認証行動その2 第2ロック解除
「マジかよ……」
「捜すしかないよ」
「次の認証者って、クロアやキル子、ホーリーなんてこの世界にはいないぞ。どうすりゃいいんだよ!」
「……手はある。私たちが戻ってきたのもこの危機を乗り切るため」
「だけど、(大地震が来る、みんな逃げろ)とか叫んでも変人扱いされるだけだぜ」
「私が言っているのは、人探し」
「勇者オーリスが音子の先輩だったなら、キル子もクロアもホーリーもプレーヤーがいるでゲロ……」
「なあゲロ子、音子ちゃん。どうもよくわからないのだが、あの異世界はこの世界のなんとかオーフェリアってゲームの中だったのか?」
ゲームの中に転移なんて話は、ファンタジー小説では珍しくない。
「主様、何を言っているでゲロか。異世界は異世界。ゲームとは関係ないでゲロ」
「関係ないというのは言い過ぎ。ゲームはこの世界とあの世界をつないでいる橋みたいなもの。そのゲームの存在があの異世界の創造につながった。だから、この世界にはキル子さんやホーリーさん、クロアさんにはモデルがいる。そのモデルを使って5つの聖なる武器をこの世界に具現化させる……」
「つまりこういうことか、あの世界の人間は呼び出せないが、そのモデルとなった人間を使うことで代用させる……」
この世界で橋の役割を果たすゲームが津波で破壊されると連動して、あの異世界も滅びてしまう運命になるという。なんだか、まだよくわからないがとにかく、代わりになる人物を探し出してパスワードを打ち込む。この町を救うにはそれしか方法はない。
あの世界が開発中のVRMMO『剣と魔法のオーフェリア・オンライン』なら、テストプレーヤーの数は多くないはず。キル子やクロア、ホーリー、あとついでにスチュアート王もだが、彼女らがプレーヤーだったならこの世界に実在することになる。
「だけど、捜すにしても数十人じゃないだろ、いくらテスト中のゲームだとしても」
「先輩に聞いてみる。先輩ならゲーム上のプレーヤー情報を持っているかもしれない」
音子はそう言って、学校に戻っていった。休み時間に海堂先輩に聞くという。右京は焦る。もし、いままでの開示情報が真実なら、あと2日と少しでこの市全体が滅びる。
(今、目の前にいるこの光景が地獄に変わる……)
幼稚園児が母親の手に引かれてうれしそうな笑顔を見せる。これから出勤するサラリーマン、OLが職場に向かう。生に溢れ、活動し始めた町。それが津波に飲み込まれる。
(嘘であってくれ……)
こればっかりは真実であって欲しくない。もし、地震が本当に起きたなら、右京が何もしなければ、みんな死ぬ。そして、キル子やクロア、ホーリーがいた世界もなくなる。『混沌なる意思』が行うことはこういうことだったのか。マダム月神という婆さんがやりたかったことは、右京にこれを止めさせるためだたのか。もし、そうなら右京はこの両世界の崩壊を救うヒーローになる。
2時間後、音子が学校を抜け出してきた。海堂先輩から情報を得たらしい。
「キル子の正体が分かった」
「キル子のモデルって、あんな格好で実在はしてないよな」
「あの格好じゃ、この世界では、即逮捕でゲロ」
「この世界では紅香商業高校3年生。海堂先輩が正体を知っている唯一の人物。先輩の友人のお姉さんらしい」
「キル子以外はわからなかったのかよ」
「先輩は知らないと言っている」
まあ、それが普通だろう。ネットゲームで正体を知られるというのは、危険な行為だ。そのキル子のモデルとなった女子校生、ちょっと心配になってしまう。
「キル子の本名は、伊藤霧子」
「おいおい、霧子は一緒かよ!」
「紅香商業で暴れている不良だそう」
「ヤンキーかよ!」
「キル子らしいでゲロ」
とにかく時間がない。認証行動は右京のことを思い出せて、指紋を認証させる。その行為が次につながる。音子はもう少し、海堂先輩からゲームについて情報を聞き出すという。音子を置いて右京はキル子のところへ向かう。
キル子の所在はすぐわかった。紅香商業高校に行くと、門の外でたむろっている女子高生が3人いたからだ。その中の一人。背の高い美人がいる。あの露出ギリギリの女戦士だったキル子だが、この世界では足首まで伸ばした長いスカート。木刀を片手に背中をトントンしている。
「あれに話しかけるのかよ……」
右京はちょっと躊躇した。あまりにも違いすぎる。キル子は強がっていたが、根は女の子だった。しかし、目の前の女子校生、どうみてもヤンキーだ。確かに容姿は似ているけれど。
「話しかけないと進まない」
行けと音子が目で右京に命令している。でも、なんとなく気が進まない。
「主様、行くでゲロ。キル子なら主様を見てすぐに発情するでゲロ」
「そんなわけないだろ!」
確かにうだうだしていても仕方がない。もう時間は58時間を切っている。
「あの……」
右京は手を挙げてにこやかに話しかける。
「はあん? なんだよ、おっさん」
「俺はおっさんじゃない」
キル子の取り巻き女子2人が絡んでくる。どうやらボスはキル子のようだ。
「そっちの子に用がある」
「姉さんに?」
「姉さん、このおっさん知り合い?」
キル子が右京をにらむ。腕を組んで門に寄りかかったまま、すぐに形のよい唇が動く。
「知らない」
「知らないはずないだろ。右京だよ、伊勢崎右京」
「はあん? 何言ってるんだ。殺すぞ、こら!」
「ナンパなら他所でやれよ」
「姉さんが美人だからって、声かけても無駄だぞ。姉さんは大の男嫌いなんだ」
取り巻き女子がそう右京に言い放つ。キル子も初対面の時と同じで口汚い。やはりモデルだけのことはある。しかし、こっちのキル子は右京のことを覚えていないようだ。
「おい、ゲロ子、どういうことだよ」
「そんなことはないでゲロ。あの世界とこっちの世界は細いけど、微妙に影響しているでゲロ。このヤンキー、異世界のキル子と同一じゃないけど、どこかで主様とつながっているでゲロ」
「じゃあ、どうするんだよ!」
「キル子の性格は一緒でゲロ。ここは強気でいくでゲロ」
「くっ……」
右京はキル子を真っ直ぐに見つめる。そして歩を進めてキル子に接近する。
「おい、姉さんに何をするんだ」
「うるさい! 俺はキル子に用事があるんだ!」
「な、あたしは霧子だ、キル子じゃない……」
ドン! キル子を壁に押し付ける。壁ドンだ。
「俺だ。伊勢崎右京だ」
「う。右京……し、知らない……」
右京の迫力にキル子は頭が真っ白になる。ヤンキーでいつも強気なのに突然、現れた青年に言い寄られて軽いパニックだ。これも右京がイケメンであったから。禿げたおっさんなら、痴漢だと叫んで殴るだろう。
「おい、ゲロ子、ここまでやってもダメだぞ」
「キスでもして思い出させるでゲロ」
「キ、キスうううっ!」
壁ドンで逃げられないヤンキーキル子。右京とスマホの意味不明の会話を聞いてビビった。強気のヤンキー娘が今は狼に狙われる子うさぎだ。しかし、ゲロ子の言うようにいきなりキスしたら、確実に犯罪者だ。速攻、逮捕は間違いない。だが、ゲロ子が崖っぷちに立った右京の背中を押す。
「主様、この町の10万人の命がかかってるでゲロ」
「ちくしょう!」
「わっ!」
抵抗するキル子の両手を上げて壁に押し付ける。強引に口づけだ。それが意外とスマートだったので、取り巻き女子2人も呆気に取られた。当のキル子も頭が真っ白になる。
「うっ……くくく……」
口を離した右京。キル子を見つめる。
「あ……思い出した……。お、お前、あのテストプレイしたゲームの……武器商人……」
「ね、姉さん……どうしました?」
「この男、痴漢だよ、警察に突き出しましょう!」
「う、うるさい。右京は知り合いだ」
「え?」
「彼氏?」
子分に聞かれたキル子は右京を見る。どういう関係か答えられないようだ。右京が代わりに答える。こう言わないとただの痴漢だ。
「お前は俺の彼女だ」
「は、はい……」
「よし、いい子だ、キル子。このスマホに指を当ててくれ」
右京はパスワードを入力する。(ユニコーンランス)そして、キル子に人差し指を出すように促す。キル子は恐る恐る人差し指を当てる。
ピーッ。
2つ目の認証行動が行われました。2つ目のロックを解除します。
5つの武器の所持者は大地震発生後、30分以内に岬にある灯台に集まること。全員集まらないとみんな死んでしまいます。
ミッション3 次の認証者を探せ!




