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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
最終章 右京の魔弾(メビウスショットガン)
317/320

開店 伊勢崎ウェポンディーラーズ

メインの話はこれで完結。

ヒロインとのエンディングは本日、夜、連発で投稿。みなさん、これでさよなら。

「やった!」

「これで、あと一人でゲロ」

「でも本当にこれでこの町は救われるんでしょうね」

「大地震は必ず起きる。明日の夜7時20分過ぎ……」

「嘘かどうか、その時間が来れば分かるわね」

「ティファ」

「ティファじゃないって……まあ、いいわ。あなたなら」

「念のため、ゲームのデータはバックアップを取って、被害が及ばないところへ避難させろ。そのゲームが完成しないと困るんだ」

「アメリカ支社のサーバーに移すわ。今から作業すれば、明日の昼までには移動できる」

「あと、ティファ、大地震が起きたら、30分以内に岬の灯台に来てくれ」

「さっきの生体エネルギーをぶつけるうんぬん?」

「そうだ」

「嫌よ。大きな地震が起きたら海に近づかない。それが常識よ!」


(ふう……)


 右京は小さく息を吐いた。そして、右京はティファの両肩をがっちりと掴む。驚いて右京を見るティファ。


「この町を救うためにどうしても君の力が必要なんだ」


(な、何、この男子。それになんでドキドキしているわたくしの心臓)


「……なんだか、あなたには従わないといけない気がするわ」

「よし、いい子だ、ティファ」


(この人、私よりも年下よね……。でも、なんだか癒される……)


 頭を撫でなでされて戸惑いながらも、少し顔を赤くした未華子。


 こっちの世界のティファは、25,6歳のお姉さんである。しかもスーツの似合うビジネスウーマンである。


「で、もう一つ、お願いがあるんだ」

「な、なんです?」

「クロアを探せないか? 」

「クロアって、あの種族バンパイアの無敵キャラ?」

「ああ、そうだ」

「無理ね」

「そのタブレットで、ちょいちょい調べれば分かるでゲロ」


「顧客情報はそんなに簡単にアクセスできないよ。私の権限では無理。緊急事態とかいってアクセスするには、社長である兄の許可が必要よ。まず、短時間じゃ無理ね。努力はするけど」


「頭の固い社長でゲロ。向こうの世界じゃ、有能な国王だったでゲロ」

「がああああああっ! それじゃ、最後の一人が分からないじゃないか!」



 最後の一人。アスタロトの杖を持つクロアが見つからない。そして、手がかりも途絶えた。ティファと別れた右京は虚しくアパートへ帰る。



 翌日も捜すアイデアがないまま、時間だけが刻々と過ぎていく。町をあてもなくブラブラする右京。ひょっとかして、どこかの店のオーナーでもやっていないかと、クロアがやっていそうな店を回ってみた。骨董店、宝石店、銀行、ブティック。全部空振りである。


「どうするよ、ゲロ子」

「ゲロ子にもわからないでゲロ」

 

今は最終日の午後1時20分。地震が起きるのは7時20分。もう6時間を切っている。そしてこの時点で手がかりは全くない。右京は公園のベンチで頭を抱えている。


「おい、お前!」

「お前だよ!」

 


 顔を上げると頭にハチマキを巻いたいかつい男たちに囲まれていた。どこかで見たことのある顔だ。


「何か用ですか?」

「何言ってんだよ、社長の花嫁を奪っておきながら!」


 どうりで見たことのある顔だ。あのホーリーの結婚式に来ていた水野社長の従業員だろう。社長に命じられて花嫁を捜索中、面倒くなって公園でサボろうとしたら、偶然、右京を見つけたのだ。


「桜子さんはどこだ?」

「なんでお前、一人なんだよ」


 男たちは右京がホーリーを連れて逃げたと思っている。なぜ、一人で公園のベンチで頭を抱えている姿が理解できない。


「もしかして、お前、桜子さんに振られたのか?」


「そんなわけないでゲロ。ホーリーは、もう主様にメロメロでゲロ。あのはげたおっさんのものにはならないでゲロ」


「なんだと、この野郎!」

「おいおい、ちょっと待てよ。喋ったのはこのスマホ!」

「うるさい!」


 ドゴッ! 「うっ!」


 強烈な膝蹴りが右京の腹に放たれる。これは強烈だ。思わず、その場に崩れる右京。さらにドカドカとケリを入れられる。だが、右京もやられっぱなしではない。蹴られながらも体を丸めて防御姿勢。隙を見て反撃の機会を伺う。


「うおっ!」


 蹴りが弱まった瞬間に右京は強烈なパンチを顔面にお見舞いする。顔を覆ってその場で崩れる男。さらに驚いた、もうひとりの足に強烈なキックを見舞って倒す。


「逃げるぞ、ゲロ子」


 右京はダッシュする。だが、運が悪かった。道を渡ろうとした瞬間。車が走ってきた。ボンネットめがけて頭が打ち付けられる右京。


「ゲコ……」

「まさか、こんな……デッドエンド?」


 右京の脳裏に走馬灯のように異世界で起きた出来事が浮かんでは消えていく。


「うっ……」


 ズキズキした痛みを頭に感じる。ぼやけた目に映るのは白い天井。だんだん、はっきりしてくるとゆっくりと顔を横に向ける。クリーム色のカーテンで囲まれている。そして、ちょっと首を起こして自分を見る。ベッドで寝ている。顔を上げると右腕に点滴をしているのがわかった。黄色い液体がリズムを刻んで滴下していく。


(そ、そうか……俺は車にはねられて……)


 突然、記憶が戻った。ガバッと体を起こす。体中に痛みが走るがお構いなしだ。


「今、何時? 」

「夜の7時だよ」


 右京は誰に問いかけたわけでもない。だが、言葉を発した人物がカーテンを開けて入ってきた。白衣を着た人物。白衣の下は黒いワンピース姿だ。黒いストッキングを着用。服装から看護師ではなさそうだ。首に聴診器を引っ掛けている。医者だとしたら、変わった趣味である。ゆっくりと顔を上げた右京。その人物の顔を見て、思わず叫んでしまった。


「ク、クロア!」


「あら、私の秘密の名前を知っているなんて、あなた誰です? 交通事故にあった間抜けな男子くんじゃないみたいだけど……」


「クロア、お前、VRMMO、剣と魔法のオーフェリアって知ってるだろ?」


「意識が戻ったら、ゲームの話? そりゃ、知ってるよ。テストプレーヤーに選ばれてやっていたからね。テストプレーヤーじゃ、最強のキャラを演じていたから、知ってる人、多いけどね」


「クロア、クロア、よかった……」


 目の前の女医さんはクロアのモデルだった人。名前は黒田瞳さん。


「俺は伊勢崎右京」

「もちろん、知ってるよ。あなた、ゲームの中じゃ、私と結婚してたから」

「はあ?」

「結婚してたでしょ」

「いや、それはないと思う」


 ゲームは異世界を想像する引き金になっただけだ。異世界とゲームは似ているところもあるが、全く別物の世界。いわゆるパラレルな世界なのだ。


「否定されるとちょっとムカつく」

「ゲロ子、ゲロ子はどこだ? クロア、俺が持っていたスマホは?」

「ああ、これね」


 黒田医師が差し出した白いプラスチックケース。そこには右京の貴重品が入っている。スマホも当然あった。だが、それを見た右京は絶望に囚われる。


「わ、割れてるじゃないか! スイッチも入らない」

「あなた、車にはねられたから、そりゃそうなるわよ」


「そ、そんな、ゲロ子がいないとロックが解除できないじゃないか!それにゲロ子が死んでしまった。ゲロ子、ゲロ子~」


「ゲロ子、ゲロ子とうるさい人ね」


 黒田医師は呆れ顔である。だが、右京は時計を見て驚く。7時15分。あと5分である。地震が起きてから30分で津波の巨大な第一波がこの町を襲う。


「もう終わった! ゲロ子が死んでしまった~。これで認証行動ができない~っ」


 その時だ。ピーッ……ピロリン。音が鳴った。黒田医師の白衣のポケットが点滅している。そこにスマートフォンが入っているのだ。手を伸ばしてポケットからスマホを取り出す黒田医師。画面を見て首を傾げる。


「あらあら、ご主人様。誰かをお忘れではありませんか?」

「こ、この声は!」


「スキスキスキ……大好き、右京様!」

「ヒ、ヒルダ~」


「ちょっと、私のスマホに話かけないで! なんなのよ、このスマホ。変なアプリがインストールされてる!」


 黒田医師からスマホをひったくるようにして右京は画面を見る。その画面に白い天使が登場している。どう見ても、あのヤンデレバルキリーだ。


「ご主人様。認証行動はゲロ子先輩じゃなくても、私ができます」

「助かった。あと5分もないんだ。急ぎ、頼む」


「黒田さんは、ゲーム世界のことを知っています。パスワードと指紋認証でコードが解除されます」

「ゲロ子も心配だが、とりあえず、認証行動だ。アスタロトの杖」


 あっけにとられている、黒田医師を無視して、彼女のスマホ画面に文字を打ち込む右京。頭には包帯。右腕の点滴は強引に抜いた。


「クロア、この画面に指紋の認証を……」

「な、なに言ってるのよ。勝手に点滴を抜いてしまって……」

「いいから、早く!」


 ゴゴゴゴ……と地鳴りがする。異様な空気に黒田医師は身震いする。右京に促されて、思わず、右の人差し指を差し出した。


ピーッ。

第5のロックを解除しました。

情報 魔弾の開放は全ての所有者が揃ったら行われます。開放の言葉。


   「儲かったでゲロ」


「おいおい……それかよ!」

「きゃっ……」


 凄まじい音と激しい揺れ。天と地がひっくり返る。右京は黒田医師を抱き抱えるとベッドの下へ避難する。激しい揺れは天井を破壊し、室内の様々なものを倒して破壊する。


 パリン……カラン……。物が落ちる音。そして静寂。外な真っ暗。明かりがない。月明かりに照らされて、右京はそっとベッドの下から出る。


「お、驚いたわ……。これはかなり大きい地震。震度7は間違いないよ」


 黒田医師もそっと外に出る。窓が割れている。町は完全に停電で真っ暗。そして、南の方からオレンジ色の波が舐めるように吹き出し、広がっていくのが見えた。


「火事だ。そして30分後には間違いなく津波が来る」

「津波ですって……」


「ヒルダ、これで解除は全て終わりだよな」

「はい。終わりです。後は所有者全てを集めて、ご主人様が行動するのみです」

「聞いたでしょ。クロア、俺と来い」

「ダメだよ。私は医者。この惨事をほっとけないよ」

「クロア!」


 右京は黒田医師をグッと抱きしめる。クロアのモデルだけあって、クロアとそっくりの抱き心地だ。


「このままでは10万人以上が死ぬ。ここに残っても間違いなく死ぬ。それを止められるのは俺と君だけだ」


 (本当はキル子とホーリーと音子とティファがいるのだが、そこは伏せておこう)


「な、なんだかわからないけど。そんなに言うのならいくわ。ゲームの世界では夫婦だったのだから。死ぬなら一緒よ」


「よし、病院を抜け出そう」


 まだ余震が時折起きる。揺れるたびに人々の悲鳴が聞こえる。阿鼻叫喚の光景とはこのことだ。町は破壊されている。崩れたビル、倒れた信号。ひび割れた道路。そして、きな臭い臭い。火が舐めるように広がっていく。


「くっ……。ここから30分以内に岬までいけるのか!」

「あれがあるよ」


 黒田医師はそう言って白衣の右ポケットから何か取り出した。手には銀色に光る鍵。バイクの鍵だ。

「さすが、クロア。バイクならこの混乱を抜けて岬までいける」


 時間的には余裕がない。津波の到来まで、もう28分を経過。ヒルダの画面はどんどんと残り時間を消費していく。右京はバイクにまたがる。黒田医師は後ろシートに乗る。


「行くぜ!」


 瓦礫の山を迂回し、右京は岬に急ぐ。この大地震。他のメンバーはもう集まっているのだろうか。海の方から不気味な音が響き始めている。そして船のサイレンらしき音が闇を切り裂く。


「ご主人様、残り時間、3分切りました」

「見えた、灯台だ!」



「あ、右京!」

「右京様」

「右京さん」

「右京」


 灯台の袂でこちらに手を振っている。どうやら、最初からこの場所に集まっていたようだ。集合したら、したらで、たぶん、微妙な雰囲気になっただろうが、今はそれを問うまい。地雷地帯どころではない。

 

 キル子(伊藤霧子)、ホーリー(堀桜子)、ティファ(山岡未華子)、中村音子、そして、クロア(黒田麻紀子)。5人が揃った。


「ここからどうするの?」

「怖い……」

「こうなった以上は右京さん次第……」

「ビ、ビビってなんかいないからな!」

「あれなによ!」


 クロアが指差す方向。月明かりに照らされて巨大な壁が押し寄せてくるのが見えた。それはうねり、曲がり、あらゆるものを飲み込み、生を奪う。『混沌の意思』である。


「ヒルダ、用意は出来たぞ」

「あ、あのご主人様」

「な、なんだヒルダ。早くしろ」


「わたくしはここまでしか知りません。このあとどうするのでしょう?」

「儲かったでゲロとか言えば、解決じゃないのかよ!」


「いえ、それは先輩の決め台詞ですから……はれ?」


 グイグイとスマホの画面が縮小される。必死で抵抗するヒルダ。だが、画面は小さく折りたたまれた。折りたたんだのは、緑のかっぱを着たキャラクター。


「ゲ、ゲロ子、無事だったのか!」

「ハッキングしてこのスマホに移動するに手間取ったでゲロ。いよいよでゲロな」


「時間は30秒切った」

「では行くでゲロ……。主様右手をピストルみたいにスルでゲロ」


「武器じゃないのかよ!」

「左手は添えるでゲロ」


「こ、こうか!」

「あ!」


 5人のヒロインが光に包まれた。みんな手を下にして広げ、目を閉じて空中に浮かぶ。

そして、5人から生じた光が右京の右手に注がれる。


「主様、魔弾メビウスショットを撃つでゲロ。開放の言葉は!」




「儲かったでゲロ!」

「儲かったでゲロ!」


 七色の光が放たれた。町を猛然と襲う津波が消えた。七色の光は突き抜け、津波の第一波を粉砕。第2波、第3波も粉砕した。小規模な津波はそれから町を襲ったが、港を破壊しただけで、町の中心部への津波被害はなくなった。






「右京!」

「右京様!」

「ダーリン!」

「右京!」

「右京さん!」


 再び、ぐるぐると回る渦に込まれた自分に気づく右京。差し出された手を掴む。その手は複数伸びて右京を引っ張った。


「うっ……」


カラン……カラン……。


 地面に5つの武器が落ちる。回って空気の渦を作っていたのがなくなった。


(か、帰ってきた……この異世界に……)


 右京は駆け寄ってくる美少女たちを見て、ほっと安堵した。この世界が好きだ。この世界の人間が好きだ。そう強く思った。


 右京は帰ってきた。この異世界で武器の買い取り店を繁盛させている。あちらこちらに支店を作り、商売は右肩上がりで成長している。


 だが、この世界の「混沌なる意思」はまだ倒していない。だが、心配はいらない。それを倒せる5つの武器は既に発見しているからだ。それを倒す話は、いずれ語られるであろう。



「はい、いらっしゃいませ!」

「買う客、売る客、みんな満足、得をする。伊勢崎ウェポンディーラーズでゲロ」


 中古武器の買い取り、販売を手がける『伊勢崎ウェポンディーラーズ』


 今日も元気に開店する。


(完)


エピローグは10時までに連続投稿します。SS風の後日談

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