「お、お母様……」
ドアを開けて入って来たのは、実の生みの親。シンシア・セガール。夫は病に倒れて今は療養中。没落しつつあった侯爵家をビジネスで救った長男のジュラール。まだ、20歳を超えていないが、立派な侯爵としてイナの町の経済を支えている。
「姉さま、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます、ジュラール様」
「姉さん、僕は弟だよ。ジュラールで結構。母上、姉さんの花嫁姿、美しいね」
「うっ……ううう……私は娘に何もしてあげられなかった。本当にごめんなさい、ホーリー。勇気のない、ダメなお母さんで……」
ホーリーの母、シンシアはホーリーの父であるベルダン・マニシッサと駆け落ちをして失敗した。シンシアはベルダンと引き離され、政略結婚でセガール侯爵家へ嫁いだのだ。そこで2男1女を授かった。
「いいえ。わたしはお母様に感謝しています。この世界に私を生んでくださってありがとう。そして、今日はありがとうございます。結婚式に来てくださって」
「姉さん、時間ですよ。母上も泣いていないで、姉さんの介添えお願いします」
「えぐ……ううう……、そ、そうね。娘の晴れ姿。お母さんとして立派に勤めを果たすわ。あなたを幸せにしてくれる右京さんに、大事な娘をお渡しする日ですから」
神殿の扉が開く。都からわざわざ来てくれた大司教が祭壇の前にいる。そこには、モーニングを着こなした右京もいる。ホーリーはベール越しに祝福客を見る。全て右京や自分が関わった人たちだ。商売のパートナー、カイル夫妻も3人の子供を抱っこしている。ホーリーの優しい人柄に惹かれて町の人たちもたくさんいる。神殿の前は祝福に来た人々でいっぱいだ。
武器を通して人と関わり、幸福を運んだ右京の商売精神の結果である。ホーリーは結婚しても神官は続ける。神の教義を教え広め、身寄りのない孤児を養い、薬種販売で人々の健康を守る。夫である右京は武器屋の女主人にならなくていいよと言ってくれた。理解力のある夫である。
「伊勢崎右京、汝はこの女、ホーリー・イルラーシャを妻として一生愛すか」
「はい」
「ホーリー・イルラーシャ、汝はこの男、伊勢崎右京を夫として一生愛すか」
「は、はい!」
「それでは指輪の交換を」
テーブルにはゲロ子がいて、指輪のケースを開ける。
「主様もこれで棺桶に片足を入れるでゲロ」
「おい、めでたい席に変なことを言うなよ」
「ゲロ子ちゃん、大丈夫です。その時はわたしも一緒に棺桶に入りますから」
「相変わらず、天然で重いことを言う女でゲロ。ホーリー、結婚したら大食いは控えるでゲロ。そうでないと伊勢崎家の家計を圧迫するでゲロ。ゲロ子の食べる分もなくなるでゲロ」
「き、気をつけます」
「心配するなよ。君が食べる分、男としてちゃんと稼ぐよ」
「主様、最後にかっこいいこというでゲロ」
「うるせー」
「それでは誓の接吻を」
右京はそっとホーリーのベールを上げる。
「右京様、わたしは幸せです」
「もっと幸せにしてやるよ」
カランカラン……。祝福の鐘が町中に鳴り響く。神殿の扉が開く。溢れんばかりの人々が祝福に駆けつけている。右京はホーリーを抱き抱えた。お姫様抱っこである。
花で飾られた馬車が止まっている。これに乗って、これまでお世話になったイヅモの町以外の場所へ挨拶に行くのだ。もちろん、伊勢崎ウェポンディーラーズ支店の視察の兼ねたハネムーンである。
花嫁と花婿。そして小さなカエル妖精を乗せた馬車が出発する。
それは成功が約束された夫婦のサクセスロードである。
ホーリーEND
いよいよ、最後になりました。 次は……あの子。23時に公開。これで完結W




