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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第18話 純潔の槍(ユニコーンランス)
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それぞれの帰路

「お兄様、約束通り、聖騎士は辞めて花嫁修業をする」


 4回戦でリタイアすることになったハーパー・ムーア・トラサルディは、兄であるマイケル・ムーアにそう告げた。この大会で負ければ聖騎士見習いを辞めて結婚するという約束をしたのだ。

 マイケル・ムーアは戦いを終えて帰ってきた妹を黙って迎えた。


「お兄様……何かお言葉はありません?」

「ハーパーよ。お前に聞きたい。自分の運命がかかっているのに、なぜ、音子を助けた」


「聖騎士を目指すもの、仲間を助けるのが第1。そして、あの場面では私たちのチームが生き残るためには、私が盾になるしかないと考えたのが第2の理由」


「……ハーパーよ。聖騎士を目指さないというのは、お前自身の意志か?」


「私の意思は違います。ですが、聖騎士を目指すものとして、一度約束したことは守る。私は最後まで聖騎士でありたいからです」


「うむ。あの場面で音子を救うのは、この戦いを続ける唯一の手段であった。聖騎士としての志、そして、チームの勝ち残りを決めた的確な判断だ。もし、お前が音子を見捨てて自分が助かろうとしたなら、お前は聖騎士になる資格を失っただろう。私との約束は無効だ。お前は本当の自分の気持ちに従うがいい」


「お、お兄様……」


 クイッとハーパーの着ているシャツの裾を引っ張った音子。


「聖騎士を目指せということ……」

「音子ちゃん……」


 ハーパーは音子を抱きしめた。その力が強くて音子は息が止まる。


「うっ……うううう。ハーパー……苦しい……」

「あら、ごめんなさい」


「はあ、はあ……。聖騎士を目指すのはよいが、そのゴリラ並みの力は顔に似合わない」

「ゴリラ並って、今の私には褒め言葉よ。それよりも、音子。あなたの目的は達したの?」


 ハーパーは音子がこのアイアンデュエルに参加した理由を知っている。それがなければ、このような派手な大会に出る人間ではないことを承知している。


「手がかりはあった……。だけど、確証をもつには決勝戦を見る必要がある」

「そういうことね」


 ハーパーは音子が見つけた武器が何なのか想像がついた。決勝戦に進むのは3人。そのうち一人は音子だから、候補の武器を持つのは残り2人となる。





「お前にしては優しいじゃないか。妹が可愛いというわけか」


 ポンとマイケルの肩を叩くアルフォンソ。音子が生き残ったのでチームとして決勝へ進むことができた。ただ、これまでの獲得ポイントは低く、決勝で逆転するためには相当無理をしなくてはならなかったが。


「バカ言え。ハーパーに素質があるなら聖騎士になるのが国のためだ。お前も目的を達することができてよかっただろう」


「ああ……。4回戦まで生き残れれば十分だ。私の名前はこのペルガモンにまで伝わるであろう。エンチャンターとしてまた飛躍できる」


 前回の大会ではこの4回戦で出場者が全滅している。過去の大会でもここで終わるケースが多くあった。それだけ、困難な戦いを強いられるのである。


 ヤクは2頭とも怪我をして使えない。2回戦で使った砂漠トカゲで決勝戦に向かうしかないが、長距離用に難のあるこのトカゲで決勝戦に間に合うには、休憩を取るまもなく出発しなくてはならない。


 アイアンデュエル決勝の地は、はるか200km先にある場所なのだ。寝る間も惜しんで移動するしかない。


 


 右京たちのサポートチームは、決勝戦の場所へと向かっている。途中、クロに乗って疾走中のキル子のサポートをするために、いくつかの班がチェックポイントへと先回りをしていた。水と食料、キル子の体のケアに務めるのだ。


 ケルベロスのクロもタフであるが、さすがに200kmを移動するとその後の戦いには使えない。150kmほどでニケと交代する。最後は九尾の狐で勝負をかけるのだ。

 

 右京は決勝の地に向かう最終チェックポイントで、キル子の到着を待っていた。ここでニケと交代し、体を休めるのだ。だが、予定時刻になってもキル子が現れない。


「遅いでゲロ……」

「ちょっと、様子を見に行くか……」


 サポートチームと言っても、馬車1台と右京とゲロ子、ハンナ、なぜかアマデオの4人である。本隊から離れた小隊なのである。


「アマデオとハンナはここのキャンプ地で待っていてくれ。ここで4時間休憩する」

「ああ、分かった」

「分かりました、右京さん。それにしても、霧子さん、どうしたのかしら?」


 心配そうな顔のハンナ。アマデオの方はハンナと二人きりになれるので、ちょっと嬉しそうな顔をしているのがちょっと悔しい。


「ゲロ子、行くぞ!」

「アイアイサー」


 馬車につないであった馬でキル子がやって来るであろう道をたどっていく。町と町をつなぐ整備された幹線道路である。これまでのような悪路でないのは、最後の決戦が首都の近くで行われるからだ。


 首都から右回りに転戦したアイアンデュエルも、ペルガモン王国を一周して戻ってきたということである。


 10kmほど移動するとキル子がお尻を突き出した格好で、うつ伏せで倒れているのを発見した。草原地帯で辺りに人がいないとは言え、とんでもない格好である。


「ど、どうしたんだ!?」

「う、右京~」

「クーン」 


 クロも心配そうに鳴いている。


「もう……もう……」

「モウモウって、ついにキル子は乳牛になったでゲロか?」

「ち、違うわい!」

「じゃあ、どうしたんだよ?」

「は、恥ずかしくて言えない……」


 そう言って、顔を両手で隠すキル子。お尻を突き出した今の姿は恥ずかくないのかと右京は思ったが、ちゃんと言ってくれないと状況が分からない。


「恥ずかしがってる場合じゃないだろう!」


「そうでゲロ。キル子はおもらししたことも主様には暴露しているでゲロ。これまで、散々、恥ずかしい姿を主様に見せているでゲロ」


「そ、そうだけど……」


 消え入りそうなキル子の声。


「キル子、恥ずかしがるなよ。俺とお前の仲じゃないか?」

「ううう……」


 ちょっと半泣きだったキル子も右京の申し出に決断したようだ。この容態を改善しないと、次の戦いに参加することはできない。キル子は恥ずかしそうに申し出た。


「クロに乗りすぎて、お尻が痛い……。もう我慢できないの……」

「お、お尻~?」


 言われてみれば、ここまで1000km近い道のりをクロやニケに乗ってやってきたのだ。普段、馬などに乗っていないキル子では、お尻にタコができてしまうだろう。毎日、数十時間も座って移動していれば当然だろう。ゲロ子がキル子のお尻をペタペタと触って確認する。


「ああ、こりゃダメでゲロな。キル子の大きな尻が腫れて余計、大きくなっているでゲロ」

「ううう……言うなゲロ子」


「これは思ったよりも深刻でゲロ。治療しないとリタイアは必至でゲロ。早く、医療処置をしないとマズイでゲロ」


「どうすればいいんだ? ゲロ子、アイデアはないか?」

「ち、治療? 私の体に? そ、それは困る!」

「キル子、そんなこと言ってると、このアイアンデュエルはここで終わりでゲロ」

「そんなに深刻なのか?」


 ゲロ子は右京の問いにコクりと頷き、あたりを見回す。近くに小川があり、水がせせらぐ音がする。


「大丈夫でゲロ。水でお尻を冷やすでゲロ。そして後はマッサージでゲロ」

「マ、マッサージ? 誰がやるんだ?」


「ゲロ子は体が小さいから無理でゲロ。主様しかいないでゲロ」

「お、俺かよ!?」

「う、右京がか!」

「早くしないと、決勝戦に間に合わないでゲロ」


 右京は動けないキル子を見る。確かに、すぐに応急処置をしないとまずいだろうと判断した。ここは恥ずかしがっている場合ではない。右京は決意した。そこでキル子を抱き抱える。お姫様だっこである。


「う、右京~っ」

「我慢しろよ」


 顔が真っ赤になるキル子を無視して右京は小川へ降りる。川の水でお尻を冷やそうと思ったが、それよりも良いことを考えた。川底には真っ白できめ細かな砂で覆われており、これでお尻の熱を吸着させようと考えたのだ。


「よし、まずは……」


 キル子を小川のほとりにうつ伏せに横たえる。右京は革靴と靴下を脱ぎ、ズボンとシャツの裾をめくった。


「な、何をするんだ。あたしが動けないことをいいことに……」

「すまん、こっちの方が、治療効果が期待できる」


 右京はキル子の着ているものに手をかける。上半身は革の胸当て、ビスチェ。下半身はブーツにショートパンツ。


「わ、嫌、脱がさないで……そんな恥ずかしい……」


「わがままを言うなよ。服着たまんまじゃ、冷やせないだろう。言っておくがこれはセクハラじゃないからな」


「そ、それはそうだけど……」


 右京の目は真剣だ。そこに邪な考えは一切ない。(はず)


「そうでゲロ。お尻だけじゃなくて、全身を冷やさないといけないでゲロ」


 ゲロ子が何だか嬉しそうにぴょんぴょんとジャンプしている。絶対に面白がっている。


「わーっ。それはそれだけは……」


 キル子の最後の砦、パンツに手をかける右京。別にエロい気持ちではやっていない。あくまでも医療行為である。


(うーっ。これはセクハラじゃない、セクハラじゃない……。右京は私のために……)


「キル子、俺に脱がされるのは嫌なのか?」


「……い、嫌じゃないけど……その、あの……と、時と場所があるだろう!」


「観念するでゲロ。それに今更でゲロ。前にキル子が溺れた時に主様は、キル子の裸体を見ているでゲロ。初物でもなんでもないでゲロ」


「それもそうだ。すまん!」


 スッポンポンにされてしまったキル子。うつ伏せになっているキル子の体に川底から砂をすくって塗りつける。


「わっ、冷たい!」

「我慢するんだ。この砂が熱を吸着する」


 右京は砂の塊をすっとキル子の体にそって撫で付けるように塗る。そして、川底から砂を再度すくう。それをキル子の腰にボテっと置く。くびれた腰に固まった砂を豊かな山に向かって押し広げていく。


「きゃっ! 冷たい」


 砂がダラリとキル子の太ももの内側へ流れる。それは強烈に冷たい。


「我慢するんだ。慣れればいい感じだろ」

「う、うん……なんだか冷たくて気持ちいい」


「そうだろ。熱を取ったら凝り固まった筋肉をほぐす」

「ほぐす……?」

「マッサージでゲロ」

「まずはケツからだな」

「け、ケツって言うな!」


 両手でキル子の大きなお尻をもむ。固まってこわばった筋肉がよくわかる。グイグイっと指に力を入れるとツボみたいなところが指の感触で分かり、そこめがけて指圧する。


「あ、あん……あ、だめ、だめ……そんなところ……うっ……効くうううう」


「そうだろ。ケツから腰にかけて血がうっ血した感じだ。こうやって撫でて血流を促す」

「だ、だから、ケ、ケツって言うな~」


「じゃあ、お尻でゲロ」

「ゲロ子に言われると余計腹が立つ!」


「すまん、キル子。ちょっとの我慢だ」


 右京は腰からお尻に向かって両手を滑らす。


「うううう……あ、ああん」

「キル子、変な声を出すなよ」

「だ、だって、出ちゃう」

「そこを我慢しろよ」

「が、我慢できない……あ、ダメ。そこ、そこは」

「お、ポイント発見。このコリを粉砕する!」


「はううううううううっ~」

「相変わらず、未通ビッチなのに感度が抜群でゲロ」


 ビクビクっと体が痙攣し、そのまま気を失ってしまったキル子。コリは十分取れたようだ。右京はキル子をクロに乗せて、サポートチームまで運ぶ。ぐったりとしたキル子をハンナへ引き継ぐ。ここで3時間休んで出発すれば予定通りである。


「う、右京~」


 体に力が入らないキル子。ハンナに介添えされてベッドに横たわる前にかろうじて言葉を右京にかけた。


「何だ、キル子」

「せ、責任、取ってもらうからな」

「せ、責任?」


「いいようにあたしの体を弄びやがって……」

「弄んだって、マッサージしただけだろ」


「そ、そうだが、ぜ、全裸にしてやる必要はないだろ……」


 涙目のキル子。ちょっと、右京もひどかったかもと思ったが、それをしなければキル子の回復はなかったであろう。それは間違いない。


「しょうがないだろ。あの状況じゃ、ああするしか」

「ううう……そうだけど、そうだけど……。もう他の男のところにお嫁にいけない~」

「心配するなよ。そのときは俺がもらってやる」


「えっ……。うそ?」


 驚いた表情で固まるキル子。やがて、脳内にお花畑が広がり、空からピンクと白のバラの花びらが舞い落ちる。


「いいから、早く寝ろ!」


 右京は面倒になって、ハンナに後は任せることにした。残り時間は3時間もない。キル子には体を休めてもらって決勝戦に望んでもらわなくてはいけない。




「主様は残酷でゲロな」


 ニケとキル子を出発させ、見送った後にゲロ子が右京に苦言を呈した。こういう時のゲロ子は結構、本質をついてくるから怖い。


「何が?」


「さらっと期待させることを言うのが主様のダメなところでゲロ。嫁にもらってやるとか、冗談だったら切腹物でゲロ」


「期待させるって……。キル子は友達だ。嫁の貰い手がないとか言って、泣いているなら、励ましてやるのが普通だろ」


「やっぱりでゲロ……。主様はキル子の気持ちに気づいてないでゲロ」


(バカヤロ……。気づいてないわけないだろ! キル子にホーリーにクロア。この3人は俺のこと好きだ。間違いない。勘違いということは絶対ない。だが、俺はどうなんだ?この3人が好きか? 好きかと言われれば好きだが、結婚したいかとなるとどうなのか? 今は商売の成功が第一で、女が好きとかそんな気持ちになれないだけだ)

 

 そんなことを心の中で叫んだ右京だったが、相棒のゲロ子にはそんなことを言えるはずもなく、仕方ないのでこんな発言をした。


「結婚なんて、俺にはまだ早い。まだ、俺は21歳だぜ」

「そうでゲロか? この世界じゃ普通でゲロ。女は10代で結婚するのが普通でゲロ」



「あ、あの……右京さん」


 そんなやり取りをゲロ子としていると、急に後ろから話しかけられて、右京は振り返った。ハンナとアマデオが立っている。なぜか、アマデオの奴、ハンナの肩に手をかけている。


「右京、た、頼みがあるんだ。その、あの……」


 アマデオの奴、顔を真っ赤にしている。この男のこんな顔は初めて見る。そして歯切れが悪いこの口調。アマデオが戸惑っているので、ハンナが代わりに右京に告げる。


「私たち、結婚するみたいです……」

「はあ?」

「みたいでゲロ?」

「ハンナさん、それはないよ~」

「アマデオさん。私はまだ信用したわけじゃないんですよ」


 どうやら、アマデオの奴。ハンナに自分の気持ちを伝えたようだ。返事も撃沈と言うわけでもなかったらしい。アマデオが言うには、ハンナを婚約者として父親のディエゴに紹介するときに、右京に立ち会って欲しいというのだ。ハンナは右京の店の従業員で、その身元と人柄を証明して欲しいというのだ。


「ハンナはいい子だ。アマデオ、彼女を不幸にしたら許さないからな」

「それは大丈夫ですよ、右京さん。私、アマデオさんに条件をつけましたから」

「条件?」

「条件でゲロ?」



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