サン・ジャスティス
ここへ来て毎日投稿かよ?
すみません、調子に乗ってるだけです。
それは突然の出来事であった。完全に死に体で猛攻撃を受け続けるだけであったドラゴン『ペルガモン』は突如、目を開き口を天に向かって大きく開けた。
ギャオオオオオオオッ……。
ビリビリとした空気が振動する。凄まじい咆哮。ドラゴンのそれは、人間の心を縛り付け、恐怖で動けなくする力がある。
「まずい!」
葵はその中でも体の硬直を素早く解いた。指を口に加えて音を鳴らす。その音で龍の馬が飛び出した。葵はドラゴンの体を蹴ると砂地に着地し、さらに飛んで龍の馬の背中に捕まる。龍の馬はすり鉢状の坂を高速で登る。
「出遅れた! ハーパー!」
「砂漠トカゲ、来い!」
2匹の砂漠トカゲは音子とハーパーの乗り物である。よく訓練されており、すり鉢状の淵から飛び出してきた。
「穴を掘れ!」
ハーパーの命令で砂に穴を掘る砂漠トカゲ。音子とハーパーがすばやくその穴に飛び込む。そしてすぐさま砂漠トカゲが覆いかぶさる。
その直後、ピカっと閃光が走った。それは広がると今度は、巨大な赤い渦がドラゴンの地面から出現する。それはすり鉢状の穴をぶち壊し、どんどんと広がっていく。
「コゼット、ナパームボムがくる! 防御魔法を!」
「は、はい、葵様。ア、アイスコフィン!」
龍の馬に乗り、脱出した葵と自分に炎に対する防御魔法を発動させる侍女のコゼット。魔法の杖をひと振りした時に熱風が襲いかかる。
「カーラ、回避!」
上空をロック鳥で飛んでいた鬼族の娘は、急上昇を命ずる。だが、炎は容赦なく上昇スピードを凌駕して飲み込んでいく。
「くっ! 熱い……」
「耐えろ! ローちゃん!」
二人のロック鳥は炎に焼かれながらも脱出した。本物のナパームボムであったなら、死んでいただろう攻撃だが、かろうじて助かった。しかし、かなりのヒットポイントを持って行かれたのだった。
攻撃の影響はすり鉢の外から攻撃を加えていたエルフ姉妹にも襲いかかっていた。
「お姉さま、あきまへん!」
「ジュリエッタ! いちばちか、かけてみまひょ!」
「ダブルシールド!」「ダブルシールド!」
エルフ姉妹も完全に逃げ遅れていた。それでも炎耐性の魔法を二人で唱える。かろうじて完成したその防御バリアごと炎に飲み込まれた。
ドラゴン『ペルガモン』が自分のいる位置を中心にして、上級魔法『ナパームボム』を発動したのだ。これは町一つを一瞬で焼き尽くす強力な魔法である。防御が遅れれば、全滅必至であった。
「うううう……」
炎の渦が消え去り、辺りは煙で覆い尽くされる。音子を守った砂漠トカゲは完全にのびており、戦闘不能。音子もハーパーもポイント0は免れたが残りは1である。砂の中からかろうじて立ち上がる。
ロック鳥が2羽、墜落していくのが見えた。鬼族も退場は免れたがヒットポイントは1。これは逃げ遅れたエルフ姉妹も同じであった。
「凄まじい攻撃だな。そして奴はまだ攻撃態勢だ」
「葵様……」
かろうじてヒットポイント半分減で済んだ葵も、打つ手がないと思った。自分はまだ戦闘ができるが、あとのメンバーはヒットポイント1である。ドラゴンの攻撃がかすっただけで退場となる。
「これは全滅するかもな」
葵は獅子王を握り構える。ペルガモンも無傷というわけではない。あと少し、ダメージを与えれば退散するはずだ。
「ん? 何か来る!」
葵は気配を感じ、東の空に視線を移した。東の空が光ったと思うと、光が屈折し、何回も反射するのが見える。そして、それはドラゴンの頭の上で垂直に動きを変えて、頭から地面へ串刺しにした。
「見たか! これがシルバー騎士団、最新鋭の武器。サン・ジャステス!」
「フェリス様、完全に命中」
『サン・ジャステス』
太陽の光を集めて反射させ、エネルギーを集約して敵を攻撃する武器である。上空には浮遊魔法で浮かんでいるミラー板が無数にあり、フェリスが発射させた砲門には太陽光を集める大きなレンズが装着されている。
グギャアアアアアアアッ!
巨大な体がまたしても崩れ落ちる。鈍い音が砂の地面に吸収されて、砂粒が細かく振動した。しかし、ペルガモンもこの不意打ちに耐えた。そして、首を持ち上げ魔法を唱え始めた。フェリスたちに反撃する構えである。
「隊長、まだです、まだペルガモンは戦意を喪失していません!」
「2回戦なのにしつこいな! 2発目をお見舞いしてやる。ケイト、発射準備を!」
「エネルギー充填、80%……」
「ムッ!」
ドラゴンのいる方向が明るく輝く。自分たちへの攻撃であることはフェリスもケイトも承知していた。その攻撃が来る前に叩くしかない。だが、その願いは絶たれた。
「エネルギー95%……。ダメです!」
「うあああああっ!」
無数の光の矢が降り注いだ。それは砂の地面に無数に突き刺さり、殺風景な砂漠を逃れようもない凄惨な光景に変えてしまった。ドラゴン『ペルガモン』が唱えたマジックアローの魔法である。この凄まじい反撃に、『サン・ジャステス』の発射装置は破壊され、フェリスもケイトも貫かれて気を失う。ヒットポイントが0になって退場決定である。
それを遠くに見た葵は刀を天高く掲げた。今が勝負である。判断を謝るわけにはいかない。
「コゼット、奴はまたナパーム・ボムを撃つ気だ。参加者を全滅させる気らしい」
「葵様!」
「私の剣に倍加の魔法を! 呪文が完成する前に仕留める!」
ペルガモンはゆっくりと体を起こす。先ほど、一撃で形勢を逆転した上級魔法を唱える気だ。翼を広げて上空へ体を浮かせる。空中から魔法を発動させる気だ。
「重力の札!」
黒い御札が無数に舞い、それが一直線にドラゴンの足に絡みついた。那の国の戦巫女が使う魔法攻撃である。ようやく彼女らも戦場に到着したようだ。その魔法はまるで飛びつ鳥の足を捉え、水に引き込むシャチのような動きをする。
ドラゴンは負けじと羽ばたくが、そこへ大きな鉄の針がけたたましい音と共に飛び出し、ドラゴンの羽を貫いた。さらに爆発音が2つ鳴り、ドラゴンはたまらず地面に着地する。
「いけーっ! クロ!」
ワオーン。黒い犬が飛び出し、ドラゴンめがけて飛びかかる。そこから真っ白に輝くランスを握った女が飛び出す。
「喰らえ! ユニコーンランス!」
キル子の渾身の一撃は、ドラゴンの心臓に突き刺さる。
「やるわね。最後に美味しいところを持って行かれた」
ギャウウウウウウッ……。
ドラゴンの咆哮。この攻撃で規定ポイントを大きく超えた。
葵は安堵の笑みを浮かべて獅子王を鞘にしまった。これはあとヒットポイント1で退場寸前であった選手も同様であった。戦巫女とキル子&瑠子の到着で勝負は決まったようだ。
ペルガモンはキル子を振り払うと、大きな翼を広げた。そしてその巨体を空中に浮かべて、次の戦場へと飛び立った。規定のヒットポイントを失ったので逃げ出したのだ。それは2回戦の終了の合図でもあった。
2回戦終了結果
1位 葵&コゼット 獲得ポイント4060
2位 アルフェッタ&ジュリエッタ 獲得ポイント3850
3位 音子&ハーパー 獲得ポイント 3500
4位 カーラ&ミスト 獲得ポイント 3450
5位 霧子&瑠子 獲得ポイント 2850
6位 帰蝶&満天 獲得ポイント 2050
<失格>
フェリス&ケイト 獲得ポイント 12500
明明&麗麗 獲得ポイント 3600
 




