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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第18話 純潔の槍(ユニコーンランス)
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ユニコーンランスの覚醒

システム障害で木曜日に投稿できませんでした。2日分を投稿します。

長かったこの話も次回で終了となります。

「決勝進出おめでとう」

「あら、あなた。帰国されていたの?」


「我が后はひどい物言いだな。これでも休暇をもらって駆けつけるのに苦労したのだ」


 葵に声をかけてきたのは夫であるペルガモン王国の第3王子。現在は隣国オーフェリア王国に特命大使として駐留している。彼は元勇者で、若い頃は冒険者として世界中を旅していた。その冒険途中で、結婚から逃げ出した葵と知り合い、一緒に冒険をしているうちに仲良くなって現在に至っている。

 

 葵は東方の島国『義』のお姫様であり、オーフェリア王国の有力貴族と結婚させるところを逃げ出した過去があった。当初は逃げ出す途中に事故死したとされたが、現在はペルガモン第3王子の妻として、認知されている。実家の王家も当初は葵のことを死者扱いとして無視していたが、現在はその存在を内々では認めつつある。

 

 葵はペルガモン王国では人気の王族の妃であった。黒髪、黒目のエキゾチックな容貌に加えて、剣の腕も確かで強いところが武を尊ぶ国民に愛されており、このアイアンデュエルでの活躍で、さらに人気は高まっていた。

 

 ペアのコゼットが普通のメイドで、戦闘力が全くないので、下馬評ではペルガモンの代表チームでは勝ち残ることは難しいとされていたが、葵個人の圧倒的な戦闘力は、1回戦、2回戦と勝ち抜くに連れて、優勝候補へと変貌を遂げていた。


「この戦いで義の国民にも認めてもらうのだ」


 政略結婚を嫌って逃げ出した葵を表向き、実家の王家は『裏切り者』という位置づけをしていた。王家がそう言う見解だから、国民の大多数は葵のことをいなかったものとしている。葵のことを話すのはタブーなのだ。


 だが、人の噂はすぐ広まるもので、猿人公爵と呼ばれた政略結婚相手から逃げ出し、冒険者になった葵のことを義の国民は知っていた。表向きは『裏切り者』であったが、裏ではこの運命に逆らって生きる姫を称えていたのだ。


 しかも、ペルガモンという大きな国の第3王子夫人に収まるというシンデレラストーリーは、義の国民にとっては誇らしいニュースであった。


「決勝戦に出たファイナリストというだけでも、大変な名誉だよ。願わくは、ケガをすることなく私のところへ帰ってきてくれ」


「ふふふ……。言われなくても、私の帰るところはあなたのところだ。ケガには気をつけるが、最終戦はかなり無理をしないといけない。保証はできない」


 葵がそういうのも無理はない。最終決戦は、今までとはかなり様相が違う。これまでがドラゴンに挑む戦いであったのに対し、ドラゴンから町を守る戦いになるからだ。




「町を守りながら戦う?」

「変なルールでゲロ」


 右京たちはディエゴから決勝戦のルールを教えられた。決勝戦はペルガモンの都近くに作られた仮設の町、『ミッドガルド』。この町は昔、ドラゴン『ペルガモン』に襲われた町を再現したものだ。ペルガモンはこの町を破壊するためにやって来る。それを守るのが決勝戦の戦いなのだ。すなわち、


「自分のヒットポイントが0になるとゲームオーバー。受け持った町が破壊されてもゲームオーバーでゲロ」

「つまり、町を守りつつ、自分のヒットポイントが0にならないようにしつつ、ドラゴンを退治しろということか……。冗談がきついぜ!」


 テーブルに広げられたのは仮設ミッドガルドの模型。キル子はこの町の西エリアを守備する。葵が北エリア。音子が東エリアだ。町には家や店などの建物が再現されている。これだけの建築物を作るのは時間がかかるが、4年に1回のこのアイアンデュエルだからこそ、準備が整うのだ。


「守備するということは、戦いが不利になったら逃げるという選択ができないということだよ。霧子ちゃん、西エリアに向かってきたら、戦うしかない」


「大丈夫だよ。そういうことになると思って、クロアはダーリンに魔法弾を大量に売りつけたから。魔法弾の威力で威圧すれば西エリアに近づけさせないことができるよ」


 クロアが嬉しそうにそう話す。右京との約束で、キル子が使った分だけ後で支払うということになっていたからだ。ペルガモンが西エリアに足を向けると、右京からお金がザックザク入ってくるのだ。


「勘弁してくれよ~。本当に今回の儲けが無くなるから。キル子も使うのは最低限にしてくれよな」

「ああ……。お前がそう言うならそうする」


 キル子も右京のことがかわいそうになってきたのか、真剣に節約してくれそうな返事をしてくれる。


「あらあら、ダメじゃない。キル子、その無駄に豊満な体のごとく、無駄にバンバン使いなさいよ」

「うるさい! クロア、お前を儲けさせたくないわ!」


「ふふふ……。それは無理だと思うけどね。あのデカ物。向かってきたら足止めするには魔法弾使うしかないね。ユニコーンランスやアシュケロンの攻撃じゃ、止められない。魔法弾で圧倒しないとね」


 クロアの言うとおりだ。侵攻してくるドラゴンを足止めするのに、スリングによる魔法弾攻撃はかなり有効だと思われた。


「それにしてもこの槍、キル子にはもったいない槍ね。純白の槍なんてビジュアル的にも合わないね」

「うるせー。クロア、お前にこれが扱えるのかよ」

「あらあ、私だってユニコーンランス扱えるよ」


 クロアはそう言うとキル子の手から、ユニコーンランスを奪い取る。が、持った瞬間、クロアの体に電気が走った。

(な、なに!? 体が痺れる……。何だか、体が熱くなってくる……)

(うっ……ううう……何? この快感。ダーリンの血を吸いたくなっちゃう切なさ……)

「クロアどうしたんだ?」

「何だか顔が赤いでゲロ」

「な、何でもないよ……」


 右京に対してトロンとした目を向けるクロア。いつもはこんなに直情的な視線は向けないのだが、今のクロアはおかしいと右京は思った。


(クロアの奴もあたしと同じ感覚を味わっているのかな? この槍、この前の戦いからちょっとおかしいんだよな)


 キル子もユニコーンランスを持つと体が痺れて、とてつもない快感が体全体を包むのだ。その状態での攻撃力はとてつもなく上がるとキル子は感じていた。


「く……それじゃ、クロアの槍術を見せてあげるよ!」


 クロアは目を閉じ、何かに耐えるような素振りを見せたが、すっと足を前後に開いて槍を両手でグイっと持ち上げた。それを頭上でくるくると回す。結構、様になっている。クロアは黒魔法使いのバンパイアというイメージがあるが、神に仕える聖戦士という感じだ。


 ぐるぐると回しながら、数度、鋭く突き出すと最後は、前方に突き出して静止した。

(あ~ん……攻撃すれば攻撃するほど、気持ちいい……。なんて、武器なの、これ?)


「この武器、何だか不思議な力が目覚めたようだね」

「そ、そうだろ! あたしもそう思うんだ」


 クロアに持ってみろと言ったのは、どうやらキル子もこの変な気持ちになり、体に感じる快感が自分だけなのか確かめたかったようだ。どうやら、クロアも同じのようだ。


「別に俺が持っても何も感じないのだがな」

 

 右京がユニコーンランスを持ったが、別に何も起こらない。それよりも、ずっしりと重く感じた。以前よりもかなり重たく感じる。こんなのをキル子ならともかく、華奢なクロアがよく振り回せたものだと右京は感心した。


「先がかなり鋭利だね。痛っ!」


 クロアはちょんとユニコーンランスの先を指で触ったために、指先から血が滲んでしまった。思わず、ユニコーンランスを地面に落としてしまう。床にコロコロと転がる。


「おいおい、純白の槍を血で汚すなよ。それに乱暴に扱うなよ」

「この武器、危険だよ。触っただけでケガをするなんて」


 究極にまで斬れ味を高めた刃は、地面に向かって落ちていく木の葉を触れただけで真っ二つにするというが、まさにユニコーンランスはその粋に達している。


「右京様、霧子さんの応援に来ました」


 その時だ。やって来たのはホーリー。はるばるイヅモの町から応援に駆けつけたのだ。だが、入ってきたタイミングが悪かった。右京たちを見ていたので、足元に注意がいかなかった。


「あらっ!?」

 

 ホーリーは地面に転がってきたユニコーンランスに右足が乗ってバランスを崩した。前のめりになって膝を地面に打ち付けて転んでしまった。


「ホーリー!」

「絶妙のタイミングでゲロ」

「痛~い」


 ホーリーは右膝をさすって立ち上がろうとするが、盛大に擦りむいてしまったようだ。ホーリーのきれいな足から血が滲む。すると、地面に転がったユニコーンランスに色が徐々に変わっていくではないか。真っ白な純白から薄いピンク色に染まっていく。


「こんなところに槍が落ちてるなんて、危ないですよ」


 ホーリーがユニコーンランスを手に取って立ち上がる。ビクっと体が痙攣する。


「はうううううっ……」


 どうやら、ホーリーにも同じ症状が現れるようだ。右京がなんともないということは、女子だけに反応する力なのかもしれない。


「ああ! クロアにホーリー、お前たちが血を付けたせいだぞ」

 

 慌ててユニコーンランスを拾い上げるキル子。急に色が変わってしまい、とまどっている。真っ白なユニコーンの角から作られた槍であるが、今は薄いピンク色になっている。


「血が付いたって、クロアの血は指先のひとしずくだし、ホーリーは転んだ拍子に血が飛んで付いたのかもしれないけど、そんなわずかな血でこの槍がどうにかなるわけないでしょ」


「だけど、実際に色が変わったぞ」

「色がちょっと変わっただけでブーブー言わない。ホルスタインさん」


 クロアの奴、完全にキル子に喧嘩を売っている。どうにかなるわけないとクロアは言ったが、ユニコーンランスに薄いピンク色に染まったのは事実だ。


「まあ、キル子、色が変わった訳は分からないけれど、性能が落ちたわけじゃないし、クロアやホーリーの血が付いたのは偶然だし、1滴程度の血液で変わるわけないじゃないか」


 そう右京はその場を収めた。キル子とクロア、そしてホーリーと自分に好意をもつ女子3人が久しぶりに揃っている。クロアとホーリーはまあ仲がいいというか、普通の感じだが、クロアとキル子は仲が悪い。


 スレンダーなクロアはグラマーなキル子を目の敵にしているのだ。ちなみにホーリーとキル子は仲がいい。これはホーリーが昔、キル子に助けられたことがあるのだ。


「せっかくの純白の槍が台無しだよ。明日は決勝戦なんだ。多くの人が決戦を見に来るんだ。あたしには純白のランスが映えるのに……」


 確かに日に焼けた健康的な肌色のキル子に純白のランスは、よく似合っていた。


「明日は早い。キル子はもう寝ろ。クロアとホーリーはどこに泊まるんだ?」

「右京様、困りました。町のホテルはどこも満員で泊まれないと……」


 ホーリーがおどおどしてそう右京の顔を見ている。きっと、この子、あまり深く考えないでこの国にやってきたのだろう。


「ハンナの馬車は余裕があったはずだから、そこに泊まるといい」

「ありがとうございます。右京様」


 キル子のサポートチームを率いている右京は、数十台の馬車を移動させるキャラバンである。宿泊用の馬車も用意している。


「あのさ……ダーリン。クロアはダーリンと同じベッドでいいよ」


 何だからしくなく、もじもじしているクロア。その姿が妙に可愛いが、いつものクロアらしくない。ライバルの前で誘うなんてらしくない。


「おいおい……」

「さすが、発情バンパイアでゲロ」

「だって、クロアは雑魚寝は嫌だよ」


「しょうがないだろう。遠征先で贅沢言うなよ」


「だ・か・ら……。ダーリンの寝る馬車はもっと余裕あるでしょ。そこのカエルだけでしょ。そこにクロアも泊まりたいなあ……」


 クロアの目は本気である。油断するとこれは食われると右京は思った。クロアの場合、変な意味での食われるというより、本当に食われる。(血を大量に吸われるのだ)

 

 ツンツン……と右京のシャツを引っ張るホーリー。


「クロアさんが右京さんのベッドで寝るなら、わたしもそうします!」

「ホ、ホーリー! 一体何を!」


「そ、それなら、あたしもそうする!」


 先程まで右京に寝ろと言われたキル子。未だに実行していない。彼女としては、虎視眈々と右京を狙っているバンパイアと天然だけど、率直に右京に迫るホーリーは敵だ。ホーリーとは仲が良いけど、右京を巡る争いのライバルには違いない。


「あーっ。わかったよ。俺は食料倉庫前のソファで寝るから、俺の部屋を借すよ」


 右京はこういって美少女達の申し出をはぐらかした。3人侍らしてベッドで寝るなんて好色な真似をしたくはない。ハーレムの主になる気はない。


「ダーリンの意気地なし」

「残念です」

「つまらないぞ」


「いいから、クロアとホーリーは俺の部屋。キル子は早く休め」

「そうでゲロ。明日の決勝戦は大金がかかっているでゲロ」


 もう夜は更けている。町では決勝戦前に観戦客が酒を飲んで盛り上がっているだろう。煌々と明かりが照らされ、遠くの空がボウっと白くなっている。ここまでキル子たち選手も大変だったが、サポートする右京たちも連戦の疲れが出ている。ゆっくり休みたいと右京は思った。明日の決勝戦が始まれば、右京たちサポートチームは特にやることはない。その開放感も休みたいという気持ちに誘っている。




「霧子さんの武器。あれは伝説の『純潔の槍』だと思う……」

「純潔の槍って、処女しか触れないとかいう槍か?」


「ハーパー。変な風に考えない」


 音子はキル子のもつユニコーンランスを思い出し、ペルガモンの王立図書館にある武器図鑑とにらめっこしている。『純潔の槍』は聖なる武器の一つだと音子は考えていた。純真無垢な少女にしか、持つ資格が無いと言われる。


 ただ、覚醒前の槍にはそこまでの力はない。覚醒されるには処女の血が必要だと図鑑には書いてあった。処女の血で純白の槍は段々と赤く染まり、ついには真っ赤になるという。

真紅の槍に変化するのだ。


「純潔の槍って、ちょっと恥ずかしくないか? 触れるか触れないかで分かってしまうのなんて、なんかやらしくない?」


「そんな風には思わない」

「音子ちゃんは触れるわよね」

「……。想像に任せる」

「私はどうだと思う?」


 そうハーパーは音子に尋ねた。音子はハーパーの鍛えられた体を見る。腹筋がシックスパックに割れている。


「他人をとやかく言うのは趣味じゃない」

「ふふふ……。私のことは誰も興味ないでしょうね。でも、あの伊勢崎さんの褐色のお嬢ちゃん。あの姿で未経験はないわ。あはは……」


「ハーパー。霧子さんを馬鹿にするのはよくない。あの女はあれで戦闘のベテランだ。私も昔、不覚をとったことがある」


「音子ちゃんが? そうなの?」


 不思議そうな顔をするハーパー。今は脱落して気楽な立場だ。決勝戦まで生き残った音子をサポートする立場である。だが、肝心の音子の関心が優勝よりも聖なる武器の顕現なのである。


「霧子さんの武器が明日、覚醒することを願いたい。あまり私たちには時間がないような気がするから」


 音子は決勝戦で何かが起こるという予感があった。自分も決勝戦進出者だが、優勝する気は全くないし、葵やキル子の上にいけるとはまったく思っていないし、興味もない。


「明日の決勝戦。きっと、何かが起こる」


 そう音子はつぶやいた。彼女は一刻も早く、元の世界に戻ることであった。それには5つの聖なる武器が必要なのである。


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