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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
最終章 右京の魔弾(メビウスショットガン)
312/320

5つのパスワード

最終章を設定中です。この話は311話と同じです。

「うあああっ……」

「何だ、右京、変な声を出すなよ」

「ここは……。嘘だろ!」


 右京は自分の目を疑った。あの買い取り店だ。同僚の店員が不思議そうな顔をしている。右京は右手にはめた時計を見る。針は6時50分を指している。


「右京、さっきの婆さんの指輪、いくらで査定したんだ?」

「え、いや、その……」


「まあ、宝石なら専門店で買い取ってもらった方がいいだろうなあ」

「あ、そうですね」


 右京の頭は混乱しているから、適当に同僚の話に合わせる。今の状況はどういうことなのか。必死に整理する。あのマダム月神に異世界に飛ばされて、1年以上は月日が経ったはずだ。だが、戻ってみると僅かに10分かそこらだ。


(嘘だろ……)


 店は7時で閉店である。いそいそと閉店準備をしながら、右京は必死で状況を整理した。あれは絶対に夢ではない。キル子やホーリー、クロアの息遣いがリアルに思い出される。


(それに……)

「ゲロ子、ゲロ子はどこだ?」

「おい、右京、お前、変だぞ。ゲロ子って誰だ?」

「あ、いや、ゲロ子は俺の使い魔で……」

「何、言ってんだ、疲れすぎだろ。片付けはいいから、もう帰れ」


「は、はあ……」


 店長がそう声をかける。仕方なくフラフラと右京は家路についた。店から地下鉄に乗って2駅。どうやって帰ったのか分からない。一人暮らしのマンション。そこは変わらぬこの世界の右京の空間。


「おかしい。絶対におかしい。異世界に戻ってきたにせよ、ゲロ子も一緒だったはず。どこに行ったんだよ、ゲロ子~っ!」


(シーン……) 暗い部屋は何も答えない。右京は部屋に入り、テーブルにスマホと鍵を置く。上着をソファに掛けて、冷蔵庫からビールを取り出す。何が何だか分からない。


(プシュッ……)


 缶ビールを開けると一口、ぐいっと飲む。久々の日本のビールだ。異世界のビールとはまた味が違う。


「あの味は覚えている。絶対、夢なんかじゃない。俺は異世界で武器の買い取り屋をやってたんだ。あれはリアルだ、現実だ」


(シーン……)


「嘘だろ! 夢オチなんか絶対許されないぞ!」


(シーン……)


「うわああああっ……」

「ヤレヤレでゲロ」


 聴き慣れた声が聞こえた。右京は抱えた頭を開放して部屋を見る。


「ゲ、ゲロ子~っ」


 だが、声は聞こえたが姿は見えない。


「どこだ、ゲロ子。どこにいるんだ」


 キョロキョロと部屋を見渡す右京。身長15センチの雨合羽を来たフュギュアを探す。だが、それらしきものはいない。


「ゲロ子、とにかく出てきてくれ。俺は自分の頭がおかしくなったとは思いたくない」

「ここでゲロ」

「どこだ?」


「テーブルの上でゲロ」

「テーブルの上?」


 右京が先ほどスマホと部屋の鍵を置いたソファとセットのテーブル。スマホが青く光っている。


「ゲロ子、なんで、お前、スマホ画面にいるんだよ!」

「仕方ないでゲロ。この世界ではこれが精一杯でゲロ」


 スマホ画面に懐かしいゲロ子がいる。画面いっぱいに顔をくっつけて、それから離れてトコトコと画面の端から端まで歩いている。


「お前、スマホだったのか?」

「携帯端末のプログラムでゲロ」


「……なんか、よくわからんが、あの世界のお前の能力を考えれば妥当な姿だな」


 ゲロ子には3つの能力があった。1つは辞書機能。異世界の常識的な知識を教えてくれる。2つ目は平均的な価格の情報。3つ目は宣伝に使える瞬間移動機能。これもメールで相手に伝えたり、情報を届けたりすることを考えればスマホである。


「主様の頭が柔らかくてよかったでゲロ。でないと、夢オチエンドで読者の反感を買って終わったでゲロ」


「ゲロ子よ、なんかさりげなく読者とか言ったよな」

「さあでゲロ」


「とにかく!」


 右京はスマホを右手で握って振り回す。画面のゲロ子が目を回す。


「状況を説明しろよ!」

「やめるでゲロ。使い魔虐待でゲロ。話すから振り回さないでゲロ」


「早く説明しろよ。俺はこの世界より、あの異世界で暮らしたい」


「そうでゲロ、そうでゲロ。あの世界なら可愛い嫁がいっぱいでハーレムだけど、ここじゃ、女ッ気なしの寂しい男の一人住まいでゲロ」


「うるさい。仕事が忙しくて彼女が作らなかっただけだよ」


 右京が言うとイヤミにはならない。右京は結構イケメンだし、仕事もできるオーラが出ているからだ。その気になれば寄ってくる女性から彼女や嫁さんを選ぶことなどできるはずだ。


「モテる男はつらいでゲロ」

「うるさい。どうすれば、帰れるんだ。あの異世界に!」


「あの世界に行ったことには、意味があるでゲロ。そして、この世界に帰ってきたのも意味があるでゲロ」


「マダム月神は俺が何かする人間だから、あの異世界に飛ばされたと話していた。だとすると、戻ってこの世界で何かをする必要があるんだろう」


「まさにそうでゲロ」

「じゃあ、話せよ。全てゲロしろ!」


「無理でゲロ」


 ゲロ子の奴、画面で寝転びお尻をボリボリ掻いてる。いつものさぼり姿だ。


「どういうことだよ」

「ゲロ子のプログラムにはロックがかかっているでゲロ」

「ロック?」

「5つのパスワードでロックしてあるでゲロ」

「5つのパスワードだと?」

「そうでゲロ」

「5つの聖なる武器と関係あるのか?」


 そういえば、混沌なる意思を倒す聖なる武器を見つけることが、あの世界で右京が課せられたミッションであった。同じように音子も召喚され、あのウガウガオーガの加藤もそうだった。加藤はあの世界で命を落とし、音子と自分はミッションを達成して元の世界へ戻ってきた。そしてあの5つの武器もぐるぐる回って一緒に消えた。


「5つの武器がパスワードでゲロ」

「5つの武器? 名前を打ち込めばいいのか?」

「そうでゲロ」


「じゃあ、まずは打ち込むぞ。まずは音子ちゃんの『アポカリプスの斧』」


 右京はゲロ子が呼び出したパスワード画面にそう打ち込む。「ピーッ」と音がなる。



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