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伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第18話 純潔の槍(ユニコーンランス)
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ドラゴンとタイマン

 アイアンデュエル4回戦は高山から一転して低地へ降りる。150km離れた海岸地帯である。干潮のときには砂地が現れ、ペルガモンがいる島まで行ける。海岸までの距離は1kmほど。島は真っ平らな砂地で遮蔽物は何もない。直径200mほどの広さである。

 

 満潮になると道は閉ざされるので、逃げ場は一切ない。ドラゴンを倒すか、次の干潮の時間まで島から逃げ出すこともできない。

 

 島の四方には魔法制御装置があり、この島全体が魔法無効化エリアとなっている。そんな島の中心に巨大なドラゴン『ペルガモン』がまたしても形態を変化させて、より凶悪な姿を晒している。選手たちにとって幸いなのは、ドラゴンはこのエリアは空を飛べない。地べたに張り付いたまま、挑戦者たちを迎えるのだ。

 

 島に渡ったのは7人。キル子と瑠子、音子とハーパー、アルフェッタとジュリエッタのハイエルフ姉妹。そして、葵は一人で乗り込んだ。魔法が使えない以上、侍女のコゼットは足でまといになると考えた葵が連れて行かなかったのだ。これは正解でコゼットが島に渡ったら、戦闘中、逃げ回ることになっていたであろう。


「さあ、皆の衆。用意はいいか?」


 年齢的に一行のリーダー的な役割をする葵。渡ってきた砂地が徐々に海に侵食され、無くなっていくのを見ている。


「ああ、いつでもいいぜ!」

「いつでもいいわよ」


 クロに乗っているキル子。時折、蒸気を吹き出す機械馬を操る瑠子。ハイエルフの姉妹も音子もハーパーも準備はできている。


 ドラゴン『ペルガモン』は、凶悪な赤い目をぎょろりと上陸してきた人間に向ける。そして、恐怖で体が硬直してしまう恐ろしい叫び声を天高く響かせた。そんな恐怖に足がすくむ参加者はいない。キル子はユニコーンランスを構え、瑠子は肩に乗せたニードルランチャーの照準を合わせる。葵は鞘から刀を抜く。


「おりゃあああ!」


 キル子と瑠子、葵が突撃する。この3人の移動手段はスピードが速い。ケルベロスのクロはキル子を乗せながらも、左右に着地点を変えて飛ぶように進み、龍の馬と機械馬の葵と瑠子は、全速力で一直線に進む。


 グギャオオオオオオ……。


 ペルガモンの鋭い爪が左右から襲うが、それをスピードで突き抜けた。クロは爪攻撃をいなしながらかわす。


「これでも喰らえ!」


 葵が刀を振るう。その太刀は7箇所の傷をペルガモンに負わした。ドラゴンの鋼鉄よりも硬いと言われる鱗をものともしない斬れ味。

 

 さらに、ペルガモンの体を駆け上る黒い疾風。ケルベロスのクロに乗ったキル子である。太ももまで駆け上がったクロは、ポンとジャンプし一気にペルガモンの頭へと跳躍した。


「ユニコーンランス!」


 ドラゴンの顔めがけて突き刺す。狂ったように顔を振るペルガモン。そこへ至近距離からの瑠子の射撃。無数のアイアンニードルが顔に刺さる。


「離脱!」


 攻撃を終えると3人は一気に反対側へ駆け抜けた。ペルガモンが追おうとするが、そこへ第2波の突撃。音子とハーパーである。音子の武器はアポカリプスの斧であるが、魔法効果が切れたこのエリアでは、その重量がネックで使えない。


 今は両手にもった短刀が武器である。包丁政宗2対。それで鱗を突き破り、刺しまくる。ハーパーの武器も魔法の恩恵を受けない。よって、剣の切れ味だけで勝負する。


 ハイエルフの姉妹は遠くからの弓による攻撃。これは魔法効果がなければ、ドラゴンに対しては最も効果の薄い攻撃法である。但し、直接攻撃を受けない場所からの攻撃であるから、リスクは低い。あるとしたら、長距離まで届くドラゴンブレス。これのみ警戒である。


「アルフェッタお姉さま。前半戦、わてらは最もつまらない役割ですな」

「そうどすな。接近戦の場合、ドラゴンブレスの射程範囲ではないどす。狙われるのはわてらだけですわ」


 一撃でリタイアとなるドラゴンブレス。これは至近距離では自分も巻き込むから使えない。ドラゴンにに取り付いた選手には効果がないから、もし、ドラゴンが放つとしたら、このハイエルフ姉妹のみをターゲットにするためにだろう。


 そして、一発目のブレスが放たれた。ドラゴンの動きを察知した姉妹は、すぐに回避する。乗っていた馬が全速力で駆ける。馬でなかったら、この攻撃を避けるのは難しかったであろう。ドラゴンブレスは強力で広範囲の攻撃であるからだ。


「この4回戦はアイアンデュエルの中でも、最もドラゴンに有利で出場者にとっては苦しい展開になる戦いだ」


 ディエゴはそう映し出されるモニターと、遠く離れた島を交互に見ている。


「ドラゴンの方も攻撃については制限されるから、有利とは思えないのですが」


 右京は接近戦でダメージを与え続けているキル子たちを見て、それほどではないと感じていたから、この問いかけは普通であった。


「あら、ダーリン。それはダーリンがドラゴンと戦ったことがないから言えることだね」

「ク、クロア!」


「そろそろ来ると思っていたでゲロ。発情バンパイア」

「ゲロ子、あなたも相変わらず口が悪いわね」


 クロアはゲロ子を睨みつけると、視線を右京の方に向けた。ディエゴに変わって説明をし始める。


「確かにドラゴンの魔法攻撃は驚異的だわ。特に古代竜ペルガモンは、ありとあらゆる魔法を駆使するという超上級種。バーチャルモンスターといえど、その多彩な魔法を使われては人間側が不利」


「確かにここまでの戦いでも要所に魔法攻撃を絡めてきてたからな。あの巨体で魔法まで使うのは反則だ。だからこそ、それが使えないなら人間側が有利だろ」


「ダーリン。モニターをよく見てごらんよ。キル子たちは必死で直接攻撃をかわしているでしょ。あれを一撃でもまともに喰らえば、即リタイア決定。ドラゴンの方はどれだけ攻撃を受けても豊富な体力でカバーできる」


「それは、つまり……」

「戦いが長引けば、長引くほどヤバイでゲロ」


「だが、肉弾戦ということは、キル子たちの本領発揮をするチャンスでもある」


 右京が言うように、ここまでの近接攻撃で得たポイントは、圧倒的にキル子&瑠子ペアがリードしている。葵の刀による攻撃も相当なダメージを与えていたが、一人での攻撃では追いつけない。また、魔法に特化したハーパーと音子の武器では、効果的なダメージを与えるまでに至ってない。


 瑠子によるアイアンニードルの連続射撃は、近距離ほど威力は高いし、キル子のユニコーンランスは、クロの突進力と合わせると竜の巨体が揺れる攻撃となった。


「ところでクロアは何をしに来たでゲロ?」

「そんなの決まっているじゃない。キル子の魔法弾、そろそろ切れる頃じゃない?」


 したたかパンパイア。右京に補充の魔法弾を売りつけにきたようだ。キル子のスリングによる攻撃は、クロアから手に入れた魔法弾の威力で、凶悪な武器に変身していたからありがたいのであるが、弾の値段は1発500G以上。


 キル子が使い、ドラゴンからダメージを奪うたびにお金が吹き飛んでいく。これは頭が痛い問題だ。戦争には莫大なお金がかかるというが、それがよく分かる。


(勘弁してくれよ。戦いには勝っても、商売で負けたら意味がない)

 

 宣伝効果は抜群であるが、それが右京の店の売上にどう影響を与えるかは分からないのだ。


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