ユニコーンランスの完成
飛び去ったドラゴンを遠くに見つめる。ここで広い草原中に鳴り響く大きな鐘の音が鳴り響いた。同時に戦闘エリアを遠巻きにして見ていた観客から拍手が起こる。アイアンデュエルは、全日程を見ることができるツアーもあるのだ。貴族や金持ち、また5年に1度のこの大会を間近に見ようと考えているファンが大勢いる。
8組のデュエリストは指定されたポイントに集まり、正式に紹介される。これをもってアイアンデュエル1回戦の終了となる。草原の中央に急遽作られたステージに8組のデュエリストが集まり、ここでお披露目があるのだ。
「それにしても、意外とドラゴンの攻撃は大したことないな……」
右京は観客エリアに設置されたモニターでキル子たちの戦いを見ていたが、ドラゴンがそれほど選手にダメージを与えていたようには見えなかった。伝説の赤龍というから、相当強いのかと想像していた。右京はベビードラゴンのアディラードの母親ミルドレッドや父親のブラックドラゴンケイオスブレイカーを知っていたから、彼らと同じくらいだと思っていたのだ。
1回戦の動きを見る限り、伝説のドラゴンにいしては大して強くない。幻術士によるバーチャルリアルであることを差し引いても弱い。どちらかといえば、8組のアイアンデュエル出場者たちの一方的な展開であったともいえる1回戦であった。
「主様、それは1回戦だからでゲロ」
右京の肩でゲロ子があくびをしてそう答えた。主様は何も知らないでゲロと顔が言っている。右京はちょっとだけムッとした。そういうことなら早く説明しろと言いたい。
「1回戦だから、ドラゴンが手を抜いていたということか?」
「このアイアンデュエルは古来のドラゴン退治が起源となっているのだ。ドラゴンが冬眠から目を覚ました直後から、活動期までを7回の戦いで再現しているのだ」
そうディエゴ会長がゲロ子の代わりに説明してくれた。彼はこのイヅモチームの総指揮を執る監督である。その下に右京とアマデオが選手サポートの責任者となっている。アマデオは選手の生活、管理面が担当。右京は武器の補修や調達のサポートが仕事だ。
それにしても徐々にドラゴンの強さが上がっていくというのは、面白い趣向である。それによく考えれば、最初から全開で出場者が全滅したら、大会自体が盛り上がらない。現実を考えても、冬眠直後のドラゴンの活動は鈍い。攻撃に鋭さもなく、戦い方も知的ではない。バーチャルリアルモンスターとして再現された赤龍ペルガモンが、そのように幻術士によって力の調整を受けているというのだ。
あの攻撃が最低レベルと考えると、最後の7回戦は一体どうなってしまうか想像もできない。あの見た限り、超強い女子軍団が最後の7回戦には1,2組しかたどり着けないというのだから、ドラゴンの攻撃力は侮れないというしかない。
草原の中央ステージにでは、大会の運営から正式に出場者が発表されていた。まずは地元のペルガモン王国。ここからは慣例で4組の出場ペアがいる。まずはペルガモン王国の出場者。
ペルガモン王国シルバー騎士団隊長のフェリスとその部下ケイト。シルバー騎士団は攻城戦に長けた部隊で、長距離攻撃が得意だ。先程も遠距離から大きな矢による攻撃を行ったのも石弓であった。パーツを分解して運び、ドラゴンとの戦いでは遠距離攻撃でポイントを稼ぐ作戦である。
石弓の他にも機械仕掛けの大掛かりな武器を持っており、それによる攻撃は侮れない。ただ、パーツを分解して次の戦場へ運ぶために移動速度は遅く、組立をしてから攻撃に移るので速攻ができないのが弱点であった。1回戦の獲得ポイントは750。ドラゴンの動きが鈍かったせいで命中率が高く、上々の滑り出しである。
2組目はペルガモン北方に住む山の民。麗麗と明明。山の民は身長が高い民族で麗麗も明明も2m近くある巨大女である。巨体ではあるが、共に17歳のうら若き乙女である。
山の民の身に付けるトカゲの皮を使った独特なデザインの革鎧。むき出しになった肌には絵の具で不思議な模様が描いてある。この絵の具は虫除けの役割も果たしているという。体に合わせた巨大なバトルアックスが主武器である。接近戦でポイントを稼ぎ、1200ポイントであった。
3組目は透き通るような美しい金髪の姉妹。細身の体に長くて尖った耳。青い目が吸い込まれるような美しさ。ハイエルフである。姉はアルフェッタ、妹はジュリエッタ。エルフらしく弓での攻撃が得意で、矢に魔法を付与して攻撃する。1回戦で雷撃の弓で攻撃して500ポイントであった。
4組目は葵公主。ペルガモン王国第3王子の妻で女勇者。攻撃スタイルは接近戦。凄まじい剣戟で大型モンスターを圧倒する。ペアは葵付きの侍女のコゼットで彼女は14歳の少女。当然、戦闘力は皆無である。魔法の杖で離れたところから、葵のサポートをするのが仕事である。
葵の乗る馬はあの龍の馬で、ドラゴンとの対決でも恐れず、向かっていき、ポテンシャルの高さを戦場でも証明した。獲得ポイントは葵一人で2500ポイントである。
ペルガモン王国の北の位置する那の国からは2組が出場している。1組目は那の国の龍神神社の戦巫女。帰蝶と満天。共に18歳の若き戦士である。ともに黒髪の清楚な美少女で、物静かな雰囲気をかもしだしている。口元は白い布で覆われているので、完全に顔は見えないが大きな黒い瞳が可愛らしい。
戦巫女とは、神社を守護し、また民に害をなすモンスターを討伐する役割を与えられた者である。那の国では女の子は5歳になると戦巫女の才能があるかを検査され、才能があると見込まれた女の子は親元から放れて修行に入るのだという。
その修行は厳しく、10年の歳月を経て一人前の戦巫女になるという。また女性としての教養や学問も納めているので、25歳で引退すると嫁入り先が引く手数多だという。容姿も選抜の重要ポイントらしいから、戦巫女は美少女と決まっている。
獲得ポイントは1800ポイント。魔法を付与した札による連続攻撃で相当に稼いだが、魔族に効果のある呪符攻撃がドラゴンにこの先、通用するかは大きな課題である。
那の国の2組目は鬼族のペア。名前はカーラとミスト。カーラが20歳。ミストが妹分で17歳ということだ。褐色の肌に赤い髪。つり上がった目はエキゾチックな長いまつげで色っぽい。男なら思わずフラフラと吸い寄せられてしまう色気であるが、頭には小さな角があり、口には可愛く牙が覗いている。動物の革で作られたビキニをまとっているから、スタイルもキル子並みのセクシーボディが露わである。
彼女らが乗っているのはロック鳥。鬼族はこの巨大な鳥を飼い慣らし、山々を飛び回って狩りをして暮らしているのだ。鬼族は少数民族で、他の種族と関わらない主義であるが、何故かこのペルガモンのアイアンデュエルへは毎回参加をしているのだ。
空を飛ぶからこのアイアンデュエルでは有利と思われるが、ロック鳥は人を乗せた状態だと長距離は飛べない。また、夜も飛べないから計画的な移動が求められる。稼いだポイントは500ポイント。参戦が遅れたことと、空中からの槍の攻撃があまり効果的でなかったようだ。
そしてオーフェリア王国。エンチャンターのアルフォンソがエントリーしたのは、中村音子とハーパー・ムーア。ハーパーはあの聖戦士マイケル・ムーアの妹だと言う。兄に言われて出場した24歳の女騎士である。音子がなぜ、アルフォンソのチームに参加しているのは分からない。ポイントは参戦がギリギリであったために、150程しか稼げなかった。
2組目は右京とディエゴが参戦するキル子&瑠子ペア。最初に戦いを仕掛けたこともあり、稼いだポイントは2600と現時点では1位である。長距離の攻撃手段である瑠子のロケットアローとキル子のスリングが効果大であった。近距離から攻撃したこともあり、命中率が高く、一発あたりの値段が高価な魔法弾の威力を十分発揮したといえよう。
「キル子君、瑠子君、すぐに体を休めるんだ」
イヅモチームの総監督であるディエゴが、そうキル子と瑠子を移動式テントに行くよう誘う。そこにはお風呂が用意されており、選手は汗を流してリラックスするのだ。早く、このポイントに着くために夜通し走っており、そして1回戦の戦闘である。早く疲労を回復して、次のポイントに移動しないといけない。お風呂から上がると3時間程仮眠を取り、2回戦のポイントまで移動を開始する予定だ。
「はあ……。いいお湯だった」
「キル子、待ってたぞ」
お湯から上がってハンナにマッサージをしてもらい、1時間ほどうたた寝をしたキル子を待っていたのは右京。手にはあのユニコーンの角で作ったランスが握られている。
「おっ! ようやくできたのか?」
キル子の顔がパッと輝いた。カイルに修理をしてもらっていたユニコーンランスがやっと完成したのだ。キル子のこの時の格好は風呂からあがって、これから髪を乾かして仮眠しようという格好であった。
浴衣のような寝巻き姿に、頭は上に結い上げてタオルで包んでいる。右京に見せるにはキル子としては恥ずかしい格好であったが、それよりも目の前のユニコーンランスの素晴らしさに目を奪われた。
「すげえぜ!」
「そうだろう。カイルも相当苦労したと言っていた」
「キル子にはもったいないでゲロ」
「うるさい! カエル。お前の店の宣伝もしてやってるんだ。ちゃんとサポートするのが当然だろうが!」
「そのことでゲロ。ゲロ子のアイス屋のロゴマークはクロのお尻に貼ってあるでゲロ。なるべく、お尻が映るようするでゲロ」
「知らんわ!」
「まあまあ……。とりあえず、手に持って感触を確かめてくれ。2回戦までに使えるように最終調整をしておくから」
「うむ」
キル子が右京からユニコーンランスを受け取る。この武器は右京が買い取った時には全体が角でできていたが、今は形を変えていた。これは角が風化でヒビが入っていたせいで、それを修理する過程で削ったからである。
今の形は円錐状から四角錐になっている。長い四角錐の先端は鋭くなっており、対象物を完全に突き刺すことが可能となっている。これは武器で言うとアールシューピスというドイツの『突き錐槍』と同じ形状をしていた。アールシューピスはオールパイクと呼ばれる鍔のついた突き槍の発展系であり、オールパイクは数々の歴書や宗教画に描かれたメジャーな武器なのだ。
オールパイクは、鎖帷子を着込んだ戦士を突き殺すために生まれた武器で、戦いの歴史とともに、徐々に進化していき、最後は頑丈なプレートメイルを着込んだ戦士を突き殺すことができたという。鍔があるのは接近戦で相手の攻撃を受け止め、切り返して反撃するなど防護からの攻撃がやりやすい。ユニコーンの角でできたアールシューピスなら、ドラゴンの硬いウロコも関係なく突き刺すことができるであろう。
「何やら、削った角と真珠の粉を溶かしてコーティングしてあるそうだ。それで劣化はすべて補修し、鋭さは鉄板を紙でも突き刺すかのように貫通することができるそうだ」
そう言って右京はキル子にユニコーンランスを手渡す。それを受け取るキル子。その瞬間に体全体に電気が走った。ビクッと体が硬直する。
(うああああああっ……。なんだ! これ!)
「はうううううっ……」
「どうしたキル子!」
天から雷が落ちて、キル子に直撃したのではないかというくらい、キル子の体が痙攣する。頭に巻いたタオルがズレて、美しい銀髪が流れるように落ちる。寝巻きがはだけで裸体が解放される。
「ううううううっ……」
(ダメだ……。こんなの持ってたらクセになっちゃう)
これまでもガーディアン・レディやアシュケロンで味わった快感以上のものがキル子を貫く。(もうどうにでもして……)という気分になってしまう。
「キ.キル子? おい、大丈夫か?」
「うっ……触るな、右京」
右京がキル子の肩を叩こうとした瞬間、キル子は触れられまいと逃げた。
「今、触られると……」
「触られると?」
「に……に……」
「に?」
キル子はユニコーンランスを抱きしめて、目をつむって告白する。
「妊娠しちゃうだろうが!」
「は?」
「ゲロ?」
ランスを抱きしめ、半裸で顔を真っ赤にしているキル子。そのまま、へなへなと崩れ落ちる。
「いや、妊娠はしないでゲロ」
「半裸で仁王立ちして、妊娠しちゃうと言われてもな……」
「うっ!」
キル子はわれに帰った。数秒、ユニコーンの背中に花嫁衣裳で跨り、自分を待っている右京の元へ駆けつける妄想をから現実に戻った。
「み、見たのか?」
「見たって、仁王立ちだったからな……」
「うううう……。もうお嫁にいけない」
「キル子の裸は、主様は見慣れているでゲロ。ビッチがもったいぶるなでゲロ」
「ビッチいうな! あたしは……」
「まあまあ、そこまでだ」
右京が割って入った。このままだとキル子がゲロ子に誘導されて、ますます恥ずかしい告白をしかねないので右京が止めに入ったのだ。キル子はキッと上目使いで右京を睨む。
「あたしの裸、見ておいて、そこまでかよ」
「まあ、それはそれで。今は大会中だ。キル子、早く休んで次のステージに備えないとな」
「くっ……な、なんだか納得できないけど……」
今は大切な大会中だ。早く仮眠して移動しないといけない。サポートチームは選手を送り出すと、次のポイントへ先回りをすることになるのだ。右京たちも忙しいのだ。
各出場者も休んだり、次の準備をしたりと忙しい。長距離が飛べない鬼族は既に移動をしているし、シルバー騎士団の二人は石弓を分解して馬車に積み込んでいる。あとは休んで次の出発に備えているようだ。
次のステージは砂漠ステージ。灼熱の砂漠地帯を超えてドラゴンとの死闘が続くのだ。




