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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第20話 怪異の戦槌(ソウルハンマー)
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一つ目の巨人と竜骨兵

特設サイトもできて絶好調! ガンガン行きますw

「サイクロプス!」


 グオオオオオッツ……。凄まじい咆哮と重量感のある足音。巨大な生物が近づいてくるのが分かる。遺跡は土に埋もれていた巨大な町そのものであったが。広大な町は転移魔法の影響か、いくつかの区画が地下に移動して、全部で5層の地下都市を形成していた。これがどういう経緯でこういう形になったのかは分からないのだが、地下であっても空が見えるという不思議な光景が広がっている。

 

 だから、身長が10m近くもある一つ目巨人がいてもおかしくない。サイクロプスは一つ目の巨人だが、ギリシア神話に出てくる由緒正しいモンスターである。ギリシア語でキュクロプスと表記されるが、神話では『ボリュベーモス』という固有名詞で出てくる。


 山を象徴する巨人で鍛冶技能に優れたという点から、火山の神とまで言わる。神話では炎の巨人ヘカトンケイルと共にタイタン族を打ち負かした英雄的な扱いであったが、目の前にいるそれは巨大な棍棒を持った野蛮な人食い巨人である。

 

 さらに厄介なのはその足元に数多くの骸骨戦士がいたこと。数はざっと100。骸骨戦士は魔法で動くアンデッドモンスター。攻撃力は弱いが数が多いと侮れない。


「レイリ様は後方へ」


 冒険者のリーダーが叫ぶ。前衛に戦士。後方に魔法使い。神官は後方で補助魔法に徹する。勇者オーリスと音子は左右に展開している。レイリはその後方に位置する右京たちのところまで下がる。


「あんな化物、倒せるのですか?」


 モンスターなど見たことのない深窓の令嬢であるレイリは、サイクロプスを見ただけで体が震えてくる。ホーリーが大丈夫ですと声をかける。ホーリーも冒険者としての経験はあまりないが、勇気をふりしぼる。手に持ったウォーハンマーの青白い輝きが増してきている。


「まずは足元のスケルトンを一掃する!」


 ウィルバードがもう一人の魔法使いと共に、ファイアーボムの魔法を唱える。それが放物線を描いて前方へ飛ぶ。着弾するとともに骸骨戦士を吹き飛ばす。


「見ました!?」

「はい?」


 得意げにクロアに視線を送るウィルバード。だが、右京の背中から降りているクロアは全く見ていない。ガクッと気持ちが落ち込むウィルバード。憎憎しそうに右京をにらむ。右京にとってはいい迷惑だ。

いい加減、クロアに全く相手にされていないことを自覚して欲しいものだ。


 魔法を飛ばした前線では異変が起きていた。ファイアーボムで吹きとばせなかった骸骨戦士を剣でなぎ払った前線の戦士は、粉々になったそれが瞬時に元の姿になるのを見て驚いたのだ。


「ダメだ、こいつら再生能力がある!」


 ウィルバードたちが吹き飛ばした骸骨戦士も次々と復活している。そしてサイクロプスの棍棒攻撃が前線の戦士たちに襲いかかる。数人が風圧だけで吹き飛ばされる。とんでもない力だ。


 もうひとつの驚異である骸骨戦士の攻撃にはスピード感はない。だから、ベテランで高レベルの戦士なら囲まれても驚異にはならない。しかし、戦士の一人は骸骨戦士の中に特異な個体が混じっているのを見た。それは角が2本生えた個体。赤みがかった色。動きが異様に速い。


「こ、これは、竜骨兵が混じっているぞ!」

「気をつけろ!」

「くっ、厄介な奴だ!」


 竜骨兵はドラゴンの骨から再生された魔法生物。人骨からなるスケルトンよりも素材がよいせいか、攻撃力ははるかに高い。骸骨戦士の攻撃をかわしながら、竜骨兵の攻撃をさばくには難しい。大苦戦に陥る。


 しかし、その中でもキル子の攻撃は圧巻であった。アシュケロンを両手で持って渾身の一撃で骸骨戦士をなぎ払う。そして、竜骨兵に向けて斬撃を放つ。それを盾で防ぐ竜骨兵。竜骨兵の技量は熟練した戦士に匹敵するのだ。しかも再生能力がある。が、構わず頭から一撃の兜割り。


「これだ!」


 キル子は頭をぶち割った中から赤い石を発見する。それを返す剣で真っ二つにする。すると粉々になった竜骨兵は、再び、元に戻ることはなかった。


「コアだ、コアを壊せ! 頭の中にある」


 竜骨兵の攻撃に歴戦の戦士が傷つき、倒れる。隙をついてホーリーや右京たちのところにも骸骨戦士が斬りかかってくる。ホーリーがウォーハンマーで打ち砕く。転がった頭蓋骨を思いっきり打ち砕く。


 右京もショートソードで斬る。首の骨めがけて水平に剣を振る。ポキッと折れて頭蓋骨が転がる。


「こんちくしょう!」


 ガシガシと足で頭の骨を踏み砕く。粉々になった骨の欠片から、赤いコアが現れる。


「ゲロ子!」

「分かってるでゲロ! えいでゲロ!」


 止めを刺すのはゲロ子。両手で持った小さな金づちでコアを割る。骸骨戦士の単体なら右京とゲロ子でも倒せる。ネイは後方からで味方がコアを露出させる度に弓でそれを狙う。


「とどめは任せるのじゃ!」


 ひゅうと放つ矢はコアを次々破壊する。だが、数が多い。群がる骸骨戦士と圧倒的な破壊力をもつサイクロプスに前線は押されつつある。


「炎の玉よ。今、邪悪なる敵を穿て!」


 ウィルバードともう一人の魔法使いがファイアボールの魔法をサイクロプス目掛けて放つ。炎の玉はサイクロプスに当たって大ダメージを与えるはずであった。だが、サイクロプスの目がきらりと光る。


「ば、馬鹿な……。魔法無効化だと……」


 サイクロプスには魔法無効化能力がある。100%無効化することはないが、その確率は高い。よって攻撃魔法は効果が薄い。


「百なる光の矢、千なる光の矢、万なる光の矢、8つの方向から敵を貫け! シャイニング・アロー!」


 ここまで静観していたクロア。正確に言えば、呪文の詠唱を続けていたのだ。そのクロアが目を開いた。その目は赤く輝き、同時に右手を突き出す。円を描くように光の矢が出現すると、骸骨戦士と竜骨兵の頭部を無数の矢が貫いた。それは光の光線が走るようにも見えた。


ガシャン……ガシャン……。


「すげえ!」

「びっくりでゲロ!」


 全滅。まだ70体はいたと思われる骸骨戦士は一瞬で粉々になった。頭部のコアを一撃で貫いたからだ。クロアの魔法攻撃は圧倒的だ。呪文詠唱に時間がかかるのが欠点であるが、十分に時間があれば一撃で戦況をひっくり返せる。


 数が多くて面倒な骸骨戦士の軍団が一掃された。それらと戦いつつ、サイクロプスの攻撃をかわしていた勇者オーリスと中村音子の二人。


「音子ちゃん、これでサイクロプスに集中できるね」

「オーリスさん、手を抜きすぎ……」

「仕方ないよ。僕の攻撃は凄すぎて周りを巻き込んでしまうからね」


 無数の骸骨戦士を相手にしながらもサイクロプスを自由に動かさなかったのは、音子とオーリスの手柄であろう。でなかれば、骸骨戦士に立ち往生する中でサイクロプスの強攻撃を受けて死人が多数出た可能性がある。


「……ジャイアント・キル!」


 音子の両足に履いている『火渡りのブーツ』と言われる厚底のブーツ。これで身長が低いのをかなりごまかしている音子であったが、これはそれだけの効果ではない。通常の10倍のスピードで動けるのだ。ダブルアクセルと呼ばれる加速状態から、華奢な音子には似つかわしくない巨大な戦斧がサイクロプスの足めがけて横へなぎ払う。


 音子が通過した後、足から血が噴き出してドドッ……と倒れるサイクロプス。そこへオーリスが剣を振りかざして空中で一回転。そのまま、額にある目を突き刺した。


「ライトニング・ボルト!」


 青白い光がスパークした。オーリスの所有する剣の一つ。『ライトニングブレード』の効果である。斬りつけた敵に魔力を消費して、すさまじい電撃を食らわせる効果があるのだ。サイクロプスは両手、両足をブルブル痙攣させてそのまま動かくなくなった。


「強い……。クロアとオーリスと音子がいれば他は必要なんじゃないか?」

「ゲロゲロ。戦闘シーンは短い方がいいでゲロ」


 敵の数の割に時間は短く済んだ。実質の戦闘時間は15分くらいである。しかし、パーティの受けた損害は甚大であった。レイリが雇った熟練冒険者15人のうち、3人の戦士が重症で離脱。軽傷を負った神官一人と戦士一人が付き添ってエスケープの魔法石で脱出することとなった。


 死んだ者が出なかったことは幸いであったが、人数はいきなり半減である。戦士1人と魔法使い2人。これに音子とオーリスで5人。右京のチームは誰も脱落していない。幸いキル子もケガ一つしてなかった。


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