表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伊勢崎ウェポンディーラーズ ~異世界で武器の買い取り始めました~  作者: 九重七六八
第18話 純潔の槍(ユニコーンランス)
282/320

聖騎士見習いのお姉さん

 アルフォンソ・トラゾはエンチャンターである。ストレートな長い金髪を風になびかせている姿は、優雅でもあり、また気取っているようにも見えた。彼はハイエルフで、物に魔法を付与することが得意であった。


 いわゆる魔法の武器の製造人である。だが、武器に対して恒久的に魔法を付与するのは難しく、それが強力な魔法ほど困難を極めた。それは狙って作ることはできず、運にも左右されたのだ。


 右京がハビエル教授に作らせている『プラス1』加工程度の魔法ならともかく、かつてウェポンデュエルの全国大会で出品した魔剣『グラム』や現在、パーパー・ムーア・トラサルディに貸与している氷の魔剣『アイスブランド』に大型モンスターを狩る魔剣『ジャイアントキラー』級になると1000本に1つしかできないと言われる傑作なのである。


 そんな強力な魔法の武器を作って世に送り出している男である。そんな男が4回戦を前に出場者を集めて、作戦会議をしている。


「今、説明したように4回戦は魔法が制限されているフィールド。各々の陣営においても、苦戦は必至。ここはある程度、作戦を統一しておいた方がよい」

 

 アルフォンソが集めなくても、きっと誰かが招集したであろう。それだけ、4回戦はお互いが協力しないと乗り切れないのだ。


「協力しないと一番困るのは、あの嫌味なハイエルフでゲロ」

「ゲロ子、声が大きい」


 ゲロ子の方をひとにらみしたアルフォンソは、咳払いを一つした。


 ゲロ子がハイエルフと呼ぶのはアルフォンソのことだ。アルフォンソとはウェポンデュエル全国大会の決勝で争ったライバルだからだ。魔法が無効となるエリアでの戦いでは、アルフォンソの魔法剣は効力を失う。ほぼ魔法の武器で統一された音子&ハーパーのペアは著しく攻撃力が低下することになる。

 

 これはもうひと組の、これもハイエルフであるアルフェッタ&ジュリエッタ姉妹にも共通することで、魔法による弓攻撃はほぼ通じないことになる。勇者葵も侍女のコゼットの魔法による攻撃力強化が不可欠なので、魔法の無効化はマイナスではある。


 キル子&瑠子ペアは影響はそれほどではない。瑠子のアイアンニードルのマシンガンは、純粋な物理攻撃だし、キル子のユニコーンランスによる攻撃も物理攻撃だ。スリングによる魔法弾攻撃と瑠子の近接攻撃武器『サンダースピア』の攻撃力が落ちるくらいである。


 だからと言って、他のチームと共闘しないというわけではない。単独ではドラゴンを倒すことは難しく、協力し合うことが勝ち抜くためには不可欠であったからだ。


「要はペルガモンの四方に築かれた魔法制御装置の破壊のタイミングだな。こちらの魔法が使えないのは痛いが、それはペルガモンにも言えることだ」


 そう葵の指摘は戦いの方向性を示していた。こちらの魔法による攻撃ができないのは、攻撃力の面では著しく不利なことである。だが、それは同時にペルガモンの魔法攻撃を受けないということである。

 

 ここまでの戦いでもペルガモンの強力なブレスと魔法攻撃で、参加者はリタイアへと追い込まれ、苦戦を強いられている。ドラゴンブレスはあるが、魔法攻撃がないのはありがたいと言えた。何しろ、この強力なドラゴンは詠唱破棄して強力な魔法を使えるのだ。


ドラゴンブレスをなんとかかわしても、次にすぐさま、強力な魔法攻撃をしてきたこともあった。


「ですけど、あの巨大なドラゴンはんと殴り合いなんて、できまへんで」

「アルフェッタお姉さまの言わはるとおりですわ。魔法が使えなければ、あてらはまったく役に立てまへんわ」

 

 ジュリエッタがそう不満を述べる。フィールドの4方向に設置された魔法制御装置を破壊すれば、魔法攻撃は有効となる。弓矢に魔法を付与して戦う二人のハイエルフにとっては、最初から破壊して自分たちに有利にしたいという思いもある。


「今回のフィールドは隠れるところは何もない……」


 音子がポツリとイヤミらしきことを言う。この二人のハイエルフのこれまでの攻撃方法は、ドラゴンの攻撃が届かない場所からの長距離攻撃であった。ポイントは稼ぎにくいが、リタイアする危険は少ない。


「つまり、ハイエルフちゃんたちも肉弾攻撃するしかないのよ~」


 ハーパーがそうダメ押しする。その体は分厚い筋肉で覆われており、兄のマイケルに負けない戦士の体である。アルフォンソの魔法剣の威力が目立つが、彼女のパワーも捨てたものではない。魔法が使えなく、肉弾戦になるのは血が騒ぐことであった。


「それなら決まりだな。最初はドラゴンとタイマンをはり、奴のヒットポイントが少なくなったら、魔法制御装置を壊してとどめをさす。これでいいか?」


「キル子ちゃんの意見に賛成~っ。ドラゴンも弱ってちゃ、魔法も使えないでしょ」


 瑠子の意見で作戦会議は終了した。サポートチームもこの方針に異存はない。だが、肉弾戦と言っても、ドラゴンのそれはとんでもない威力だ。パンチやキック一つで地面を揺るがし、風圧だけで人を吹き飛ばす。この4組が全て生き残るのは至難の技であろう。




「フン、フン……」


 4回戦が行われる地へ向けて出発する前に腕立て伏せをしているハーパー。金髪の長い縮れ毛が背中の汗に張り付く。上半身は鋼鉄の胸当て。覆われた前部分は分からないが、覆われていない背中。僧帽筋と広背筋がよく発達している。そして、ブーツから上の太ももの筋肉も相当なものだ。


 ハーパーは聖騎士で有名なマイケル・ムーア・トラサルディの5歳年下の妹。今は聖騎士見習いで階級は准尉。尊敬する兄に負けない聖騎士になることが夢だ。

 

 都の屋敷で欠かさず筋トレをするのが日課であるが、それを父や兄は厳しく咎める。トラサルディ家は代々の軍人の家系で、ハーパーには6人の兄弟姉妹があるが、男兄弟は全員、騎士団に所属している。姉のクララは他家に嫁に出ており、6人兄弟の末娘であるハーパーと弟ハリスが騎士団見習いの立場にある。

 

 トラサルディ家の女子は、他家に嫁いで丈夫な子供を産むのが義務だと、頭の固い父は口うるさく言うのだ。兄のマイケルは最初はハーパーの軍人志望を応援していたが、それは嫁入先を見つけるのに有利だと思ったからで、日に日に鍛えられて女子の体つきとはほど遠い筋肉マッチョになるのを見て、慌てて反対に回ったというところだ。



「ハーパー、お前、そんなに鍛えてどうするのだ?」

「兄様、強い聖騎士になるには強靭な肉体が必要でしょう?」

「はあ……」


 マイケル・ムーアは片手で頭を抑えた。顔だけ見れば美しいこの妹。騎士団学校に入り、騎士見習いになりたての頃は、可憐な姿に同僚から紹介してくれと引く手あまたであったが、最近はそういう声も聞かれなくなった。


 そりゃそうだ。この女らしい体からほど遠い、筋肉マッチョなボディを見たら騎士団の男は引く。彼らの好みは抱けば折れてしまうような儚げなお姫様的な女性なのだ。ハーパーの腰に手を回しても、強力な筋肉で弾き飛ばされるだろう。


「お前はどこへ行くのだ? このままだと嫁の貰い手が見つからん」

「お兄様、私は嫁になど行きません。私の夢は聖騎士になること」


「無理だ。女は聖騎士にはなれぬ」

「なれます! 今度、ペルガモンのアイアンデュエルに出場します。そこで手柄を挙げれば、聖騎士の道は開かれます」


 そうハーパーは兄に言い切った。兄の友人であるエンチャンターのアルフォンソが、出場するために白羽の矢を立てたのがハーパー。それはマイケル・ムーアもアルフォンソから聞いてはいたが、妹がそういう目的で参加しているとは思っていなかった。


(確かに、ドラゴンを狩るアイアンデュエルで活躍すれば、騎士団で昇進はできよう。だが、所詮はバーチャルモンスター。実物のドラゴンとは違う。いくら活躍しようが、評価はそれなりだ)


 このあたりは、プロとアマチュアの認識の違いだろう。アイアンデュエルがアマチュアの祭典オリンピックなら、聖騎士が戦っているのはプロ選手の祭典ワールドカップなのである。生死をかけた厳しさがそこにはある。


「ハーパー。そのアイアンデュエル。途中で負ければ、お前は騎士を辞めて嫁に行ってもらう」

「あら、お兄様。こんな私を嫁にしようなんて男がいるんですか?」

「ムムム……。探す。お前も花嫁修行をして社交界に顔を出せば、人気が出るはず。嫁入り先が見つかるに違いない」


 実際にはハーパーは社交界でも人気だ。男にではなく、女性にだが。軍服姿のハーパーが夜の舞踏会に現れると失神する貴婦人が続出する。


「とにかく、負ければトラサルディ家の令嬢としての責務を果たしてもらう」

「お兄様。アイアンデュエルにはお兄様を圧倒した、断罪レディが出場するのですよ。これはお兄様の敵討ちでもあります」


「おいおい、俺自身は負けたつもりはないのだけどな」


 確かに全国大会決勝では、うやむやになったけれども霧子・ディートリッヒに負けた感じになった。だが、あれはウェポンデュエル。アルフォンソの出品した剣が負けたに過ぎない。


「まあよい。ハーパー。約束だぞ。負けたら、お前は花嫁修業だ!」


(ふん! ふん! 負けたらですって! あのバカ兄、私をなんだと思っているのかしら)


 今度は仰向けになり、両足を上げ下げするハーパー。腹筋を鍛えるドラゴンフラッグである。それをつまらなそうに見ている中村音子。


「ハーパーさん、そろそろ出発」


 口数が少ない音子がつぶやくように出発を促す。ちょうど100回目で足をピンと上げたハーパー。おもむろに立ち上がる。


「音子、次の戦いは正念場だよ」

「分かっている」


 音子がこのアイアンデュエルに出場した理由は、探している5つの聖なる武器を見つけるため。こういう大会では隠れていた武器が発見されることがあるという話を聞いての出場だ。今のところ、出場者の武器にそのような兆候はない。


(アイアンデュエルに参加したのは時間の無駄だったかな……)


 音子はそう思い始めたが、まだ2度の戦闘がある。特に武器と使用者の一体性が試される4回戦は、武器の覚醒という点では興味深い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ