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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第19話 愛情の鎧(ブロンドプレートメイル)
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ヌルップのダンジョン 後編

 キル子が「やばい」と言ったのは、リザードマン戦士の戦闘力だけではない。開けたこの場所では数がものを言う。回り込まれたり、後方の魔法使いを狙ってきたりする可能性もある。さらに、プラズマボールは厄介だ。稀に自爆すると視力が一時的に奪われるのだ。


 リザードマン戦士は熱源を感知して敵を補足することもでき、プラズマボールの自爆攻撃の影響は受けないのだ。もし、自爆されたら一方的に攻撃されてしまうだろう。


「ルナ、いつでもエスケープの石を使えるようにしておけ!」

「は、はい……」


 エイブラムスが大声で叫ぶ。雄叫びを上げて走ってくるリザードマン戦士。それをウォーハンマーでなぎ払う。2体のリザードマン戦士が吹き飛ぶ。さらにキル子が跳ぶ。一体のリザードマン戦士を足で蹴り上げると、ガーディアンレディで一閃する。


 鎖帷子ごと斬られて倒れるリザードマン戦士。プラズマボールがフラフラと近づき、キル子に電撃を浴びせようとするが、それを返す剣で一刀両断にする。


グエエエッ……。


 だが、その攻撃をかいくぐって後方のルナめがけて襲いかかるリザードマン戦士。カットラスと呼ばれる断ち切り用の剣。切っ先が特徴で両刃になっていた。これは刀身の3分の1ほどで、これを専門用語で擬似刃と呼ぶそうだ。


 主に船乗りが使う武器で、狭い場所での攻撃に適するよう、長さは60センチ程度である。しかし、身幅が広く、激しい戦闘にも耐えうる優れた武器であった。


 それをルナめがけて振り下ろすリザードマン。だが、それは鋼鉄の盾によって阻まれた。


グアアアン……。


 金属音がダンジョンの壁に響き渡る。


「くっ……。ルナさんは僕が守る……」


 ニールが盾を掲げて、リザードマンとルナの間に入ったのである。リザードマンは狂ったように盾めがけてカットラスの攻撃を繰り出す。


「ちくしょう、負けてたまるか!」


 ニールはショートソードを突き出すが、リザードマンはひらりとかわす。赤い舌をちょろちょろ出して、ニールの盾の真ん中に強烈な体当たりをかました。


「うあああっ……」

「きゃあああっ……」


 意表を突かれて後ろへひっくり返るニール。手にしたショートソードを落としてしまった。後ろのルナも巻き込まれた。


うきゃあああっ……。


 奇声を上げてニールめがけてカットラスを振り上げるリザードマン。これまでかとニールは目をつむった。


「ぐぎゃああああっ……」


 ボタボタと赤い血の雨が降る。地面に流れる透明の水にもやっと赤い血が広がる。


「この霧子様が見逃すかよ!」


 キル子である。既に前方のリザードマンを片付けたキル子が後方のリザードマンを背後から一撃で真っ二つにしたのだ。返り血を浴びた壮絶なキル子の姿。ニールはその姿に腰を抜かしそうになる。


「ぐぎゃああっ……」


 エイブラムスも残りのリザードマンを葬った。あとはプラズマボール1体が天井付近を漂っているだけだ。


「はあ、はあ……。何とか倒したな……」

「プラズマボールが自爆しなくてよかったけど……」


 残り1体のプラズマボールは周りを浮遊しているが、危険な様子はない。元々、意思なくダンジョンを徘徊しているモンスターなのだ。


 かすかに音がした。ピクピクっとキル子の耳にかかった髪が揺れた。振動を感じたのだ。そして、バシャバシャと激しい水の音がはっきりと聞こえてくる。


「まずい! 沼巨人が引き返してきた」


 シーフのハンスがそう叫んだ。エイブラムスはルナに命じる。


「ルナ、脱出だ!」

「は、はい……。えっ、な、ない……」


 ルナがポケットを探る。エスケープの魔法が込められた魔法石がない。先程まで間違いなくローブのポケットに入っていた。リザードマンの体当たりで転倒した時に落としてしまったようだ。


 ニールはやっと立ち上がった。ふと見ると、エイブラムスがぶっ飛ばしたリザードマンが傍らに倒れている。手に剣がないことに気がついたニールは、そのリザードマンの剣を拝借した。そして何気なく前方を見る。


「あ、あそこです。流れていくのが見えます!」


 そう叫んでニールが飛び出した。水の流れによって石がコロコロと転がっていくのが目撃された。何も考えずに取りに行くニール。


「ば、馬鹿! 行くな!」


 キル子が叫ぶがニールの耳には入らない。水が流れる方向は先ほど、キル子たちがこのエリアに侵入してきたエリア。やり過ごした沼巨人たちが騒ぎを聞きつけて、こちらに向かってきているのだ。


「はい、霧子さん!」


 ニールが転がる魔法石を拾い上げ、キル子へ投げる。


「あぶない!」


 1体の沼巨人が跳び上がったのが見えた。ニールが振り返ると空中で棍棒を振り上げ、叩きつけようとする沼巨人が目に入る。


「うあっ!」


 グアーン……。

 ボキッ……。


 鈍い音が壁や天井に響き渡る。ニールが突き出したホプロンに棍棒が当たる。それは先端からポッキリと折れた。木製では金属製の盾を壊せなかったようだ。だが、ニールの盾は棍棒が当たったところで凹み、さらに左腕は衝撃に耐えられずに腕が折れてしまったようだ。


「うああああっ……。痛い」


 転げまわるニール。キル子がガーディアンレディを構えて突入する。そして沼巨人に向かって斬りつける。足を斬られて転倒する沼巨人。しかし、この程度で怯むモンスターではない。さらに仲間の3体が襲いかかってくる。エイブラムスもウォーハンマーを振り回し、戦闘に加わる。


「霧子、ヤバイぞ! エスケープは5メートル範囲内じゃないと!」

「分かっている!」


 沼巨人を威嚇しながら、キル子は脱出の機会を伺う。5メートルの魔法効果エリア内に仲間を全員集めるには、沼巨人の動きを止めないといけない。


 ブンブン……と棍棒を振り回す沼巨人たち。キル子とエイブラムスは、それをかわしながら攻撃を繰り出すが、耐久力のある沼巨人をひるますことができない。


「痛い、痛い……」

「我慢するのだ」


 シーフのハンスはニールを引きずって戦闘エリア内から逃れた。魔法使いのルナが魔法を唱える。


「眠りの世界に誘え! スリープクラウド」


『眠りの雲』の魔法を沼巨人にぶつける。だが、それは無効化された。巨人族は強大な魔法耐久力があるのだ。


「ならば、これよ!」


 ルナの頭上に火の玉が出現する。レベルが低いルナの最大の攻撃。ファイアボールだ。それが沼巨人に向かっていく。


 ボムボムボム……。火の粉が飛び散る。それはニールやキル子、エイブラムスにも降りかかる。


「アチチチ……。ルナの奴、無理しやがる!」


 キル子は肌にかかる火の粉を足元の水で濡らす。燃え上がる沼巨人。だが、この攻撃も一時的にひるませただけであった。


「そんな……ファイアボールも効かないなんて……」


 ルナの魔力も底をついた。今のが残る魔力を振り絞った攻撃であったのだ。


「ちっ……」


 キル子は周りを見る。エイブラムスが沼巨人と奮闘している。ルナとハンス、ニールは戦闘不能。後方で固まっている。2体の沼巨人がそこへ向かって移動中。


(絶対絶命だ……。くそっ!)


 ほわ~んと明るく飛んでいる物体が目に入った。最初の戦闘で撃ち漏らしたプラズマボールである。


(こ、これだ!)


「みんな目をつむれ!」


 キル子は叫んだ。そして跳躍する。ガーディアンレディを水平にしてプラズマボールを叩いた。これは一撃で倒さないためである。それでもキル子のバカ力で叩かれたプラズマボールは軽く振動し始めた。自爆である。


 パアーンと割れて凄まじい光がダンジョンを照らす。目を閉じたキル子たちはともかく、沼巨人はまともに見てしまった。視力を一時的に奪われる。


「今だ!」


 キル子は後方へと走る。エイブラムスも走る。5メートル範囲内に入った。


「脱出する!」


 右の手のひらを握り締める。エスケープの魔法石が握りつぶされて、魔法が発動した。ダンジョンの外まで一挙に脱出する魔法の開放である。



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