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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第20話 怪異の戦槌(ソウルハンマー)
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ある億万長者の死

今日から新章が始まります。

「おじいさん、どうされたのですか?」


ホーリーは町の通りの片隅でうずくまっている老人を見つけた。身なりは貧しく、何日も変えていないようで異臭を放っていた。ホーリーはそんな様子にもたじろかず、優しく声をかける。

 

老人の年は70歳を過ぎたというところであろうか。毛糸で編んだ帽子をかぶり、白い髭を口元とあごひげを覆っていた。両手には汚れた布切れに巻かれた長い物体を握り締めている。


「ぐふっ……。おえええっ……」


 老人は吐いた。黄色い胃液が酸っぱい臭気を放つ。ホーリーはポケットからハンカチを取り出すと老人の口元を拭く吐いた。「あうあう……」と訳のわからない言葉をつぶやく老人。視線は誰もいない空間を見つめている。


「歩けますか? すぐそこにわたしの教会があります。そこで休みましょう」


 ホーリーは老人を抱き起こす。老人はかなり痩せていて、体重は軽い。ホーリーが肩を貸すと枯れた木のように寄りかかり、足を惰性で動かした。だが、布で包まれた物は左手にギュッと握ったままである。


 何とか教会に連れ帰ったホーリーは、医者を呼んで老人を診てもらったが、衰弱が激しく、ついには朝方に様態が急変して亡くなってしまったのだった。



「ふ~ん。ホーリーも変なジジイに関わったでゲロ」


 ホーリーが右京に相談に来たのは翌日。老人の持ち物であった布に包まれた物を右京に見せに来たのだ。


「これがその老人が持っていたもの?」


 驚いたことに老人は腰に小さなカバンを着けており、そこには100G札が30枚と金貨が数枚入っていた。身なりは汚かったがかなりのお金を所持していたのだ。


「身分を証明するものが他になくて、衛兵事務所に届けたのですが、身元不詳で処理しなさいと言われてしまいました。このお金は慣習で教会で取り扱いなさいと言われたのですが、これだけのお金を持っていた方です。家の方が捜しているかもしれません」


「それもそうだな。行き倒れの割に所持金が多すぎる。ご老人の遺体は?」


「イルラーシャ神殿の教義で葬儀に出しました。着ていた服は洗濯をしてここに……」


 汚れていたという服は老人の身元の手がかりになると考えたホーリーが取っておいたのだ。右京がそれに触る。老人が着ていた時はかなり汚れてみすぼらしかったというが、選択すると生地の上等さから、かなり高い服であったと推察された。


「これはかなりの金持ちのじじいでゲロ」

「これがその老人が持っていたもの?」


「はい。教会でベッドに寝る際にも手放そうとはしませんでした」


 布に包まれているが、おおよそ右京には想像できた。おそらく武器だろう。大きさ、形からウォーハンマー系の武器だと思われた。だから、ホーリーも右京のところへ持ってきたのであろう。


 右京は布をくるくると取り外す。布がなくなるにつれて、武器の全容が明らかになってきた。予想通り、出てきたのはウォーハンマー。全長は150センチ。柄と直角になった柄頭の片方が平らでもう片方はカギ爪のように鋭くなっている。


鎧や盾で重装備をしている敵でも、この平たい部分で殴れば十分なダメージを与えることができた。歩兵が持つものは2メートルと長く、騎馬兵が持つ物は80センチ~50センチと短いものが多かった。短いものは『ホースマンズハンマー』と呼ばれていた。

 

出てきたものはオーソドックスな『ウォーハンマー』だが、装飾は見事なもので、所々に宝石があしらわれ、柄に施された模様も大量生産品でない、一品ものであろうとも思われるくらい凝ったものであった。カギ爪のようになっている柄頭はまるでカラスのくちばしのようになっている。こういう作りを14世紀から16世紀までのフランスでは、『ベク・ド・コルバン』と呼ばれる有名な形状であった。


「これはかなり高価な品だな。それに恐らく、非売品だ。俺もこの商売を始めてから、この形状のウォーハンマーは見たことがない」


 ウォーハンマーは武器屋に置いてないことはないが、あまり人気のある武器でもない。冒険者の対応するモンスターで、金属製の鎧を着た敵はそんなに出くわすことはないので、どちらかといえば、斬る、突くことができる剣や槍が好まれるからだ。よって種類もそんなにあるわけでなく、今、目の前にあるような凝った作りのウォーハンマーは滅多にないレアアイテムであると言えた。


「この武器が亡くなったお年寄りの身元につながることはないのでしょうか……」


 ホーリーはできれば、あの老人の身元を確かめ、家族に伝えたいと考えていたようだ。だが、老人につながるようなことは見つからない。




 だが、半日ほどで老人の身元が判明することになる。衛兵の詰所に問い合わせたことで、ホーリーのところに来たのは1台の馬車。中からは老執事に伴われた若い女性が出てきた。


「おじい様がここで亡くなったと聞きました……」


 その女性は20代前半くらいに見えた。長いブラウンの髪に高価な髪飾りを付けた令嬢である。ハンカチを握り締めて涙を拭っている。祖父の死に嘆き悲しんだのだろう。


「申し遅れました。わたくしはレイリ。レイリ・ザザーランドと申します。亡くなったのはわたくしの祖父、ハインリッヒ・サザーランドと言います」


「ハインリッヒ・サザーランドでゲロか?」

「知っているのか、ゲロ子」


「知っているも何も、この世界では有名な億万長者でゲロ」

「億万長者なんて、結構いそうだが……」


 右京の知っている億万長者はクロアだが、金持ちというのは特段珍しいものではない。


「ただの金持ちじゃないでゲロ。古代の遺跡を発見して億万長者になったことで有名でゲロ」


 ゲロ子が説明をする。ハインリッヒ・サザーランドは元商人。船で各地を回って特産品を仕入れて売りあるき、利益を稼いでいた。それだけでも長年頑張ればそれなりの金持ちになれたとは思うが、ハインリッヒの目的は幻の都『アヅチ』遺跡を探すこと。


 『アヅチ』は伝説上の都とされ、実際にはないと伝えられていた。黄金でできた城。宝石が敷き詰められた池など言い伝えられた話は、宝の都。ハインリッヒは幼少の頃から、この話を聞いていつかアヅチの都を探したいと思っていた。


でも、探すには資金が要る。そこでまず商人になってお金を稼ぎ、ひと財産築いたところで、それを全部つぎ込んで発掘したという。人々はありもしない夢物語に財産を使うなんて馬鹿げていると笑ったが、ハインリッヒは粘り強く探し、ついには10年の歳月をかけて発見することができたのだ。


アヅチの都は確かに存在し、そして莫大なお宝が眠っていたのだ。


「おいおい、それどこかで聞いたことがあるぞ」


 右京が言うまでもない。トロイの都を発見したシュリーマンという人物と同じである。シュリーマンもギリシア神話に残るトロイという町が実在すると確信し、全財産をつぎ込んで発見するという偉業を成し遂げた人物だ。


「レイリさん。おじい様は残念でした。ご病気だったみたいで……」


 ホーリーがそうお悔やみの言葉を言うとレイリは力なく首を振った。


「祖父は病気でもう長くはなかったのですが、最近は何かに取りつかれたように旅に出たがりました。このイヅモの町に来たのも祖父が行きたいと行ったからです。病気のこともあって、止めはしたのですが……いつの間にはいなくなってしまい……」

 

 そう言うとレイリはまたハンカチで涙を拭った。言葉が続かない。


「ハインリッヒさんは、死ぬ時までこのウォーハンマーを握り締めていたそうですが」


 右京は話題を変えてみた。先ほど、布から取り出したウォーハンマーをレイリに見せる。レイリは顔を上げてそれを気味悪そうに眺めた。


「それは祖父がいつも手放さず、手にしていたものです。アヅチの遺跡から発見したものです」

「へえ……。すると年代的にかなり価値がありそうな気もしますが」


「骨董品としては価値があります。ですが、私はそれを引き取りたくはありません」

「ゲロ?」

「なぜですか?」

「気味が悪いのです。それには……」


 レイリは首を振った。今から言おうとしたことを否定したいという態度だ。


「いいえ。それは私の思い過ごしです。でも、これは引き取りません。あなた方で処分してはくれませんか?」

 

 変なことを言う令嬢だ。確かに武器として売るにも査定が難しい。普通の武器屋なら、一律100分の1査定。一般的なウォーハンマーの新品時の値段を基準にして査定するだろう。行き先は鍛冶屋で溶かすためだが。


 右京の場合はきちんと価値を見極めて買う。だが、レイリはただで良いという。億万長者の孫である彼女には買い取り査定なんか関係ないのだろう。


「それでは遠慮なくもらっておきます」

「これは儲かったでゲロ」

「それとホーリーさん」


 レイリはホーリーの方に体を向けた。深々と頭を下げる。


「おじい様を看取って下さり、ありがとうございました。ホーリー様の教会には1万Gほど寄付させていただきます。あと、毎年、3万Gほど定期的に寄付させていただきます」


「え……。それはありがたいのですが……」


「遠慮なさらずに。サザーランド家は未来への投資が家訓です。ホーリーさんの教会は、身寄りのない子供を育てていると聞いています」


「はい。先代から引き継いだ大切なお役目なのです」


 ホーリーの教会はラターシャという司祭が創始者である。今の教会は後を継いだホーリーが大きくしたものだが。


「おじい様は、若い時に学問を修め、今の富を得ました。教育こそ、未来への投資。身寄りのない子供たちにも可能性はあります。寄付金でよい教育を受けさせてあげてください」


「ありがとうございます」


 そうホーリーは承諾する。教会にもお金持ちのスポンサーがあれば助かる。教会を大きくして神殿にすることも将来的には可能となるだろうから。


「おい、ゲロ子、何をしている?」


 ゲロ子が急に床に座って、ノートに書いている。


「何って、わからないでゲロ? 勉強をしているでゲロ」

「なんの勉強だよ」


「算数でゲロ。218+340=558でゲロ。789+38=836でゲロ」

「おい、間違っているぞ! 827だろ」

「間違ったでゲロ~」


「で、なんで算数の計算してる」

「ゲロ子はまだ子供でゲロ。子供は勉強するでゲロ。子供に投資をするでゲロ」


「やっぱりか! お前なんかに寄付してもらえるわけないだろう!」

「どうしてでゲロ? ゲロ子は子供でゲロ」

「嘘つけ!」


 レイリはそんな右京とゲロ子のやり取りを微笑んで見ている。そして、右京に気になることを言った。


「何か変わったことがあれば、いつでも屋敷に来てください。このイヅモの町には別邸がありますので、しばらくはそこに滞在しています」


 そう言うと右京に住所の書いた紙を渡した。そして、表に待たせてあった豪華な馬車に乗り込むと去っていた。


「何か意味深長な言葉を吐いて去っていたでゲロ」

「うむ。何かこの武器にいわれがあるのかな?」


「古代遺跡から出てきた割には、腐食していないのが不思議でゲロ」


「確かにそうだ。金属ならボロボロなはずだ。だが、これはどこも痛んでない。ハインリッヒのじいさんが大事に持っていたくらいだから、修復したのかもしれないが」


「まあいいでゲロ。ただでもらったから、これは丸儲けでゲロ」


「うむ。特に直す必要もないからな。付加価値を付ける必要もないから、即転売してもいいのだが……」

「そうはしないのが伊勢崎ウェポンディーラーズでゲロ」

「もちろんだとも」


 このウォーハンマーを改造して付加価値を付けるとしたら、どうすればいいだろう。右京が考えたのは、まずはカバーを付ける。高級な毛皮で柄頭にかぶせたら高級感が出そうだ。さらに柄の部分を金で装飾する。


(これは実用にするよりも観賞用に金持ちに売った方が儲かる)


 右京の方針は決まった。早速、カイルのところへ持っていく。まずは下準備でカイルに磨いてもらう。その後、形を整えて金細工師のボスワースのところへ持っていこうと考えたのだった。



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