ファンドを作る
すみません。半分寝て投稿したせいで、後半ボロボロ。
朝の出勤前にちょっとだけ改稿。感想で教えてくださった皆様に感謝。
感想返しと本格的修正は夜に行います。
(これも謎のコピー消滅のせいだ? 未だに消えた原稿が謎だ)
「何とか明日の夕方までに30万Gをかき集める」
「無理でゲロ。そもそも、主様の自由になるお金はいくらでゲロ?」
「貯金は2万Gぐらいかな」
「主様にしては持っている方でゲロ」
「何だか上から目線だなゲロ子よ……」
右京の個人資産が2万G。残りは28万Gである。全く足りない。そこで右京は伊勢崎ウェポンディーラーズの金庫番、ヤンに相談してみる。会社組織としての資産は結構ある。銀行への借金もあるが。
「う~ん。社長。内部留保から出せるのは8万Gが限界ですね。後は翌月の運転資金、買取り用の資金です。これに手を付けるわけにはいきません」
「そうだよな……」
会社の運転資金にまで手を付けるわけには行かない。あの龍の馬を手に入れることが伊勢崎ウェポンディーラーズの利益には直接結びつかないからだ。優勝賞金は確かに50万Gという破格の金額だが、馬を30万Gで買えば利益は20万Gになる。レースに使う備品や人件費を考えれば、利益はもっと圧縮されるだろう。
「主様、やっぱり、諦めるでゲロ。これは商いにならないでゲロ」
「だがな。この大会で好成績を収めることは、店にとって大宣伝になる。投資と考えれば損とは思わない。これは長い目で見ると必要な投資と俺は考える」
右京の意見にゲロ子はめんどくさそうに立ち上がり、おもむろに屈伸運動を始めやがった。そしてこれみよがしにため息をつく。
「はあ~でゲロ。ゲロ子はすぐに手に入る現ナマ以外利益とは認めないでゲロ。そもそも、出場者は8組で生き残るのは1組か2組程度の過酷なレースでゲロ。早々に負ければ、宣伝もクソもナイでゲロ。逆にマイナス評価でゲロ」
確かに出場したはよいが、最初の戦闘で負けた日には宣伝ができないばかりか、印象が悪くなる。大金をはたいて参加したのなら、そのリスクは避けたい。
「だから、龍の馬が必要なんだよ!」
「……仕方ないでゲロ。ここはゲロ子がひと肌、いや、カエル肌を脱ぐでゲロ」
「お前が着ぐるみ脱いだら、ただのエロフィギュアだろが!」
「そんなことを言っていいでゲロか?」
ゲロ子が思わせぶりなことを言う。表情は自信満々で、眉毛をピクピクと動かして、何やらアピールしている。
「まさか、ゲロ子!」
「こういう時に忠実な使い魔は役に立つでゲロ」
右京は戦国時代、賢妻といわれた山内一豊の妻、千代のことを思い出した。織田信長の将校に過ぎなかった一豊に黄金10枚もの大金をはたいてものすごい馬を買った話だ。千代はその黄金を結婚当初から持っていたが、暮らし向きのことには使わず、夫の出世に関わることで、『ここぞ』という時に使うためにずっと持っていたのだ。
山内一豊はこの10両の馬を購入したことで家中で有名となり、豊臣秀吉のもとで功名をたて、ついには土佐24万石の大名となる。 妻の千代も賢夫人として歴史に名を残したのであった。
ゲロ子はのそのそと床に飛び降りると壁まで歩き、トントンと壁を叩き始めた。すると壁の一部にいつのまにか小さな引き出しのようものがあり、それをズズズ……っ引き出したのだ。そこには小さな箱がある。
「ゲロ子、黄金10枚か? お前のことだから高価な宝石が入っているとか」
「これを見るでゲロ!」
じゃりじゃり……。箱の中には金貨がたっぷり入っている。
「おおおお! でかしたぞ,ゲロ子」
右京は箱の中のコインを取り出す。それを1枚1枚、数えて積む。10枚の束が3つできた。
「全部で30枚。この金貨見たことがないが、1枚の価値はいくらだ?」
「これは一昔前に使われていたルミナス金貨でゲロ」
「おおお。それで、1枚の価値は?」
「金の分量が今の金貨よりも多く含まれているでゲロ。美術品の価値も高いでゲロ」
「で、いくらだ。まさか、1枚1万Gに当たるとかじゃないよな?」
金貨1枚の価値が1万Gなら、これだけで30万Gある。十分に龍の馬が買える。変えたのなら、ゲロ子は千代のごとく、賢使い魔として、後世に名を残すことになる。
「100Gでゲロ」
「は?」
「1枚の価値は100Gと言ったでゲロ」
「おい、ゲロ子。お前、算数は得意か?」
「妖精学校では神童と呼ばれていたでゲロ」
「嘘つけ」
「才女と呼ばれていたでゲロ」
「その才女に聞こうじゃないか。100Gの価値がある金貨が30枚あります。全部で何Gでしょう?」
「そんなの簡単でゲロ。100×30枚でゲロ。3000Gでゲロ」
「計算はできるようだな、ゲロ子よ」
「当たり前でゲロ。ゲロ子は妖精学校での成績は上から3番目だったでゲロ」
「じゃあ、その3番だったやつに聞こう。俺たちの欲しいのは30万Gだ。お前の金貨を売ったところで 3000G。随分と足りないことが分かるよな」
ゲロ子の奴、指を数本おってブツブツ言っている。そして、明るい表情で言った。
「全然、足りないでゲロ」
「お前、本当に上から3番目かよ。本当は下からじゃないのか? 期待させておいて、全く役に立っていないじゃないか!」
「使い魔の懐を宛にするとは、主様も落ちぶれたでゲロ」
「抜かせ! おっ?」
右京はゲロ子のへそくりの入っていた小さな箱の底を見た。そこには小さな紙切れが入っている。それを取り出す右京。4つに折りたたまれたそれを開くと『株券』という文字が飛び込んできた。
「ゲロ子なんだ、これは?」
「それはギルドの株でゲロ。新しいギルドの拠点を出すときに、資金集めで発行される物でゲロ。その拠点の利益に応じて配当金がもらえるでゲロ」
「この世界にそんな仕組みがあったのか?」
考えてみれば、銀行があるくらいだから株による資金集めの方法があってもおかしくない。右京は閃いた。自分に資金がなければ出資を募ればいいのだ。
「ゲロ子、ナイスだ!」
「主様、何か思いついたでゲロか?」
「ファンドだよ」
「ファンド? それはなんでゲロ?」
「鉄人デュエル応援ファンドだよ。賞金を原資に広く投資を呼びかけるんだ」
右京はヤンに相談して、ファンドを作る準備をする。右京のチームが出場して得られる賞金を原資にして、出資金の10%が上乗せしてもらえるという仕組みだ。もちろん、それは優勝したときの場合で、準優勝なら5%、ベスト4なら2%と儲けは少なくなる。1回戦で負ければ、原価割れをしてしまう。損する危険はあるが、1回勝てば利益が出る。
これなら少額でも投資するのではないかと右京は考えたが、その予想は当たった。賭ける代わりにファンドを買うという人が多くいたのだ。伊勢崎ショッピングモールに来た客に宣伝したところ、面白いと言って買ってくれる人が出たのだ。
但し、それは賭ける代わりに買ったから少額が多く、出資者は多くても思った以上には金額が積み上がらない。それに日があまりになさすぎた。翌日の昼過ぎ。あと1時間ほどで馬市が終わってしまう時間帯になった。
「せめて一週間あれば、それなりの金額が集められるのですがね。せっかくの右京さんのアイデアですが、時間がなさすぎますよ」
「ヤン、現在の集まった金の総額は?」
「8万Gほどです」
「ゲロ子は驚いているでゲロ。世の中には怪しげな投資話にお金を使うバカが多いでゲロ」
「おい、失礼だろゲロ子。これは伊勢崎ウェポンディーラーズの信用の力だ」
「という割には、主様の資金を入れても10万Gでゲロ。あと20万Gも足りない」
やはり、貴族とか大商人とかに鐘を出してもらわねば、目標金額には程遠いだろう。それには時間がない。何しろ、もうあの龍の馬の所有者が待ってくれる時間まで1時間を切った。
(やはり、ここは頭を下げてクロアかティファに出資してもらえばよかったか……)
右京には大金持ちの知り合いがいる。だが、クロアは商売にはシビアで儲からない話には絶対乗っかってこない。例え、右京の頼みでもそれは徹底している。ティファはこの国の王女でクロアよりもおつむの方は少々というか、かなり弱い。
ティファに頼めば20万Gは都合が付いたかもしれない。だが、右京も男だ。女からお金を借りるわけには行かない。
カラン……。
店のドアが開いた。入ってきたのは頭からすっぽりローブを被った女性。唯一、出している目にはサングラスがかけられている。
「ハロー、ダーリン」
「ク、クロア……」
実にいいタイミングでクロアがやってきた。今、ここでクロアにお金を借りれれば、あの30万Gもする強大な馬を買うことができるのだ。
「ダーリン、面白い商売してるって聞いたよ」
「ファンドのこと知っているのか?」
「それを買えば、わずか1ヶ月後に10%増えてお金が返されるんでしょ?」
「優勝すればね」
「少なくともダーリンの率いるチームは、1回戦負けはしないよ。そうなると最低でも2%は増えるというわけ。これは地味に大きいわね」
地味といったが、20万Gが1ヶ月で4000Gも増えるのだ。これは手堅い儲け話でもある。
「クロアが残り20万G買ってもいいよ」
「ええ! マジかよ」
「大盤振る舞いでゲロな」
「だって、確実に儲かるのに投資しない方がおかしいよ。悔しいけれど、出場者はキル子だよね、あのホルスタイン女が1回戦で負けるはずがないわ。そうなれば、確実にお金は増える。ダーリンの保証があればね」
クロアの言うことは最もだ。最も警戒しないといけない1回戦負けは、右京がウェポンデュエルでの優勝者と考えれば、かなり回避できると判断できる。2回戦負けなら、賞金が出るから2%の利益を乗せて返せる。
戦いの後、龍の馬を売却してが条件となるが、賞金さえでれば出資者に還元できる可能性は高い。ただ、戦いの最中に龍の馬が死んだり、大怪我をしたりして商品価値がなくなったら、それまでである。右京が破産してしまう可能性もある。そうなれば、クロアも大損するが、超大金持ちのクロアなら20万Gくらいではびくともしないであろう。
「よし。これで30万G集める算段はついた。これで龍の馬を買うぞ」
「買うでゲロ」
夕方になった。右京はたった今、口座に30万Gの文字が刻まれた通帳をもって、馬市へと走った。この通帳のお金で龍の馬を買うのだ。
「ザ、ザペットさん」
「おお……久しぶりだな。若者よ」
「お金は工面できました……。龍の馬はどこです?」
「な、なんじゃと?」
ザペットじいさんは、右京が30万Gものお金をもってきたことが信じら得ないといった風情であった、
「このファンドを売ったおかげで30万Gかき集めた。今は通帳にあるけど、これを銀行に持っていけば、お金が引き出せる」
「すまぬ」
ザペットじいさんは本気でそう頭を下げた。
「まさか、お前の金策が成功するとは思わなかった。だから、ついさっき、若い女勇者様に売ってしまったんじゃ」
「へ!?」
どうやら遅かったようだ。右京が買おうとしていた龍の馬。他の人に買われてしまった。しかし、一体、30万Gをポンと出して買った人物はどんな人間だろう。世の中にお金持ちはたくさんいるものだ。
「ペルガモンから来た勇者様だったよ。買値は30万Gぴったり」
「……」
「どうした右京?」
「俺のこれまでの努力はどうなるんじゃ~」
「どうにもならないでゲロ。大損するだけでゲロ」
あるじのことを適当に考えているゲロ子であった。