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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第19話 愛情の鎧(ブロンドプレートメイル)
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金髪の鎧

(薬だ、薬を手に入れたぞ!)


 ニールははやる気持ちを抑えて、花屋へ急ぐ。先ほど、右京に売った武具の代金と自分の貯金全てをはたいて、プラズマボール症候群に効く薬を手に入れたのだ。これでベルの視力は回復するはずだ。

 ニールは高価な薬をポケットに忍ばせて、手を上げた。


「やあ、ベル!」


 いつものようにベルが花を売っている。今日はなぜかスカーフで頭を覆っている。珍しいなとニールは思った。ベルはニールを見つけて笑顔を浮かべた。


「ニール、無事に帰ってきたのね。怪我をしたって聞いたわ。腕、大丈夫?」


 心配そうな表情を浮かべたベル。そんなベルを励まそうとニールは、折れて固定された左腕をわざと右手で叩いた。

(痛~っ!)

 少し痛みが走ったが、笑顔で応える。それは目の見えないベルには無意味な行動ではあったが。


「腕が折れて、肋骨も折ったけど、全然、平気だよ」


 ポロポロとベルの目から涙がこぼれる。その目にはニールは映っていないが、ニールを想う気持ちは伝わってくる。ベルの顔がキラキラと輝くようにニールには見えた。


「そんなケガしてまで……。でも、無事に帰ってきてくれて嬉しい」

「僕も君に逢えて嬉しい」


「実は……」

「実は……」


 言葉が重なった。思わず顔を見合わせて微笑む二人。ニールはベルに先に話すように促した。ベルは花屋の片隅に布をかけてあるものを指さした。


「ニール。あなたにプレゼントがあるの」

「プレゼント?」


 さっと布を取るベル。そこにはニールが欲しくて、欲しくてたまらなかったあのプレートメイルがあった。


「こ、これは……」

「プレートメイルよ。私からあなたへのプレゼント。これがあれば、衛兵の試験も合格できるでしょう。もう危険な目に合うこともないわ」

「……」

「どうしたの? ニール、何か言ってよ」

 

 ニールはベルのスカーフに包まれた頭にそっと触った。しゅるしゅるとスカーフが外れる。そこには長い金髪はなく、肩までで切られた髪があった。


「まさか、これを買うために……。右京さんが言ってた。この鎧は3か月分割で支払うはずだったのに、急に買っていったって。お金を得るために髪の毛を売ってしまったの?」


「試験は来週でしょ……。それまでにプレートメイルがないといけないって。元々、あなたに危険な目に遭って欲しくないと思って買おうって決めたの。1ヶ月まてばお金がたまって髪の毛を売ることもなかったけど、今、手に入れないと困るでしょ」


「ベル……」


 ニールの目から涙が次々とこぼれる。ポロポロと次々に溢れる涙。ニールの沈黙から敏感に感じ取るベル。ゆっくりとニールに近づく。


「泣いてるの?」


 ベルはそっとニールの顔に手を添えた。冷たい水滴を感じてベルの心は曇った。


「髪の毛を切ったこと怒っているの? ごめんなさい。ねえ、ニール。何か言って……」

「ち、違うんだ。違うんだよ……。これ……」


 ニールはポケットからガラス瓶に入った薬をベルに握らせる。


「これは僕から君へのプレゼント」

「こ、これは……」

「君の目が治る薬だよ」

「そんな高価なものを……どうやって……」


「君はバカだよ。こんな鎧を買わないで薬を買うべきだよ。それなのに僕のために自分の目が見えなくなってしまってもいいのかい?」


「お医者様が言っていたのです。薬を使えば目が見えるかもしれない、でも、その確率は30%くらいだって。もうだいぶ病気が進行しているのですもの。不確定なことより、あなたの将来を決めることが大切よ」


「将来か……」

 

 言葉が途切れた。それでベルは全てがつながった。ニールには、こんな高価な薬を買うお金を持っているはずがない。


「ま、まさか……。ニール、この薬を手に入れるために……あの盾を……」


 がっしりとニールはベルを抱きしめた。


「衛兵にはならないよ。それより、君の目の方が大切だよ」




 ニールが買った薬を使ったベルは、1ヶ月間安静に過ごした。その間、ニールはベルの代わりに花屋を手伝った。今日はベルの包帯が取れる日だ。


 ベッドに座ったベルの包帯をそろり、そろりと取る医者。見えるようになる確率は30%。病気の進行を止めることはできても、見えるようになるかは運しだいだ。鎧のことを聞いた右京とゲロ子もこの場所に来ている。


「それにしても間抜けでゲロな。男は大切な盾を売ってしまって、衛兵試験は受けられず、女は自分の病気を顧みずに全財産、髪の毛まで売って鎧を買ってしまうなんてでゲロ。あれ、主様、泣いているのでゲロか?」


「ゲロ子、感動的じゃないか~」

「感動なんてないでゲロ。壮大なすれ違いでゲロ」


「うるさい。相手を想う気持ちが感動だろうが!」


「すれ違ったから、ニールは衛兵の職を逃したでゲロ。これでベルの目が見えなかったら、大笑いでゲロ」


「笑うなよ!」


 ゆっくりと目を開けるベル。その目に生気が宿る。


「み、見える……はっきりと見えるわ……。ああ、お父さん、そして……変なカエル?」

「ゲロ子でゲロ」

「ベル!」

「ああ、ニール、ニールなのね!」

「げ、幻滅した? 僕はイケメンじゃないし、冴えないし……」

「ううん……。思っていた人と同じ。素敵な人よ」


 再び、がっしりと抱き合う二人。



「ああ、つまらないでゲロ。ここは(はあ~幻滅、こんな冴えない男とは思わなかったわ!)というオチを期待していたでゲロ」


 ゲロ子が本当につまらなそうにほざいた。ホント、このカエルは人の不幸が好きだ。


「なあ、ゲロ子よ。俺は見てくれより、内面が大事だと思うんだ。ベルさんは目が見えないからニールの内面を見えたんだろうし、ニールはそんなベルさんに惹かれて危険なダンジョンへ向かったんだ。本質を見抜くって、武器の査定と共通するものがあるな」


「なに、哲学的なこと言ってるでゲロか? さっぱりわからないでゲロ」

「分からんのかよ!」



「それより、主様、今回の儲けを計算するでゲロ」

「そうだな」


 結局、ベルが買った鎧は右京が買い戻した。鎧にはベルの美しい金髪を模した女神像から、ブロンドプレートメイルと名付けられた。あのホプロンの盾とグラディウス、このプレートメイルをセットで売ったら、このエピソードが伝わって是非、買いたいという客が出てきたのだ。結果的にセットで5千600Gという大金で売ることに成功したのだ。


【今回売却した武器】ブロンドプレートメイルを含むローマ重装歩兵セット

「収入」

 ブロンドプレートメイル

 ホプロン

 グラディウス

 セットで5600G

 合計 5600G(日本円で280万円)


「支出」

ホプロン買い取り 1000G

グラディウス買い取り 400G

ホプロン修理代    200G

グラディウス修理代  300G

ブロンドプレートメイル買い取り1200G

ブロンドプレートメイル修理 400G

合計 3500G(日本円で175万円)


差し引き 2100G(日本円で105万円)


「儲かったでゲロ」


 ニールはベルと結婚。今は花屋をやっている。この仕事は心優しいニールには合っていたようで、今はベルと彼女の父親と元気に働いている。


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